星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

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番外らぶっす・20

                    20

 おととい手術したばかりで、まだ、安静にしていなくてはいけないのに、無茶もいいところだ。  
 スタンドもグランドも、ざわめき、試合は一時中断となった。その間に、花太郎、ベンチまでくると、監督にペコリと会釈して、何やらいった。監督、ダメだと首を振ったけど、
花太郎、懸命に頼んでいる。
「どうやら、自分をピンチヒッターにしろって、頼んで、いや、おどかしているらしいな」
 宙太、苦笑いした。
「そんな!」
 心配を通り越して、ただもうあきれるばかりの星子だ。
 いくらなんでも、監督が承知するはずがない、と思っていたら、なんと、監督、主審に「ピンチヒッター!」と、告げたじゃないですか。
 ああ、なんてこと。場内が騒然とする中、花太郎、バットを持ってバッターバックスへ、そして、巨体をグイッとピッチャーへ向けて、大きく素振りをすると、「さぁ、こい!」と、構えた。
 並みのピッチャーならビビるところだけど、相手は指折りの高投手だ。負けじと睨み返すと、速球を投げ込んだ。
 空振り!
 花太郎の顔が、苦痛に歪んだ。
「やっぱり、無理よ! やめて、花太郎さん!」
 星子、たまらずに叫んだ。
でも、花太郎、痛みをこらえながら、再び、バットを構えた。
ピッチャー、第二球を投げた。
またもや、空振り!
同時に、「うっ」と、花太郎の口からうめき声が漏れ、顔もさらに大きく歪んだ。
「ヤバイな」
宙太、さすがに心配そうに見た。
「細井くん! やめさせて! お願い!」
 星子の声が聞こえたのか、細井は監督の指示を貰って花太郎に駆け寄った。
 だが、花太郎、「うるせぇ!」と、細井を突き飛ばし、バットを構えた。しかし、顔色は真っ青で痛みを必死にこらえている様子だ。足と腰も、力を失って今にも崩れそうだった。
 ピッチャーのほうは、余裕で三振を取れると見たのか、笑みを浮かべて、振りかぶった。
 ああ、もう、オシマイ。
 星子ががっくりと肩を落とした時だ。センター後方のあたりから、笛の音が聞こえてきた。
 美しい、澄み切った音色だ。
 思わず聞き惚れながら、一体、だれが、こんな時に吹いているんだろうと、目をこらすと、バックスクリーンの陰から、着物姿の人影があらわれた。
「!…り、リツ子っ…」
 そう、その人影はリツ子だった。長い髪を風になびかせながら、横笛を吹いている。いつもの、小生意気なメガネ顔のセーラー服姿からは想像も出来ないような、神秘的なまでに美しい姿だった。
 リツ子って、ほんとは、あんなにきれいなんだ。
 でも、応援なんかには絶対に行かない、と、いったはずなのに。だから、もう、リツ子とは絶交したのに。
「花太郎くんの熱い気持ちが、やっと、リツ子さんに届いたらしいな」
 そうつぶやく宙太に、星子、うなずいた。
 なんだか、胸の中が熱くなってくる。でも、一番、嬉しいのは花太郎だ。
 さっきとは別人のようにエネルギッシュで晴れやかな顔で、ギュッとバットを握り締めた。そこへ、ピッチャーが決め球のフォークボールを投げた。
 大きく曲がり落ちたボールは、まるで、魔球のようだ。だが、花太郎のバットはしっかりと捉えた。
 カキーン!
 ライナーとなった打球は、あっという間にセンター方向へ、そして、バックスクリーンのはるか上を飛んで、場外へ消え去った。
「やった! 逆転サヨナラホームランだぜ!」
 宙太、叫びながら星子に抱きついた。
 んもぅ!
 でも、いいの。今だけ許しちゃう。
 場内は、もう、大歓声だ。痛みをこらえてベースを一周する花太郎に、それこそ、嵐のような声援が飛んでいる。細井なんか、嬉しさのあまり、へたりこみ、泣いている。
 星子、噴き出したうれし涙をぬぐいながら、バックスクリーンへ目をやった。
 ん! リツ子の姿が消えている。
「リツ子っ」
 星子、観客席の通路を走っていった。
 リツ子に謝らなくては。また、以前のように友達でいよう。
「リツ子! リツ子っ」
 だが、いくら探しても、リツ子は見つからなかった。まぼろしのように、消えていた。

                            (おわり)


追記  本日分、5000文字数に入らなかったので、二回に分けました。今回は、それなりの番外編でしたが、いかがでしたか。リツ子と花太郎の恋、この先どうなるのか気になりますが、また、機会でもあれば続きを書いてみます。
 なお、ブログ連載のほうは、しばらくお休みさせてもらいます。時期が来ましたら、再開しますので、ご容赦ください。
 うっとうしい梅雨が続きます。ご自愛ください。

番外らぶっす・19

                19

「リツ子、一緒にきなさいったら!」
 星子、リツ子の腕を掴んだ。
「痛い! 乱暴しないでよっ。腕が抜けちゃうから!」
「知るか! さ、早く!」
 渋るリツ子を、構わず、ぐいぐいと引っ張っていく。
「あたしを、どこへ…ね、どこへつれていくわけ? 星子っ」
「うるさい! 黙ってついてくる!」
 星子の顔、ものすごく不機嫌だ。
 だって、当たり前でしょっ。あまりにも、わがままというか、自分勝手というか、ハートがないというか、とにかく、許せない、リツ子の態度が。
 あの時、花太郎はリツ子をかばって撃たれた。リツ子を愛するが故に、我が身を省みず、楯になったんだ。
 泣かせる話じゃないの。ところが、リツ子ときたら、花太郎を介抱するわけじゃなし、感謝するわけでもなし、しばらく、茫然と見つめたあと、姿を消してしまった。
 そんな態度は、許せないっ。
 で、学校帰りのリツ子を、タクシーに押し込んで、救急病院へ向かったいるわけ。
その前に、経過を伝えておくと、花太郎がここに救急車で運ばれたのが、昨日の日曜日の午後。
 いくら花太郎が巨大ロボか怪獣なみのボディとはいっても、まともに左の肩口に弾丸を食らっちゃオシマイだ。
星子、宙太と一緒に、花太郎が運ばれた救急病院へ駆けつけ、夜遅くまで付き添った。途中で、魔女軍団が現われなかったら、徹夜していたところだ。
 それにしても、魔女軍団、つまり、花太郎の四人の姉妹のやかましかったことったら。
「花太郎、死んじゃ駄目よ!」
「あなたが死んだら、私たちも後追い自殺するわよっ」
「がんばって、花太郎兄さん!」
「死んじゃいや、許さない!」
 等など、口々に大声で叫び、さらに、途中から花太郎の父親まで加わって、
「死ぬな、花太郎! お前は、わが家の大事な跡取りだぞ! 絶対に死ぬな! 死んだら、タダじゃおかんぞ!」
 と、号泣しながら、花太郎に負けない巨体をふるわせて叫びまくっていた。
 魔女軍団の誰かが、「ママを呼んだほうがいいんじゃない?」といったけど、
「バカいわないで!」
「あんな女、死神と同じよ!」
「かえって、花太郎が可哀そうよ!」
 と、姉妹達の猛反撃にあった。
 そういえば、この前、花太郎も母親のことを「あんな奴、死んだも同然だ」みたいないいかたをしていたっけ。
 花太郎の家族と母親の間に、一体、何があったのか。ま、そのあたりは、いずれ、機会があったら、あらためて、ということで、
 それよりも、今、問題なのは、はたして、肝心の花太郎の命がどうなるか、だ。今朝、宙太が医者を問いただしたところ、「助かる確率は、五分五分」です、と、いわれた。
 五分五分!
 はじめは、なんとも食えないヤツだったけど、星子としては、花太郎のリツ子を想う一途さに、だんだん、あったかい気持ちになり、なんか、ニクめない男の子ね、って思い始めていた。
 その花太郎が、こんなことになるなんて。
 星子、すごいショック。だから、余計、リツ子の無関心な態度がアタマにきた。そこで、リツ子を強引に連れてきたってわけ。
 でも、いざ、タクシーが救急病院の前に着くと、リツ子、見舞うのはいやだ、と、いった。
「どうしてよ? カレ、あなたを助けようとして、大けがしたのよ!」
 星子が真剣な顔でいっても、リツ子、そっぽをむいたまま、
「あたしが頼んだわけじゃないし」
 と、冷やかな顔でいった。
「そんな! そんないいかたって、ないでしょ!」
「どこがいけないの。勝手に愛情を押しつけられて、あたしには迷惑なだけよ。ストーカーと同じだわ。ストーカーは犯罪よ。あんなことがなかったら、とっくに宙太さんに逮捕されているところよ」
「違う! 花太郎さんは、ストーカーじゃない。あなたとの約束もあるし、甲子園を目指して頑張っているのよ!」
「あたしは約束してないわ。あいつが、勝手にきめたことよ。でも、その約束とやらも、おしまいね。カレ、もう、試合には出られないでしょ」
「リツ子っ」
 星子、もう、キレた。思いっきり、リツ子の頬にピンタをくわせようとした。
 その時、「星子さーん!」と、細井が走ってきた。
「細井クン、どうしたの?」
「今から、届けに行こうと思っていたんです! 先輩から、これをリツ子さんにって…」
 そういいながら、花束を差し出した。
「昨日の試合、勝ったんで、ハイ」
 そうか、花太郎さん、勝つたびに花束をリツ子に渡すことにしていたんだよね。
「あ、星子さんにも、これを渡せって…」
「わたしにも?」
 細井、バラを一輪、花束に添えた。
「花太郎さんたら、ひどいケガのくせに、こんな気を使って…」
 ういヤツ。胸が熱くなる。
「あ、それから、リツ子さんにメッセージを伝えてくれって、いってました」
「メッセージ? あたしに?」
「はい、俺の見舞いはやめてくれって」
「え?」
 リツ子、ポカンと口をあけた。
 星子も、唖然となった。
「ほんと? リツ子にお見舞いするなっていうわけ?」
「はい」
「どういうわけ? 命を的に守ってやった相手じゃないの」
「きっと、無様な姿を見せたくないんでしょ。あれで、結構、プライドが高そうだし」
 リツ子の顔に、冷笑が浮かんだ。
「いえ、そうじゃないんです」
 細井、真剣な顔で否定した。
「センパイは、こういってました…俺は、同情されたくないし、恩も売りたくない。俺に助けられたことで、リツ子さんに気持の負担をかけるとしたら、それは、本当の愛情じゃないんだ。だから、俺は見舞ってほしくない。病院には、こないでほしいんだ、って」
「!…」
 花太郎さん、柄に似合わず、いうことがマトモだ。
「でも、その代わりに、次の試合を見にきてくれって…」
「次の試合を?」
「はい、リツ子さんのために、ホームランを打つ。それが、俺のサイコウのラブコールだって…そういってました」
 細井、込み上げるものを抑えるようにいった。
 一瞬、絶句の星子さんだ。
「そんな…次の試合って、いつなの?」
「明後日です」
「あさって? ムチャよ、そんな! あの怪我じゃ、試合に出られるわけないわよっ」
「はい、僕も同感です。でも、センパイの顔は真剣でした。こわいくらい、いや、本気でこわかったです」
「でもねぇ…」
「とにかく、球場でお待ちしているそうですから。じゃ、失礼します」
 細井、ぺこりと頭を下げると、病院へ戻っていった。
 呆然と見送る星子の耳に、リツ子のククッという含み笑い声が聞こえた。
「リツ子、なにがおかしの?」
「御苦労さま、とんだ無駄骨だったわね、星子」
「なにごよっ」
「だって、あいつのほうから、お見舞いの必要はないっていってきたのよ。これで、不愉快な思いをしないですんだわけじゃない」
「リツ子」
「それにしても、よくいうわよね。なにが、ラブコールのホームランよ。アタマがおかしくなったんじゃないかしら。きっと、そうよ」
 リツ子、声をあげて笑った。
「リツ子!」
 星子の顔、怒りで真っ赤になった。
「あなたには、人の心ってもんがないの! 花太郎さんが、どんな思いでいるのか、少しは考えてあげたらどうなの!」
「あら、星子、あなた、あいつに同情しているわけ。それとも、あいつが好きになったのかしら。どうぞ、ご遠慮なく。あたしには宙太さんがいるんだし、遠慮なんかいらなくてよ。喜んでお譲りしますわ、ふふふっ」
 おかしそうに笑ったリツ子の顔に、
 ピシャッ!
 星子の平手打ちがとんだ。
「イタッ、なにするの!」
「あんた、サイテイよ!  目がさめるまで、ひっぱたいてやるから!」
 星子、リツ子の胸倉を掴み、さらに、殴ろうとした。
 寸前、その手が背後から掴まれた。
 振り向くと、宙太が立っている。
「星子さん、よさないか」
「宙太さんっ」
「リツ子さんだって、本気でいってるんじゃないさ。心の中じゃ、きっと…な、リツ子さん?」
「……」
 リツ子、黙ったまま、頬を押さえていたが、急にパッと体を翻すと、そのまま、走り去っていった。
「なによ、あんなヤツ! もう、絶交よ!」
 星子、憤然とした顔でいった。
「ま、ま、ま、ハニィ、気持ちはわかるけどさ…」
「うるさい! わかんなくていい! とにかく、絶交なんだから、もう!」
 星子、そういい捨てると、歯噛みしながら、そっぽを向いた。その眼に、キラッと涙が光った。

 そして、二日後の午後――、
 世田谷にある野球場では、天女学園が予選第三戦を戦っていた。相手は都立高校の強豪チームだ。ベンチには、花太郎の姿はなく、以前の天女学園だったら、とっくにコールド負けしているはずだった。
ところが、今回はチームの全員が猛ハッスル、というのも、花太郎の大怪我で、すっかり意気消沈していたナインを、なんと、あのひ弱なマネージャーの細井クンが、
「このゴクツブシ! イクジ無しのアホ! お前ら、それでも、オトコか! 恥を知れ、恥を! この世には、弔い合戦という言葉があるんじゃ! ハナコ先輩の男気を見習って、死んだ気で戦え! 戦うんじゃ!」
 と、小さな体に似合わず蛮声を張り上げて、叱咤激励した。もっとも、最後は貧血を起こしてふらついたりしたけどね。
でも、効果てきめん、ナインもハッスルして互角に試合を進めてきたが、残念ながら、九回表を終わって、1対0。天女学園の最後の攻撃も、ツーアウト、ランナーなし。敗色濃厚だった。
「ザンネンね、みんな、がんばったのに…」
 観客席で応援していた星子、ため息をついた。
「いや、奇跡は起きる」
 隣に座った宙太が、余裕の顔でいった。
「日頃は野球なんかにはまるで興味のないハニィが、こうして一生懸命、応援しているんだぜ。奇跡が起きないわけがないだろ」
 ま、そうあってほしいよね。花太郎くんと知り合うまでは、およそ、野球とかには関心がなかった。せいぜい、サッカーぐらいかな。でも、星子、変わりました。
 とくに、今日の試合は、思い入れが強い。花太郎の出場は無理でも、なんとか、皆で花太郎の分まで頑張ってほしかった。
 でも、その願いも消え去ろうと…ん?…最後のバッターが、デッドボールで出塁したじゃないですか。勝ちを焦った相手ピッチャーが、つい、バッターにぶつけてしまったらしい。
「よっしゃ! 奇跡の始まりだぜ!」
 宙太、立ち上がって歓声を上げた。
 ベンチも大騒ぎ、細井は枯れて声にならない声でわめいている。
 でも、次のバッターはすでに3打席連続三振している。今度も三振は間違いない。本人もまるで自信がない顔をしていた。
「ああ、もう、ダメかぁ。こういう時、花太郎さんがいてくれたら…」
 星子がぼやいた時、
「ん! 奇跡を呼ぶ男があらわれたぞ!」
 宙太が、叫んだ。同時に、ベンチから細井が何やらわめきながら飛び出した。
 その方向を見ると、な、なんと、花太郎がユニフォーム姿でのっそりとあらわれたじゃないですか!
 星子、信じられないといった顔で見つめた。


                            (つづく)





 

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