星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

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番外らぶっす・1

            番外らぶっす

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「おいっ、まだかっ」
 黒星監督が、日焼けで真っ黒になった頬を引きつらせながら、怒鳴った。
「奴は、ハナコはまだこないのか!」
「は、はいっ…」
 マネージャーの細井は、ベンチの隅っこから、恐る恐る青ざめた顔をのぞかせた。
「さ、さっきからケータイで呼び出しているんですが、今は取り込み中とかで…」
「なにぃ、取り込み中は、こっちのほうだ!」
 黒星監督は、野球帽の中から滴る塩からい汗をぬぐいながら、スコアボードへ目をやった。ほんとうは、見たくない光景だ。
 五回表を終わって、得点はなんと10対0。
 もちろん、10点を取っているのは、高校野球チームの中でも指折りの強豪チーム、といいたいが、東京都内の地区予選でも準々決勝まで進めるのがやっとの、実力二流高校だ。
 そんな二流高校の野球部に、わが愛する母校・天女学園高校は大苦戦。残念ながら、実力三流以下、それこそ、「あんた、まだ、いたの」といわれる泡沫チーム。野球部の存続すら危ぶまれる状態だ。その証拠に、この試合でも、いまだ、ノーヒット、三振と凡打のヤマ、また、ヤマ。
 そして、今、五回の裏、ランナーなしのツーアウト。もし、次のバッターがアウトになって、天女学園の攻撃が零点に終われば、高校野球連盟の規約によって、試合はコールドゲーム。つまり、ジ・エンドってことになる。そうなれば、夏の甲子園に東京西地区の代表として出場出来る望みはなくなる。
 ま、それでもいいじゃないですか。どうせ、始めっから、可能性は全くのゼロ。百パーセント、ない。
 そう思っているのは、学園長をはじめ、教職員、生徒、それに、天井裏に巣くっているネズミやゴキブリ君も含めて、ほぼ、全員だ。
 野球部だけじゃない、わが天女学園は、すべてのスポーツクラブが、部員不足で機能していないか、員数は揃っていても、その実力は最低ランクもいいとこ。ついでにいわせてもらえば、進学率も就職率も最低ランク。ま、手っ取り早くいえば、落ちこぼれの落ち穂拾いで成り立っているわけ。
 で、野球部も落ちこぼれを無理やりかき集めて、なんとか、活動している。そんなわけで、誰一人期待しなくても、当然の話だった。
 ところが、黒星監督だけは、あきらめない。
 ぜったいに、あきらめない。
 変人といわれようと、バカといわれようと、あきらめずに、今にきっと勝利の女神がキッスをしてくれると、かたくなに信じている。そのわけは、黒星監督、口癖のようにいわく。
「ウチには、ハナコがいるから」
 ハナコなら、奇跡を起こしてくれる。試合に勝てる。
 黒星監督は、固くそう信じているのだ。
 …ハナコ…WHO…?
 女の子の名前か。でも、まだ女子の選手は認められていないはずだが。
 そんな疑問にはおかまいなしに、黒星監督は再度、わめいた。
「早く、ハナコを呼べ! 早くしろ!」
 その時だった。グォーン、バリバリッというすさまじいバイクのエンジン音が、レフト側の方向から轟然と高まってきた。
「な、なんだっ?」
 両軍の選手や数少ない観客達がざわめいた直後、細井マネージャーが、
「き、きました、監督っ」
ひきつった声で叫びながら、レフト方向を指さした。
「ん!」
黒星監督が目をやると、レフト側のフェンスを真っ黒な象が一気にジャンプした。
 いや、象と見えたのは、オートバイだ。それも、ナナハンクラスの大型だ。そのナナハンが50CCクラスのチビバイクに見えるほどの巨漢が、ハンドルを握っている。
なんと、上半身は裸で、日焼けした筋骨隆々とした、まるで、K1ファイターのような見事な体躯だ。下半身は真っ黒なタイツにブーツ。背中に背負っているのは、金色に輝くバットだった。
 オートバイは呆気に取られた選手や審判員、観客達を尻目に悠々とグラウンドを一周したあと、天女学園のベンチの前で、ピタッと停まった。
「ふーっ、ボロ負けかよっ」
 ライダーは、スコアボードへちらりと目をやると、オートバイから降りてヘルメットを脱いだ。
 恐ろしく背が高い。190センチはあろうか、そして、格闘家のような体格。さらに、風貌もフツウじゃない。
 刈り上げの金髪頭に、真っ黒なサングラス。口ひげに顎ひげ。大きな耳には、金のピアス。えらの張ったいかつい顔は、殺気をはらんだオーラをびんびんと発散している。その姿に、細井マネージャーやベンチの選手達は、思わず後ずさりだ。
「遅い! 遅いぞ! ハナコ!」
 黒星監督が怒鳴りつけると、
「ハナコ?」
 ライダーは、サングラスを取りながら、長身を折り曲げるようにして黒星監督を見下ろした。
 眉毛を剃った切れ長の目が、ギラッと物凄い光を放っている。それこそ、飛ぶ鳥も一瞬にして焼き鳥になりそうなほど、灼熱の殺気に満ちている。
「今、ハナコ、って、聞こえたけど、それって、誰のことかな?」
「あ、い、いや、その…」
 しどろもどろの黒星監督が、
「す、すまん、花屋敷花太郎だった…」
 と、あわてて、いい直すと、花屋敷花太郎は、
「そう、おれの名前は、花屋敷花太郎…今度、あだ名で呼んだら、センセイだろうと、容赦しねぇ。わかったかい」
 だめ押しをするように、にらみ直した。
 花屋敷花太郎。天女学園高校三年三組、年齢18歳。野球部に入ったのは、三年生になってからだ。暴走族のリーダーとして、大暴れ。警察に補導された回数、数知れず。おまけに、ほとんど、学校にも出てこない。本来ならとっくに退学になっていいはずなのに、首がつながった。花太郎の素質を見込んだ黒星監督が、花太郎を野球部で根性を入れ直す、という条件付きでだ。しかし、ほとんど、練習にも出てこないし、まだ、海のモノとも、山のモノともわからなかった。
 それにしても、このデーモンか仁王の化身のような花太郎に、「ハナコ」なんてあだ名がついているとは、とんだお笑い…おっと、アブナイ、口は災いのもとだ。
「ま、とにかく…」 
黒星監督は、必死にお愛想笑いを浮かべた。
「待っていたんだぞ、キミがくるのを…うちのエースで四番バッターの君がいないから、このザマだよ」
「すまねぇ。ちょいと、出入りがあってさ」
「デイリ?」
「隣町の暴走野郎と決闘さ。こっちは俺一人、向こうは十五人。ちょいと、手間はかかったけどな。骨折は五人。血反吐を吐いたやつは、三人だったかな」
 花太郎は、指をポキポキと鳴らしながら、ちょっと、いたずらっぽく、ニタリと笑った。
「俺、停学かな、センセイ?」
「い、いいから、早くピンチヒッターに出てくれ。今回、一点でも取らないと、コールドゲームになるんだ。頼む、ハナ、じゃない、花太郎クン!」
「わかったよ、まかせなって」
 軽くウインクしてみせると、花太郎は背中に背負っていた金色のバットを、スラッと引き抜き、
「おう、マネージャー!」
その一言に、細井マネージャーがベンチに用意していたヘルメットとユニフォーム一式を、「ハイハイっ」と、大急ぎで差し出すと、
素早く身支度を整えた花太郎、
「いくぞぅ!」
 と、怪獣もビビるような咆哮をあげて、バッターボックスへ。
 さっきの暴走ライダー姿から一転、野球戦士、そう、戦士の名にふさわしい迫力十分な姿に、相手チームの選手も、まばらなスタンドの観客も、息をのんですくみあがった。天女学園の応援団までビビっているんだから、世話はない。
「プレイボール!」
 シーンと静まり返った、ちょっと異様な緊張感がグラウンドに広がる中、審判の声で試合再開だ。
 バッターボックスで構える花太郎は、グイッとピッチャーをにらみつけ、バットの素振りを始めた。
 ビュッ!
 ビュッ!
 空気を切り裂く、ものすごい音だ。
 ピッチャーはビビったのか、マウンド上で突っ立ったままだ。
「どうした! 早く、投げんか!」
 花太郎が怒鳴ると、ピッチャーはやっと、投球モーションに入って、投げた。
 ボール。それも、キャッチャーが飛び上がって取るほどだ。
「けっ、意気地無しが! ビビったか。しっかり投げろや!」
 花太郎に挑発されたピッチャーは、ムキになって投げた。
 ボールは、花太郎の頭めがけて、一直線に…。
 最悪!…の事態を、誰もが…。
 だが、花太郎は巨体に似合わない敏捷さで、ひょいとかわした。
「よかったな、殺されなくて。俺じゃない、お前のほうだぜ」
 そのセリフに、ピッチャーは真っ青、今にも、失神しそうだ。
 それを見た相手チームの監督は、「敬遠しろ!」と、キャッチャーにサインを送った。
 どうせ、次のバッターは、ヘボな選手だ。簡単にアウトに出来る。そうすれば、10対0のコールドゲームで、おしまい。
 ニヤッと笑ったキャッチャーは、ピッチャーにサインを伝え、ピッチャーもニャリとうなずいた。
 そして、第三球。ピッチャーが投げた球は、外角へ大きく外れて、完全なボール。
 さらに、第四球は、高々とはずれて、キャッチャーがジャンプしても届かないところへ飛んでいく。
 ああ、万事休す。これで、おしまいか、と、さすがの黒星監督もあきらめかけた時だった。
「トーリャ!」
 花太郎の巨躯が、まるで猫のようにジャンプすると、金色バットが一閃!
 ガキッ!
 叩かれたボールは、半分砕けながら、センター後方へ、さらに、バックネットを軽々と越えて、公園の木立の中へと…消えた。
 …この消えたボールが、番外らぶのキューピットになるとは、その時は、まだ、ご本人たちも気がついてはいなかった…。


                    (つづく)



追記  「番外らぶっす」、どうにか、スタートです。次回は、リツ子サマのご登場と相成りまする。ご期待を…。

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