星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

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「いやぁ、まいったスね」
 宙太は、げんなりした顔でため息をついた。
 五月や鉄道警察隊の警官達と手分けして、徹底捜査をはじめたのはいいが、なんせ、真夜中の車中だ。ほとんどの乗客が眠っている真っ最中。そこを叩き起こされて、身元証明やら行き先やら何だかんだ聞かれたんじゃ、大迷惑もいいとこ。
 なかにはキレてしまって、喧嘩腰で食ってかかる乗客もいる。とにかく、平身低頭、謝りながらの捜査で、時間もかかるし、手間もかかる。星子達が乗っている2号車にたどりついたのは、朝の五時を過ぎていた。
 すでに、急行『はまなす』は、途中の停車駅、長万部や東室蘭、苫小牧に停まったあと、次の停車駅・南千歳に向かっているところだ。もちろん、長万部駅でも、東室蘭駅でも、そして、苫小牧駅でも、圭一や、彼がターゲットにしている相手が列車から降りることも考えられる。そこで、駅のホームには地元の警察や鉄道警察隊がしっかりと検問所を作って待ち構えた。当然、宙太と五月も車内捜索を中断して、列車から降りる乗客に目を配った。
 だが、圭一もターゲットらしい相手も、降りなかった。早朝ということもあって、どの駅でも降りる乗客は少ないし、見落としたとは思えない。ということは、圭一も殺しのターゲットも、まだ、この列車に乗っているわけだ。
 残る停車駅は、南千歳、千歳、新札幌、そして、終点の札幌だ。この四つの駅のどこかで、圭一は必ず降りる。
「札幌到着は、朝の6時7分。あと、一時間ちょっとの勝負か」
 宙太は、歯噛みしながら、車窓へ目をやった。
 晩秋のこの時期、まだ、車窓はほの暗く、森の木立が黒々とした姿を薄明の中に薄く浮かび上がらせていた。
「さ、気合いを入れないとな」
 正直のところ、もう、へとへとだ。
「仕事と愛のためなら、徹夜つづきもへっちゃらだぜ」
 なんて、普段なら強がりをいってみせるところだが、今夜は別だ。一晩中騒ぎが続いて、疲労困憊の状態だった。でも、ここでへたばるわけにはいかない。頬を叩いて気合いを入れた宙太は、2号車の車内に入った。
一番手前の下段寝台には、星子が寝ているはずだ。カーテンはきっちりと締まっていて、寝息も聞こえてくる。どうやら、熟睡中らしい。
「ハニィ、悪いけど、ちょっと起きてくれないかな。マイ、ダーリン・ハニィちゃん」
 そういいながらカーテンを開けると、宙太は暗いベッドの中に顔を突っ込み、毛布にくるまった星子の額に、
 チュッ。
 キスをしようとしたとたん、
「うわっ」
 悲鳴をあげて、のけぞったのも無理はない。相手は、わたしだった。
「パパさん! どういうことだよっ」
「うううっ」
「さては、星子さんを…おのれ、この悪代官が!」
「ちちちっ」
 わたしは、必死になって叫んだ、つもりだが、口にテーピングされていて、思うように話せない。
 殴られる、と、覚悟したが、その寸前、
「ん!」
やっと気づいた宙太が、テープをはがしてくれた。ついでに、わたしの手足を縛っていた浴衣の帯も解いて貰った。
「誰だ? 誰にやられたんだ?」
「そ、それが、春之助君に…」
「なんだって!」
 唖然となった宙太に、わたしは、事情を話して聞かせた。
「えっ、まりもを持った女の子が!」
 宙太は、ハッとなった。
「まさか、まりも姫伝説にかかわりがあるんじゃ……」
「なんだって?」
 今度は、わたしがハッとなる番だった。
「どこで、その話を聞いたんだ?」
「というと、パパ、知っているのかい、まりも姫伝説のことを?」
「うん、以前、北海道に昔から伝わる伝説や伝奇を調べたことがあるんだ。その中に、まりも姫にまつわる伝説が…」
「いったい、どういう話なんだ?」
「それがね、悲しくて、恐ろしい話さ」
「悲しくて、恐ろしい?」
 宙太は、ゴクッと息を飲み込んだ。
「今から三百年ほど前のことだが、大雪山の湖のほとりに、まりも姫と呼ばれる美しい巫女が住んでいたんだ。或る日、湖畔でヒグマに襲われてね、危ないところを、丁度、狩りに来た王子に助けられて、それがきっかけで深く愛し合うようになったんだ。ところが、王国の砂金に目をつけた幕府が、軍隊を送り込み、戦争を仕掛けてきた。王子は先頭に立って戦ったが、鉄砲の威力にはかなわず、王子は殺され、戦いは敗れた。愛する人を失ったまりも姫は、王子のためにも王国の砂金を敵から守ろうと、湖の底に沈め、湖に近づくものを呪い殺した…」
「!…」
「だが、まりも姫の命にも限りがある。そこで、自分が死んだあとも王子の砂金を守るため、身代りとなる少女を霊の力で呼び寄せて、自分の魂を乗り移らせた。おかげで、大勢の少女達が、その犠牲になったそうだ」
「で、今回は星子さんが、目をつけられたってことか!」
「そういうことだな」
「やばっ、いくら、愛のためとはいっても、それはないぜ!」
 宙太の背筋を、冷たいものが走った。
「とにかく、星子さんを引きとめないと!」
 キッとなった時、車内アナウンスが聞こえてきた。じきに、南千歳に到着するらしい。新千歳空港につながる駅だし、降りる乗客も多い。もしかすると、星子も降りる可能性がある。
 宙太は、デッキへ走った。


                        (つづく)

 

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