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花舞いは恋の必殺剣
1
――サーッ、と……。
ふいに冷たい夜風が、吹き降ろしてきた。その夜風に乗って、ひらひらと、桜の花びらが、まるで、雪のように舞い、踊る。
三人の悪党達の濁った目は、魅せられたように舞い踊る花びらを追っていた。
と、その花びらが大きな渦になり、パァッと散った瞬間、牡丹の花模様の唐傘をさした若い男の影が浮かび上がった。
「!……」
悪党達のいかつい顔が、唖然となった。
その若い男は、艶やかな藤色の着物に銀色の帯を締め、紅の鼻緒の高下駄をはいて、ゆったりと立っている。
歳は二十歳前後か、メッシュに染めた長い髪が夜風に乱れ、顔には、黒いアイマスクをかけていた。
じきに、悪党達は我に返ったように、ニタリと笑った。
「なんでぇ、お前は?」
「タレントか俳優かい。時代劇の撮影でもやってんのかよ」
「とにかく、仕事のジャマだ。とっとと消えな」
「早く、行けって!」
悪党達は、威嚇するようにすごんでみせた。
「仕事、か」
若者は、涼やかな低い声でつぶやいた。頬には、薄い笑いが浮かんでいる。
そう、これが仕事といえるのか。
カップルの乗ったクルマをあおって停車させたあと、男を袋叩きにして金を奪い、さらに、女をクルマから引きずりおろしてレイプしようとした。
まさに、とんでもない悪党達だ。彼らは、そんなあくどい犯罪の常習者達だった。
「でも、そんな汚い仕事が出来るのも、今夜かぎりだな」
若者の顔から笑みが消えて、切れ長の美しい目にキラッと閃光が走った。
「てめぇ! やっちまえ!」
三人の悪党達、一斉にサバイバル・ナイフを抜くと、若者に襲いかかった。
瞬間!
若者が体を翻した、と、思うと、牡丹の花模様の番傘から、仕込みの剣がギラッと……。
カキーン!
金属音がした直後、真っ二つにたたっ切られたサバイバルナイフが、宙に舞った。
「うわっ」
唖然となった悪党達に、さらに、白刃一閃!
「ぎゃっ」
悪党達の右の頬に、十文字の切り傷が刻まれ、真っ赤な血文字となった。
「今度は、左の頬を刻んでやろうか」
若者、白刃の先をサッと突きつけた。
と、一瞬、ひらりと一枚のトランプカードが舞って、白刃の先にピタリとくっついた。
キッと振り向いた若者の前にすくっと立ったのは、ど派手なハーフコートが良く似合うタレ目男、といえば、花の警視庁捜査一課警部、そう、われらの美空宙太クンだ。
「ウーン、さすが、カッコイイね」
宙太、軽くウインクしてみせた。
「おたくが、近頃、悪党退治で評判の桜吹雪のオニイサンか。会いたかったぜ」
「……」
若者、宙太に見つめられて、顔をそむけた。
「とにかく、あとの裁きは、ボクチャンにまかせてくれ」
宙太、しっかりときめたつもりでいった。
だが、若者、首を振った。
「断る。法律は当てに出来ないな」
「そうか。じゃ、仕方ない、君を傷害と刀の不法所持でパクらなきゃならないぜ」
「ふっ、やれるものならやってみろ」
若者、白刃を構えた。
「ちょっと、待った。その前に、顔を見せるのが礼儀ってもんだぜ。お顔拝見!」
そういいながら、宙太、トランプを手裏剣のように投げた。
その一枚が若者のアイマスクをはじき飛ばして、素顔が……色白の鼻筋が通った美しい顔だ。
まるで、美少女のような……ん? 誰かに似ている。
「は、春ちゃん?」
宙太、一瞬、茫然となった。
「キミ、春ちゃんなのか!」
宙太が叫んだ瞬間、牡丹模様の番傘がパッと舞った。そして、番傘に隠れるようにして、若者の姿は闇に消えた。
(つづく)
追伸 番外短編・春ちゃん編のはじまりです。新しい春ちゃんキャラを目指そうと……はたして、どうなりますやら。なんせ、相手が相手だしね。とにかく、よろしく!
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