星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

過去の投稿日別表示

[ リスト | 詳細 ]

全1ページ

[1]

               3

 ――右京さん……でも、ほんとにこの人が……。
 一瞬、見間違えたのかと思えるほど、右京の顔はやつれはてていた。
 下北沢の駐車場、殺人事件のあった現場近くで見かけた時の右京は、純白のマフラーを風になびかせ、颯爽と外車のスポーツカーを走らせる、甘いマスクの貴公子そのものカッコいい人だった。切れ長で睫毛の長い哀愁をたたえた瞳で見つめられた時には、星子、それこそ、体中がジーンとしびれて腰が抜けそうなくらいだった。
 せも、今、星子の眼前にいる右京は、髪が乱れて頬はげっそりとこけ落ち、色あせた唇の端には、一筋の赤黒い血がこびりついている。体全体からも生気は消えて、目だけがぎらぎらと怖いくらいの光りを放っていた。
 その目が、星子に向けられた。
 射すくめられるような気がして立ちすくんだ次の瞬間、右京の双眸から鋭い眼光が消えた。そして、戸惑うようにかすかに首を振り、目に手をやったあと、あらためて星子を見据えた。
「……星子さん……」
 右京、あえぐような声でつぶやいた。
 瞬きもしないで見つめる右京の目に涙がにじみ、睫毛を濡らしながら頬へこぼれ落ちていく。
 ――そんなに、星子ママのことを……。
星子、胸の中に熱いものが吹きあげてきた。
「でも、なぜ……」
 右京、ピアノに手をつきながら立ち上がると、星子を見つめた。
「なぜ、君がここに……」
「……」
 どう答えていいのだろう。
すると、亜利沙が星子を助けるようにいった。
「あたしが、星子さんを連れてきたの」
「君が?なんで、そんな余計なことを……なぜだ!」
 右京、いきなり、亜利沙の胸倉を掴み、険しい顔で睨みつけた。今にも、亜利沙を殴りつけそうな感じだ。
「右京さんっ」
 星子、驚いてかけよると、亜利沙を背中にかばうようにして右京を睨みつけた。
「なにするんですか! 亜利沙さんは、あなたのことを心配して、わたしを……それだけなんです!」
「いいのよ、星子さん」
「でも!」
「ほんとに、いいの。右京さんが怒るのも当然なんだから」
「亜利沙さん……」
「そうよ、あたしが余計なことをしたから……」
「余計なこと?」
 亜利沙、頷くと、しみじみと星子を見つめた。
「もう、半年ほど前になるかしらね、右京さんが偽名で入院していた知り合いの病院に、あなたが訪ねてきたのは……」
「え?」
 ということは、半年前に星子ママは右京さんの居所を突き止め、会ったわけだ。
「あの時のあなた、今とは別人のようにやつれていて……なんでも、右京さんをさがしてヨーロッパを旅している途中、交通事故にあって記憶をなくしたとか……」
「!……」
 星子ママが、交通事故で記憶を失った?
 そんなつらい目にあっていたんだ。
「でも、半年前にやっと記憶が戻った時、右京さんは重い肺の病気にかかって日本へ帰ったと分かった。それで、あとを追ってきたんだって……あなた、そういってたわね」
「……」
「でも、やっと居所がわかったのに、右京さんは会おうとはしなかった。いくら、あなたが頼んでも駄目だったわね……あの時、病院の外で吹雪に吹かれながら、泣きながら立ち尽くしていたあなたの姿、あたし、まだはっきりと覚えている……」
「……」
「あなたが、どんなにつらかったか……でも、あたしにも意地があったの、右京さんはあたしのフィアンセなんだからって……だから、見て見ぬふりをしていたのよ」
「……」
「でも、その気持ちも右京さんには通じなかったわ。くやしいけど……」
 亜利沙、寂しそうにほほ笑んだ。
「右京さんはね、あなたを愛してる、心から……それでも、あなたを追い返した理由は二つあるのよ。一つは、親友の宙太さんを裏切れないってこと」
「え?」
「右京さんにとって、宙太さんは刑事と弁護士というライバル関係よ。でも、仕事を離れれば、お互い、心と心が通じる大事な友達だって……その宙太さんから、あなたを奪うわけにはいかないって……」
「……」
 そうか、そうだよね。
「もう一つの理由は、自分は殺人事件の容疑者だから、星子さんを巻き込むわけにはいかないって……それで、あなたを宙太さんやお子さん達のところへ帰そうとしたのよ、それがあなたの幸せのためなんだからって……」

「……」
 なんて、やさしい人なんだろ。胸の中が熱くなってくる。
「でもね、違うのよ……右京さんは、容疑者なんかじゃないの……」
「え?」
「いうな!」
 右京、険しい顔で亜利沙を睨んだ。
「いいえ、いわせて! あなたのほんとの気持ちを星子さんに知って欲しいの。さもないと、星子さん、あなたを恨んだままで……じつはね、星子さん、ほんとはあたしが……」
「!……」
「いうなといってるんだ!」
 亜利沙につかみかかろうとした時、右京、再び、激しく咳込んだ。そして、ピアノの椅子に崩れるように座り込んだ。
 亜利沙、急いで近くの棚から薬瓶を取り出して、右京に薬を飲ませた。
 かなり、具合が悪いようだ。見ているだけでも、つらくなってくる。
 だけど、亜利沙さん、なにをいおうとしたんだろう。もしかして、自分が犯人だって……だとすると、右京さんは……いったい、どういうことなの。
 頭の中が混乱してくるけど、今心配なのは右京さんの体の具合だ。
「病院へ戻った方がいいんじゃ……ね、亜利沙さん?」
「そうはいかないのよ。じつはね、警察にわかってしまったの、病院のことが。それで、逃げ出して、あちこち、さまよったあと、この家を見つけて隠れたってわけ……」
「でも、もう、無理です。宙太さんに連絡して,自首したほうが……」
「ううん、右京さんが駄目だって……どうせ、助からない命だから、このままでいいって……」
「そんな!」
「もう、あたしにはどうにも出来ないの、どうにも……」
 亜利沙、涙をぬぐった。
「でもね、星子さんなら……そうよ、あなたなら、右京さんを助けられるかも……そう思って、あなたに連絡したのよ」
「亜利沙さん……」
「ね、星子さん、お願い、右京さんのそばにいてあげて。あなたなら、もしかしたら、奇跡が……そうよ、奇跡が起こせるわ。きっと!」
 亜利沙、星子の手を掴むと、すがるように見つめた。
 ああ、もう、どうしてこういうことになるわけ。
 星子、たまらなくなって、顔を伏せた。こうなったら、ほんとのことをいうしかない。
「ごめんなさい、わたし……違うんです……」
「え?」
「わたしは、星子ママじゃないんです……宙太さんの奥さんじゃないんです!」
「そんな……」
 右京も、唖然とした顔で星子を見た。
「星子さんじゃない?」
「あ、いえ、星子です、わたし。でも、星子ママじゃないんです! ほんとの星子ママは、今、別のところに閉じ込められているんです!」
「なんだって?……」
「わたしは、三年前の星子……あ、いえ、今の時間が三年後で、星子ママは……」
「ちょっと、星子さん、あなた、なにをいってるの?」
 亜利沙、とがめるように見た。
「星子ママとか、三年後とか、どういうこと? 右京さんのことには、かかわりたくないってわけ?」
「違う、そうじゃなくって……」
「でもね……」
「待てよ、亜利沙、とにかく、話を聞こうじゃないか。さぁ、君……」
 右京に促されて、星子、話しはじめた。どこまで信じて貰えるかわからないが、とにかく、話すしかなかった。
「……じゃ、その光る壁の中に……」
 話を聞き終えた右京、茫然とした顔でつぶやくようにいった。
「閉じ込められているのは、美空警部の奥さん、つまり、三年後の君ということか……」
「はい」
「じゃ、今、あなたの前にいるあたしも右京さんも、あなたにとっては三年後のあたしと右京さんなのね……」
「ええ」
「……」
「……」
 右京と亜利沙、まだ、釈然としない感じで顔を見合わせた。
「もし、そうだとしても……」
 右京、咳をこらえながらいった。
「どうやったら、星子さんを光る壁の中から助け出せるんだ……なにか、方法はあるのかい?」
「……」
 それがわかれば、嬉しいんだけど。今のところは、全く手がかりが……。
星子、歯噛みしながら、ふと、ピアノを見た。
この前、わたしのケータイから聞こえてきたピアノの調べは、右京さんがこのピアノで弾いていたのね。あの時、右京さんは星子ママに自分の想いを伝えようとしていたんだ。だけど、肝心の星子ママのケータイには届いていないかも……。
そうだわ! 
星子、右京にいった。
「星子ママに、もう一度ピアノを聞かせてあげて下さい!」
「ん?」
「この前は、わたしのケータイに繋がってしまったんです。でも、今度は電源切りますから。そうすれば、きっと、星子ママのケータイにつながるかも……」
「しかし、光の壁の中まで届くかどうか……」
「きっと、届きます! 右京さんが気持ちを込めて弾いてくれれば、きっと!」
「星子さんのいうとおりよ。弾いてみて、右京さん」
「……」
 頷いた右京、携帯電話を掴んで通話ボタンを押すとピアノの上に置き、椅子に座りなおした。
 星子、急いで携帯電話の電源を切ると、祈るように右京の背中を見つめた。
 じきに、右京の細くしなやかな指が、ピアノの鍵盤を愛撫するように叩きはじめた。
 この前、星子のケータイから聞こえてきた美しい曲が、ピアノから流れ出す。
 ――どうか、星子ママに届きますように、どうか……。
 星子、祈るように手を胸に当てた。
 それにしても、なんて素敵な演奏だろう。曲は、たぶん、モーツアルトかな、あまりくわしくはないけど、音楽鑑賞の授業で聞いたことがある。まるで、天使が戯れているような、美しくて透明で崇高な、そして、きわめて繊細な音楽だ。かなりのテクニシャンじゃないと、とても弾きこなせない。その曲を、右京、流れるように、歌い上げるように、演奏していった。途中で、何度か咳込みかけたけど、懸命にこらえながら演奏を続けた。星子を呼び戻したい、という右京の思いが強くこめられているようだった。
どれくらいたっただろう、右京がいくらピアノを弾き続けても、変わった様子は起こらない。ローソクの明かりだけが点る薄暗い部屋に、ピアノの音色だけが虚しく響くだけだ。
「駄目だ」
 右京、鍵盤をガーンと叩いた。
「星子さんは、もう、ピアノが聞こえないところにいってしまったのかも……きっと、そうだ……」
「右京さん……」
 星子、歯噛みした。
 星子ママを救えないと、右京さんの命も助からない。そして、双子ちゃんや宙太さんも、永久に星子ママと一緒に暮らせなくなる。
 そんな悲しいことって、あってはいけない。ぜったいに、いやだ。
 でも、どうにも出来ない、どうにも。
 星子が吐息をついた、その時だった。 
 ヒラリ、と、蝶が……鮮やかに舞いながら、ピアノの上に……いや、蝶ではない、トランプだ。
 星子がハッと振り向くと、ローソクの明かりに、すらりとした人影が浮かんでいる。
 ――宙太、だった……。

                        (つづく)



追記  今回はいろいろあって大変でしたが、なんとかクライマックスが見えてきたようです。ラストシークエンスに向かって頑張ってみます。

全1ページ

[1]


.
星子&宙太yyy
星子&宙太yyy
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28

Yahoo!からのお知らせ

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

いまならもらえる!ウィスパーWガード
薄いしモレを防ぐパンティライナー
話題の新製品を10,000名様にプレゼント
いまならもらえる!ウィスパーうすさら
薄いしモレを防ぐ尿ケアパッド
話題の新製品を10,000名様にプレゼント
ふるさと納税サイト『さとふる』
実質2000円で特産品がお手元に
11/30までキャンペーン実施中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事