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――銀河巡礼・孤独の星6――
……鏡を見たら自殺する……そんな……。
星子が呆然と立ち尽くしている間に、救急車がけたたましいサイレンを鳴らしながら到着した。降り立った救急隊員は、宙太に事情を聴き、アザミの状態を確かめた後、手際良くアザミを収容すると、再びサイレンを鳴らしながら、雨の夜の街へ走り出した。
見送った宙太、星子のところへ戻ると、
「救急隊員の話じゃ、アザミさん、なんとか一命だけは取り留めそうだってさ」
「そう……」
「ほんと、やれやれだぜ」
肩をすくめた時、駅のほうから蒸気機関車のボーッという汽笛が断続的に聞こえてきた。
「あ、いけねっ、発車時刻だ! 早く戻ろうや!」
「でも、なぜ、鏡を見たら自殺なんか……」
「わけは、あとで話すから!」
「アザミさんも、そうだったわけ? 鏡を見たから自殺したの?」
「いいから、早く! 乗り遅れたら、この島で一人ぽっちで暮らすか、自殺することになるぜ! 早くったら、星子さん!」
宙太、強引に星子の腕を掴んた。
「あ、待って。ゴンベエが……」
そう、あれっきり、ゴンベエの姿が見当たらない。
「置いていけないわよ!」
「いいのいいの、あいつは孤独に強いからさ!」
「そ、そんな……」
確かに孤独には強そうだけど、ある意味じゃゴンベエは星子の分身みたいなものだし、そばにいないとさみしい。でも、宙太、お構いなしに星子を連れて走っていく。
「早く! 早く!」
痛い! 腕が抜けそうだし、足がもつれて今にも転びそうだ。やっとのことで駅に駆け込んで、どうにか、発車寸前の列車に乗り込んだ。
ホッとなった星子の耳に、フニャーゴとゴンベエの鳴き声が聞こえた。
幻聴かもね。置いてけぼりにしちゃって、ごめん、ゴンベエ。
シュンとなったその直後、星子の口があんぐり。
だって、隣りの座席ではゴンベエがのんびりとあくびなんかしている。
「ゴンベエ! 戻ってたの! よかった!」
星子の目に、涙がうっすら。でも、宙太の顔はがっくりだ。
「やれやれ、これで邪魔モノはいなくなったと思ってたのに」
なんて、ぼやく宙太クン。
「それはそうと、あの鏡はどこ?」
星子が聞くと、宙太、肩をすくめた。
「途中で川に捨ててきたぜ」
「捨てた?」
「そ、ハニィが鏡を見たら大変だしさ」
宙太、真顔でいった。
「そのことだけど、いったい、どういうこと? あの鏡は、美しすぎるほど美人に映るんじゃなかった?」
「そこが問題なわけさ」
「え?」
「オレ、アザミさんのお供でお土産の鏡を買いに行ったよね」
鼻の下を長くしてねっ。
「でも、店を探している途中で、カノジョ、勝手にどこかへいっちまってさ、あわてて探してたら、橋のたもとでカノジョがピエロみたいな恰好をした行商人から銀細工の鏡を……」
「買ってたの?」
「うん、で、オレ、ホッとしてカノジョのところへいったわけ。そしたら、カノジョ、鏡を開けて自分の顔を映したんだ。もちろん、こっちは興味しんしんさ。それでなくても超美人だろ」
ふん!
「はたしてどんな超が何個つく美人になるか、覗き込んだわけ。ところが……」
宙太、ブルルッと身震いした。
「どうしたの?」
「うううっ、やだやだ、思い出したくもないぜ」
「だから、どうなったわけよっ」
「それがさ……鏡に映っているのは……白髪でしわくちゃ顔のおばぁさんなんだ……」
「おばぁさん?」
「正確にいうと、アザミさんがおばぁさんになった時の顔さ。それも、死化粧をした……」
「えっ」
死化粧って、死んだ人を弔う時、お化粧をして少しでも綺麗にしてあげることよね。ほら、アカデミー賞を貰った映画「おくりびと」でも扱っていたじゃない。
「アザミさんが一番美しく見える時、それは老いさばらえた自分の死化粧された顔だった……これって、アザミさんにはすっごいショックだと思うぜ。美女も美男も、人の数倍、いや、数十倍もナルシストのはずだしさ。かくいうボクチャンもさ、同じ美形として気持ちよくわかるんだ、ウン」
どこが美形よっ。
「とにかく、そのショックでアザミさんは茫然自失、人生の無常、諸行無常を強く感じたに違いないぜ。そんな人生の末路を見てしまったら、もう、何もやる気が起きない。夢も希望もはかない絵空事。恋もセックスもね。お金だって欲しくなくなる。人と付き合う気にもなれない。だから、他人が何をしようと、いっさい、無関心。これこそ、孤独の極み。そんな人間がこの星には大勢いるんだ。そして、ショックが大きい人間は耐えきれずに自殺してしまう、アザミさんのようにね。いや、ハニィだって危ないぜ」
「そんな!……」
「おっと、君のことはボクチャンが一番よくわかってる。顔はともかく、ハートは超美人だしさ」
「ちょっと! ともかくとは何よッ」
星子、口をとがらせた。
でも、ま、とにかく、あの時、銀細工の鏡を見なくてよかった。もし、見ていたら、もし……。
やめたやめた。もう、考えるのはよそう。
こんな星は一刻も後にしたい。そう思っているうちに、列車は速度を速めて分厚い雲の中を突き抜けていった。
やがて、雲が切れて一面の星空が車窓に広がった。
ホッと一息ついたところへ、車掌が入ってきた。
「ご乗車有難うございます。次の停車駅は、『光源氏の星』でございます」
「光源氏の星?」
目をぱちくりさせた星子に、宙太が、
「んじゃ、オレの星ってわけか」
そういって、ニタリと笑った。
(つづく)
追記 銀河巡礼・孤独の星の旅はいかがでしたか。次回は、なんと、光源氏の星の旅です。宙太クン、自分の星だなんて張り切っていますが、知らぬがホトケ。右京の君とかいう強力なライバルがいるとか……ま、お楽しみに。ただし、ちょっと、時間をいただきますので。
もうじき、素敵な春がやってきますね。いい恋、したいです……なんてね、へへへっ。
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