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――銀河巡礼・孤独の星・4――
孤独の星駅のホームに停車してから、どれくらいたったのか。時計を見ると、まだ、ほんの五分程だ。でも、星子には二、三十分たったように思える。
車内はガランとしていて、乗客は星子だけ。ホームにも、人影は見当たらない。まさに、孤独の星という駅の名前にふさわしい雰囲気だ。こんな時は、せめてゴンベエが相手をしてくれれば、少しは気がまぎれるけど、ゴンベエ、そんな気のきくようなヤツじゃない。リュックの中で、高いびきだ。
それにですよ、星子には気がかりなことが……それは、宙太とアザミのことだ。お土産を買うというアザミに誘われて、ほいほいついていくんだから。
「あのオトコ、サイアク! 今頃、もっと目尻と鼻の下をだらしなく下げてるかもね! 宙太のバカ!」
星子、わめきながら、座席の上のリュックサックをポカリ。まともに殴られたゴンベエ、フニャッと目を回した。
「でも、興味はあるよね、自分を一番美しく見せてくれる鏡なんて」
ほんとにそんな鏡があるのなら、星子だって欲しい。女の子ならだれでも自分の一番美しい姿、つまり美人過ぎる自分ってものを見てみたい。
「きっと、わたしって、××ちゃんより、ずっとずっと、美人かもね、うふっ」
あ、××ちゃんって誰のことか、いわない。トップスターのあの子のことだけどね。
「よぉし! わたしもお土産に買おうっと! ゴンベエ、ついておいで! ほら、ボーッとしてるんじゃないの!」
まだフラフラしているゴンベエに活を入れ星子、デッキに向かった。
列車から降りた後、誰もいないがらんとした改札口を通って、だだっ広いコンコースへ。普通の駅と違って、列車の発着を知らせる駅構内のアナウンスや広告はいっさいなし。ベンチには十数人の乗客らしい人達がいるけど、みんな、一人ぽっち。誰も口をきかず、他の人に話しかける様子もない。それに、どの顔も無表情というか生気がなく、陰気で憂鬱そうだった。
駅の外へ出てみると、雨に煙る暗い夜の街の風景が広がっている。ネオンなんかまったく見当たらないし、ビルの灯もほとんどが消えている。
駅前広場には数台のタクシーが並んでいるし、大通りを乗用車やバス、トラックなんかが通っていくけど、街の活気みたいなものは、ほとんど感じられない。通行人はそこそこいるけど、ここでもみんな一人ぽっちで押し黙ったまま、歩いていく。
孤独の星かぁ、まさに、その名前にふさわしいような光景だよね。
一体、何が原因でみんな孤独なんだろう。
家族はいないの? 恋人は? 友達は?
聞いてみたいけど、その前にお土産を買いたい。美人過ぎる自分に見える鏡とやらをね。
でも、果たしてどこで売っているんだろう。
そうか、宙太とアザミのあとをつければいいんだ。
「ゴンベエ、二人を見つけるんだよ!」
星子に怒鳴られたゴンベエ、やれやれという顔で雨の街の中へ走り出した。警察犬とまではいかないけど、ゴンベエ、意外と鼻がきくんだよね。
でもって、星子がゴンベエを追いか掛けていくと、暗くて細い路地があらわれ、ゴンベエはその中へ飛び込んでいった。路地の両側にはお店のようなものが並んで、それなりに買い物客で賑わっている。でも、みんな一人ぽっちで、会話も聞こえてこない。なんとも、異様な光景だ。
星子、奥へ進むうちにゴンベエを見失ってしまい、その上、道もわからなくなってしまった。
「ヤバッ」
星子が不安顔であたりを見回した時だ、ふと、前方に架かる橋の上にアザミの姿が見えた。でも、宙太の姿は見当たらない。
途中ではぐれたのかな、と思っていると、アザミ、よろよろとした足取りで欄干に近づいていく。目はうつろで顔色は青白く、列車の中で見かけたアザミとは別人のようだ。
ん、どうしたんだろ。星子が怪訝そうに見ているうちに、とんでもないことが起きた。
ふいに、アザミが欄干を乗り越えて、下の道路へ身を投げた。
「あっ」
(つづく)
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