|
3
「ハーイ、マイスィートハニィ」
宙太、ワイングラスを片手に星子に頬を寄せた。「今夜の君は、とても素敵だよ。蜂蜜をたっぷりとまぶしたホットケーキのようだ」
「あら、この前はホワイトクリームがたっぷりのイチゴケーキじゃなかったっけ」
「うん、君のチャームポイントは、夜な夜な変わるんだ」
「カメレオンってわけ」
「そう、愛のカメレオン」
「なんか、ヘン」
星子と宙太、にっこり。
毎晩ってわけじゃないけど、お二人さんのナイトタイムはこんなふうに甘―い雰囲気で始まる。
宙太、近頃大きな事件をいくつも抱えてすごく忙しい。なんせ、今じゃ特捜班のリーダーだし。でも、家庭には仕事の疲れとかトラブルは持ち込まない。我が家では、あったかくて、やさしくて、愛がたっぷりの良きダーリン、良きパパだ。
で、今夜も遅い帰宅にもかかわらず、ホットシャワーを浴びたあとで、二人だけのワインパーティ。星丸くんも宙美ちゃんも、気を効かせて、というか、夜は自分の時間ということで、別世界の住人になっちゃってる。
「でも、ほんとに大丈夫かい?」
宙太、ふと、真顔で星子を見つめた。
「え? なにが?」
「ほら、今夜帰ってきた時、出迎えてくれた君の顔色がイマイチだったよね。さっき、星丸や宙美に聞いたら、今日のママってちょっとヘンだって。なんか、あったわけ?」
「あ、うん……」
話そうと思ったけど、自分の気のせいかもしれないし、宙太も仕事で疲れてるだろうし。「ちょっと、風邪っぽかっただけ。もう、大丈夫」
「ほんとに?」
まだ心配顔の宙太に、星子、パッと抱きついた。
「んね?」
「よっしゃ!」
宙太、ワイングラスを置くと、星子をひょいと抱き上げてベッドへ。
「さぁ、スゥーツタイムのはじまりだぜ!」
そういいながら、ベッドにかけてあった蒲団をめくって体をすべり込ませたとたん、
「イタタッ」
宙太、星子を脇に降ろすと、尻をさすった。
「どうしたの、宙太さん?」
「どうもこうも、ほら!」
宙太にいわれてベッドを見た星子、アッと息をのんだ。
ベッドの上には、な、なんと、サボテンの小さな鉢がずらりと並べてある。星子が庭のテラスで育てている、サボテン達だ。
「ど、どうして、こんなところに……」と、茫然となった星子に、宙太、
「聞きたいのは、僕のほうさ。こんなことして、どういうつもりなわけ?」
「し、知らない、わたし、やってないから……」
「でもさ……」
そのとたん、急に目覚し時計がリリリッと鳴りだした。
「な、なんだよっ、こんな時間に」と、宙太が急いでスイッチを止めたけど、続けてラジカセから大音量で音楽が流れ出した。それも、昔、星子が大好きだったジャニーズ系の歌だ。
「うわっ」と、宙太、耳を押さえた。
星子が、大あわてでラジカセの電源を切った時だ。
――ウフフッ、キャハハッ……。
背後で、低い男の子と女の子の笑い声が聞こえた。
ハッと振り向くと、ソファの背後の壁にぼんやりと半透明のような小さな影が二つ、ゆらゆらと映っている。
「!……」
一瞬、星子、かたまった。
どうやら、その二つの半透明の影は子供のようだ。顔のあたりには白っぽく光る眼が、それも不気味に吊り上がっている。
星子、急に頭の中が真っ白になってよろけた。
(つづく)
追記 今日は、明け方からの雪で、現在、なんと十五センチも積っている。ほんとに、久しぶりの大雪だ。最近は滅多に積らないので、なんだか気持ちがそわそわしてしまう。
星子のショートホラー、もうしばらく続きますので、よろしく。
|