星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

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春の恋夏の別れ・1

「フユシラズには、二つの花言葉があるんだってね」
 あの人のやわらかな声が、今もわたしの耳の奥に残っている。
 ……フユシラズ……。
 早春の北国に咲く、カレンデュラとも呼ばれるキンセンカの仲間の黄色い可愛い花。そのフユシラズがきっかけで、わたしはあの人と知り合った。
「二つの花言葉の一つは、乙女の美しい姿……」
 あの人、わたしを穏やかな目で見つめながらいった。
「じゃ、わたしにはカンケイないかな」
 わたしが、ちょっと肩をすくめてみせると、
「そんなことはないよ、星子さん。君のイメージにぴったりさ」
 あの人、やさしく微笑みながらいったっけ。
「やだ、くすぐったい」
 笑って見せたけど、ほんとはうれしい。
「で、もう一つの花言葉は?」
「あ、うん……」
「ね、なんなの?」
 しつこくせまると、あの人、
「内緒ナイショ」
 ちょっとおどけながら、口にチャックをするしぐさをして見せた。なんか、ぎこちなくてサマになってないけど、いい感じ。
 これが宙太さんだったら、さぞかし、キザっぽくあざやかにきめているよね。おっと、邪魔ジャマ、ムードがこわれちゃう。
 で、わたしが、
「どうして?」
 って、たずねると、
「つまり、その……二度と聞きたくない言葉ってことかな……」
「聞きたくない?」
「うん……」
「二度と?」
「……」
 ふと、あの人の目が潤んだ。その目を見せまいと、顔を横に向けた。
 なんか、わけありって感じ。
 それ以上聞いては悪いと思って、わたし、さりげなく話題を変えたっけ。
 フユシラズのもう一つの花言葉は、ケータイの検索で調べればすぐわかることだ。でも、あの人の心の秘密に立ち入るようで、調べる気持ちにはなれなかった。
 そのもう一つの花言葉の意味を、じきに、わたしが身をもって知ることになるなんて……。
 すべては、わたしが三月のある日、期末テストのあとの休みを利用して、みちのく路へ旅立った時にはじまった。
                  ○
「よっ、ハニィ!」
 北へ向かう東北新幹線「やまびこ」のデッキで、ふいに聞こえてきた声。
 まさか、と、振り向けば、ああ、やっぱり。
 宙太のたれ目のヒョーキン顔が、きざっぽくポーズを決めたつもりでウインクしている。
 茶革のショートコートにエルメスのショルダーバッグを肩にかけ、それなりにオシャレがきまっていた。
「いやぁ、まさに絵になるねぇ」
 宙太、ウインクした目を細めた。
「ステキな恋を求めて、早春のみちのくの旅へと出かける美しき乙女ここにありってな立ち姿だぜ」
「ふん!」
 星子、うるさそうに宙太を見た。
「やめてよ、そのいいかた。ジンマシンができるから!」
「ご心配なく。その時は、僕チャンがかいかいしてあげるから」
 そういいながら肩に触れようとした手を、星子、パッと払いのけて、
「ちょっとっ」
 かなり本気で睨んだ。
「わたしに構わないでっ」
「でもさ、姫を守るのはナイトの務めだし」
「なにがナイトよっ。ただのおせっかい。早く消えて!」
「いわれなくても、今回はお構い出来ないようで」
「はん?」
「じつはさ、ボクチャン、お仕事でこの列車に乗ったわけ」
「仕事で?」
「そうしたら、偶然、君もこの列車に乗っていた。やっぱり、魅かれあう者同士、カミサマはちゃんとお膳立てしてくれてるんだね、シシシッ」
「いい加減にして! なにが偶然よ!」
「ウソだと思うんなら、証拠を」
 宙太がデッキの奥へ向かって指を鳴らすと、人影がゆっくりと……マサルだ。濃紺のダウンジャケットを着て、背中にはリュックを背負っている。
「マサルさんっ」
「どうも」
 マサル、無愛想な顔で会釈した。星子には関心がないっていう表情だ。でも、星子は気づいていないが、伏し目がちの目には熱っぽい光りがこもっていた。
「ハニィ、これで納得したかな?」
「まぁね」
 認めざるを得ない。
「で、どういう事件?」
 星子がきくと、
「そら、きた」
 宙太、にやりと笑った。
「好奇心いっぱいの星子さんだ。そうくると思ったぜ」
「いいから、早く教えて」
「残念でした。捜査上の秘密でございます」
「んもぅ」
「でも、ま、いずれ嗅ぎつけることだし、ちょっぴり予告編を。じつは、コロシのホシを追ってるわけでして、ハイ」
「えっ」
 殺人事件とくれば、興味しんしんだ。
「三日前、世田谷のマンションで新婚間もない奥さんが殺されてね……」
「あ、その事件、テレビのニュースで見たわ。なんでも、被害者の夫が行方不明になってるって……そうか、その夫が怪しいのね?」
「さすが、スルドイ」
「それで、その夫を探しにいくところなんだ、宙太さんとマサルさん。で、今どこにいるわけ? 岩手? 青森? わたしも、一緒にいく! きっと、役に立つから! ゴンベエも、ほら、こんなに張り切ってるわよ!」
 そういいながら、背中のリュックをポンと叩いた。でも、肝心のゴンベエは迷惑顔だけどね。
「ちょ、ちょっと、ハニィ……」
 星子に詰め寄られてたじたじの宙太を見て、マサルが間に割って入った。
「待ってくれ、星子さん、事情があるんだ」
「え?」
「じつはな、容疑者、つまりガイシャの夫には……」
 マサル、声を落とした。
「自殺の恐れがあってさ……」
「ジ、ジサツ?」
「昨夜遅く、友人のケータイにそんな内容のメールが入っているんだ。メールを送った場所は、青森県の下北半島らしい」
「そう……」
「だから、こっちも出来るだけ目立たないように行動したいんだよ。そこんとこ、わかってくれないか」
「そ、そういうこと。ハニィが一緒じゃ賑やか過ぎちゃうしさ」
 宙太も、ここぞとばかりにいった。
「そもそも、今回の君の旅にはちゃんとした目的があるはずだろ。なんでも、遠野の恋の願掛け神社にいくとか。すごく、御利益があるらしいじゃないか」
「どうして知ってるの?」
「春ちゃんから聞いたんだ。ほんとは、いって欲しくないって。いやな予感がするって」
「……」
 たしかに、春之介にはそういわれていた。水晶玉占いによると、星子の身に恐ろしいことが起きるんだそうだ。でも、当たるも八卦、当たらないのも八卦。せっかくの試験休みだし、チャンスを無駄にしたくない。そこで、春之介の制止を振り切って出かけたってわけだった。
「ほんとは、僕も星子さんには東京へ引き返して欲しいよ。だって、ここんとこ、東北地方は地震が多いだろ」
 宙太のいうとおりだった。星子が旅立つ前日の三月九日昼近く、つまり、昨日のお昼のことだけど、宮城県で震度5弱のかなり大きな地震があって、そのあとも余震が何回も続いていた。
 地震が苦手の星子だし、なんだか気味が悪かったけど、恋旅の誘惑のほうが勝ったわけでして、ハイ。 
「大丈夫、恋の願掛けしたら、すぐ東京へ帰るから。今日の夜には我が家に戻ってるはずよ」
「そうか、きっとだぜ。ハニィにもしものことでもあったら、ボクチャン、生きていられないしさ。よろしく!」
 どさくさにまぎれ、宙太、星子をハグした。ほんとに、油断も隙もありゃしない。
「んもぅ!」
 星子が睨んだ時、車内放送がもうじき新花巻駅に到着すると告げた。
 遠野へいくには新花巻で石巻線に乗り換える。
 間もなく、「あまびこ53号」は、新花巻駅のホームへと滑り込んだ。
「じゃ、宙太さん、マサルさん、しっかり頑張ってね!」
 ホームに降り立った星子、列車に向かって軽く手を振ると、いざ、石巻線のホームへ。
さっきの探偵モードはどこへやら、いつもの恋さがしモード全開だ。
「恋の願掛け、うまくいくといな、ね、ゴンベエ?」
 ゴンベエに声をかけたけど、なんだか、ゴンベエの様子がおかしい。落ち着きがなく、あたりを見回している。
「どうしたのよ、ゴンベエ、どこかにステキなメス猫ちゃんでもいるわけ? だったら、あんたもしっかり恋の願掛けしないとね」
 星子、ご機嫌な顔で微笑んだ。でも、ゴンベエのほうはリュックの中へもぐりこんだ。まるで、なにかに怯えているように見える。
「ヘンなゴンベエ」
 こんなゴンベエを見るのは、はじめてだ。星子、おかしいなと思いながらも、あまり気にせずに歩きだした。


                      (つづく) 



追記1 かなり遅れましたが、恋の花紀行シリーズ、なんとかはじめてみました。あの大震災を物語の背景に持ってくるという試み、はたして星子シリーズで出来るのかどうか、かなり不安ではありますが、頑張ってみます。もちろん、星子ファミリーシリーズのほうも続けますので、よろしく!


追記2 星子ファン誌『JOKER』の最新号を送って頂きました。今回も力作がそろっています。なんと、大学生宙太の就活の姿も!
ゆうきさんのブログに是非アクセスしてみて下さい。

追記3 フアンのみ公開のため、ご迷惑かけています。当面、小説だけは公開してみようと思います。

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