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「五月さーん! 五月さーん!」
星子は、流れる噴煙に向かって叫んだ。だが、五月からの返事はない。
夢中で前に向かおうとした瞬間、足元がズルっと滑って、急斜面に体が吸い込まれかけた。
一瞬早く、背後から春之助が星子の腕を掴んで、引っ張り上げた。
「星子ちゃんたら、危ないじゃない!」
「だって…」
「この先は、深い崖よっ。落ちたら助からないわ! 五月さんのことは、諦めなさい!」
「そんな!」
星子は、春之助を睨み上げた。怒りで、今にも顔が張り裂けそうだ。
「どうして、五月さんを撃ったの! 信じられない、春ちゃんがそんなことするなんて…いったい、どうしちゃったの!」
「どうもしないわよ。五月さんがあなたの邪魔をしようとしたからよ」
春之助は、冷やかに答えた。いつもの春之助とは、まるで、別人のようだった。
「だって、そうでしょ。あなたは、まりも姫を助けに行くところなのよ。早くしないと、まりも姫が殺されて、金塊を奪われてしまうわ」
「だからって、撃つなんて!…」
「他に方法は、なかったのよ。ううん、どっちにしろ、生かせてはおけなかったわ。圭一さんもね」
「!…」
星子は、あたりへ目をやった。
すでに、圭一の姿は噴煙の中へ消えている。
「圭一さんなら、今さっき、姿を消した見たい。でも、あとで必ず殺してやるから」
「春ちゃん! あなたの口から、そんな恐ろしい言葉が出るなんて…そんな…」
でも、春之助の表情は変わらなかった。というより、まるで、別人のようだった。そういえば、春之助の目の輝きは異常で、何かが乗りうつったかのようだ。
「さ、星子ちゃん、早くいきましょ。まりも姫が、あなたのくるのを待っているわ」
春之助は、星子の腕を掴んだまま、促した。
「いや! はなして!」
星子は、春之助の手を払いのけようともがいた。
「もういいわ、まりも姫のことは! あたし、五月さんを探しにいくから!」
「いいえ、そうはさせないわ。一緒にくるのよっ」
春之助の声は、凄みを帯びている。その上、星子の腕を掴んだ腕からは、何か得体の知れない力が流れて、星子は金縛りにあったようになった。
「大丈夫、あたしがついているから。何も心配ないわよ、星子ちゃん」
微笑んだ春之助の顔は、まるで、夜叉のように見える。
星子は、逆らうことも出来ないまま、春之助に腕を掴まれ、歩き出した。
この先、一体、どうなるんだろう。
不安と恐怖で、星子は今にも気を失いそうだ。それでも、必死に耐えていた。耐えながら、心の中で叫んでいた。
<宙太さん、助けて! 早く、助けにきて!>
(つづく)
追記 今夜でなんとか7万四千回を超えたようです。命とアタマの炎が燃えているうちに、なんとか、十万回に届きたいですね。
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