星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

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「うっ」
 ……熱い……。
星子にキッスされた右の頬が、ジーンとしびれるように熱い。
なんて、やわらかくて、暖かい唇だろう。恥ずかしいが、一瞬、頭の中がボーッとなってしまった。
キッスなんて、本当に久し振りだ。それも、星子のような若い女の子のほうからキッスされたことは、自慢じゃないが、一度もない。
 若い頃からもてなかったこともあるが、昔の女の子は、自分の方からキッスすることは、滅多になかった……と、思いたい。いいわけとしては、ちょっと、苦しいかな……。
 ま、それはともかく、
 ポイントを渡る列車の振動で、やっと、我にかえったわたしは、
「キ、キミッ、やめてくれ。誰かに見られたら、どうするんだ」
 と、少し強い調子でいった。
 陶然となった自分の姿を、何とかごまかそうとする大人のずるい計算も働いていた。
 でも、星子は、
「わーい、パパ、赤くなってるぅ」
 と、微笑んだ。
「いいじゃない、親子なんだもん。あ、恋人同士に見られても、わたしは平気だよ。この広い世界には、親子、ううん、孫とおじいちゃんぐらいの歳の差の恋人関係って、結構アリらしいし」
「う、うん……」
 たしかに、それはある。かの文豪ゲーテは、74歳の時、確か、18歳の少女ベアトリーチェと熱愛関係になったとか。
 羨ましい。だが、大半の老人にとっては、願望はあっても、夢のまた夢であろう。わたしも、すでに、前期高齢者、後期ではありませんぞ。前期も後期もじつに嫌な言葉だが、その部類に入っており、恋という字には無縁の存在だ、と、自分にいい聞かせていた。でも、まだ、可能性がある、かも……。
「あ、パパ、また、顔が赤くなった」
 すかさず、星子がわたしの顔を覗き込んで、ニヤッと笑った。
「こ、こらっ、人をからかうんじゃないっ」
 再び、語気を強めたものの、迫力がない。下心を見透かされると、人間、弱いのである。
「とにかく、とにかくだ……」
 わたしは、邪念を払いのけるようにいった。
「僕のことを心配してくれるのは有難いが、大丈夫だから。人間、この歳になるとね、ほとんどの人がリタイアして、小さな世界に閉じ篭りがちになるんだ。体力は衰え、頭の働きは悪くなり、感性も衰え、些細なことでイラつくようなる。夫婦関係も難しくなるし、友達もほとんどいないし、親兄弟とも疎遠になるし、その上、人生のゴールも見えてきて、焦りも強くなる。つらいが、耐えなくてはならない。ちょっとキザないいかたをすると、孤独との戦いかな。今度の旅も、その戦いにどこまで自分が耐えられるか、自分を試すことでもあるんだ」
「……ふーん……」
「あ、君には難しすぎる話かな。高校生ぐらいじゃ、まだまだ、縁がないからな」
「まぁね」
 星子は、肩をすくめた。
「でも、もし、もしもよ……」
「ん?」
「その戦いとかに耐えられなくなったら、どうするわけ?」
「その時は、芭蕉の心境かな」
「芭蕉って、俳人の?」
「うん、『旅に病で 夢は枯野を かけ廻る』、そんな句があるんだ。旅半ばで倒れようとも、夢を追いかけながら朽ち果てるのも一興ってことかな」
 自嘲気味にいったわたしに、
「バカ!」
 星子は、大きな瞳で睨みつけた。
「そんな悲しいことをいうパパなんて、キライ! それに、パパ、肝心なことを忘れてる!」
「肝心なことって?」
「パパにもしものことがあったら、わたしもオシマイってこと。ううん、ゴンベエもよ」
 ゴンベエくん、リュックの中でうなずいた。
「他にも、宙太さんとか、マサルさんとか、春ちゃんとか、右京さんとか、リツ子とか、星子シリーズのレギュラーみんながよっ」
「そんなことはないさ。たとえ、僕が死んだって、君達は本の中で生きているじゃないか」
「それは、過去のわたし達よ。未来のわたし達じゃない」
「未来の…」
「そうよ、わたし達、もっともっと、旅をしたいし、もっともっと、恋をしたいの! それをかなえてくれるのは、山浦さんしかいないのよ!」
 星子の瞳には、いつの間にか、涙が浮かんでいた。キラキラと光る透明な涙だった。
「ね、パパ、お願い、元気を出して。パパが元気になってくれれば、わたし達も新しい素敵な旅ができるし、素敵な恋にも出会えるんだ。だから、お願い!」
「……」
 わたしの胸に、熱いものが込み上げてきた。
 今、目の前にいる少女が、小説の世界からこの世にあらわれた主人公・流星子なのか。それとも、星子に扮しただけの別人なのか。その判断は、まだ、つきかねている。だが、どういう星子にしろ、作者であるこのわたしを励ましてくれているのだ。かって、星子シリーズをこの世に送り出したわたしとしては、星子の願いにこたえなくてはいけない。
 ずっと、澱んでいた暗い沼に、一条の光が差し込んだような気分だ。
「わかった」
 わたしは、星子にうなずいてみせた。
「二人で、旅をしよう」
「ほんとに!」
「ああ、もちろん。君と二人で気の向くまま、広い北海道を旅しようじゃないか。きっと、素敵な出会いがあるかもしれないよ」
「うん!」
 星子は、涙をぬぐうと、うれしそうに微笑んだ。
「で、最初にどこへいくわけ?」
「わたしとしては、函館にいくつもりだが…」
 星子には理由をいわなかったが、函館は昔、わたしが愛した女性と二人で北海道を旅した時、最初に訪れた街だった。
その人は、わけありのまま、わたしのもとを去り、数年後、病いでこの世を去った。私にはつらい思い出しか残っていないが、人生最後の旅に、今一度、あの人との思い出をたどってみたかった。
 そこで、かって二人で待ち合わせた青森駅を起点に、夜汽車に乗ってまず函館を訪ねてみることにしたが、接続列車のダイヤが乱れて、危うく乗りそこなうところを、星子のおかげでどうにか乗れたのだった。
「ふーん、函館ですかぁ」
 星子は、軽く首をかしげた。
「ちょっと、定番過ぎるかな」
「ううん、そんなことない。パパがいきたいとこへ、わたし、しっかりとついていくもん」
「そうか」
 うれしいことをいってくれる。
「でも、途中で素敵な恋にめぐり逢えたら、私に遠慮なくカレと…」
「モチロン」
 星子は、ニヤッと笑った。
「って、いいたいけど、パパを一人にしても大丈夫ってわかるまでは、パパから離れませ〜ん」
 そういいながら、星子はわたしの首に抱きついてきた。
「君…」
「んもぅ、星子って呼んで」
「…星子…」
「うれしい! もう一度、キッスしちゃおっと」
 星子が再び唇を近付けた時だった。
「そのキス、待ったぁ!」
 ふいに、若い男の声が聞こえた。
 同時に、隣の車両から、サングラスをかけた男が派手なクリーム色のコートをヒラリと翻しながら飛び込んだ。
「な、なんだ、君は!」
 たじろいだわたしをかばうように、星子が若い男をじろりと見上げた。
「宙太さんったら! また、余計な所にあらわれるんだから!」
「宙太クン?」
 わたしが呆気に取られた顔で見ると、若い男はやおらサングラスを取った。
 一見、きざっぽいが、ちょっとタレメ気味の、ハンサムボーイがにっこりと微笑んでいる。
 美空宙太、そのご本人だった。


追記  宙太クン、最後に登場。さて、どういうことになりますか。今日は一日中、カラッとしていい気分でしたね。明日もそう願いたいところですが。

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