星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

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1―6
 
子供たちがワーッと登場。囲まれるように、若い伍三郎が壮士風の出で立ちでオ   ッペケペケペ節を歌い踊りながら現れる。
若い伍三郎「〽ほれ、オッペケペ、オッペケペ、オッペケペッポー、ペッポッポー! 権利幸福嫌いな人に……」
       子供達も、若い伍三郎と一緒に、オッペケペ節を歌い踊る。

       舞台袖に、伍三郎と星子、宙太。
宙太「きまってる! もしかして、若い頃の伍三郎さん?」
星子「うっそーっ」
伍三郎「いやぁ、面目ねぇ。丁度二十歳の頃かな、自由民権の思想を歌と芝居で広めようってい  う川上音二郎一座に憧れて、なんとか、座員にしてもらったんだ。俺の家は多摩の郷士でな、自由民権のお題目は、秩父今民党に参加して捕まった新一郎兄貴譲りよ」
宙太「秩父今民党? ああ、秩父で起きた農民たちの大暴動のことか。たしか、明治十七年頃の話だよね。でも、なんで、自由民権なわけ?」
伍三郎「その流れで、夢乃が登場するからさ」
宙太「つまり、伍三郎さんの歌芝居の原点ってことか。ナルホド」
星子「それで、お兄さんは?」
伍三郎「仲間たちと一緒に処刑されたよ。お上に楯突く不届き者ってな!」
星子「!……」
宙太「マジかよ」
伍三郎「二番目の正二郎兄貴は、十年後に起きた日清戦争で戦死さ。まだ新婚ほやほやだったのにな」
星子「かわいそー……」
伍三郎「でもな、嫁さんは、麗子義姉さんは信じなかった」

       スポットに浮かぶ、麗子。
麗子「あの人が戦死? よして下さい。あの人は、生きています。あたしに約束したんです。必ず、帰ってくるって。必ずって! あの人は、約束を守る人です。本当の軍人なんです!」

伍三郎「その正二郎兄貴が形見に残してくれたのが、このハモニカさ」
     伍三郎、懐からハモニカを取り出す。
伍三郎「当時、ハモニカは外国から入ってきたばかりでな、俺の世直し歌芝居に役立つだろうって……」
     伍三郎、ハモニカを少しだけ吹く。
伍三郎「でもな、音二郎一座は戦争万歳一色になっちまった」

     子供達、兵隊ごっこ、戦争ごっこの歌と踊りに変わる。
子供達「〽(センソーの歌)
    戦争だ! 戦争だ! ワッショイワッショイ!
    兵隊さんだ! 兵隊さんだ! ワッショイワッショイ!
    父さん母さん、サヨナラ! 妹弟、サヨナラ! 
ポチも三毛も、サヨナラ! 大好きなあの子も、サヨナラだい!
    お国のためだ、戦うぞ! 偉い人のためだ、戦うぞ! 
    死ねばカミサマ、名誉の勲章! ワッショイワッショイ!」
     その中心で戸惑い、止めさせようとする若い伍三郎。だが、弾き出されてしまう。

伍三郎「俺は音二郎一座を辞めて、一人で歌芝居を始めたんだ。でも、世の中すっかり変わって、世直しなんて見向きもされねぇ。勝った、勝った、万歳万歳! 戦争一色って奴さ。もう、すっかりやる気をなくしてところへ、今度は日露戦争だ。俺も、兵隊にとられてさ、地獄の戦場に放り込まれちまった」

     子供達の歌と踊り、激しくなる。まるで、小悪魔達の乱舞のように。
     若い伍三郎、その踊りの輪に巻き込まれ、逃れようとしても、中心部へと追い込まれ、押し潰されていく。
子供達「〽戦争だ! 戦争だ! ワッショイワッショイ!
    死ねばカミサマ、名誉の勲章! ワッショイワッショイ!」
     若い伍三郎、絶叫。
     瞬間、舞台は暗くなり、子供たちの合唱と踊りは消える。
     暗闇の中から、若い伍三郎の吹くハモニカの音が低く、次第に湧き上がる。
     立ち上がる若い伍三郎に、スポット。
若い伍三郎、喘ぎながら、血みどろの手でハモニカを握りしめる。
若い伍三郎「俺は、生きている。このハモニカが俺の命を救ってくれたんだ……」
体を起こすと、苦しそうな声で語り始める。
若い伍三郎「生き地獄の203高地。たった五日間で二万数千人の兵士が死んだ戦場。俺も大怪我をしてほとんど動けなかったところへ、一人のロシア兵があらわれてな……」
瞬間、背後で物音。ハッと身構える。
若い伍三郎「俺は、とっさに銃を掴むと構えた。ひどい怪我で手足はしびれ、ほとんど動けないが、俺は兵隊だ、殺すのが仕事なんだ! ロシア兵も俺に銃口を向けた。お互い、条件反射ってやつさ。ほとんど同時に引き金を引いた! でも、弾は出ない。ロシア兵のほうもだ! 
『くそっ』、俺は短剣を抜くと、奴に切りつけた。奴もすぐ短剣を抜いて俺に斬りかかった!
ところが、お互い、腕に怪我しているせいか、力が入らずに短剣を落としちまって。だが、拾ってる暇はない、組み合ったまま、相手の首に手をかけて絞め殺そうとした!
俺達は兵隊だ。殺すのが仕事だ! 殺せ! 殺すんだ!」
若い伍三郎、見えない相手と激しく戦う。 
若い伍三郎「だが、駄目だ。手にも指にも力が入らない、痛いし、しびれるし、気分も悪い。そのうち、ええい、もう、勝手にしろ、殺したけりゃ殺せ、てめぇに勲章くれてやるよ。でも、俺みたいな雑魚を殺しても勲章はもらえない、ザマミロてんだ!
……ところが、なんと、奴も同じだった、もう、殺す力もなくなって、もう、どうでもいい、勝手にしろってな感じで手を放すと、俺の横にドサッと寝ころんだんだ」
若い伍三郎、倒れこむ。
若い伍三郎「星がきれいだった。雲が切れて、それこそ、満天の星空ってとこさ。俺もロスケ、いや、ロシア兵もしばらくじっと身動きもしないで夜空を見上げていたぜ。
するとな、奴が俺のポケットからこぼれ落ちたハモニカを手に取って、これは何だ、ってな顔で聞いてきた。で、俺はハモニカっていう楽器だぜ、って、ちょこっと吹いて聞かせたんだ。そしたら、奴がちょっと貸してくれって……」
ハモニカ演奏でロシア民謡が流れる。
若い伍三郎「なかなかいい歌でさ、俺も、お返しに日本の歌を吹いてやった。吹きながら、泣いちまったよ。押したら、奴の目にも涙がな……」
若い伍三郎、ハモニカ演奏。
若い伍三郎「そう、同じっていえば、ハモニカを吹く奴の手は、ごつごつと節くれだっていて、百姓の手だった。俺の手もそうだ。俺達、同じ百姓なんだ。馬を育て畑を耕して家族と暮らす百姓なんだよ。それが、国が違うことだけで、なんで殺し合わなきゃならないんだ? 馬や畑のことで助け合うのが本当なのに、なんでだ?
いや、俺達だけじゃない、ここで戦っている兵隊たちは、本当は皆兄弟なんだよ! 殺し合っちゃいけない、助け合わなきゃ。仲良く暮らそう、皆! 兄弟たちよ! 奴も一緒に叫んだぜ。『そうとも! みんな、兄弟なんだ! お早う、こんちわ、こんばんわ、俺の兄弟たち! 世界中の兄弟たち!』」
若い伍三郎、そう呼びかけながら立ち上がった瞬間、銃声一発、その場に倒れる。
暗くなる舞台。

茫然となる、星子と宙太。伍三郎、ハモニカを握りしめる。
星子「どうしたの、なにがあったわけ?」
宙太「な、伍三郎さん!」
伍三郎「流れ弾さ」
宙太「そんな!」
星子「!……」
伍三郎「弾は俺をかすめて、奴の心臓に……いや、もしかしたら、奴は俺をかばったのかも知れない、息を引き取る時、こういったんだ。タワーリシチって。同志とか兄弟っていう意味のロシア語らしい……」
星子「タワーリシチ……きょうだい……同志……」
伍三郎「そのタワーリシチが、俺に決意させたんだ。もう一度、頑張って歌芝居をやろう! 二度と殺し合わない世の中を、世界中のみんなが、支え合って生きていく、そんな理想郷に、俺の歌芝居で一歩でいいから近づこうってな!」

暗闇に低く聞こえる合唱。
合唱「〽(テーマ曲・歌はこころが作る。愛と時代を作る。)
   涙の川が 冥い海にそそぐ 吹きすさぶ風に 希望の旗がちぎれる
   冷たい氷雨に いのちの灯が凍える
   あたたかい光のもとで あなたに逢いたい……(中断する)」
   
伍三郎「でも、今度も思い通りにはいかなかった……」


                    (つづく)



追記 宙太です。本日、ボクチャンのお誕生日です。ケーキもカードもいらない。ただ、君のキスだけがあれば、それでいい。

1―5

凄まじい閃光、爆発音、激しい銃声、突撃する歓声、悲鳴、絶叫。
スクリーンに、幟や旗、燃え上がる炎。
星子と宙太、煽られるように現れる。
宙太「なんとも凄い所へきちまったな。どこなんだ、ここは? 戦場か?」
星子「らしいけど……」
すぐ近くで、閃光と爆発音。
星子、悲鳴を上げて宙太に抱きつき、あわててとびのいたとたん、人影にぶつかる。
星子「伍三郎さんっ」
その人影は、伍三郎である。
伍三郎「(星子に)きちゃいけないって、きつくいっただろう。生きたまま帰るのは、難しいところなんだぜ、ここは」
宙太「そ、それって、ほんとですか? 困るな、僕には仕事が……それでなくても介護の仕事は人手不足なのに、仲間に迷惑かけちゃいますよぅ」
星子「ね、伍三郎さん、わたし、知りたい、歌のこころっていうのを……」
伍三郎「それは、お前さん自身で掴むことだぜ」
星子「それが出来ないから、追いかけてきたんです。あなたなら、きっと、教えてくれそうな気がして……」
伍三郎「でも、お前さんの生きてる世界と俺の生きた世界は違い過ぎるぜ。俺が生まれ育った時代は、ずっと、こんなだった……」
伍三郎、スクリーンに向かう。
伍三郎「国の中での戦争、国の外での戦争、火薬の匂い、飛び散る血、吹き飛ぶ体、悲鳴、泣き声、爆発、鉄の嵐!……地獄よ、この世の地獄……」
星子「それでも、夢乃さんを愛したんでしょ?」
伍三郎「いいや、俺はあいつの人生をめちゃめちゃにしちまった。それが愛って呼べるか!」
星子「夢乃さんはどう思ってたんですか?」
伍三郎「聞いてどうする? 聞くこともねぇ!」
星子「どうして?」
伍三郎「あいつはな、身投げしたんだ」
星子「えっ」

       スポットライトに浮かぶ夢乃、日傘をさした浴衣姿。夕顔の花を手に持ち、浅草オペラの歌を、けだるそうに口遊む。そのまま、スクリーンの影へ。

伍三郎「きっと、俺に絶望したのさ、歌芝居をあきらめた飲んだくれの負け犬によ! 
もちろん、必死に探したぜ。でも、どうしても見つからねぇ。そうこうするうちに、
やけ酒がたたって俺にお迎えがな。……でも、すんなりとあの世へいくわけには……
どうしても、夢乃に詫びをいいたかったんだ。俺が悪かった、もう一度、歌芝居を作るから、堪忍してくれって……」
星子「もう一度、歌芝居を?」
伍三郎「うむ、夢乃に何度もいわれてさ……」

       スポットライトに、浴衣姿の夢乃が浮かぶ。
夢乃「歌ってあげて。いいお芝居見せてあげて。もう、ひどい目に合わずに、思いのままに歌が作れるし、お芝居が出来るんでしょ。だから、ね、お願い! あんた!」

伍三郎「でも、その時は俺、出来ねぇって突っぱねたんだ。芯から負け犬だったんだ。そのあと、夢乃は……」
星子「……」
宙太「……」
伍三郎「でもな、いくら探しても、夢乃は見つからねぇ。余程この俺に愛想尽かしをしたんだろうな。もう、二度と俺の顔なんざ見たくねぇって、それで遠い所へいっちまったんだ」
星子「そんなこと! 夢乃さんは、どこかで伍三郎さんが迎えに来てくれるのを待っている……きっと!」
伍三郎「ふっ、お前さんに何がわかる!」
星子「ううん、わかるわ。わたしには、夢乃さんの気持ちが……自分でも不思議だけど、なんだか、わかるような気がして……伍三郎さん、わたしのこと、夢乃さんに似てるっていったけど、それって、もしかして、気持ちが似てるってことかも……」
伍三郎「!……」
星子「わたし、夢乃さんに会いに行きます! 会って、気持ちを聞きたいんです。この時代なら、会えるんでしょ?」
宙太「お、おい、星子さんっ」
伍三郎「いいや、そいつは無理だ。昔の時代に入ることは出来ないんだよ」
星子「でも、近くで見ることは出来るでしょ? きっと、伝わってくるはずだわ。夢乃さんの気持ちが……あなたのことを、どんなに想っているかって……その想いが、今も伍三郎さんとつながっているはずよ!」
伍三郎「……」
星子「わたし、ほんとの愛っていうのを知りたい、それを歌にしたい!」
伍三郎「でも、お前さん、こういったよな、愛は信じられないって……」
星子「ええ……」
伍三郎「だったら、なぜ?」
宙太「星子さん……」
星子「……」
       星子、躊躇った後で、左手の袖をまくる。ためらい傷の痕が幾本も刻まれている。
宙太「星子さんっ」
伍三郎「……」
星子「わたし、結婚を約束した人がいたんです。音大の先輩で、今、海外からも注目されているオペラ歌手です……」

       スポットに浮かび上がる、若いオペラ歌手。甘美な愛のアリアを歌う。

星子「まるで、歌うためにこの世に生まれてきたような人でした。二人で会うといつも一緒に歌ってくれて、もうこのまま死んでもいいと思えるくらい幸せな気持ちに……式の日取りも決まって、新婚旅行はヨーロッパでオペラ三昧の旅をしようって、そして、あの人、そう、あれは式の二日前、今でもはっきりと覚えてます。海辺のホテルの夜景がきれいなレストランで食事しながら、わたしにいったんです、『もちろん、歌うのは家の中だけにしてくれるよね』って……」

       歌い続ける、オペラ歌手。
 
星子「わたし、無理だっていいました。歌だけが、わたしをずっと支えてくれた、一人ぽっちで悲しい時も、ひどいいじめにあって生きるのが辛い時も、歌がわたしを救ってくれたんです。だから、皆にもわたしの歌で元気になって欲しい、くじけないで欲しい、そのためにも、歌は続けたい、歌わせてほしいって……」

スポットが消えて、若いオペラ歌手の歌声が次第に遠くなる。

星子「結局、結婚は駄目になりました。そして、わずか一年もたたないうちに、あの人は年上の超セレブな人と結婚して、海外へ……そして、その人の後押しもあって、どんどん階段を昇って行ったんです。いったい、あんなに愛し合っていたわたしたちの愛情って、なんだったんだ。こんなに簡単に崩れて消えてしまうなんて、わたし、もう、生きる力もなくなって……それで……」
       星子、手首を抑える。
星子「でも、伍三郎さんから夢乃さんのことを聞いて、ほんとの愛というものがあるんじゃないか、って……あきらめない愛が、あるんじゃないかって……」
伍三郎「……」
星子「ごめんなさい、自分勝手なこといって。でも、わたし……」
伍三郎「……」

       スポットに浮かぶ、夢乃。
夢乃「〽(私、もう、あきらめ唄は歌わない。三重唱の一部)
    あたしは、もう、あきらめ唄は歌わない
    二度と人を信じないと誓ったあの頃
    二度と人を頼るなと自分にいい聞かせたあの頃
    でも、今、あたしの前には道が見える 愛の光さす道が……」
 
伍三郎、ふいに星子の腕をつかみ、
伍三郎「ついてきな」
星子「いいんですか?」
伍三郎「ただし、どんなことがあっても、相手と係っちゃならねぇ。いいかい」
星子「はいっ」
伍三郎、星子を連れて下手へ去る。
宙太「あっ、星子さん! しゃあないな、もう!」
宙太、後を追っていく。


                        (つづく)



追記  ためらい傷なんて、星子シリーズの星子とは、ちとキャラが違う感じだけど、もし、星子がシリーズとは違う生き方をしたら、という解釈でお話を作っているわけです。人の運命は、もしもあの時、ああしていたら、という別れ道がいくつも重なっていますよね。伍三郎の過去を辿る星子の時間旅、果たしてこの先、どういうことになるのだろう。

1―4

同時に暗がりにスポットライト。伍三郎がハモニカを手にぬっと立っている。
星子「あっ」
悲鳴を上げて戻ろうとするが、うろたえて何かに躓いて転んでしまう。
伍三郎、星子を抱え起こす。
伍三郎「大丈夫かい、お嬢さん?」
ハッと、とびのく星子。
伍三郎「脅かして悪かった。そんなつもりじゃなかったんだ。お前さんに謝ろうと思ってな。でも、ほんと、そっくりでな、雰囲気っていうか、歌ってる姿が……」
星子「歌手、だったんですか、そのヒト……」
伍三郎「浅草の歌姫なんて呼ばれてさ、鶯か雲雀のようにきれいな声で歌うって評判だったぜ」
星子「浅草……あ、昔のSKDとか……」
伍三郎「知ってるのかい?」
星子「あ、はい、わたし、ミュージカルが好きで、子供の頃は宝塚とかSKDに憧れてたものですから……」
伍三郎「そうかい、そうかい。でも、ちょっと違うんでね。浅草オペラ,レビュウともいうが」

音楽、浅草オペラ的な曲。スクリーンに、オペラの舞台や浅草の賑わい等。

星子「浅草オペラ、あ、それって大学の授業で習いました。戦前っていうか、大正時代とか昭和の初め頃に、浅草で大衆向けのオペラとかレビューがはやったって」
伍三郎「そう、一頃は大変な賑わいだった。田谷力三、藤原義江、高田せい子、安藤文子大衆オペラの大御所様よ。お前さん、どこで歌の勉強したんだ?」
星子「音大です。そこの……でも、勉強のほうはあんまり……すいません」
伍三郎「いいのいいの、歌さえうまけりゃな。夢乃なんか、ろくに学校も出ていないんだぜ。(笑って)そうそう、俺もな、コーラスボーイとして舞台で歌ってたんだ」
星子「ほんとに?」
伍三郎「仲間には、後の大スター・エノケンもいたんだ。同期の桜だぜ」
星子「エノケ、ン?」
伍三郎「知らない? そうか、そうだろうな、もう、ずっと遠い昔の話だもんな。でも、あの関東大震災さえなけりゃなぁ……」
星子「でも、あ、ちょっと、待って下さい……」
伍三郎「ん?」
星子「浅草オペラって、大正時代の……」
伍三郎「うん、関東大震災があったのは、大正12年9月1日、西暦でいうと1923年だ。今から約90年前だな」
星子「!……」
伍三郎「当時、俺は48歳だった。つまり、現在は……数えてみるかい?」
星子「!……う、う……」
伍三郎「うそでしょ、だろ? おう、長寿記録でギネスに乗ってるぜ。なんて、俺が生きていればの話さ」
星子「えっ」
伍三郎「といって、死んでいるわけでもない」
星子「そんな!」
伍三郎「生きてる世界と死んでる世界の間を、漂っているクラゲさん。どっちの世界にも帰れずに、ふわふわ。〽あきらめなされや、ふわふわ、ふわふわーっ〽」
おどけて歌ってみせる、伍三郎。
星子、キッとなって、
星子「からかわないで下さい!」
伍三郎「別に」
星子「いいえ、からかってる、わたしを! わたしの歌が下手だから、内容がないから、あきらめろ、あきらめなされって!」
激しく詰め寄る、星子。
伍三郎、ふっと深い吐息をつく。
伍三郎「そうかい、あきらめ節、お前さんにはそんなふうにしか聞こえないのかい。そうかい……」
星子「え?」
伍三郎「だったら、所詮、俺はその程度の歌い手だってことだよなぁ。情けねぇ。悲しいねぇ、まったく……歌う世直し大明神、やっぱり、無理だったか……」
星子「歌う世直し、大明神?」
伍三郎「争いのない万民平等の世界を歌と芝居で作る、歌う世直し大明神の伍三郎様よッ……と、こう見えを切ったもんだがなぁ。聞こえてくるのは、空っ風の音ばかり。惚れた女にも、そっぽを向かれちまってさ……」
星子「ごめんなさい、わたし、ちょっといい過ぎたみたい……」
伍三郎「いいってことよ。謝るのは、俺のほうさ。お前さんの歌う姿が夢乃に似ていたばっかりに、つい、この世に姿を見せちまって。覗いているだけにしておけば良かったのによ……」
星子「……」
伍三郎「さてと、これ以上迷惑をかけないうちに、クラゲの世界に帰るとしますか」
星子「あ、ちょっと……夢乃さんって、どんなかたですか? なんなら、わたしが代わりに探しても……」
伍三郎「いや、あんたには関係ない。男と女の世界のことよ。ま、今にわかるだろうが、お日様が出ているのに真っ暗闇。一寸先は地獄とくる。せつないよなぁ」
星子「……」
伍三郎「あんた、夕顔の花、好きかい?」
星子「え? ええ……」
伍三郎「そうかい、やっぱりな。あいつも好きだったぜ、夕顔がな……」
星子「!……」
伍三郎「(ふと、振り向き)あ、俺の名は西沢伍三郎だ。あんたは?」
星子「星子です。流星子。流星の子って書きます」
伍三郎「流星の子かい。いい名前だ。辛抱すれば、きっと、今に世に出られるぜ」
星子「いいえ、無理です。わたしには、才能が……ううん、愛を歌いたくても、愛そのものが信じられないんです!」
伍三郎「(見据えて)よほど、辛い思いをしたらしいな、その若さで……」
星子「……」
伍三郎「一つだけいえるのは、歌はこころよ。こころのありようってことさ。いいかい?」
伍三郎、「あきらめ節」を歌いながら、ふらふらと奥へ。不気味に光るスクリーンがあらわれる。轟々たる風の音。
星子「あ、待って!」
伍三郎「(強く)くるんじゃねぇ! 生身の人間のくるところじゃねんだ! いいか!」
伍三郎、奥のスクリーンの向こうへ消える。
星子、茫然と立ちすくむ。
その直後、宙太がカラオケスナックのドアから飛び出すと、
宙太「星子さん! どうしたんだ?」
星子「……伍三郎……」
宙太「あ?」
星子「そういってた、あの人、自分は西沢伍三郎だって……」
宙太「伍三郎?」
星子「わたし、いかなきゃ……伍三郎さんに、聞きたいの……」
宙太「なに?」
星子「そうよ、聞かないと、歌のこころを……」
宙太「ちょ、ちょっと! どうしちゃったんだ? 星子さん!」
星子、宙太の手を払いのけて、スクリーンに向かって走る。
宙太「わっ、星子さん! 待ってくれ!」
必死にあとを追う、宙太。そのまま、星子と一緒にスクリーンの向こうへ吸い込まれるように消える。
風の音に混じって、宙太の悲鳴。



(つづく)

1―4

同時に暗がりにスポットライト。伍三郎がハモニカを手にぬっと立っている。
星子「あっ」
悲鳴を上げて戻ろうとするが、うろたえて何かに躓いて転んでしまう。
伍三郎、星子を抱え起こす。
伍三郎「大丈夫かい、お嬢さん?」
ハッと、とびのく星子。
伍三郎「脅かして悪かった。そんなつもりじゃなかったんだ。お前さんに謝ろうと思ってな。でも、ほんと、そっくりでな、雰囲気っていうか、歌ってる姿が……」
星子「歌手、だったんですか、そのヒト……」
伍三郎「浅草の歌姫なんて呼ばれてさ、鶯か雲雀のようにきれいな声で歌うって評判だったぜ」
星子「浅草……あ、昔のSKDとか……」
伍三郎「知ってるのかい?」
星子「あ、はい、わたし、ミュージカルが好きで、子供の頃は宝塚とかSKDに憧れてたものですから……」
伍三郎「そうかい、そうかい。でも、ちょっと違うんでね。浅草オペラ,レビュウともいうが」

音楽、浅草オペラ的な曲。スクリーンに、オペラの舞台や浅草の賑わい等。

星子「浅草オペラ、あ、それって大学の授業で習いました。戦前っていうか、大正時代とか昭和の初め頃に、浅草で大衆向けのオペラとかレビューがはやったって」
伍三郎「そう、一頃は大変な賑わいだった。田谷力三、藤原義江、高田せい子、安藤文子大衆オペラの大御所様よ。お前さん、どこで歌の勉強したんだ?」
星子「音大です。そこの……でも、勉強のほうはあんまり……すいません」
伍三郎「いいのいいの、歌さえうまけりゃな。夢乃なんか、ろくに学校も出ていないんだぜ。(笑って)そうそう、俺もな、コーラスボーイとして舞台で歌ってたんだ」
星子「ほんとに?」
伍三郎「仲間には、後の大スター・エノケンもいたんだ。同期の桜だぜ」
星子「エノケ、ン?」
伍三郎「知らない? そうか、そうだろうな、もう、ずっと遠い昔の話だもんな。でも、あの関東大震災さえなけりゃなぁ……」
星子「でも、あ、ちょっと、待って下さい……」
伍三郎「ん?」
星子「浅草オペラって、大正時代の……」
伍三郎「うん、関東大震災があったのは、大正12年9月1日、西暦でいうと1923年だ。今から約90年前だな」
星子「!……」
伍三郎「当時、俺は48歳だった。つまり、現在は……数えてみるかい?」
星子「!……う、う……」
伍三郎「うそでしょ、だろ? おう、長寿記録でギネスに乗ってるぜ。なんて、俺が生きていればの話さ」
星子「えっ」
伍三郎「といって、死んでいるわけでもない」
星子「そんな!」
伍三郎「生きてる世界と死んでる世界の間を、漂っているクラゲさん。どっちの世界にも帰れずに、ふわふわ。〽あきらめなされや、ふわふわ、ふわふわーっ〽」
おどけて歌ってみせる、伍三郎。
星子、キッとなって、
星子「からかわないで下さい!」
伍三郎「別に」
星子「いいえ、からかってる、わたしを! わたしの歌が下手だから、内容がないから、あきらめろ、あきらめなされって!」
激しく詰め寄る、星子。
伍三郎、ふっと深い吐息をつく。
伍三郎「そうかい、あきらめ節、お前さんにはそんなふうにしか聞こえないのかい。そうかい……」
星子「え?」
伍三郎「だったら、所詮、俺はその程度の歌い手だってことだよなぁ。情けねぇ。悲しいねぇ、まったく……歌う世直し大明神、やっぱり、無理だったか……」
星子「歌う世直し、大明神?」
伍三郎「争いのない万民平等の世界を歌と芝居で作る、歌う世直し大明神の伍三郎様よッ……と、こう見えを切ったもんだがなぁ。聞こえてくるのは、空っ風の音ばかり。惚れた女にも、そっぽを向かれちまってさ……」
星子「ごめんなさい、わたし、ちょっといい過ぎたみたい……」
伍三郎「いいってことよ。謝るのは、俺のほうさ。お前さんの歌う姿が夢乃に似ていたばっかりに、つい、この世に姿を見せちまって。覗いているだけにしておけば良かったのによ……」
星子「……」
伍三郎「さてと、これ以上迷惑をかけないうちに、クラゲの世界に帰るとしますか」
星子「あ、ちょっと……夢乃さんって、どんなかたですか? なんなら、わたしが代わりに探しても……」
伍三郎「いや、あんたには関係ない。男と女の世界のことよ。ま、今にわかるだろうが、お日様が出ているのに真っ暗闇。一寸先は地獄とくる。せつないよなぁ」
星子「……」
伍三郎「あんた、夕顔の花、好きかい?」
星子「え? ええ……」
伍三郎「そうかい、やっぱりな。あいつも好きだったぜ、夕顔がな……」
星子「!……」
伍三郎「(ふと、振り向き)あ、俺の名は西沢伍三郎だ。あんたは?」
星子「星子です。流星子。流星の子って書きます」
伍三郎「流星の子かい。いい名前だ。辛抱すれば、きっと、今に世に出られるぜ」
星子「いいえ、無理です。わたしには、才能が……ううん、愛を歌いたくても、愛そのものが信じられないんです!」
伍三郎「(見据えて)よほど、辛い思いをしたらしいな、その若さで……」
星子「……」
伍三郎「一つだけいえるのは、歌はこころよ。こころのありようってことさ。いいかい?」
伍三郎、「あきらめ節」を歌いながら、ふらふらと奥へ。不気味に光るスクリーンがあらわれる。轟々たる風の音。
星子「あ、待って!」
伍三郎「(強く)くるんじゃねぇ! 生身の人間のくるところじゃねんだ! いいか!」
伍三郎、奥のスクリーンの向こうへ消える。
星子、茫然と立ちすくむ。
その直後、宙太がカラオケスナックのドアから飛び出すと、
宙太「星子さん! どうしたんだ?」
星子「……伍三郎……」
宙太「あ?」
星子「そういってた、あの人、自分は西沢伍三郎だって……」
宙太「伍三郎?」
星子「わたし、いかなきゃ……伍三郎さんに、聞きたいの……」
宙太「なに?」
星子「そうよ、聞かないと、歌のこころを……」
宙太「ちょ、ちょっと! どうしちゃったんだ? 星子さん!」
星子、宙太の手を払いのけて、スクリーンに向かって走る。
宙太「わっ、星子さん! 待ってくれ!」
必死にあとを追う、宙太。そのまま、星子と一緒にスクリーンの向こうへ吸い込まれるように消える。
風の音に混じって、宙太の悲鳴。



(つづく)

第一幕


1―1
             

華やかな夕暮れ時の駅前付近。
騒音、若者達の嬌声、中高年女性達の喧しい会話等が入り混じる。
コンコ─スの片隅。ストリートミュージシャンの若い娘(星子)、覇気のない顔でギターを弾きながら自作のフォークソングを歌っている。だが、足を止めて聞いてくれる通行人はいない。
星子「〽(オリジナル曲・わたし、なにを歌えばいいの。)」
     恋の旅立ちは いつも春 花咲き乱れ 風薫る春
     恋の夏は花火 激しく炎を燃やし 髪をからませる夏
     恋の秋はじきに訪れ 早くも吹く木枯らし
     なぜそんなに急いで旅は終わるの……」 

ふいに、すぐ近くのビルの陰から、「あきらめ節」のハモニカ演奏が聞こえてくる。
星子「うるさいな、もう」
咎めるように、目をやる星子。
くたびれた作務衣姿の白髪の老人・伍三郎が、酔いでふらつきながらハモニカを吹く。
星子、我慢できずに伍三郎のほうへ。
星子「あの、ね、ちょっと……すいませんけど……」
伍三郎、ハモニカを吹き終え、歌い出す。
伍三郎「〽あきらめなされ……〽(あきらめ節)」
星子「(カッとなり)やめて下さい! お願いします!」
伍三郎、歌を中断する。
星子「それって、皮肉ですか? それとも、嫌み?」
酔眼を向ける伍三郎。
星子「んもぅ、とぼけちゃって! あきらめろ、あきらめろって……わたしの歌のこと? そんなにひどいですか!」
伍三郎「……」
次の瞬間、ハッとなる伍三郎。
伍三郎「ゆ、夢乃っ……」
星子「え?」
伍三郎「夢乃!」
星子に抱きすがろうとして、よろける伍三郎。
星子、悲鳴を上げて逃げる。その直後、駆け寄った若い男(宙太)の胸に飛び込む。
宙太「どうした、星子さん!」
星子「あっ」
星子、あわてて宙太の胸からとびのく。
星子「ご、ごめんなさい」
宙太「俺は別にいいけどね。で、何があったわけ? 悲鳴なんか上げちゃってさ」
星子「ゆ、夢乃って……」
宙太「夢乃?」
星子「お爺さんがね、わたしのこと、そう呼んで抱きつこうと……」
宙太「なにっ」
星子「そこ、すぐそこよっ」
星子、ビルの影を指差す。
宙太「ふっ、お爺ちゃんの痴漢か。ウチの施設にも、似たようなのがいるよ。ボケたふりしちゃってさ(笑)。どらどら、お説教してやるか」
宙太、ビルの影へ。だが、伍三郎の姿はない。
宙太「いないぜ」
星子「え?」
宙太「逃げたのかな」
あたりを見回す宙太、近くでチラシ配りをする若者(号外売りも兼ねる)に尋ねると戻ってきて、
宙太「そんなお爺さんはいないってさ」
星子「いない?」
宙太「君が一人で勝手にわめいていたって」
星子「そんな! ほんとよ、嘘じゃないわ……あそこにハモニカを吹くお爺さんがいて、わたしがうるさいっていったら、あきらめなされって歌いだして……」
宙太「あきらめなされ?」
星子「人を馬鹿にしたような変な歌詩。聞いたこともない歌だった」
宙太「あきらめなされ、ね……君、体調は?」
星子「別に、ふつうよ」
宙太「近頃、幻聴とか、幻覚とかは?」
星子「ない、ぜんぜん」
宙太「認知症、なわけないよな」
星子「あたりまでしょ」
宙太、いきなり星子の腕を掴み、
宙太「ちょっと、いこ」
星子「どこ?」
宙太「いいから、ついてくるべし」
星子「でも、まだ歌の途中だし……」
宙太「どうせ、誰も聞いちゃくれないよ。この俺以外はね!」
宙太、半ば強引に星子をつれていく。
星子の声「そう、いつも聞いてくれるのは宙太さんだけ。この近くの介護施設で働いているそうだけど、明るくて楽しくて、わたしには癒し系のいいお友達、それ以上でもないし、それ以下でもない……」


1―2

舞台下手奥に、カラオケスナックを想定した空間。カウンターの奥には、ママ。四人ほど客がいて、てんでにカラオケ全集をめくる。(客達の歌は演歌っぽい、ナツメロっぽい歌をオリジナルで。)
カウンター席に星子と宙太。。
宙太「(からおけ全集をめくる)あったあった。ちょいとシツレイ」
カラオケ番号をセットする、宙太。
ママ「あきらめ節ね。なつかしい」
星子「あきらめ節って?」
ママ「あたしが若い頃、ま、今でも十分若いけど、その頃、フォークソングの神様っていわれた人が歌ってたのよ。でも、元歌は古いみたいよ。明治とか大正とか」
宙太「作った人は、添田唖然坊か。(星子に)君が聞いたっていうのは、この歌かい?」
星子「ううん、歌詞は似てるけど、もっと、テンポが遅くて哀しそうだった……」
ママ「で、この歌をお年寄りが歌ってたわけね」
宙太「ところが、その爺さんを見たのはカノジョ以外誰もいないとくる。幻覚か幽霊か、それはさておき、君の人生への啓示、お導きと思って、あきらめなさることだね、歌姫になる夢は」
星子「いったでしょ。わたし、あきらめたりしないから。絶対に!」
宙太「でもさ、正直いうと、あ、怒るなよ、君の歌を聞いていても、伝わってくるものがないんだよな」
星子「なによっ」
ママ「宙太さんったら……」
宙太「あ、うん……ゴメン……」
星子「……わたしに才能がないのは、わたしが一番わかってる……一番……」
宙太もママも、しんみりとなる。
宙太「うん、まぁ、そう深刻に考えないでさ、今は懐メロでも歌って、すっきりと……」
星子「懐メロはきらいっ」
星子、泣き顔で睨みつけると、
星子「ママ、おトイレは……」
ママ「あ、奥よ。ドアの外」
星子「ありがと」
奥へ向かう星子、ドアを開ける仕草で出る。
星子「あっ」


(1−3へ、つづく)


追記 改訂稿です。今回は歌詞もきちんと書きこみ、劇団の仲間が作曲を引き受けてくれ、ちかじか、打ち合わせする予定です。かなり、楽しみです。


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星子&宙太yyy
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