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手紙? 宙太さんから?
星子、一瞬、ポカンと……だって、あの口から先に生まれたようなオシャベリ男が、お手紙だなんて、柄じゃないとはこのことだよね。
ま、読んでやりますか。
ナニナニ?
「わがいとしのハニィ、最愛の人、この世に二つとないダイヤモンドの姫君! マイハート、星子さんへ!」
ったくぅ、毎度ながら、よくもまぁ、こんなに歯の浮くような言葉を並べたりして。早く、用件をいえよっ。
「君を守り、幸せにすることは、僕の使命だと……」
勝手にそう思いこんでいるだけだろうが。
「でも、わけあって、その使命を果たすことが出来なくなってしまった。ああ、悲しや、悲しのボクチャンです」
ん?
「まさか、こんなふうに君との別れがくるなんて、思ってもいませんでした。別れは人生につきものとはいえ、最愛の人との別れは、死ねというのに等しいことです。そうです、君のためなら、命さえ惜しくないボクチャンなのに、その君と別れて旅立たなくてはいけないとは。運命のカミサマをいくら恨んでも恨みきれません。でも、僕はいかなくてはならない。男宙太、どうしても、行かなくてはならないのだ。さよなら、星子さん。君の面影を胸にしっかりと焼きつけて、僕は旅立ちます。さよなら。さよなら、星子さん」
「……」
星子、手紙を手にしたまま、茫然と立っていた。
あの宙太が、こんな手紙一本残して、自分のもとから去っていくとは、とても、信じられない。現実感がないわけ。
そうか、私の気を引こうと、お芝居しているんだ。んもぅ、見え見えだよ。まるで、だだっこのオコチャマみたい。だから、ま、カワイイんだけどね。
星子がクスッと笑ったとたん、
「笑っている場合じゃないわよ、星子ちゃん!」
春之助、いきなり、星子の背中をどやしつけた。
「宙太さんは、本気よ。本当に、星子ちゃんのもとから去っていくつもりよ。
あたしのトランプ占いでもハッキリとでているのよっ」
いつの間にか春之助の手にトランプが、ザーッと、宙に舞ったと思うと、ジョーカーがヒラリと星子の足元に落ちた。
「何度占っても、このジョーカーがあらわれるの。きっと、こいつが宙太さんをそそのかして、地獄へ送り込もうとしているのよ」
「そんなぁ、ただのトランプじゃん」
「とんでもない! 現実にいるのよ!」
「どこに? どんなヤツ?」
「まだ、わからないわ。でも、いることはたしかよ! そいつのお陰で、宙太さんは死ぬかも……もう、二度と宙太さんには会えなくなるかもよ……」
そういっているうちに、春之助の目から涙がポロポロとこぼれてきた。
「宙太さんがいなくなったら、あたし……あたし、生きていけない……死んじゃう……死ぬわ、あたし……」
春之助、星子にワァーッと泣きすがった。
「ちょ、ちょっと、春ちゃん」
星子、春之助の濃い香水に辟易しながらいった。
「いいわ、とにかく、宙太さんをさがそうよ。そして、どういうことか、くわしく聞いてみようじゃん。わたしも、気になるしさ、ね、春ちゃん?」
「ええ、いいわ、そうしましょ!」
春之助、涙をぬぐってうなずいた。
「で、宙太さんの行き先はわかるの?」
「それがね、多分、北海道かも……」
「ほんと?」
「あたしのトランプ占いを信用しないの、星子ちゃんっ!」
春之助の目、ヒステリックに吊り上がった。
こわっ。下手に逆らわないほうがいい。
「わかった、信じる、信じるから。さ、早くいこ!」
「ええ!」
北海道となると、京都とは反対方向だ。星子、春之助をうながして、東北新幹線のホームへ歩きかけた、そのとたん・
シュパッ!
いきなり、近くの自販機の蓋が開いたかと思うと、セットされていたペットポトルが次々と速射砲のように飛び出して、星子めがけて飛んできた。
「あぶない!」
春之助、星子をかばいながら、横っ飛びにかわした。
だが、ペットポトルはまるでミサイルのように襲いかかってくる。
すかさず、春之助、トランプを手裏剣のように飛ばして、ペットポトルを次々と叩き落した。
ふむ、春ちゃん、いつの間にか、宙太さんの得意技を身につけていたわけね。
それにしても、なぜ、こんなことが……。
「誰かが、テレパシーを使ったみたいよ」
春之助、緊張した顔でいった。
「テレパシーを?……」
ということは、超能力者のしわざ……なんか、薄気味悪い……星子が思わず身震いした時、ゴンベエ、フーッと唸り声を上げながら、近くの柱の方を睨んだ。
誰かがいる……それも、凄い殺気を発散しながら……。
じきに、柱の影から、一人の女の子があらわれた。
セーラー服を着た女子高校生だ。かなり長身で、雛人形のような美少女だけど、切れ長の澄んだ眼には、険しい敵意のような光りが漂っている。
「あ、あなたなの? あなたがやったのね!」
美少女、紅い唇に不敵な笑みを浮かべながら、ゆっくりとうなずいた。
「あなた、誰よ!」
美少女がパッと投げたのは、ジョーカーの札だ。
「ジョーカー!」
「えっ」
春之助、キッと睨んだ。
「あんたが、ジョーカーかい!」
「カッコつけないで、本当の名前をいいなさいよ!」
詰め寄った星子を、美少女は冷ややかに見つめながらいった。
「……ほーりゅう……」
(つづく)
(おことわり)
ちょっと事情がありまして、明日から二三日留守にします。申し訳ありませんが、作品の続きは、週明けから再開しますので、どうか、ご勘弁下さい。
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