星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

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「もう一度聞くよ、ハニィ。君がかばっている相手って、誰なんだろ?」
 宙太の声は、やさしくて、落ち着いていた。いつものひょうきんな感じと違って、真剣に星子のことを思っている感じだ。
 ――こういうところが、宙太のいいところなんだな……。
 わたしは、あらためて宙太を見直すと、星子にいった。
「星子、答えてあげたどうだ? 宙太君なら、きっと、うまくやってくれるはずだよ。あとのことは、まかせなさい。な、星子?」
 だが、それでも、星子はだまったままだ。
「星子っ」
 わたしは、つい、声を荒げた。
「相手は、ピストルを持った殺人者なんだ。それも、手口から見て、プロの殺し屋かも知れない。そんな恐ろしい奴が、今もこの列車に乗っているんだ。もし万一のことでもあったら、どうするんだ!」
「……」
「星子!」
 詰め寄ろうとしたわたしを押しのけるようにして、五月の手が星子の肩を掴んだ。
「一緒にきて貰おうか」
「五月さんっ」
「乗客の首実検に付き合って貰うんだ。ちょっとヤバいが、今はそれしかなさそうだぜ」
「ちょっと、待ってくれ…」
 宙太は、止めようとした。だが、五月は構わずに、
「さ、くるんだ」
 と、いって、星子を連れ出そうとした。
 瞬間、星子の唇が震え、口から嗚咽のような声が漏れた。
「星子さん?」
「どうした、星子?」
「……」
 星子は、無言のままだ。でも、目は真っ赤で、涙があふれ、目尻から頬へと流れた。
 次の瞬間、星子は両手で顔を覆い、ううっと、その場に泣き崩れた。
「星子さん…」
「星子…」
 わたしも宙太も、茫然と見つめた。
 星子の泣く姿は、滅多に見られない。人前では、決して涙を見せない強がりで意地っ張りな性格だからか。それだけに、この泣きようは尋常ではなかった。
 私がどう声をかけていいのか戸惑っていると、宙太はやおら、五月にいった。
「五月さん、わかるよな」
「え?」
「女の涙さ。おたく、そんなクールな顔をしているけど、ほんとは女にはやさしい男なんだ。おたくの吹くペットを聞いていると、ジーンと伝わってくるぜ」
「警部…」
 そう、五月の趣味はトランペットを吹くことだった。
「近頃は、ヨコハマだけじゃなくて、六本木や原宿あたりのクラブでも吹いているんだってね。もう、プロも顔負けじゃん」
「……」
「あんたのペットが、こういっているよ。女の子がこんなふうに泣く時は、きっと…」
 宙太は、いたわるように星子を見つめた。
「恋をしている時さ…きっとな…」
「……」
 五月も、星子を見つめた。その目から鋭い光が消えて、どこか、潤んでいるようだった。
 そう、たしかに、宙太のいうように、星子は恋をしている。他には考えられない。
 その相手が、たまたま、星子が目撃した殺人事件の犯人だった。だから、誰にも本当のことはいえずに、かばうことしか出来ないのだろう。それが、恋心というものかも知れない。それにしても、こんなにいじらしい星子を見るのは、はじめてだった。
 わたしは、思いっきり、星子を抱きしめてやりたかった。だが、今はそっとしておくしかない。その気持は、宙太も、そして、五月も同じだった。
「俺一人でいくから」
 五月は、ぼそっとつぶやいた。
「ん?」
「手がりは、ゴンベエの爪にからまっていたグレーの毛糸の糸。ま、取りあえずその線でやってみるぜ」
「そうか、僕もあとからいくから」
 頷いた五月は、影のように足音も立てずにデッキへ向かった。
「オトコだな、彼って」
 見送ったあとで、宙太はハンカチを取り出して星子に差し出した。
「たっぷり濡らしていいよ、遠慮なく」
「…宙太さん…ありがと…」
 星子は、泣き顔を伏せたまま、ハンカチを受け取った。
「五月さんって、ほんと、苦労しているからな、オンナのことで」
「……」
「あ、変な意味じゃなくてさ。彼、遊ぶようなタイプじゃないから。彼はずっと一人の女性を愛しつづけているんだ。その相手は、もう、この世の人じゃないけどね」
「え?…」
「そう、亡くなってるんだ、もう、何年になるのかな…名前は、確か…」
「加藤和美だよ」
 わたしは、記憶をたどるようにいった。
「そう、和美さんだったっけ。彼のペットの音色に惚れこんでさ、それがきっかけでいい仲になったんだ。しまいには、子供まで出来てさ…」
「子供が…」
「名前は、えーと…」
「正樹」
「そう、正樹クンだ。でも、彼女は体をこわして子供と一緒に信州の実家に引き取られてさ。当時は五月さんも若かったし、厄介払い出来たつもりだったらしい。ほんとは、愛していたのにな…」
「……」
「それから何年かたって、和美さんが亡くなったことがわかったんだ。それに、幼い正樹クンも自閉症の施設にいるって…」
「……」
「その時は、自責の念というか、後悔というか、死ぬほど泣いて荒れまくったらしい。で、そのあと、五月さんは、気持ちを入れ替えて、彼女と自分の愛の形見というか、正樹クンを支えて生きようと決めたわけ。つらい話だよな…」
 宙太は、鼻をすすった。
 星子は、黙ったまま、話を聞いている。
「ま、そんな男だから。腹も立つだろうけど、勘弁してやってくれよ。僕が代りに謝るからさ。な、ハニィ?」
 宙太は、ぺこりと頭を下げた。
「さてっと、応援にいかないと。乗客もだけど、五月さんにもしものことでもあったら、正樹クンが可哀そうだもんな」
「……」
「じゃ、パパさん、星子さんのこと、よろしくな」
「わかった。君も気をつけてくれよ」
「ご心配なく。まだ当分、天国からの招待状はこないらしいから」
ニッコリ笑うと、宙太は歩きかけた。
その時、星子が低い声でいった。
「待って、宙太さん…」
「ん?」
「…あの人、だったの…」
「え?」
「…わたしが、かばった相手…」
「星子さん!」
 宙太とわたしは、ハッと星子を見た。
「あの人って?…」
 星子は、涙声でつぶやいた。
「…圭一さん、よ…」
 

                  (つづく)



追記  星子がかばった相手が誰か、今回は伏せておくつもりでしたがね。
   それにしても、なぜ、あの圭一クンが…本当なのかな。もしかして、幻覚とか。    僕にもわからない展開になってきました。

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