星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

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「断るって、どうして……ですか?」
 星子、うろたえながら、いった。
「会ってくれるだけでいいんです。そうすれば、天川光さんに奇蹟が……手術で命が助かるかもしれないんです!」
「……」
「お願いします! どうか、お願いします!」
 星子、懸命に頼んだ。でも、百合子の表情は冷ややかだった。
「その天川さんって人、本名を名乗れない事情があるんでしょ?」
「え、ええ……」
 逃亡中の殺人犯だなんて、いえない、とても。
「でも、深いわけが……とても、可哀想な人なんです。だから、せめて、生きる希望だけでも持たせてあげたいんです」
「それは、あなたの自己満足じゃないかしら」
「自己満足?」
「そりゃ、あなたは気持ちがいいでしょ。満足でしょうよ。でも、人には運命っていうものがあるのよ。憐れみや、同情、慈悲、奉仕、そんなもので、いくら救おうとしても、答えはそう違わないわ。結局、自己満足で終わるのよ」
「そ、そんな!」
 星子、カッとなった。
「なにいってんのよっ。困った人や苦しんでいる人を助けてあげるのが、なぜ、いけないわけ!」
「星子ちゃん……」
 春之介、星子をなだめようとしたけど、もう、止まらない。
「ね、聞いて! 人を助けることは、自分を助けて貰うことだって、わたしの母がいってたわ! 母はね、看護師をしているから、よくわかるそうよ。患者さんを支えてあげることで、その結果、自分もパワーを貰って生かされているんだって。世の中って、そういうものじゃないの? ね!」
 星子、普段は母の目をごまかして、勝手なことをしているけど、ちゃんと、母の生き方は学んでいる。
 でも、百合子は黙ってそっぽを向いたきりだ。
 星子、かんぺきにアタマにきた。
「ふん! あなた、こんな大きな旅館のお嬢様だから、人の気持ちなんかわからないのね。きっと、そうよ! お雛様みたいなきれいな顔してても、中身はサイアク! わたしがその根性を叩き直してやるから! さぁ、一緒にきなさいよ!」
 星子、百合子の腕を掴んだ。棒のように細くて、冷たい手だ。肌の色は、透き通るように白い。
「星子ちゃん、よしなさいよっ」
 春之介が止めようとしたけど、星子、聞かずにさらに腕に力をこめた。
 その瞬間、百合子がよろけて、その場に倒れた。
 ちょっと、オーバーよ、そんなに強く引っ張ったわけじゃないのに。
 ムッと見た星子、じきに、ハッとなった。
 百合子の顔色は土色に変わり、息遣いが苦しそうだ。鼻血もスーッと流れている。
「ご、ごめんなさいっ」
 星子、あわてて屈むと、百合子を抱き起こした。春之介も、急いで、ポケットティッシュを取り出して、星子に差し出した。
 そのティッシュで、百合子の鼻血を押さえてやる。
「大丈夫? ほんとに、ごめんなさいね!」
「ううん、いいのよ……」
 百合子、かすかに微笑んだ。
「あなたのせいじゃない、違うの……」
「え?」
「わたしね、白血病なの……中学の頃から、ずっと……」
「えっ」
「流し雛は女の子の災いを流すお祭りだっていうでしょ。だから、女雛になって、病気を流そうとしたの……信州の蔵屋敷の雛人形展を見にいったのも、同じ気持ちよ。お雛様が災いを身代わりに引き受けてくれるという、言い伝えを信じたかったからよ。でも、駄目だった……どうしても、病気は良くならないの……どうしても……」
 百合子の目に、涙が浮かんだ。
「わたし、もう、すっかり、気持ちが落ち込んでしまって、それで、あなたにひどいことをいってしまったのよ……堪忍して……」
「そ、そんな……」
 星子、悲しくって唇がふるえた。百合子の気持ちを思うと、こっちまで泣けてくる。
「あなたのお母さんのいうとおりよね、人を助けることは、自分を助けてもらうことでもあるんだわ……」
 百合子、涙をぬぐうと星子を見上げた。
「星子さん、わたし、いくわ」
「え?」
「天川光って人を助けてあげたいの。こんなわたしでも、役に立てるのなら……」
「でも、待って。あなた、病気なんでしょ。もしものことでもあったら、大変よ」
「そうよ」
 春之介の、うなずいた。
「あとのことは、星子ちゃんとあたしで何とかするから、無理しないで」
「でも……」
「大丈夫、ほんとに、大丈夫だから、まかしといて!」
 星子、にっこりと微笑んで見せた。
 でも、正直いって、自信はなかった。


                                   (つづく)




追記  昨日までの寒さはどこへやら。休に暖かくなり、半袖にジーンズで街を闊歩してきました。無理しちゃって、ヤマサン! 
 ま、それはともかく、今回の連載も、いよいよ、ラストが見えてきました。意外と長くなってしまい、おやおや、です。なお、作中の雛祭り展、実際は、今年の春、信州は松代にある長野県立博物館で観たんです。立派な建物にふさわしい、素敵な展示会でした。春先の信州って、ほんと、いいですよね。心が、和みます。ご案内したいくらいです。

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