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「ゆ、許せない!」
携帯電話から、春之介の怒りにふるえる声がとびだした。
「ちょっと、ね、春ちゃん、落ち着いてよっ」
星子、困った顔で、携帯電話を握り直した。
「そう興奮しないで。いったい、なにがあったの? わたしには、さっぱり……」
「んもぅ、鈍感なんだから、星子ちゃんって! キライ!」
「ちょっとぉ」
もう、八つ当たりもいいとこ。
「切るから、ケータイ。いいの、それでも?」
「待ってよっ。いいわ、話してあげるから、よく、聞きなさいね!」
この忙しい時に、勝手に電話してきて、そりゃないだろ。このワガママ女、じゃない、わがまま男が。
「だってさ、ゲンジロウのやつ、ひどいのよっ」
「ゲンジロウさんが、どうしたの?」
「オバケ」
「オバケ?」
「いちいち、仮装してこなくたって、あたしはもうオバケしているって。オトコオンナのオバケちゃんだって!」
「あ……」
なるほど、そういうこと。今夜はハロウィンのパーティやるんだけど、みんな、それぞれ、怪物に仮装してくるわけ。そのことで、春ちゃん、ゲンジロウさんにからかわれたんだ。
たしかに、近頃の春ちゃん、化粧が一段と派手で、ファッションもド派手になってきた。一緒に歩いていても、こっちが恥ずかしくなるくらいだ。
そうだね、怪物に仮装しなくても十分オッケーだね。
なんていったら、春之介、怒りでバクハツしちゃう。
でもって、
「そりゃないよね、春ちゃんが怒るのも無理ないよ」
「でしょ? もう、ゲンジロウとはゼッコウよ! だから、あたし、パーティにはいかないから! いくら、あたしを説得してもムダよ! いいわね!」
「春ちゃん……」
星子がため息をついた時、背後からやんわりと肩を抱きしめる手が……この感触、いわずと知れた宙太の手だ。
「どうしたい、ハニィちゃん?」
と、耳もとでささやく甘い声に、うっとりしかけて、
「んもぅ! やめて、宙太さんたら!」
星子、どうにか我にかえり、払いのけたあとで、
「じつはね、春ちゃんが……」
かくかくしかじか、と、宙太に説明すると、
「そうか、あとは、ボクチャンにおまかせ」
宙太、携帯電話を代わると、
「もしもし、春ちゃん、ゲンジロウには僕があとできっちりとお仕置きするからさ、パーティにきてくれよ。キミがこないと、宙太チャン、泣いちゃうから」
やさしく訴えると、もともと、宙太には弱い春之介、
「そんな、宙太さん、悲しいこといわないで……」
すんなりと、パーティに出席するといった。
ったくぅ、いい加減にせいっちゅうの。
とにかく、日も暮れた頃、パーティ会場には、星子の仲間達が次々と集まってきた。もちろん、皆さん、怪物に仮装してね。
宙太さんは、ドラキュラ。
マサルさんは、狼男。
右京さんは、死神。
春ちゃんは、ゾンビ。
ゲンジロウさんは、骸骨男。
左京くんは、トカゲ人間。
タケルくんは、半魚人。
わたし、星子は、もちろん、魔女!
ご愛嬌は、ゴンベエ、化け猫の仮装したけど、ブタくんに見えちゃったりして。
そして、感激したのは、あの圭一さんが、きてくれたこと。それも、サタンの仮装でね。
カボチャのちょうちんで飾られたパーティルームで、みんながわたしを中心に坐ってくれた。
「ハロウインは、悪魔祓いと秋の収穫を祝うお祭りだ。こうやって、皆で祝えるなんて、嬉しいぜ」
宙太、微笑みながら、いった。
「これも、われらのマドンナ、星子さんがいてくれるからだぜ。感謝の気持ちをこめて、星子さんを胴上げしようや!」
「賛成!」
「ブラボー、セイコ!」
「ビバ、セイコチャン!」
マサルたち、完成をあげると、星子を抱えあげ、胴上げをはじめた。
「ワッショイ!」
「ワッショイ!」
「ワッショイ!」
星子の体、羽根のように宙に舞い上がった。
こんなにステキな男達から胴上げされるなんて、わたし、なんて、シアワセなんだろう。
もう、サイコー!
星子、夢を見ているような気分だ。
そのうち、頭の中がボーっとなってきて、次第に意識がなくなっていった。
――どれくらいたっただろう……。
「もしもし? 大丈夫ですか? もしもし!」
そう呼びかける声がして、星子、肩を強くゆすられた。
「んもぅ、もうしばらく、このままにしていてよ。いい気分なんだからぁ」
寝ぼけ顔でいうと、
「でも、終点なんですがね」
「シュウテン?」
星子のとろんとした目に、車掌さんの制服を着たオジサマの姿が……。
「ん?」
星子、あわてて、飛び起きた。
ここは、ハロウィンのパーティ会場なんかじゃない。夜汽車のうらさびしい客車の中だ。
「宙太さんっ……」
と、呼ぼうとしたけど、宙太はもちろん、マサルよ右京たちの姿も見当たらなかった。
そうか、わたし、夢を見ていたんだ。ハロウィン・パーティの夢を……。
今のわたしは、一人ぽっち。
昔の時空から今の時空へスリップした、女の子なんだ。
星子、車掌さんにせつかれて、悄然と列車を降りた。
寒い。北国の秋の夜の寒さが、足もとから這い上がってくる。ホームには人影もまばらだし、駅の外には、町の灯がわびしく光っている。次の列車がくるまで、約一時間近くも待つことになりそうだ。
こんな時、一人旅のつらさ、わびしさが、身にしみる。せめて、ゴンベエになぐさめて欲しいけど、リュックの中で高いびきだ。
腕時計のカレンダーは、十月三十一日。暦だけは、ハロウィンだよね。
さっきの夢のように、皆と一緒にお祝いが出来たらどんなに楽しいだろう。
でも、わたしは、一人ぽっち。
悲しくて、寂しくて、涙が……。
ちょっと、星子、しっかりしなさいよ!
さっきのパーティは、夢なんかじゃない。皆と出会えて、楽しいハロウィン・パーティをやれる時が、きっと、くる!
そう信じて、旅を続けるのよ。
いい、星子? わかった?
「うん! わかった! もう、メソメソしないから。元気出して、旅を続けるから!」
星子、自分にいい聞かせながら、夜空を見上げた。
澄み切った夜空に、満天の星が光り輝いている。明日はきっと、いいことがある……きっと……。
(おわり)
追記 遅れていたキリ番の番外編の一つだけ、なんとか、ハロウィンに間に合ったです。皆さんは、お祝いなさいましたか。わたくし、収穫の方はともかく、悪魔祓いは出来なかったようで…。
気晴らしに、小田原方面へドライブしてきました。何度いっても、楽しめる城下町ですね。ミカン山もそろそろ見ごろでしたよ。大好きな谷村サンや堀内サンのCDを聞きながらのドライブ、最高にいい気分でした。
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