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……涙雨……そんな言葉が似合いそうな、細くて冷たい雨が降り続いている。この時期、午後四時といえば、もっと、明るいのに、照明が欲しいくらい、公園の中はどんよりと薄暗くなってきた。ラブレターで指定された待ち合わせ時間は午後四時、場所はこの日比谷公園の噴水の前だ。
「ほんとに、くるのかしらね……」
春之介、傘の下からあたりに目を配りながら、いった。
いつになく、地味なコート姿のファッションだ。ほんとは星子一人でくるつもりだったが、春之介が万一を考えて一緒にいくというので、目立たない格好にしてもらった。
ま、当然よね、いつものド派手なファッションでこられたんじゃ、目立ちすぎてぶちこわしだ。
天川光さん――もちろん、本名は本宮竜也っていうんだけど、あえて、ラブレターの名前で呼ぶことにした。だって、少しでも気分をロマンチックにしたかったからね。
だけど、ほんと、春ちゃんのいうように、天川光さんはあらわれるんだろうか。病状はかなり進んでいるというし、それに、殺人犯として追われている。条件はかなり厳しいよね。
それに、天川光さんがあらわれたところで、肝心の恋の相手は……代役だし……。
そう、じつは、わたし、百合子さんの代わりに天川光さんと会うつもりでいる。もちろん、すぐばれるのは承知のうえだ。とにかく、なんとか、天川光さんに手術を受け、そのあとで、自首するように説得するつもりだった。
「ね、春ちゃん、ほんとだよね」
「なにが?」
「だから、宙太さんには……」
「また、そのこと? 連絡していないっていってるじゃないの。あたしが、そんなに信用できないわけ?」
ムッとなった春之介に、
「ごめん、もちろん、信じているよ。春ちゃんは、わたしの一番の親友だもん」
「調子いいこといって。でも、どうせなら、親友より未来の旦那様っていってほしいわ」
「お帰りなさいませ、ダンナサマ」
「ちょっとォ」
苦笑した春之介、じきに、キッとなった。
「星子ちゃん、もしかして、あの人……天川光よっ」
「えっ」
星子が噴水の方を見ると、左手に水色の傘をさした長身の若者が、あたりに目を配りながらあらわれた。コートの襟を立て、サングラスもかけているので顔はよくわからない。でも、右手には、白い小さな花束を持っている。
「きっと、杏の花よ」
春之介、星子に小声でいった。
「でも、杏の花は春に咲くはずじゃ……」
星子、首を傾げたけど、杏の花を持っているからには、天川光に間違いなさそうだ。
「わたし、会ってくる。春ちゃんは、ここにいてね」
「大丈夫? 気をつけてね」
星子、うなずくと、噴水の方へ歩き出した。
緊張で体がふるえるけど、なんとか、気持ちを落ち着かせて、若者に近づいた。
「あ、あのぅ……」
星子の声に、若者が傘の下から顔を上げた。まじかで見た顔は、間違いない、この前、宙太が見せてくれた本宮竜也の写真と同じ顔だった。
「わたし、流星子ですけど……」
「え?」
いぶかしそうに見た天川の顔が、一転、こわばった。
「違う。君は流星子さんじゃない!」
「いいえ、本当です」
そういって、星子、ポケットから取り出した学生証を見せた。
確認するように覗き込んだ天川の顔が、見る見る歪んでいく。
星子、さらに、ラブレターを取り出して、天川に見せた。
「あなたは、間違えてこの手紙をわたしの所へ送ったんです」
「間違えて?」
「ええ、あなたが杏の里で見かけた人は、別の人です。でも、その人はここへは……」
いいかけたとたん、星子、天川に胸倉を掴まれた。
「この手紙、君が盗んだんだろう! そうだな!」
「!……」
「君は、俺の夢を、あの人に賭けた俺の希望を……踏みにじったんだ! 許せない! 君を殺して、俺も死ぬ! いいか!」
天川の血走った目が、星子を刺すように睨みつけた。
……こ、殺されるっ……。
星子の背筋を、恐怖が一気に突き上げた。
(つづく)
追記 もう少し楽しみたいので、つきあってください。よろしく!
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