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「ふむ、今のところは大丈夫ってわけね、ゴンベエ」
星子が聞くと、ゴンベエ、フニャーゴとうなずいて見せた。
ご主人様のご命令、というより、ご褒美のハンバーガー食べたさに、車内をくまなく探してみたってわけ。
え? 車内ってナニ? なにを、さがしてるわけ?
車内というのは、東海道新幹線の「のぞみ」号。現在、西へ向かってつっぱしっている。
あれ? 信州にいたんじゃなかったっけ?
それがですね、星子、急きょ、東京へ戻ったあと、今度はのぞみ号に飛び乗り、京都へ向かうことになった。
すでに、陽はとっぷりと暮れて、夜汽車の旅です。切符のほうはカード払いだけど、あとで、どかんと請求書がくるだろうな。どうやって両親からせしめるか、考えると頭が痛くなる。
それにしても、なんで、京都へ? そのわけは、流し雛の一件がからんでいる。
星子、蔵屋敷の管理人のオバサンから、「赤いリボンの帽子の女の子は、今年の流し雛祭りでお内裏様の役を演じた」と聞いたわけ。でも、具体的に、どこの雛祭りなのか、まではわかっていない。
さぁ、困った。流し雛祭りは、最近、日本の各地で行われている。その中で、お内裏様役の女の子を登場させるのは、どこの流し雛祭りなんだろう。
でもって、図書館へ行って……。
え? 星子さんが図書館へ? めずらしい! 明日は、雪だぜっ。
ウルサイ! ま、とにかく、こんなことでもないと、図書館なんて縁のない所ですけどね、うふっ。
で、星子、流し雛祭りのことをパソコンのネットで調べてみた。そうしたら、京都の鴨川のほとり、下鴨神社で三月三日に、なんと、平安時代の頃から続く、盛大な流し雛のお祭りがあるそうな。そのお祭りの風景を映した写真も何枚かのっていて、その中に、お内裏様の格好をした男女が、川にお雛様を流している光景が写っている。
「こ、これだわ、きっと!」
ネットに載っている写真は二年前のもので、今年のお祭り風景とは違う。今年の写真が見たい。赤いリボンの帽子の女の子が、お内裏様の格好で移っている写真をね。そうすれば、女の子の身元も。きっと、わかるはずだ。
というわけで、星子、京都へ……。
でも、いざ、出かけようとした時、ハッとなった。
ちょっと、待ってよ。もしかすると、宙太とマサルさん、あたしの動きに不審感をいだいて、こっそり、見張っているかも……。
そうはさせないから! 宙太さんやマサルさんにはわるいけど、今回ばかりは、敵と味方です!
ということで、ゴンベエに二人が乗っていないかどうか、調べさせたってわけ。
ま、一応、乗ってはいないようだけど、安心は出来ないよね。
星子、気持ちを引き締めた。
その一方で、ふと、不安感がこみ上げてくる。
もし、違っていたらどうしよう。時間もあまりないし、調べ直すのが難しくなってくる。
お願い、カミサマ、いじわるしないでね。
星子、暗い車窓の彼方に光る灯を見つめながら、つぶやいた。
(つづく)
追記 昨日、渋谷のルシネマで「ラフマニノフ 愛の……」を観て来た。ラフマニノフの大ファンであるわたし、期待して見たけど、残念ながら……もう、欲求不満もいいところです。ああ、とろけるようなラブロマンの映画が見たい! と同時に、とろけるようなラブロマンを書けるような作家になりたかった。今度生まれかわったら、きっと!
きっと! ……きっと……。
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