星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

過去の投稿日別表示

[ リスト | 詳細 ]

全1ページ

[1]

   みちのく・春の恋夏の別れ9

「フユシラズの花を見に行こうと思ってさ」
「あ、ほんとですか!」
 星子、眠気がいっぺんに吹っ飛んだ顔で車の外へ出た。
 もの凄く、寒い。道端には霜柱が立ち、海からさすように冷たい潮風が吹いてくる。寒くて、体ががくがくと震える。
「こっちだ」と、悠木に促され、海岸のほうへ続く細い道を下っていった。 
 海辺には、岩礁が広がり、穏やかな波が打ち寄せている。寒いけど、ほんとにすがすがしい朝だ。湾のほうへ目をやると、漁に出掛ける舟が何艘も軽やかなエンジン音を上げながら沖へ向かっていく。
 岩礁伝いにしばらく歩くと、狭い入り江があらわれた。その奥の岩に囲まれた斜面に、ひっそりと隠れるように黄色と緑の花畑が広がっている。
 近づいてみると、小さくて可愛い黄色の花が朝の光りに向かうように一面に咲いている。フユシラズの花畑だ。
 早春とはいっても、凍りつくような寒さが残る北の海辺で、こんなに可憐な花を咲かせているなんて。
 星子、体をかがめると、いとおしそうに手を触れた。なんだか、せつなくなって、涙が浮かんでしまう。
「フユシラズには、花言葉が二つあるそうだ」
「え?」
 悠木のような男の口から、花言葉の話が出てくるとは、意外というか、戸惑ってしまう。振り向いた星子に、悠木、ちょっと照れたようにはにかんだ。
「あ、いや、ミキから教えて貰ったんだ、彼女、そういうことにくわしくてね……花言葉の一つは、乙女の美しい姿……」
 乙女の美しい姿、ですか。たしかに、いえてるよね。
「で、もう一つは?」
「それは……」
 悠木、いいかけて、ふと、口をつぐんだ。
「……二度と聞きたくない言葉だな……」
「二度と?」
 悠木の目が、潤んでいる。今度のつらい出来事につながることかもしれない。
 星子、それ以上聞けずに、口をつぐんだ。あとで、調べればわかることだ。
「でも、ほんとにきれい……」
 あらためて、フユシラズの花に手を触れてみる。
「今が一番、きれいな時なんですね、きっと」
「ああ、ミキにも見せてやりたかった……」
 悠木、目頭をぬぐったあと、ふと、星子を見た。
「でも、君に見て貰えたしね……それで、もう……いや、正直いうと、君をここへ連れてきたかったんだ」
「わたしを?」
「ほんとに、よく似ているんだ、ミキと……勝気で、素直で、自立心が強くて、自分より人のことが心配で……ただ違うのは、ミキが暗くて重いものを背負っていたことかな……とにかく、君を見ていると、ミキが傍にいるような気がしてね……」
 悠木、目を伏せるようにして、海へ目をやった。
 そんな悠木に、
「あの……」
 星子、おずおずと声をかけた。
「復讐なんかしたって、ミキさん、決して嬉しくなんか……かえって、つらくなるだけじゃ……きっと、そうです……」
「……」
「わたし、ミキさんの代わりにお願いします。どうか、復讐はやめて、あとのことは宙太さんに……お願いします!」
 星子、それこそ必死になって悠木を見つめた。
「もし、聞いてくれなのなら、わたし、どんなことをしてでも止めて見せますから! ぜったいに!」
 悠木、星子を見つめた。
「君って子は、まったく……」
 ふっと肩で息を吐いたあと、悠木はいった。
「たしかに、復讐したって、ミキは喜ばないだろう。君のいう通りかもしれない……」
「悠木さん……」
「よし、坂田に会ったら、自首をさせる。美空君に連絡したあと、警察へ連れて行くから。力ずくでもね。それでいいかい?」
「ほんとに!」
 星子、ホッとなった。
「約束してくれますか」
「ああ、もちろんだ」
 よかった、これで、そばにいた甲斐があったわけだ。
「ただし、証拠がないと、美空君はともかく、県警のほうが取り合ってくれないだろう」
「でも、ないんでしょ、その証拠って?」
「いや、本当はあるんだ」
「えっ」
「じつはね、東京駅の八重洲西口のコインロッカーに……番号は215番だ。その中に、入っているんだ」
「!……」
「でも、今の僕が取りにいくわけには……もし、君さえよかったら、今からいってくれるかな?」
「わたしがですか?」
「キイはなくしたけど、係員に事情を話せば開けてくれるから。頼むよ!」
「あ、はい! でも、そのこと、宙太さんにも知らせたほうが……」
「いや、君が証拠を取り出したあとで、美空君に電話してくれ。さもないと、彼も僕を信用出来ないし。それまでは、僕のことは内緒だ」
 そういいながら、悠木、星子の携帯電話を差し出した。
「これ、返しておくよ。君が東京駅に着いた頃に、僕のほうから電話を入れるから。いいね?」
「はい!」
 星子、携帯電話を受け取った。
 状況が急に変ったので、気持ちがなかなかついていけない。とにかく、車まで戻って、リュックを背負う。ゴン太、目は覚ましているけど、相変わらず、何かにおびえた様におどおどしている。
「じゃ、頼むよ。気をつけて」
「ええ、悠木さんもどうか……約束、守って下さい。きっとですよ!」
「わかった。さぁ、早く!」
 悠木にせかされて、星子、歩き出した。
 途中で振り向くと、悠木が身じろぎもしないで見送っている。一瞬、これっきり会えないような気持ちになったけど、払いのけるように駅へ走った。
 南リアス線の恋し浜駅は、長い階段を上がった見晴らしのいい高架線にある。恋のスポットにふさわしいステキな駅だ。三陸鉄道って、釜石と盛をつなぐ南リアス線と宮古と久慈をつなぐ北リアス線に分かれていて、それぞれ、風光明媚な三陸海岸を走っている。
ほんとは、今回の旅では、三陸鉄道の旅をしっかり楽しむつもりだったけど、それどころじゃなくなってしまった。でも、おかげで、悠木さんのような男性に会うことが出来たわけだ。その悠木さんのためにも、頑張らないと。
間もなく、ホームに7時7分発のカラフルなディーゼル列車が到着。釜石へと向かう。トンネルは多いけど、列車の車窓から見る三陸の海や岸辺の景色は、のどかで美しい。この土地が、昔から何度も大津波に襲われて、大きな被害を出したとはとても思えない。
小さな漁港に出入りする漁船、朝ごはん時の家々、出勤と登校時間が重なり、それなりに混み始める車内。平和で穏やかな三陸の暮らしが、パノラマのように広がっていく。
いいなぁ、東北の旅って。
ふと、そんな気持ちになったけど、今の星子には、その旅情に浸っている余裕はなかった。
一刻も早く証拠を見つけて、宙太さんに電話しないと。そうすれば、坂田という男を逮捕されて、悠木さんの潔白も証明出来る。
早く、早く、東京に着かないと!
焦る気持ちをなんとか押さえるうちに、列車は釜石に到着。JR石             巻線の7時40分発・快速「はまゆり2号」盛岡行きに乗り換えて、盛岡へ。途中、列車ファンにはたまらないヘアピンカーブの峠越えとか、悠木と出会った遠野の街、それに行きそこなった恋のスポット・めがね橋を車窓から見たりしながら盛岡へ。そして、10時10分発・東北新幹線「やまびこ52号」に乗って、東京へと向かう。
寝不足と疲れでうとうとしていると、宙太からのメールが入った。
「お早う、ダーリン! 君のステキな笑顔と甘いキスを期待して、今日も頑張ってまーす!」
 ふん、誰が甘いキスなんか。
「でも、春ちゃんからのメールが気になるんだ。今日、恐ろしいことが起きそうだから、気をつけろって。君もね、いいね」
その春之介から、星子にもメールが入っていた。
「星子ちゃん、今日の外出は控えたほうがいいわ。今回だけは、わたしのいうことを聞いてね。お願いよ」
 なんだろ、もう、春ちゃん、昨日から変なことばかりいって。こっちはそれどころじゃないのにね。
 ――でも、ニュースによると、昨夜から今朝にかけて、宮城県あたりで小さいけど地震が何度も起きてる。それに、昨日と一昨日には三陸沖でかなり大きな地震もあったっていうし、ちょっと、気にはなるけど……。 
そして、午後1時24分、東京着。
ホームへ飛び出すと、大急ぎで八重洲西口のコインロッカーへ向かう。ロッカーナンバーが215っていってたし、まず、確認しないと。
ところが、八重洲西口のコインロッカーが見当たらない。いくら探しても、だめ。時間だけはどんどんたっていくし、焦って駅員さんに聞いたところ、「八重洲西口コインロッカーなんて、ないですよ」って、いわれた。
どうなってるわけ。悠木さんが間違えたってこと? 大事な証拠が入っているっていうのに、サイアクじゃん。
星子が茫然となった時だ、携帯電話に着信が……相手は、悠木だった。
「悠木さん、ロッカーが!……場所、間違えていませんか?」
 焦りながら話すと、
「いいんだ、それで」
悠木の静かな声が携帯電話から流れた。
「え? ……じゃ、証拠の品物はどこに?」
「そんなものは、はじめからないんだ」
「ない?」
  星子、唖然となった。
「どういうこと、それって……証拠がなくては、悠木さん……」
「そう、どうにもならないさ。坂田さえ始末すれば、それでいい」
「そんな!」
 頭の中がぐるぐる回る感じで、なかなか、冷静になれない。
「わ、わたし、今からそっちへ……すぐ、引き返しますから!」
「いや、坂田はすぐそこまできている。もうじき、決着をつけるから」
「悠木さんっ」
「すまん、だましたりして。でも、君を巻き込むわけにはいかなかった。それに、ミキにもいわれていたしね……」
「え?」
「じつはね、昨夜からミキの声が何度も……ここにいてはだめ、早く逃げて、早くって、叫んでいるんだ」
「!……」
「でも、僕は坂田のこともあってここから離れるわけにはいかない。それで、君だけでもと思ってね」
「……」
「ま、何事もなければ、それに越したことはない。そう祈りたいが……」
 それは、星子も同じ思いだ。
「なぁ、星子さん……君をひどい目にあわせておいて、こんなこといったら怒るかも知れないが……会えて良かった、君に会えて本当に良かったよ」
「悠木さん……」
「フユシラズの花畑に立つ君の姿、忘れないから……ミキに似ているからじゃない、君にぴったりの花だったからね」
「……」
「そうだ、フユシラズのもう一つの花言葉、まだ、いっていなかったね……永遠の別れ、だそうだ……」
「!……」
「たしかに、もう二度と君と会うことはないだろう。どうか、元気で……美空君と幸せにな……彼にはお似合いだよ、君って。幸せになれよ、星子さん、いいね」
「悠木さんっ……」
 電話、切れた。
 携帯電話が、涙でにじんでくる。
 まさか、こんな結末になるなんて。体の中が急に空っぽになった気分だ。
 ――永遠の別れ……いや、そんなの、いやよ。会いたい、もう一度、悠木さんに会いたい!……。
 ふいに、そんな思いが突き上げてくる。
 恋してしまったのか、愛してしまったのか、わからない。ただ、無性に悠木に会いたくなった。がっしりとした悠木の胸に、飛び込みたくなった。
 いくのよ、星子。
 さぁ、早く!
 星子、せかされるように走り出した。
 その瞬間だった。もの凄い地鳴りのような音が足元から突き上げ、同時に激しい揺れが襲ってきた。
 駅の構内でいっせいに悲鳴が上がり、星子、立っていられずに、その場にかがみ込んだ。
 星子の目に映った大時計、午後2時48分をさしている。
 ――恐ろしい悲劇の、はじまりだった……。

                       
                 (前編・おわり)



追記 なんとか、前編が出来上がりました。さてっと、おつぎはいよいよ星子女子会ですか。気分一新、いじりまくってやるぞ! カクゴ!

        みちのく・春の恋夏の別れ8

 ――なんて、きれいな夜の海……。
 星子、暖房で曇った窓ガラスを拭きながら、うっとりと車窓へ目をやった。
 夜空は暗いけど、真っ暗な海の沖に漁火のような光がキラキラと光り輝き、釜石の港に入港する船の灯も入り混じって、幻想的な光景が広がっている。
 春之介に、『明日、恐ろしいことが起きる。一刻も早く家へ帰って』というメールを貰い、星子、かなり迷ったことはたしかだ。でも、人質状態のままだし、悠木のこともほってはおけない。
ということで、春之介には、『もうじき、家に着くから、大丈夫。疲れたし、くわしいことは明日ね。』とリメールしておいた。
「おそろしいこと、か……」
 悠木が、ハンドルを握りながら、ふとつぶやいた。
「え?」
「君が見せてくれたメールだよ」
 宙太と春之介からのメール、悠木にも見せていた。こっそりと連絡したって、疑われないようにだ。
「春之介君って、占いをやっているのか?」
「ええ、でも、当たるも八卦、当たらないのも八卦って……たぶん、当たらないかも……」
 星子、曖昧に微笑んで見せた。
「だといいけどな、君の連れの様子が、ちょっと、気になるし……」
 悠木、チラッとリュックへ目をやった。
 たしかに、ゴン太の様子はおかしい。花巻から遠野へ向かう時もそうだったけど、何かにおびえたように、リュックの中でうずくまり、ほとんど何も食べていなかった。
「あ、気分屋ですから、大丈夫よね、ゴン太?」
 ゴン太、目を閉じたままでほとんど反応しない。ま、しばらく様子を見るしかなさそうだ。
 釜石の街をあとにした車は、じきにトンネルをくぐったり、崖の間を抜けたりしながら、走っていく。カーナビで見ると、リアス式海岸の凸凹した地形が海に突き出し、その間を国道がうねっている。時々、海らしい景色が現れるけど、暗くてはっきりしない。でも、行き交う車の数はかなり多いし、集落の灯もほとんど途切れることはなかった。
さすが、北は八戸から宮古、釜石、大船渡、陸前高田、気仙沼、塩釜を結び、仙台へと至る三陸海岸の国道だけのことはあるよね。
車のメーターの外気温を示す数字は零度近いけど、集落の灯は暖かくて家族団欒のぬくもりや笑い声が伝わってくような気がする。
 ――いつまでも、あの家々の灯が暖かくともっていてほしい……いつまでも……。
 ふと、そんなことを思ってしまう。
 南三陸の街で国道と別れた車は、三陸鉄道の高架線とくっついたり離れたりしながらしばらく海岸伝いに走った。そして、小さな漁港に入ると、「恋し浜」の文字が見える看板がヘッドライトの明かりに浮かんだ。
「!……」
 なんとなんと、星子が訪ねる予定だった三番目の恋のスポット「恋し浜」じゃないですか。まさか、こんなふうに訪れるとは。
丁度、山側の高台の駅に到着した三陸鉄道の列車の灯が見える。人家は少ないし、夜もふけてきたせいか、人影はまったく見たらない。動いているのは、駅に着いた乗客を迎えに行く車ぐらいだった。
悠木、ハンドルを切って、海岸伝いの小道へ車を走らせると、しばらくして車を停めてライトを消した。暖房のためにエンジンはかけたままだけど、すぐ近くの岩礁に打ち寄せる波の音が聞こえてくる。
海は穏やかで、対岸の半島の集落や車の灯、それに、漁港の灯などが暗闇の中に美しく光っていた。
――でも、なぜ、こんなところで車を停めたんだろう。まさか、わたしをどうにかするつもりなんじゃ……。
一瞬、背筋が寒くなる。でも、悠木はシートベルトをはずすと、シートを倒した。
「ここで、夜が明けるのを待つから」
「えっ」
「朝がくれば、すべては片づくはずだ。朝がくればね」
「どういうことですか、それって?……」
「……」
 星子の問いかけには答えず、悠木、目を閉じた。
 仕方ない、とにかく、明日の朝まで待とう。それしかない。
 それにしても、ずっと車に乗りっぱなしだし、緊張状態が続いたこともあって、体はくたくたに疲れきっている。星子もシートを倒すと、体をのばした。車の暖房もきいているせいか、一気に眠気が襲ってくる。
 眠っちゃダメ、何が起こるか分からないし、ちゃんと起きていないと。
 そう自分にいい聞かせたけど、そのうち、目が重くて開けられなくなり、いつの間にか吸い込まれるように眠ってしまった。
 どれくらいたったか、うめくような声に目が覚めた。車内は計器盤の明かりしかついていないが、悠木の顔がかすかに闇の中に浮かび、苦しそうにしきりと口を動かしている。
 また、具合でも悪くなったのだろうか。
「悠木さん? 大丈夫ですか、ね、悠木さんっ」
 星子、悠木の腕を掴んで呼びかけた。
 瞬間、悠木が大声を上げると、いきなり、体を起こして星子を抱きしめた。
「ミキ! ……」
「!……」
 強く抱かれて、息が出来ない。
 必死にもがいているうちに、悠木、ハッと目を見開いて星子から手を離した。
「す、すまん……」
 一言詫びたあと、悠木、車のドアを開けて外へ出ていった。
「……」
 いったい、どうしたんだろう。星子、気になってドアを開けた。
 寒い! まるで、体が凍りつくようだ。それでも、ふるえながら悠木のそばへいった。
「悠木さん……」
「……」
 悠木、茫然とした姿で真っ暗な海を見つめている。足元から吹きつける寒風にまじって、岩に叩きつける波の音が這い上がってくる。まるで、海に潜む魔物の咆哮のような不気味な海鳴りだった。
「あ、あのぅ、ミキって……」
 星子、悠木の背中におずおずと声をかけた。
「もしかして、奥さんの名前とか……」
 たぶん、間違いない。そんな気がする。
 悠木、かすかに頷いた。
「……真っ黒な海が渦を巻いて……ミキが叫んでいるんだ、早く逃げて、早くって……」
「……」
「彼女を助けようとしたんだが、どうしても体が動かなくて……必死に手足を動かしているうちに、気がついたら君を……本当に、すまなかった……」
「あ、いいえ……」
 そういうことだったんだ。
「車へ戻ろう、風邪をひくよ」
 悠木、我に返ったように星子を促した。
 暖房のきいた車内へ戻って、ホッと一息ついた星子に、
「ほんとうは、ミキをここへ連れてくるつもりだった」
 悠木、つぶやくようにいった。
「この下の岩場近くにフユシラズの小さな花畑があってね、僕は何度も写真を取りにきているんだ。その写真を見て、ミキが連れて行って欲しいっていうから……」
悠木、フユシラズのポットカバーを手に取って、しみじみと見つめた。
「もともと花が好きな奴だったが、きっと、フユシラズの北国の寒さに耐えて咲く花の姿にひかれたのかもしれないな……あいつも、そういう女だった……」
「……」
「もう二年になるかな、僕と出会った頃、ミキは上野のクリーニング屋で働いていたんだ。化粧もオシャレもほとんどしないし、朝から晩まで頑張って働いて……そんな彼女の姿に惚れ込んで、結婚を申し込んだわけだ。でも、なかなか承知してくれなくてね……じつは、ミキには人にはいえない理由が……」
「理由が?」
「今から三年前、ミキは名古屋の宝石店で働いていたんだが、坂田という悪い男にだまされてね、宝石強盗の手引きをさせられるはめに……その時、店のオーナーが殺されているんだ。やったのは、坂田のほうだが、今も逃走中だ……」
「!……」
「こわくなったミキは、その男のもとから逃げてね、何度か自首しようとしたが、男の仕返しが怖くて出来なかったそうだ……そんな過去のある自分が、結婚出来るわけがないって、それも、刑事の僕とね……思いつめたミキは、自殺までしようと……」
「!……」
「そんなミキを見て、僕は決心したんだ。命をかけてこの女を守ろう、幸せにしてやろうって。そのためなら、刑事をやめてもいいって……いや、刑事を続ける資格はないさ。逃走中の共犯者を匿っているのと同じだからね……」
「……」
「今思えば、一言美空君に相談すべきだった。彼なら、きっと、自分のように心配して、何か、いい方法を考えてくれたはずだ……」
 たしかにね。宙太さんって、顔に似合わずそういうところは、頼りになるのよね。
「でも、僕は彼女と離れたくなかった。こんな体だし、いつ死ぬかわからない、せめて、生きている間はずっとミキと二人でいたかった……」
 悠木、歯噛みしながら、フユシラズのポットカバーを見つめた。
 愛情って、そういうものかも知れない。たとえ、世間の常識とか法律に背いても、貫こうとするのが愛というものなんだ。 
 星子、胸がいっぱいになって、そっと息を吐いた。そして、悠木の横顔を見つめた。
「やっぱり、違ってたんだ、奥さんのこと……手にかけたりは……そうでしょ?」
「……」
「ほんとは、誰が奥さんを……もしかして、昔の男の人とか?」
「……」
 悠木、かすかに頷いた。
「坂田にしてみれば、ミキは裏切り者で殺人の目撃者でもある。生かせてはおけないだろう。だから、僕も必死に彼女を匿ってきたつもりだった。でも、とうとう見つかってしまって……僕が家を空けているすきに、ミキは坂田に殺されたんだ!……」
 悠木、拳を震わせた。
「だったら、宙太さんにどうしてそのことを……犯人は自分じゃないって……」
「僕は、ミキを守ってやれなかった。僕がミキを殺したのも、同じだ」
「悠木さん……」
「それにね、ミキが死んだんじゃ、三年前の強盗殺人の罪を法律で裁くのは難しい。ミキはただ一人の証人だったしね。だから、僕のこの手で坂田を裁くしか……ミキのためにも、それしかなかったんだ」
「……」
 そうまでいわれると、返す言葉が見つからない。
「……それで、坂田って人、今どこに……」
「明日の午後、ここへあらわれることになっている」
「えっ」
「昨日、奴とケータイで連絡が取れてね、こういったんだ、三年前のお前の犯行を裏づける証拠をミキから預かっている、返して欲しけりゃ、取りにこいって」
「証拠?」
「いや、そんなものはないさ。おびき出すための方便ってわけだ」
 そういうことですか。それにしても、そこまで深い事情があったなんて。
「君には、すまないと思っている」
 悠木、すまなさそうに星子を見た。
「逃げるチャンスがあったのに、ここまで付き合ってくれたのも、なんとか、僕のリベンジを止めたかったからだろう」
「ええ」
「でも、僕の気持ちは変わらないから。明日、奴がここへあらわれるまで、付き合って貰おう。そのあと、君を開放するから、美空君に電話するなり、パトカーを呼ぶなり、好きなようにしてくれ。いいね?」
 きっぱりといって、悠木、目を閉じた。
 もう、どうしようもないみたい。諦めの気持ちが、広がっていく。とにかく、最後までなんとか、頑張らないと。それしかない。
 宙太さん、私を見守っていて、お願いね。
 星子、そっと心の中でつぶやくと目を閉じた。
 しばらくたって、ふと、目が覚めた。窓の外は明るくなっていて、朝焼けの雲が水平線のほうへ広がっている。
「起きたかい」
 悠木が、星子に声をかけた。
「ちょっと、付き合わないか」
「え?」

                       (つづく)

追記 5000字を超えてしまうので、二回に分けます。よろしく。
 
 

全1ページ

[1]


.
星子&宙太yyy
星子&宙太yyy
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1
2 3 4 5 6 7 8
9 10 11 12 13 14 15
16 17 18 19 20 21 22
23 24 25 26 27 28 29
30 31

Yahoo!からのお知らせ

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事