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「ぼ、僕が殺される? こ、この僕が…」
さすがの宙太も、顔色が変わった。いつものひょうきん顔も、どこかへ吹っ飛んだ様子だ。
「しかし、なぜ、宙太君が…どういうことなんだ?」
わたしは、なんとか気持ちを落ち着かせながら、星子にたずねた。だが、星子は首を振った。
「あたしも、圭一さんに聞いたの。でも、くわしいことは何もいってくれなくて…ただ、こういってたわ。自分には、先のことが見えるんだって…」
「先のことが?」
「つまり、超能力って奴かい。なぁんだ」
宙太は、ほっと肩を撫で下ろしたように息を吐いた。顔色も、さっきとは別人のように生気が戻っている。
「ワタクシ、その手の話は信じないヒトでしてね。この世はリアル。リアルでいくのが、ボクチャンの生き方ってこと。おおかた、圭一君は警察に捕まりたくない一心で、キミに嘘をついたのさ。きっとな」
「でも!」
星子は、ちょっと、ムキになった。
「圭一さんの目は、真剣だった。嘘なんかいってない、絶対に!」
「うらやましいよな」
「え?」
「僕もそんなふうに、ハニィに信じてもらえたらと思ってさ。いくら、真剣に想いを伝えても、まったく相手にしてくれないだろ。やっぱり、このニヤけた顔のせいかな」
宙太は、ちょっぴり悲しそうに微笑みながら、わたしを軽く睨んだ。
「恨むぜ、パパさん」
「……」
生みの親のわたしとしては、返す言葉がない。
「ま、それはともかく、星子さんがそこまでいうんなら、一応、信じるしかないか」
「一応は余計よっ」
「ハイハイ、じゃ、あとをよろしくな、パパさん」
そういって、宙太はデッキに向かいかけた。
「待って、宙太さん!」
一瞬早く、星子が宙太の腕を掴んだ。
「あなた、命を狙われてるのよ。危ないから、ここにいて!」
「あれ? 僕のこと、心配してくれるわけ?」
「当たり前でしょ」
「キャッホーッ。うれしい! やっぱり、愛してくれてるんだ」
「違うの! あなたにもしものことがあったら、星子シリーズは終わっちゃうでしょ!」
「そうやって、素直には愛情を表現できないところが、ハニィらしいよな。シシシッ」
「ちょっとォ」
「だけど、止めてくれるな、マイダーリン・ハニィ! ワタクシ、花の警視庁・捜査一課の警部です。たとえ、火の中水の中だろうと、男一匹・美空宙太、飛び込んでいくのがさだめ。いざ!」
宙太は、サッと敬礼すると、身を翻した。ちょっとつんのめったのは、ご愛嬌だが。
「っったくもう、知らないから!」
唇をとがらせた星子だったが、その表情には不安の色がくっきりと浮かんでいる。
「大丈夫だよ、宙太のことだ、なんとか無事に切り抜けるから」
わたしは、慰めるようにいった。今はそう信じるしかなかった。
車窓へ目をやると、外は真っ暗だ。今どのあたりを走っているのか、時間からいって、すでに、大沼公園の湖畔は通り過ぎているはずだ。
大沼公園は活火山の駒ケ岳を背後にいただき、美しい湖を中心に広がる国定公園だ。この時期、燃えるような紅葉に彩られた大自然の風景が車窓に広がる。以前、わたしがあの人と旅行した時、あまりの美しさに、あの人は涙を流した。その姿がいじらしくて、わたしは強く抱きしめたものだった。
だが、その景色も、今は闇の中だ。そして、その闇の中で、宙太は命をかけた戦いを始めていた。つらくて悲しい結末が待っているとも知らずに…。
(つづく)
追記 北海道の秋を舞台にお話を展開するつもりが、いつの間にか、北海道の大地に雪が舞う季節にな ってしまいました。「なっちゃん」とも、もうじき、お別れですね。あ、「なっちゃん」というの は、青函高速フェリーの名前です。別れは悲しいけど、なぜか、北海道にはお似合いなんですよ ね。星子と愛する人の別れの舞台を北海道にしたのも、そんな理由があったわけでして。このあ と、どういう展開になるのか。圭一への愛が、どういう経過で五月への愛に変わるのか、そのあたりをじっくりと書いてみたいと思います。
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