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(4−2)
「亜利沙さんっ」
「亜利沙!」
星子も右京も、ハッとなった。
でも、宙太は相変わらず平静な顔だ。
「おっと、似合わないな、そういうスタイルは。見なかったことにするから、ピストルはバックに戻した方がいいと思うけどね」
「いいえ、出来ないわ!」
亜利沙、声を震わせた。拳銃を持つ手も、小刻みに震えている。宙太が何とか落ち着かせようとしても、効き目はないようだった。
ああ、もう、大変なことになりそう。星子が茫然と立ちすくんでいると、
「星子さん、お願いがあるの」
「え?」
亜利沙、拳銃を宙太に向けたままで星子にいった。
「右京さんを連れて逃げて」
「えっ」
いきなり、なに、って感じ。
「亜利沙っ」
右京も、愕然と亜利沙を見た。
「バカなことをいうな!」
「ううん、あなたのためよ。星子さんなら、きっと、あなたの病気を……でも、このままじゃ、あなたはあたしをかばった罪で捕まるわ、きっと!」
「でも、ここにいるのは、三年前の星子さんなんだ! 僕の知っている星子さんは、光る壁の中に閉じ込められたままだって、さっき、星子さんから聞いたばかりじゃないか!」
「でも、星子さんに変わりはないわ。時間がたてば、同じ星子さんになれるわ!」
「いや、それはないよ! 僕が愛したのは、あくまで、別の星子さんだ。なんとか、光る壁の中から助けてやらないと!……なんとかして……」
右京、苦しそうに息を吐きながら、それでも、必死の思いを顔に浮かべた。
「でも、僕のためじゃない、星子さんを……美空刑事と子供達のところへ帰してやりたい!そのためなんだよ!……」
「右京さんっ」
「なぁ、警部……」
右京、何度か咳込んだあとで、宙太を見た。
「すまなかった、本当に……星子さんのことで、君を苦しめて。ずいぶん、僕を恨んだだろうな……」
「あ、いや……」
宙太、当惑したようにいった。
「そりゃ、正直いって、いい気持はしなかったけどさ。星子さんのハートをとりこにされたわけだし。でも、君はぎりぎりのところでこらえてくれたじゃないか。今さら、君を恨むとか責めるとか、そういう話じゃないぜ」
「警部……でも、それじゃ、僕の気持ちがすまないんだ。お詫びというわけじゃないが、星子さんを光る壁の中から何とか助け出して見せるから……」
「いや、無理だよ、君のその体では。それに、今さっき君があんなに必死になって演奏しても、星子さんは姿を見せなかったじゃないか」
「いや、今度こそ、きっとな! 僕の命に代えても必ず!……」
そういいながら、右京、もう一度、ピアノに向かおうとしたが、再び激しく咳込むと、苦しそうにソファに座りこんだ。
「右京さん……」
星子、つらくて見ていられない。
亜利沙も、拳銃を構えたまま、唇を噛みしめている。
すると、宙太がつかつかとピアノに近づくと、椅子に座り、鍵盤の上に手を置いた。
「宙太さん?」
唖然と見た星子に、
「右京君のようにうまく弾けないけどさ、一応、ピアノの練習はしていたんだ。星丸と宙美に聞かせてやりたくてね」
「双子ちゃんに?」
「星子ママの代わりさ。カノジョ、二人によく弾いて聞かせていたからね」
「ほんと? でも、わたし、ピアノは小さい頃習っただけで、途中でやめちゃったけど……」
「それがさ、二人に子守唄を聞かせてやるんだって、一生懸命に練習したわけ」
そうだったのか。
「あの時の子守唄、もしかしたら、双子ちゃんだけじゃなくて、カノジョにも届くかも知れない。そう思って、僕も練習したってわけさ」
宙太、微笑むと、鍵盤を叩きはじめた。
……あ……。
昔、ピアノを習った時、弾いた曲だ。たしか、アニメ映画の中で歌われた子守唄で、なんとか頑張って覚えたけど、発表会で失敗して、そのせいでピアノのレッスンをやめてしまったっけ。
あの時の子守唄を、星子ママ、双子ちゃんに弾いて聞かせていたんだ。そして、星子ママがいなくなったあと、宙太さんが双子ちゃんに……なんだか、ジーンときちゃう。
宙太の演奏、はじめはなんとなくたどたどしかったけど、繰り返すうちに気持ちのこもった演奏になった。
穏やかで暖かい、我が子を思う母の気持ちがじんわりと伝わってくる。
右京の弾く超技巧の華麗なピアノ曲とは違う、しみじみとした演奏で、宙太の思い、やさしさがあふれている。
双子ちゃん達も、宙太のピアノの子守唄を聞くことで、ママのいない寂しさを忘れてお眠り出来たんだろうな……。
そんなことを思うと、もう、胸が一杯になって、涙がこぼれそう。
そっと目頭を押さえた時だった。
部屋の片隅の暗がりから、一条の光りがあらわれ、次第に広がりはじめた。
「!……」
星子だけじゃない、右京と亜利沙もハッとその光へ目をやった。
やがて、一段とまばゆくなった光の中に、人影のようなものが……星子ママだ、間違いない、星子ママの姿が浮かび上がった。
宙太の気持ちが、子守唄のピアノ演奏に乗って星子ママの心に届き、星子ママを呼び寄せたのだ。
もう少し、もう少しで星子ママは光の壁から出てこられる。宙太もそう思ったのか、気持ちを一段と強く込めてピアノを弾いていく。
「がんばって、星子ママ! もう少しよ!」
星子、光の壁に近づいて手を差し伸べた。
「さぁ、つかまって! わたしの手につかまるのよ!」
そういいながら、光の壁に手を突っ込もうとした時だった。いきなり、背後から腕を掴まれ、引っ張られた。
ハッと振り向くと、そこには、春之介が立っている。
「は、春ちゃん!」
いつの間にか、春之介もここへきていたのだ。その春之介、真剣な顔で星子を見つめた。
「星子ちゃん、ダメよ。星子ママに手を触れては、いけないわ!」
「えっ」
「それだけじゃないの、直接っていうか、同じ時間と場所で顔を会わせてもダメ! ぜったいにね!」
「どうして? ね?」
「それはね、あなたが……ううん、あなただけじゃない、星子ママもね。二人とも、この世から……消えてなくなるから……」
「ええっ」
一瞬、星子の息がとまった。
(つづく)
追記 文字数がオーバーしてしまい、一回では送れませんでした。すいません。いよいよ、次回は最終回かな。泣ける話になるといいけど、でも、ちょっとコワイ話も……お楽しみに。
ご心配かけましたが、家内が退院しました。でも、これからが大変。連日のリハビリ通いが当分続きそうです。、
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