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キャーッ、やったぁ!
春ちゃんが、わたしをお嫁さんに指名したよっ。
ということは、わたし、華道花陰流の家元の奥さん、いいえ、奥様ということに。
す、すっごい!
いいオトコさがしの一人旅にも、そろそろ、くたびれてきたし、このあたりで、手を打ちますか。
春ちゃんは美形だし、なんたって、家元の奥様っていうのがイイ!
スゴク、イイ!
星子一人旅は、オシマイ。長らくのご支援、有難うございました!
バァーイ!
……。
なんて、はしゃぐわけないでしょっ!
わたしを、その程度の女の子とおもっとるのかっ。フザケルナ!
え? 誰も、思ってない?
し、しつれいしました。
ま、春ちゃんがわたしのことを、そこまで想ってくれているのは、嬉しい。それは、素直に感謝します。
「そう、感謝しなきゃ」
と、宙太がニヤリ。
「まず、相手がオレでなかったことに」
ウフッ。
「そして、星子さんのような女の子を嫁さんにしたいなんて、なかなか、いえないことを、いってくれたことに」
「のような、とは、なによっ」
「本人が一番わかっていることだと思うけどな、シシシッ。でも、春ちゃんには申し訳ないが、ハニィと結婚できるのはプリンスしかいないってこと」
「プリンス?」
「つまり、このボクチャンさ。コホン」
「ったくぅ」
呆れる星子の耳に、ふたたび、春之介と父親・夏太夫の言い争う声が聞こえてきた。
「許さん! 流星子なんていう氏素性のわからない娘と結婚したいなんて、絶対に認めるわけにはいかん!」
氏素性がわからないムスメ? ぶ、無礼な!
「お前の結婚相手は、あそこにいる大森家のお嬢さんしかおらんのだ。さ、早く挨拶しろ。皆さん、お待ちかねだぞ!」
「お断りします!」
春之介、凛とした声でいった。
「僕は、家元宗家の奴隷でもロボットでもない。自分の足で歩き、自分の息で呼吸する一人の人間です! 今までどおり、自由に生きさせてもらいます! もう二度とこの家には戻りません!」
「春之介!」
夏太夫が声を荒げた瞬間、春之介、パッと体を翻して、竹林の中へ走った。
「おっと!」
すかさず、宙太、後を追って竹林へ向かった。
「あ、待って!」
星子も、つんのめるように走った。
竹林の中は薄暗く、太くて大きな竹がびっしりとはえていて、すごく走りにくい。
その竹の枝をかきわけて進むと、羽織や袴、帯なんかが枝に引っ掛かっている。春之介が脱ぎ捨てたものだ。
まさか、春ちゃん、下着姿のままで……と、思っていると、ん!
前方に東屋が見えて、その前に、宙太と着流しの男が……春之介だ。
春之介の手には、仕込みの剣がしっかりと握られている。一方、宙太は太い竹の枝を竹刀のように持ち、構えていた。
これが、春ちゃんの着流し殺し屋スタイルですか。
うん、カッコイイ!
それに、宙太さんの竹刀を構えた姿も、絵になるよ!
まさに、佐々木小次郎と宮本武蔵の決闘みたい!
ガンバレ、小次郎!
ファイト、武蔵!
なんて、いってる場合か。
宙太の目にも、春之介の目にも、鋭い殺気のようなものが、キラキラと光っている。
マジ、ヤバイ!
「伊集院春之介クンよ、抵抗は止めろや。大人しく、逮捕させろよ!」
宙太が叫ぶと、春之介、
「断る! 僕は男の義の道を見せたいだけだ!」
と、叫び返した。
「男の義の道?」
「そうとも! 法律じゃ裁き足りない悪党共を、正義の刃で叩き斬る。これが、本当の男の生き様、義の道なのだ!」
「なるほど。しかし、いったい、誰にその男の義の道とやらを見せたいんだ?」
「きまっているだろう。星子さんにだ!」
「星子さんに?」
「!……」
星子、びっくりだ。
「星子さんの心を掴むには、僕が男だってことを見せなくては……ハーフ・レディなんかじゃない、本当の男だってことを知って欲しいんだ!」
春之介、目をうるませながら、必死に叫んだ。
……ああ、なんて、一途な春ちゃんなんだろう。でも、なにも、そこまで、思いつめなくても……。
星子、吐息をついた。
「うん、その気持ちはわかるけどさ……」
宙太、春之介を見すえた。
「しかし、その義の道とやらも度が過ぎれば、立派な犯罪だ。デカのオレには、見逃せないな。それに、これが一番、肝心なことだけどさ、星子さんをキミに渡すわけにはいかない。星子さんは、将来、オレの奥さんになるヒトなんだ。そういう運命の星に生まれているんだよ、オレと星子さんは。あしからず!」
「!……」
なにが、運命の星よっ。調子のいいこと、いわないで。
星子、文句をいおうと、二人の前に飛び出そうとした。だが、それより早く、春之介、サッと仕込み剣を上段に構えた。
「だったら、血路を切り開くしかないな。覚悟だ、警部!」
(つづく)
追記 ほんと、毎日お寒いことです。僕も心身ともにお寒い限りでして。でも、精一杯、笑顔を作りつつ、頑張るしかないか。明日を信じて!……なんて、モノイエバ、クチビルサムシ。
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