|
ご無沙汰しています、右京です。今日は僕の誕生日とか。本人が忘れるとはおかしな話ですが、大事な仕事を抱えており、それどころではなかったといったら、言い訳に聞こえるかもしれませんね。
今、僕はある仕事でヨーロッパを飛び回っています。くわしい内容はいえませんが、命の危険に常にさらされている、といっても過言ではないでしょう。恐怖と緊張に心身ともに疲れ切っていますが、今の僕にはこのほうがいいのです。
なぜなら、あの人のことを想い出さずに済むからです。
実は、昨日、セーヌのほとりを歩いていて、金色の夕焼けに染まった川面を見た時、ふいに、あの人の面影が燦然とした光の中から浮かび上がってきました。
瞬間、胸が張り裂けるように熱く痛くなり、僕は堪え切れずに大声であの人の名前を叫んでいました。でも、何度か叫ぶうちに涙があふれてきて、最後は声になりませんでした。
帰りたい、今すぐ、日本へ帰って、あの人を抱きしめたい。この腕の中に、しっかりと。今度こそ、絶対に離さない。なにがあろうとも、絶対に離さない!
思わず走りかけたところを、無情にも止めたのは、もう一人の僕でした。
彼女を抱きしめた瞬間から、彼女をお前の影の世界に引き込むことになる。愛する人の命まで危険にさらしてもいいのか。本当に彼女を愛しているのなら、このまま、逢わずにいるのが一番いいのだ。
そう、たしかに、つらいけれど、そうするしかないのです。それが、僕流の愛情の表現というか、そういう愛し方しか許されないのです。
僕の誕生日、今夜は一人で静かに祝うことにします。でも、寂しくはありません。心の中であの人が微笑んでくれているから…。
|