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――天川光サン、わたしを赤いリボンの帽子の女の子と、カン違いしている……。
なんだ、ガッカリ。ドラマチックなラブレターの主人公になったつもりが、じつは、別人だったなんて。
星子、面白くない顔で、手紙をポンと屑篭に放り投げようとしたけど、ふと、その手が止まった。
ちょっと、まってよ。
でも、でもですよ、天川光サンって人、どうして、わたしの名前や住所を知っているわけ?
もしかして、その赤いリボンの帽子の女の子も、流星子っていう名前? つまり、同姓同名ってこと?
じゃ、住所も同姓同名?
そ、そんなバカなっ。そんなこと、あるわけないじゃん。
そうなると、その女の子が、わたしの名前と住所を語った、つまり、わたしのニセモノかよっ。
でも、それも、ヘン。だって、ニセモノがあらわれるほど、わたし、有名人じゃないもんネ。
たくぅ、どうなってんのよっ。
いらついた顔で足もとのスリッパを蹴飛ばしたら、ゴンベエに命中。
フンギャッ。
恨めしそうな顔で見るゴンベエに、それくらいガマンせい、と、睨みつけたところで、
「ん、ちょっと、待って!」
そういえば、この前、わたしが一人旅した時、ゴンベエにサッカーボールがぶつかったことがあったっけ。
「ね、ゴンベエ、どこだっけ? こら、思い出さんかい、このドラネコ!」
星子がつめよっても、ゴンベエ、そっぽを向いた。
当たり前だよね、ゴンベエにわかるわけない。
「あ、そうか、思い出した。春休みに信州を旅した時じゃないの。それくらい、覚えてえな」
どこまで、勝手なんだろうね。
ま、とにかく、そうでした、あの日は、急に善光寺さんにいきたくなって、あ、別に信心深いってわけじゃないの、善光寺の参道にあるおそば屋さんの手打ちそば、これがまた、すっごく、おいしくて、そのおそばが猛烈に食べたくなって、長野新幹線に飛び乗り、いざ、長野へ。
お腹を満たしたあと、善光寺サンにおまいりを、「どうか、いいオトコがみつかりますように」ってね。
このバチあたりが。でも、大丈夫、善光寺サンなら許してくれます。
で、その帰り、せっかく、長野まできたことだし、かの風林火山の舞台となった川中島まで足を延ばして、武田信玄サマと上杉謙信サマの雄姿をしのんでみますか。
ということで、川中島へ。
ご存知のように、川中島は千曲川のほとりにあって、丁度、杏の花がほぼ満開に……。
あらっ、そうか、わたし、杏の花を見ているんだ。摘んではいないけど、見ていることは確かだよ。
真っ白な杏の花が、すっごく、きれいだった。そういえば、ラブレターに挟んであったこの押し花、杏の花じゃないですか。
今頃気がつくなんて、やっぱり、わたし、花よりオトコなんだ。
うふっ。
で、杏の花の咲く土手を散策していたら、飛んできたサッカーボールがゴンベエを直撃。近くの公園でサッカー遊びをしていた子供達のボールなんだよね。
ま、ゴンベエにはとんだ災難だったけど。
そのあと、わたし、千曲市の蔵屋敷へ。古い町並みが、いかにも、春の信州っていう雰囲気で、すごく気に入った。
そうそう、丁度、蔵の一つで雛人形展をやっていったっけ。興味があったし、中へ入ってみた。雛人形を飾るようになったのは、明治時代以降なんですってね。古いお雛様は男雛と女雛の座る位置も、今と逆だったそうな。
受付けでは、女の子達が旅の想い出ノートに感想文を書いている。わたしも、つい、その気になって、ノートに向かったけど、いざ、書こうとしたら、前の女の子が杏の花とお雛様を組み合わせたイラストを描いているのよね。それが、すっごく、上手なんだ。
わたし、もう、なにを書いていいのかわからなくなって、イラストの下に、名前と住所だけ書いてきたっけ。
それにしても、ほんと、すてきなイラストだった。羨ましいな。あんな絵が描けるなんて……ん?……。
ちょ、ちょっと、待ってよ。
あのイラストを描いてた女の子、たしか、赤いリボンの帽子をかぶっていたんじゃ。
そうよ、間違いないよ!
ゴンベエが、リュックの中から、手をのばして、じゃれつこうとしていたしね。
もし、もしもよ、あの時、天川光サンがいて、あとで、ノートに描かれたイラストを見たとするよね。まさか、その下に書かれたわたしが名前と住所を、あの女の子のものだとカン違いしたとか……。
それで、ラブレターをわたしの所へ送ってきたんじゃ……。
きっと、そうだ。
(つづく)
追記 今夜から、再開します。よろしく!
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