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「ママ、いってきまーす!」
「パパ、いってきまーす!」
星丸と宙美、真っ赤なフェラーリの後部座席から手を振った。
ハンドルを握るのは、春之介だ。ド派手な春之介のファッションには、真っ赤なフェラーリが良く似合う。
「春ちゃん、僕が送っていくっていってるのに」
宙太がいうと、春之介、
「いいの、いいの、二年半ぶりなんでしょ。留守の間にしっかり愛し合ってね、うふっ」
と、ウインクしたあと、星子に、
「星子ちゃん、あなたもよ。バラバラになるくらい、しっかり頑張って! 再スタートにふさわしい花火をドカーンと上げてね! オーケー?」
今度は星子にウインクして、アクセルを踏み込んだ。
双子チャンを乗せたフェラーリ、野獣がジャンプするようにダッシュして走り去った。
「お、おい、春ちゃん、お手柔らかに頼むよ」
宙太、ハラハラしながら見送ると、
「バラバラになれ、ドカーンと花火を上げろ、か。春ちゃん、いいこというぜ。では、さっそく!」
「はぁ? なにを?」
「あ、ジョウダン冗談」
宙太クン、ニヤッと笑った。
ほんとはね、星子、なんのことか、モチロン、わかってまぁす。こういうのを、カマトトっていうんだよね。
宙太だって、ほんとはきっと、星子ママとおたがい体がこわれるくらいラブラブしたいはずだ。それくらい、もちろん、わかってまぁす!
わたしは高二の十七歳。思春期真っ盛り! それでなくても、それなのに、そっちの情報過多の時代だぞ、おいっ。
とにかく、そのためにも、早く星子ママには帰ってきて欲しい。
なんのためかって? ウ、ウルサイっ。
でも、春之介さんがいうには、星子ママ、宙太さんには「とてもいえないような電話」をかけてきたきり、居所はまったくわからないって。星子ママだけじゃない、右京って人もね。
春之介さん、水晶玉占いやってるけど、半年ほど前からテレパシーをキャッチ出来ないとかいっていたっけ。
ま、正直、どこまで水晶玉占いとやらが当たるかどうか、わからないけど。
ったくぅ、どこにいるのよ、星子ママ、そして、右京ってヒト。どこまで、迷惑かける気なのっ。
いらついた顔で戻りかけた星子、ふと、立ち止まった。
――ちょっと、待って。もしかして、さっき、星子のケータイにかかってきた電話は……。
「ね、宙太さん……」
「ん?」
「ちょっと、聞いてもいいですか?」
「あ、その他人行儀ないいかた、やめないかな。せめて、この家にいる間だけは、ハニィ、ダーリンって呼び合おうよ」
「ダ、ダーリン……ですかぁ」
ジョウダンでしょ。そもそも、夫婦でもないのに。いえるわけない、そんなこと。絶対に。
「で、なんだい、ハニィ?」
「あ、はい、ダーリン」
「ん、呼んでくれたね、ダーリンって」
「あっ」
しまった、つい、乗せられてしまったか。宙太さんって、クセモノだよね。気をつけねば。
「で?」
「え、ええ……それが、右京って人のことだけど……」
「ん……」
宙太の顔から、笑みが消えた。
しまった、口に出してはいけない名前だったんだ。
「あ、いいんだ、気を使わせちゃったかな。ワリイ」
いつものタレ目顔に戻って、にっこり。
「で、右京君がどうしたって?」
「ピアノ、やってるっていってたでしょ、限りのある命を賭けて……」
「うん、そう聞いているけどね。だから?」
「……」
ケータイにかかってきた電話のこと、話したほうが……でも、待って。まだ、かけてきた相手が誰かわかってもいないのに、ヘタに話したら宙太さんが混乱するだけかもね。
「つまり、わたしも小さい頃、ピアノを……母からうるさくいわれて……でも、ついていけなくてやめちゃったの。だから、今もピアノは苦手です、ハイ」
なんとか、ごまかす。
「なんだ、そんなことか。カノジョ、あ、星子ママもね、そんなこといってたぜ。ピアノなんか、見るのもいやだってね」
「わたしも」
「でもね、こうもいってた、星丸と宙美にはピアノを習わせる、ぜったいにって」
「わぁ、キビシイッ」
「ほんとは、カノジョ、ピアノが好きなんだよ。いつか、そんなこといってような……」
わたしも、ほんとは嫌いじゃないけどね。
「たしかに、ピアノっていいよね。鍵盤叩いてると、人の魂に触れるような音があるっていうか、ちょいキザかな、シシッ」
宙太、照れくさそうに頭に手をやった。
「宙太さん、ピアノを?」
「ほんの手慰み。子供の頃習いたかったけど、おふくろがダメだって。男の子にはそんなもの必要ないって。君のママとは正反対だな」
宙太、肩をすぼめた。
お母さんって、どういう人なんだろう。宙太のような楽しくてやさしい男を見ていると、ちょっと、気になる。
そんな星子の気持ちを読んだのか、宙太、
「あ、僕のおふくろってね、家庭よりも仕事が大好き人間。女性オーナーの権化っていうか、海外にも進出して、バリバリ働いてるよ」
「すっごーい」
「あ、凄すぎるけどな。だから、親父も逃げ出したのかもね」
「お父様が?」
「うん……」
「あ、ごめんなさい……」
「いいのいいの、近頃はよくある話さ。今じゃ、新しい奥さんと海外で楽しく暮らしているぜ」
宙太、さらっといてのけたけど、その目はどこか寂しそうだった。
そうか、宙太さんって、家庭的にはちょっとつらいヒトなんだ。だから、星子ママや双子ちゃんとの家庭を大事にしたいわけね。
「それでも、親父、一度会っただけだけど、星子さんがお気に入りでね、お前に幸運を呼ぶ女神だ、大事にしてやれって。ま、そんなこともあってさ、ほんとはこのマンション、親父名義なんだけど、安く貸してくれているわけ」
「そう」
「確かに、幸運の女神かもな。あんなに可愛い双子ちゃんを授けてくれたしさ。ほんと、感謝してるんだ、カノジョに……ほんとにね……」
宙太、しみじみとした顔でいうと、ふと、星子を見た。
「な、キミ、こんなこといってたよね……星子ママは、この二三日の間に帰ってくる、そんな気がするって……」
「ええ」
「その気持ち、今も変わらないかな?」
「もちろん」
そうでないと、こっちも困る。
「そうか、じゃ、その言葉を信じて」
宙太、ニカッと笑うと、
「さぁ、早いとこ掃除洗濯といきますか!」
「あ、わたしが……」
「いいのいいの、ハニィはのんびりコーヒーでも飲んでてくれよ。ボク、そんなハニィの姿を見るのが大好きでさ……ああ、オレ、カノジョを幸せにしてあげてるんだな、って……」
「……」
「たわいないよね、オトコなんて」
照れ笑いしながら、宙太、戻っていった。
ほんとに、やさしいんだ、宙太さんって。星子ママが好きになったわけが良く分かる。だけど、その星子ママは幸せを捨てて右京って人を探しに旅立った。
なぜ? なぜなの?
わたし、星子ママとそっくりらしいけど、わたしはそんなことしない。ぜったいに、しないっ。
とにかく、帰ってきてくれないと。宙太さんや双子チャンのため、そして、何よりもわたしのためにも。何か、連絡を取る方法はないの? 探す手掛かりって、ほんとにないわけ?
星子ママって、わたしとそっくりなんだよね、学校が同じで血液型も星座も同じ。住んでた所も下北沢、ドラ猫をリュックにほうりこんで一人旅してたのも、そっくり。ただ、年齢が三つほど違うだけなんだ。
ちょっと、待って。ということは、同じ学校なら三年先輩ってことになるじゃないの。そうよ、センパイよ。だったら、その線から何か糸をたぐれないかな。
でも、どうやって糸をたぐれば……明日まで学校はお休みだしね……。
はてさて、と、腕組みした星子、じきにひらめきましたよ。
「そうか、リツ子に頼めばいいんだ!」
超優等生のリツ子なら、学校にも手ずるがあるだろうしね。ということで、さっそく、リツ子にケータイをかけてみた。
「あら、星子」
取り澄ましたリツ子の声が、聞こえてきた。
「よかった! いてくれたのね。頼みがあってさ」
「お金はダメ、カンニングもダメよ」
「んもぅ!」
すぐこれだから、アタマだ。
「そうじゃないの。じつはね……」
星子、三年前の生徒名簿に流星子という同姓同名の生徒が乗っているかどうか、調べてくれ、と、頼んだ。
「あんた、今、旅先なんでしょ。なんでそんなこと知りたいわけ?」
「いいから、わけあありなの」
「ふーん、わかった。そのかわり、例の件、十人増しよ」
例の件っていうのは、生徒会長選挙のこと。リツ子、立候補しているけど、人望がなくて、対立候補には勝てそうもない。そこで、星子が支持票を集めて回ってるってわけ。もちろん、その見返りに、今回の長崎一人旅のアリバイ工作を頼んである。
そのアリバイっていうのはですね、リツ子の親の別荘でリツ子と期末試験のお勉強しているってこと。秀才の名前を出せば、星子の親も安心してくれるしね。
ほんとは、リツ子みたいな女の子を応援する気はないけど、いわゆるソロバン勘定ってわけ。
星子、おぬしもワルよのう。ムハハッ。
で、頼んでから待つこと、ほぼ数分、じきに、リツ子からケータイがかかってきた。
「わかったわよ。学校のパソコンに侵入して、調べたから」
「さすが!」
まるで、ハッカーなみのパソコンの達人じゃないの。
「で、どうだった?」
「それがね、あなたと同姓同名の生徒……」
「いた?」
「ううん」
「いない? ウソ、見落としたんじゃないの? でなかったら、他の年度の生徒名簿に……」
「全部調べたわよ、もちろん。十年前にまでさかのぼってね。だけど、流星子って名前は、今年度の二年A組、つまり、あなただけなの」
「!……」
星子、茫然となった。
(つづく)
追記 だんだんと話が複雑になってきたようで。この先、大変なことになりそうだ。頑張らねば。
なお、この続きは、事情がありまして、今月の後半になると思います。御免なさい。短いブログのほうは時々お邪魔しますのでよろしくです。
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