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「宙太さんっ…」
宙太の決めぜりふに、星子は胸がジーンと熱くなった。
今回ばかりは、宙太が助けにきてくれることはないだろう。宙太をあざむいてこの大雪山へやってきたことだし。そんなわたしに、助けて貰う資格なんかない。そう覚悟を決めていた。でも、宙太は、星子を助けるために駆けつけてくれた。
嬉しい。涙が出てくる。
でも、そこは突っ張りの意地っ張りの星子だ。気持ちとは反対に、
「なによ、なにしにきたわけ? 邪魔しないで!」
星子は、きりりっと眉をつり上げた。
「これは、わたしの戦いなの! いけにえになった女の子達のために戦うのよ!」
「かっこいい! そういうとこに惚れちゃったんだよな、オレ」
宙太は、背中にかばった星子に、ちらっとウインクして見せた。
「でも、それじゃ俺の出番がなくなっちゃうぜ。花の警視庁捜査一課警部、美空宙太、月給分だけの仕事はさせて貰わないとな!」
そうタンカを切ったあと、宙太はまりも姫をしっかりと睨みつけた。
「な、まりも姫さんよ。悪いことはいわないぜ。もう、お宝のガード役は卒業だ。大人しく、天国の王子様の所へいくことだな。わかったかい?」
「――」
まりも姫は、恐ろしい形相で宙太を見据えた。
「あなたは、この子の恋人のようね」
「ようね、じゃなくて、ホントの恋人さ」
「ち、違うわ!」
星子は、あわてて首を横に振ったが、宙太は、
「いいからいいから。俺がヒグマも恐れる地獄谷を突破して、ここへ駆けつけることが出来たのも、恋のガイド役キューピットちゃんのお導きがあったればこそさ。キューピットちゃんが、恋の証人ってわけ。ビバ、キューピット!」
ああ、もう、この期に及んでこのテンションの高さ。普段は鼻につくところだが、今はとても頼もしく思える。
「ということで、キューピットちゃんの顔を立てて、おとなしく、両手を上げてくれよ、まりも姫さんよ」
「お黙り! お前もこの子と一緒に暗黒界へ落としてやる! 覚悟なさい!」
まりも姫は、両手の先を宙太と星子に向けた。
一段と火勢を増した紅蓮の炎が、グォーッと迫ってきた。
「うはっ」
宙太は、星子を小脇に抱えて、ひらりと横へ跳んだ。そして、ホルダーから拳銃を抜いて、まりも姫の右足を狙い引き金を絞った。
命中、したはずなのに、まりも姫は平然として、さらに、火炎を吹きつけてくる。
宙太は、星子をかばいながら必死にかわした。そこへ、蛍の群れが金属音のような羽音を立てながら襲いかかってきた。
「く、くそっ」
星子も一緒になって必死に払いのけたが、蛍の数は増える一方だ。宙太の動きがにぶくなったところを、さらに、まりも姫の放つ火炎が吹きつけてくる。
「ヤバッ、こいつは、かなりヤバいかもな、星子さんっ」
「かもね」
「キューピットちゃんも、俺達を見放したかもな」
宙太の顔に、不安の色が走った。
「仕方ない、諦めて心中といきますか」
「いやっ、宙太さんと心中なんか、絶対にいやよ!」
ほんとは、それでもいい。
「でもさ…」
宙太がいいかけた時だった。
ズズズッ!
ものすごい地鳴りが聞こえたと思うと、足元の岩場がぐらぐらっと大きく揺れはじめた。
「ん!」
「じ、地震?」
壁の岩がガラガラと崩れ出し、足元の岩にも、バシッバシッと亀裂が入っていく。崩れた岩が湖面に降りそそぎ、水面が激しく波立った。
星子は立っていられずに、宙太にしがみついた。宙太も、体を支えるのがやっとだ。
まりも姫が何か術でも使ったのか、と、思ったが、まりも姫も不安そうに立ち尽くしている。
「あっ、見て、宙太さんっ」
湖面を見た星子が、叫んだ。
波打つ湖面にのあちこちから、激しい水蒸気が吹き上げ、湖底から真っ赤な火の塊が、それも、湖底全体からせり上がってきた。
「マ、マグマだぜ!」
宙太は、ごくっと息をのんだ。
「マグマ?」
「ああ、火山のな」
「じゃ、噴火するってこと?」
「らしいぜ!」
「!…」
じきに、せり上がるマグマの真っ赤な火が、湖水全体を赤く染めはじめた。同時に湖水は沸騰して洞窟の中は蒸し風呂のように熱くなってきた。蛍の群れも、狂ったように乱舞している。蛍の光も真っ赤に映えて、まるで、無数の火の粉が飛び跳ねているようだ。
星子は、宙太にしがみつきながら、目の前に展開する火の地獄のような光景を見つめた。
と、宙太がつぶやくようにいった。
「そうか、パパがいっていた伝説のカムイ火の海、とは、このことだったんだ!」
「カムイ火の海…」
「あとで聞いたけど、カムイ火の海を見た者は、誰一人、生きては帰れないそうだぜ」
「えっ!」
星子の体から、血の気が引いた。
(つづく)
追記 さぁ、いよいよ、僕の大好きな大スペクタルシーンになりましたぞ! なんて、はしゃいでいる場合じゃない。はたして、星子と宙太は、カムイ火の海から無事に帰れるのか。波乱と感動のラストへと、物語は展開していきます。
最後までお付き合い下さいね。よろしく!
ほんとは、終わるのがちょっと寂しけど…。
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