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「パパ、どこだ? どこにあるんだよ、まりも姫伝説の湖は?」
宙太は、地図を広げたわたしに、焦り顔でいった。
「そう、せかすなよ。落ち着いて探せないじゃないか」
「落ち着いてる場合かよっ。一刻も早く星子さんのところへいかないと! 五月さんや春ちゃんにまかせておくわけにはいかないぜ!」
「わたしだって、気持ちは同じだよ」
わたしも、不安と苛立ちを押さえながらいった。
星子は、わたしが愛した人の化身といってもいい。だからこそ、失うわけにはいかない。愛の思い出を守るためにも。その一心で、わたしは札幌駅で買った大雪山の地図を、懸命に調べていた。
かって、わたしが読んだ資料によると、まりも姫が砂金を隠したといわれる湖は、「カムイ火の海」という名前だった。
「カムイ火の海? カムイはアイヌ語で神、つまり、神の火の海ってこと?」
「そうだ」
「いかにも伝説っぽい名前だな。で、大雪山のどのあたりにあるわけ?」
「それがね、ヒグマも恐れるカムイの風が吹くあたりとか…」
「ヒグマも恐れる?」
宙太は、ぶるるっと身震いした。
そういえば、大雪山一帯はヒグマが出没することで知られている。秋のこの時期、とくに、要注意だ。そのヒグマさえ恐れるカムイ、つまり、神の風とは、いったい、なんだろう。
「わたしの推理では、たぶん、火山性の有毒ガスじゃないかと思うんだが」
「有毒ガス?」
「大雪山は、いくつもの山が集まってつけられた名前なんだ。その最高峰が旭岳で、高山植物のお花畑で知られているが、今も噴気を上げていてね、近くには、ヒグマも一瞬で殺す程のきわめて危険なガスが流れてくる所があるらしい」
「じゃ、そのあたりに、カムイ火の海という湖が…」
「うん、たぶんね」
「ということは、今までは、誰にも見つかっていない幻の湖だったんだ。それを、考古学同好会の三人のメンバーが見つけたけど、大黒達に殺されたってわけか。そして、大黒達は、砂金を手に入れようと、この北海道へ向かった。ところが、それを、圭一君が阻止しようと、殺し屋になって異界からやってきた…」
「そういうことだ」
「かなり、読めてきたな」
宙太は、キッと顔を上げた。
「大黒一味だけじゃない、ヒグマに有毒ガス、そして、得体の知れない伝説の湖・カムイ火の海とくる! いくら、星子さんでも、命がいくつあっても足りないぜ。こうなったら、ますます、ほっとけないや!」
「とにかく、旭岳へ向かおう!」
「よっしゃ!」
ということで、札幌発の特急「オホーツク1号」に乗り、大雪山の玄関口ともいえる旭川へ向かった。
一方、そのころ、星子は春之助の運転するレンタカーで、富良野経由で大雪山へと向かっていた。そのあとを、五月もつかず離れず、車で追っていた。
今のところ、大黒一味の姿も、つけ狙う圭一の姿も見られない。だが、別ルートで大雪山に向かっていることは間違いない。
行く手に聳える大雪山は朝日の中に優美で穏やかな姿を見せていたが、天候の急変で多くの人命を呑み込んだ魔の山でもある。まさに、一寸先も読めない状況だった。
(つづく)
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