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「バカ! バカ! 星子ちゃんのバカァ!」
なんか、もう、メチャクチャ。
星子に泣きすがり、拳で星子を叩いたかと思うと、さらに強く泣きすがる。さっぱりわけがわからないけど、いきなり、バカ呼ばわりはないでしょっ。
アタマにきたけど、それなりにわけがありそうだし。
「あ、あのぅ、ちょっと……すいません、わたし……」
「なにが、すいませんよっ。そんないいかたして、あたしをバカにする気!」
「そ、そんなぁ、ただ、わたしには、さっぱり……だって、あなたのこと、知らないし……」
「し、知らない? 星子ちゃん、あなた!」
もう、今にも噛みつきそうな顔で星子を睨みつけて、
「もっと、殴られないと、目が覚めないのかよ、え、星子っ!」
一転、ものすごくドスのきいた男っぽい声で、いった。
ん、男っぽいっていうより、男そのもの、そうか、このヒト、アチラ系なんだ。
だけど、ほんと、すっごい美形。さすがのわたしも、ちょっとかなわない、なんちゃって。わたし、男勝りのお転婆だけど、ホンモノの女の子ですからねっ。
ま、とにかく、しゃぁない、これほどの美形サマに殴られるなら、ガマンしますか。
そう覚悟した時だった。
「春チャン!」と、叫びながら、宙太がキッチンから飛び出してきた。
「待った! 待ったぁ!」
素早く星子と春之介の間に体をすべり込ませると、
「違う! 違うんだ!」
「え? 違うって、何がよ?」
「この人は、星子さんじゃ……いや、星子さんにそっくりだけど、星子さんじゃないんだよっ」
「ちょ、ちょっと! 宙太さんまであたしをバカにする気なのね!」
「そ、そんな……」
「ああ、もう、ひどい! 宙太さんがそんな人だったなんて! 許せない、あたし、死にたい!」
春チャンと呼ばれた美形の春之介、両手で顔を覆って泣きだした。
「まいったな、もう……」
宙太が困った顔で吐息をついたところへ、
「あっ、春チャンだ!」「春オジチャン!」と、いいながら、奥から星丸と宙美が走ってきた。
「おはよっ、春チャン!」
「おはよぅ!」
二人に飛びつかれて、春之介、あわてて涙をぬぐい、
「お、おはよう。でも、星丸クン、その叔父ちゃんっていうのはやめてね」
「だって、オジチャンだもん」
「ちょっとぉ」
苦笑する春之介に、宙美が、
「きてくれたんだ、春チャン」
「え、ええ、留守の間にお掃除しておこうと思って……そうしたら、管理人さんがね、あなたたちが昨夜帰ってきたっていうから……」
「そう、ちょうどよかったね!」
「ママ、かえってきたんだよ!」
星丸と宙美、ニコニコ笑いながら春之介にいった。
「ええ、ほんとに良かった、ほんとにね」
春之介の目から、涙がポロポロとこぼれ落ちた。その涙をぬぐうと、宙太に、
「星丸クンと宙美チャンにはわかってる。本物のママだって。だから、こんなに喜んでるじゃないの。そうでしょ! 何がそっくりさんよ!」
「う、うん……」
「ソックリサンって、なぁに?」
けげんそうに見上げた宙美に、春之介、
「ううん、なんでもないの。ね、宙太さん?」
「あ、あぁ……」
「だけど、水臭いわ、宙太さん。星子ちゃんが戻ってきたんなら、どうして教えてくれなかったのよッ。昨夜もね、あたしんところへ小次郎クンから電話があって、星子さんから何か連絡はなかったかって……ゲンジロウさんやタケルさん達もね、しょっちゅうメールくれるのよ。何か手掛かりはないのかって……マサルさんだって、黙ってはいるけど、心の中じゃそりゃ心配してるんだから……この二年半ずっとよ、宙太さんだって良くわかってるわよね」
「うん……」
――そうか、星子ママのことを心配してくれるヒトが、そんなにたくさんいるんだ……。
「わかってるんなら、知らせてくれて当然でしょ。みんな、どんなに喜んでくれることか……どんなに……」
春之介、再び泣きだした。
「……」
宙太、まいったな、という顔で星子を見た。星子だって、困ってしまう。
すると、宙美が気をつかったのか、春之介に、
「春チャン、いま、パパとオムレツこさえてるんだ。いっしょにたべよっ」
「そうだよ、たべようよ!」
と、星丸もいった。
「あらぁ、うれしい! お呼ばれしちゃうわ! じゃ、コート脱いだらすぐいくから」
「はーい!」
「パパ、早く!」
「保育園、おくれちゃうよ!」
「そうだったね。ハイハイ」
宙太、星丸と宙美に手を引っ張られるようにしてキッチンへ戻っていった。
「ほんと、可愛いわねぇ」
春之介、クスンと鼻をすすると、星子をキッと睨みつけた。
「あんな可愛い子たちを置いて、あなた、よくもまぁ……この二年半、あの子たちがどんなに寂しくて悲しい思いをしたことか……それにね、宙太さんだって、そりゃ大変だったのよ。丁度手のかかる時でしょ、オシメのことからミルクのこと、真夜中に熱出して、お医者さんへ連れていったり……宙太さんが仕事で忙しい時は、あたしたち、交代でヘルパーやってきたけど、やっぱり、限界があるのよね」
「……」
「それでも、二人とも元気に育ってくれてね、はじめてアンヨ出来た時なんか、宙太さん、泣きだしちゃって……星子さんに見せたいって……アンヨはお上手、こっちきてごらん……って、あなたに……」
「……」
「そんな宙太さんの気持ち、あなた、わかる? わかってるの!」
「……」
わかる、わたしにも。代役のわたしにもわかる。宙太さんって、ほんとにやさしい人だから。
「あ、よしましょ、今はね。あなたも戻ってきたばっかりだし……」
春之介、気持ちを整えるように息を吐いたあと、ふと、心配そうに星子を見た。
「でも、ね、星子ちゃん、あなた……大丈夫なの?」
「え?」
「ほら、半年ほど前になるかしら、あなたが電話でいったこと」
「……」
半年ほど前、星子ママ、春之介に電話をかけてきたらしい。もちろん、電話の内容はわからない。
「あたし、ずっと、気になってて……だって、大変なことじゃないの……宙太さんにはとてもいえないことよ、とても……」
「……」
どういうことか、聞いてみたい。でも、代理ママの自分にそこまで立ち入っていいのかどうか。どうせ、あと二日で代役も終わることだしね。
「とにかく、あとで水晶玉で見させて貰うわ」
そういいながら、ビトンのバックを開けて、金色の包みを取り出した。その包みを広げると、中には手毬ほどの大きさの水晶玉があらわれた。
どうやら、このヒト、水晶玉占いをやるらしい。
「でも、近頃、念力が弱くなったみたいで……ここんとこ、あなたの居所も見えなかったし、右京さんのこともさっぱり……あの人、無事なのかしらね。近頃、まったく姿が映らないのよ」
「……」
「星子ちゃん、あなたはどう? 右京さんの消息は掴めたの? それとも、会えたわけ?」
「……」
星子が答えに詰まっていると、奥から星丸が、
「ママ! 春オジチャン、したく出来たよ!」
と、呼んだ。
「こらっ、また、叔父ちゃんっていう。ふふふっ。じゃ、その話はあとでね」
そういって、春之介、キッチンへ向かった。
――なんか、いろいろとありそうだ……。
興味はあっても、係わると面倒なことになりそうだ。そう思いながらキッチンへ向かいかけた時、ふいにベストのポケットに入れていたケータイが鳴りだした。
取り出して広げると、待受け画面に「ナンバー非通知」の表示が読める。どうせ、いつものイタズラかもね。最近というか、半年ほど前から時々かかるようになった。でも、電話に出ても、まったくの無言で返事はない。
今回も同じだろうと思って切ろうとしたけど、ほら、虫の知らせっていうのかな、いつもと違って気になった。
で、ボタンを押して、
「もしもし?」
でも、応答なし。
「もしもし? ちょっと、ね、だれ? もしもし!」
いくら,呼んでもダメ。
ああ、やっぱり、いつものイタズラか、ということで、切ろうとした時だった。
「?……」
かすかだけど、ピアノの音が聞こえたような……。
ケータイをもう一度耳にくっつけてみると、確かにピアノの音が聞こえてくる。低くて遠いけれど、とてもきれいで美しい音色だった。
(つづく)
追記 おあつうございます。なんて挨拶をしたくなるような陽気ですね。今回もよろしくお願いします。この先、展開がいろいろと難しくなりそうかな。ま、時間をかけながら続けてみます。
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2010年10月11日
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