星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

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  みちのく・春の恋夏の別れ5

「返して! 返して下さい!」
 星子、携帯電話を取り返そうと飛びついた。でも、悠木に軽く払いのけられ、つんのめった。
「あっ」
 どうにか踏み止まって振り向いた星子に、悠木、携帯電話からバッテリーをはずして差し出した。
「ひどい! なによ、もう!」
 携帯電話をひったくりながら、星子、悠木を睨みつけた。
「バッテリーも返して下さい! 早く!」
 でも、悠木は黙ったままバッテリーをコートのポケットに入れた。
「ちょっと!」
 もう一度、飛びかかったけど、腕を掴まれて動けやしない。
どうして、こんなひどいことをするんだろう。宙太さんに悠木さんのことを話そうとしただけなのに。
そうか、それがいけなかったのかもね。
星子、痛みに顔をしかめながらいった。
「宙太さんに、知られたくなかったんですね、あなたと一緒だってこと。そうでしょ!」
「……」
「でも、どうして? 同じ刑事さんなのに……なんでっ?」
「……」
 悠木、黙ったままだ。
 星子、いらつきながら睨んだ。
「いって下さい、ハッキリと!」
「……違う……」
 悠木、ぼそっとつぶやいた。
「え?」
「二年前にやめたんだ、警視庁を……」
「やめた?」
 悠木、小さくうなづいた。
じゃ、もう、刑事とか警官じゃないってわけだ。でも、悠木は警視庁でアメフトをやっていた頃の写真を持っている。今でも、宙太には強い友情を抱いているはずだ。
だったら、なぜ、星子が悠木のことを話そうとした時、携帯電話をひったくり、バッテリーまで抜き取ったんだろう。
もしかして、宙太に居所を知られたくなかったのかも……なにか、よほどの理由でもあるに違いない。
そんなことを考えていると、木立の向こうからバイクの音が聞こえてきた。星子が目をやると、近くの道をバイクが二台、ゆっくりと走ってくる。乗っているのは、二人の警官だった。
そのとたん、星子、悠木に肩を掴まれて木立の陰に引っ張り込まれた。
「いたっ……」
 顔をしかめながら睨むと、悠木、サングラス越しに鋭く警官達を見つめている。まるで、警官に見つからないように隠れているみたいだ。
 どういうこと、一体。
すると、ゴン太がリュックから顔を出して、フギャーァ、フギャーッと親ゆずりのだみ声で鳴き出した。どうやら、ご主人様がピンチと思いこみ、警官達に知らせようってことらしい。その鳴き声に気づいたのか、二人の警官、一旦バイクを停めてこっちへ視線を向けたあと、こちらへ向かってバイクをスタートさせた。
 瞬間、悠木の太い腕が星子を抱き寄せ、抱え上げるようにして顔をくっつけてきた。
「!……」
星子、懸命にもがいたけど、強い力で抱きしめられて身動きが出来ない。
悠木の髭が星子の頬に当たって、痛いくらいだ。
やめて! はなして!
そう叫ぼうとした。でも、顎が悠木の肩に食い込み、声にならない。
助けて、おまわりさん!
でも、近くまできた二人の警官達、ラブシーンと思いこんだのか、ニヤリと顔を見合わせてバイクを引き返した。
あっ、待って!
星子、必死にもがいて体を離し、大声で叫ぼうとした。
その瞬間、左の脇腹に強い衝撃が叩きこまれて、息が出来なくなり体が地面に吸い込まれていった。
どれくらいたったのか、
「ハニィ! 星子さーん!」
 宙太の呼ぶ声が遠くから聞こえてくる。
 わたしを助けに来てくれたのね、やっぱり、宙太さん、頼りになるじゃん。
「宙太さんっ、ここよ! 宙太さーん!」
 叫んだ瞬間、ハッと目が覚めた。
 窓越しに、冬枯れの山里の風景が後方へ流れていく。どうやら、車の助手席に乗せられているようだ。星子の足元にはリュックが置かれ、ゴン太がしょぼくれた顔をのぞかせていた。
そうか、宙太さんが助けに来てくれたのね。ありがと! やっぱり、頼りなるわ!
星子、ホッとしながら運転席へ目をやった。でも、ハンドルを握っているのは、宙太じゃない、悠木だった。
 どうやら、悠木が遠野の街で借りたレンタカーに乗せられているらしい。
「気がついたかい」
 悠木、ぼそっといった。
「手荒な真似はしたくなかったんだが……すまない」
 ふん、なにがすまないよっ。
星子、怒りで顔が真っ赤になった。
「あなたって、もしかして、警察に……」
 一瞬、つまったけど、思い切って聞いた。
「そうでしょ、警察に追われてるのね! だから、わたしをこんな目に……そういうことなのね!」
「……」
 悠木、口を閉じたままだ。でも、それが、何よりの答えだった。
 星子をチンピラ達から助けてくれたカッコいい人が、じつは警察に追われている犯罪者だったなんて。
それにしても、どんな罪を犯したんだろう。悠木の全身から漂う暗くて冷たい雰囲気から、ただ事ではない感じがする。たとえば、強盗とか殺人とか……。
一瞬、星子、ハッとなった。
――殺人っていえば、今、宙太さんやマサルさんが追っている容疑者も、奥さんを殺したとか……。
「!……」
そうか、宙太さんに連絡させないようにしたのも、この人がその容疑者だからなんだ。
 星子の背中を、氷のように冷たい汗が一筋、つつーっと流れた。
 すると、悠木、星子にチラッと鋭い視線を投げた。
「僕のこと、察しがついたようだな」
「!……」
 この人、わたしの心が読めるらしい。
「たしかに、美空君が追ってるホシは、この僕だ」
「!……」
 星子の全身から、冷たい汗が一気に噴き出した。
「お、降ろして下さい!」
 星子、シートベルトをはずしながら声を震わせた。恐怖が突き上げてきて、吐き気がする。
「わ、わたし、レンタルした自転車を返さないと……」
 とっさに、理由をさがす。
「それなら、僕が戻しておいたから」
 そんなぁ。恐怖が、ますます、強くなってくる。
「と、停めて! 早く、降ろして!……」
星子、哀願するようにいった。でも、悠木の顔はまったく無表情だった。
「そうはいかないな。君には、しばらく付き合って貰おう」
「そんな!」
 体ががくがくと震える。
「つ、つきあえって、どういうこと……ですか……」
「いいから、黙って乗ってるんだ。美空君を泣かせたくなかったらな」
 悠木の低い声には、殺意のこもったような響きがあった。
 ――宙太さんを泣かせたくない……ということは、わたし、いうとおりにしないと殺されるかも……。
 星子、心臓をギュッと押しつぶされるような怖さを感じながら、車窓へ目をやった。
 いつの間にか道の両側には山が迫り、雪がちらつき始めている。今、一体どのあたりを走っているのだろう。国道を避けているのか、すれ違う車もほとんどなくて、心細さがいっそうつのってくる。
 宙太さんのいう通りにしていれば、こんな目に遭わずにすんだのに。今さら反省しても、遅いけど、ごめんなさい、宙太さん。
 涙がこぼれそうになってぬぐった時、前方に道路標識が近づいてきた。その標識には、「釜石」という文字が見える。
 釜石といえば、星子が遠野のつぎに訪ねる街だった。三陸地方を代表する大きな港町を見物したあと、釜石駅から三陸鉄道の南リアス線に乗り換えて「恋し浜駅」へ。カップル達に大人気の縁結びの駅で、恋の願掛けをする。これが、今回の旅のプランだった。それが、こんなことになってしまうなんて。もう、泣くに泣けない。
 すっかり落ち込んでいると、ホルダーに入ったペットボトルが差し出された。
「コーヒーだ。あったまるぞ」
「いりませんっ」
 ほんとは、飲みたい。クルマの暖房は入ってるけど、身体の芯は冷えっぱなしだしね。だけど、こんな奴のコーヒーなんか、飲んでたまるもんか。
 顔をそむけようとした星子、ふと、ホルダーの花模様の刺繍に目が吸い寄せられた。
 金色の小さな可愛い花がまるで花畑のように織り込まれている。
 ――なんて、きれいなんだろう……。
 星子が思わず見惚れていると、
「フユシラズだ」
 悠木が、つぶやくようにいった。
 ――フユシラズ……聞いたことのない花の名前だ。
「小さなキンセンカとでもいうのかな、この時期、三陸海岸あたりで咲いているんだ」
 早春の三陸海岸なんて、まだ寒いと思うけど。そんな時期に咲くから、フユシラズっていうのかもね。
 でも、奥さんを殺すような凶暴な男が、こんなきれいなペットボトルホルダーを持っているなんて、ミスマッチもいいとこ。
「丁度、去年の今頃だ……」
 悠木、静かな口調でいった。
「朝日を浴びて金色に輝くフユシラズを見つけて写真に撮ってね、それを彼女が刺繍にしてくれたのさ。このホルダーもその一つだ……」
 ――カノジョって、いったい……。
「本当は、一緒に連れてくるつもりだった。どうしても、自分の目で見てみたいっていうからね……でも……」
 悠木、言葉を呑み込んだ。その横顔には、深い翳のようなものが浮かんでいる。
 なんだか、わけがありそうだ。
 星子、躊躇いながらも、聞いてみた。
「どういう人なんですか、この刺繍をしてくれたのは……」
「……」
 悠木、喉にからんだような声でいった。
「……家内だ……」
「!……」


                         (つづく)




追記 ほんとに暑かった今年の夏、どうやら今日が峠のようですね。お変わりありませんか。へばりながらも、なんとか、第五話をお目にかけることが出来ました。よろしくです。

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