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「パパ、早くぅ」
少女が、じれったそうに叫んだ。
「乗り遅れちゃうから! ね、早く、パパ!」
「ま、待ってくれっ…」
私は、必死に息を継ぎながら、いった。
「エスカレーターを駆け上がるのは、き、危険だよ…え、駅員さんに叱られるかも…」
「んもぅ、つまんない心配しないっ。早くったら!」
そう叫びながら、少女は私の手を掴んで、ホームへ引っ張り上げた。丁度、発車ベルが鳴り終わって、青森始発の函館行き快速列車のドアが閉まろうとしている。
「駄目だ、もう、間に合わない…」
万事、あきらめが早い私である。
でも、少女は足を止めることなく、強引に閉まりかけたドアに突進した。
「あ、危ない! いけないよ、キミっ」
私は、引きずられながら叫んだ。
近くにいた駅員も、あわてて、ピピッと笛を吹いた。気づいた列車の車掌が、びっくり顔でドアスイッチを押したおかげで、ドアは開き、なんとか、挟まれずにデッキに飛び乗れた。
「お、お客さんっ…」
駆け寄った駅員が、こわい顔でにらんだ。
でも、少女はにっこりと、
「ごめんあそばせ」
と、軽くウインク。
セクシーではないけど、なんともチャーミングなその笑顔に、駅員は一瞬、気勢をそがれた。その眼前でドアが閉まって、列車は動き出した。
「ふーぅ、まさに、滑り込みセーフね」
少女は、ペロッと舌を出した。
「なにが、セ、セーフ…」
叱りつけようとしたが、息切れがひどくて、声にならない。心臓もばくばくしているし、今にも、破裂してしまいそうだ。
「大丈夫、パパ?」
少女は、心配そうに私の顔を覗き込んだ。
「…ああ、大丈夫だ、近頃は運動不足でね…」
「うふっ、歳のせいじゃないの、パ・パ?」
「こ、こらっ…」
ま、いえてるか。
「それと、パパって呼ぶのはやめてくれないかな。僕は、君のパパじゃないんだから…」
私は、なんとか、息を整えながらいった。
相手は、ついさっき、青森駅の構内で出会った初対面の少女だ。まだ、名前も聞いていないが、年恰好から見て、旅行中の女子高生らしい。
なかなかキュートでかわいい女の子だが、いきなり、「パパ」と呼ばれ、すっかり面喰ったまま、函館行きの列車に乗ったわけだ。
「じゃ、『オジサマ』とでも呼んでほしいわけ?」
「……」
そう、本音をいえば。枯れた歳とはいえ、まだ、人生に未練はある。
「でもね、そうはいかないんだ。だって…」
少女は、真顔で私を見つめた。
「あなたが、わたしを産んでくれたんだもん」
「うっ」
私は、思わず噴き出した。
「あのね、キミ、僕は男なんだ。男の僕に、君を産めるわけがないだろう」
「やだぁ」
少女は、クククッと笑った。
「そういう意味じゃなくて、あなたのアタマから生まれたわけ」
「アタマ?」
「創造力といってもいいかな」
「創造力?」
「作家さんのね」
「え?」
「わたしの名前は、流星子。そういえば、わかるでしょ?」
「流…星子…えっ、星子?」
唖然となったわたしに、少女、流星子はコックンとうなずいて見せた。
追記 九月に入っても、暑いじめじめとした陽気が続きますね。本日からスタートの番外編、夏バテ防止に少しでも役に立てればいいのですが。
それにしても、パパさんが主役に登場とは。ちょっとアブナイパパさんだし、星子さん、気をつけてね。
連日の連載はむづかしいですが、がんばってまいります。前回同様、ご声援下さい。
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