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「…きれいだな…」
宙太は、ふと、つぶやいた。
列車のドアガラスの向こうには、真っ暗な海が広がっていて、あちこちに白銀色のまばゆい光の群れが浮かんでいる。イカ釣り船の集魚灯だ。秋深いこの時期、噴火湾一帯はイカ釣り船で埋めつくされて、夜行列車の旅情を高めてくれる。
「おっと、こうしちゃいられないぜ」
我に返ったように、宙太は歩きだした。
早く圭一を見つけないと、新たな事件が起きるかも知れない。星子の話だと、圭一のターゲット、つまり、殺す相手は複数いる感じだ。そのことは、さっき、五月にもメールで伝えておいた。宙太の命が危険だ、と、いわれたことも。でも、五月は圭一の顔を知らないし、宙太が見つけ出すしかない。
宙太は、デッキから車内に入ると、乗客達に目を配りながら歩いていった。でも、圭一を見つけるのは、かなり、難しい。真夜中ということもあって、寝台車の乗客はカーテンでベッドを仕切っている。普通車やドリームカーの乗客の中には、照明の明るさを防ぐためにアイマスクを使ったり、ハンカチを顔にかけたり、頭から服をかぶっている者もいる。二段式のカーッペトカーの乗客も同じだ。乗客のほとんどが熟睡しているし、一人ひとり、起こして顔を確認するわけにもいかない。
函館よりの1号車から5号車までの捜索を終えた宙太は、5号車のミニラウンジで、
「ふーっ」
と、疲れた吐息をついた。
瞬間、背後に人の気配を感じた。
宙太は、反射的に横へ飛んで身構えた。
通路に、五月が立っている。
「五月さんか」
「さすがは警部、いい動きしているぜ」
「サンキュウ。まだ、死にたくないからな」
「愛のためにか」
「さすが、わかってらっしゃる」
宙太は、ニカッと笑ったあとで、真顔になると、
「で、どう? なにか、わかったかい?」
「いや、まだだ。鉄道警察隊の隊員たちと一緒に車内を調べてみたんだが、それらしい奴は、見つからないんだ」
「こっちもな。気持ちばっかり、あせっちまってさ」
「そうか」
五月も同じらしく、唇を噛みしめた。
「とにかく、警部はあまり動かないほうがいいぜ。星子さんを、泣かせないためにもな」
「泣いてくれるかな。カノジョ、俺にはキョーミないみたいだけど。ホントの恋とやらを探して、いつも、一人旅にお出かけとくる」
「女の子は、夢を追いかけるものさ」
「夢か」
五月は、うなずいたあとで、ふと、つぶやいた。
「いい子だよな、星子さん」
「わかる?」
「うん…ちょっと似ているしな、ひたむきなところが…」
五月は、遠くを見るようにいった。
「似ているって?」
「あ、いや…」
「もしかして、おたくの?…」
宙太は、言葉を飲み込んだ。
五月は、死んだ恋人のことを思い出したのかも知れない。正樹という二人の愛の形見を残して旅立った恋人のことを…。
「ま、とにかく…」
宙太は、咳払いした。
「おたく一人の手におえるような事件じゃないしさ。俺にかまうことないから」
「しかし…」
「じゃ、もう一度、1号車から洗い直してみるから」
そういって、歩きかけた時だった。マナーモードにしてある宙太のケータイが強く震えた。
相手のナンバーは、マサルだ。
「もしもし?」
宙太が応答すると、マサルの緊張した声が聞こえてきた。
「ガイシャの大黒には、ウラがありそうだぜ」
「ウラが?」
「奴が指示したと思われる三件の殺し、金にからんだ事件かと思われたけど、そうじゃなさそうだ。じつはな、大黒は古代史にくわしい骨董商で、商売に失敗して莫大な借金をしている」
「ふーん、骨董商ね。で、三人の被害者とはどんな接点があるんだ」
「それがな、三人は古代史の研究家仲間で、今年の夏、『まりも姫伝説』の調査で北海道にきているんだ」
「なんだ、その『まりも姫伝説』って?」
「なんでも、昔、北海道の山奥深くに、まりも姫と呼ばれる巫女を中心とした王国があってさ、そのあと、大噴火があって、莫大な財宝とともに埋まっているとか…」
「ふーん」
「三人が殺されたのは、その調査旅行から帰ったあとだぜ。しかも、大黒は『まりも姫伝説』に興味を持っていたらしい」
「なんだって!」 宙太は、唖然となった。
(つづく)
追記 北海道は、もう、あちこちで雪だそうで。旅人には一面の銀世界は素晴らしいけど、地元の人たちは大変だろうな。ところで、数年前に厳冬の凍りついた小樽で食べたラーメンの旨かったこと。雪の北海道の写真や映像を見ると、生唾が…。
うううっ、食べに行きたい! と、わめくヤマウラであります。
でも、凍りついた積丹半島の断崖で、クルマがスリップ。危うくあの世行きになるところだった。その時のことがトラウマになっているので、ブルっているヤマウラでもあります。
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