|
37
――カムイ火の海、一度見た者は生きては帰れない……。
たしかに、本当のことかも知れなかった。真っ赤に染まった湖面からは熱い水蒸気が一面に噴き上がり、竜巻となって立ち昇っていく。足元の揺れもさらに激しくなり、巨大な空洞全体がものすごい轟音を上げながらのたうっている。頭上や周囲を覆う岩壁は、がらがらと崩れ、宙太は星子をかばいながら避けるのが精いっぱいだった。
「五月さん…五月さんは?…」
星子は、五月が倒れている岩場のほうへ目をやった。だが、壁から瓦礫が次々と崩れ落ちてきて、五月の姿は見当たらない。
五月は、瀕死の体で星子をここへ連れてきてくれた。その五月に万一のことでもあったら、申し訳ないではすまない。
「五月さんっ」
そう叫びながら、星子は走り出そうとした。
「危ないっ、無茶するな!」
宙太は、なんとか抱き止めた。
「離して! 助けにいかなきゃ!」
「駄目だ! 君も瓦礫の下敷きになるぜ!」
「でも!…」
宙太の腕を払いのけようとした時、強い風が吹きつけて、湖面のほうへ体が引っ張られた。なんとか踏み止まりながら湖面を見ると、煮えたぎるような湖面の中心に水蒸気の巨大な柱が激しく回転しながら、どどどっと沈みこみ、そこに渦が出来て、見る見るうち大きなっていった。
湖底に沈んだ圭一の姿も、たちまち渦に飲み込まれていく。
「あっ、圭一さん!」
そう叫びながら、手を差し伸べるのがやっとだ。湖畔には泡立つ波が押し寄せ、とても、近づけない。
その時、まりも姫の悲鳴が聞こえた。
砂金を積んだ木箱が渦に巻き込まれて、次第に渦の中心へ引き寄せられていく。
「待って!」
大声で叫んだまりも姫は、両手の指先を向けて蛍の光の帯を放ち、必死で木箱を引き戻そうとした。だが、その効果はなく、小箱はさらに渦の中心へ落ちていく。
まりも姫は、何やら大声で呪文を唱えた。すると、蛍の群れが一斉に集まってまりも姫を包み込んだと思うと、まりも姫の体は宙に浮かんだ。
「!…」
星子と宙太が見ていると、まりも姫は吸い込まれていく木箱を追って、渦の真っただ中に飛び込んでいく。なんとか木箱に掴んだが、持ち上げる余力はないようだ。
じきに、力尽きたように、木箱に掴まったまま、一気に火の海の中に吸い込まれていった。
「!…」
「……」
星子と宙太は、息をのんだまま、その光景を見ていた。
その間にも火の海はさらに激しくのたうち、火焔と噴煙が地下洞いっぱいに広がっていく。地鳴りと揺れは一段と大きくなって、ついに、天井からばらばらと岩が落ち始めた。
「もう、ダメかも…」
星子が恐怖に怯えた顔でいうと、
「バカいうな! 最後の最後まであきらめるなって! 命も恋もな! わかったかい、ハニィ!」
「宙太さん…」
なんとも、頼もしい男だ。でも、気がつくのが遅かったようだ。
それを証明するように、天井の岩盤が大きく崩れた。そして、立ち昇る噴煙を透して、ぽっかりと青白い大空が見えてきた。
「見て、宙太さん! あそこから逃げられるかもね!」
「でもさ、どうやって、あんな高いところまで登るんだ? タワーマンション並みの高さだぜ!」
「……」
確かに、その通りだ。ヘリでも使わない限り、とても登ることは不可能…ん?…。
聞こえる、ヘリコプターの爆音が…次第にはっきりと聞こえてきて、やがて、一台のヘリが姿をあらわした。
そのヘリから、しきりと手を振る男が…なんと、マサルだった。
(つづく)
追記 ついに、マサルくんの登場だ。いよいよ最終回近し。果たして、どういうエンデイングになりますやら。
ところで、肉食獣的色恋人生、認めて下さるヒトが多くて有難いです! よぉし、オレも宙太なみのアタックでゲットするぜ! なんて、トシを考えろ。鏡を見てからわめけ!
なんて、そういう自己規制がすぐかかってしまう。悲しいけど、現実…かな…。でも、それを乗り越えなくては。お前は、それでもモノカキの端くれだろうが。恥をさらしても、色恋の道をきわめるのだ。よいな! なんて、天の声がどこからか…オヤスミ…。
|