星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

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「ママ、ほんと?」
 宙美が、真っ赤なイチゴを水でそっと洗いながらいった。
「え、なにが?」
 星子ママ、キッチンテーブルでイチゴのヘタを取りながら振り向いた。
「ママはね、イチゴから生まれたって」と、宙美。
「うん、そうよ」と、星子ママ。
「おいおい、お二人さん」
 宙太が、スポンジケーキの下地を作りながら、苦笑いした。
「んなわけないだろ、まったく」
「でも、パパ、昔、いってたじゃん。ママはイチゴから生まれたんだ。だから、イチゴみたいに、甘酸っぱくてカワイイ女の子だったって。ね、お兄ちゃん? そういったよね?」
「うん、いったいった」
 星丸、生クリームをこねながら軽くウインクした。
「だから、ママの顔を見ると、いつも、ペロッと一口で食べたくなったって」
「あ、それはだな」と、宙太。
「ママってどんな人って、お前たちが聞くから。分かりやすくいっただけさ」
 ――そう、ずっと以前、星子が幼い星丸と宙美を置いてしばらく家を空けた時、ママを慕う二人を慰めようと、宙太がいって聞かせたお話だった……。
家族みんな、あの頃のことには触れないでいる。つらくて悲しいことには蓋をして、今の時間を大事にしようと心がけてきた。
歳月が、心のしこりを溶かすともいう。今ではもう星丸も宙美も大人になったし、星子ママのことも自分なりに理解しようとしていた。
――やさしい家族……。
もし、そんな言葉あれば、星子&宙太の家族もその一つだろう。
で、その家族の中心で光り輝く星子ママ、小さい頃からイチゴが大好きだ。だから、自分から「私は、イチゴの子供よ」といって、星丸と宙美を笑わせてきた。
いってみれば、イチゴは家族をつなぎとめる甘酸っぱいキイワード。
星子の誕生日に、家族みんなでイチゴケーキを作ることになったのも、そんなキイワードのお陰かもしれない。それも、一つや二つじゃない。5号の大きさで、十個。
なんせ、甘党のお客さんが大いし、しかも、皆さん、星子びいきということもあって、お義理でもイチゴケーキに付き合ってくれる。
そのゲストの面々は、もちろん、星子ファミリーの御一同様。マサル、ゲンジロウ、春之介、右京と左京、小次郎、タケル。
そして、準ファミリーともいうべきマサルの奥さんの早苗、息子のマサルjr。今も右京と恋人関係の亜利沙、春之介の養子の春太郎、独身のリツ子、そして、今では国立医大の外科主任教授を務める早乙女先生などだ。
左京と小次郎、タケルの三人は今も独身だったが、自称ジュニァの甥っ子や後輩たちがいた。
 もちろん、みんなが星子の誕生会にくるわけじゃないが、毎年、かなりの人数になる。準備のほうも、大変だった。
「さぁ、頑張らないと、間に合わないぞ」
 宙太が気合を入れた時だった。星丸の携帯電話が鳴りだした。
「カノジョからよ」
 すかさず、宙美がいった。
「ん、いるのかい、恋人が」と、宙太。
「やるじゃないの、さすがは俺の子。でかしたぜ!」
「宙太さんったら」と、星子、軽く睨んだ。
「いたら、ちゃんと紹介してるわよ。お兄ちゃんって、そういう子だし。ね、星丸?」
「もちろん」
 星丸、携帯電話を取り出しながら、頷いて見せた。「そもそも、僕、そういうことに興味ないから」
「第一、もてないしね、お兄ちゃん」と、宙美がクスッと肩をすぼめた。「見るのは、いつも医学書ばっかり。それじゃ、今時の女の子が寄りつかないの。分かった、お兄ちゃん?」
「うるさい」
 星丸、殴るゼスチャーで携帯電話片手にキッチンを出ていった。
「ま、そのほうがママは嬉しいかな」と、宙美、星子をニヤリと見た。
「宙美ったら、そんなわけないでしょ」
 星子、真剣な顔で宙美を見た。「お兄ちゃん、お医者様の卵になったわけだし、そろそろ、結婚のことも考えていい歳よ」
星丸、現役で医師の国家試験にも合格したし、今年の春から研修医になる。
「うふっ、ママったら無理しちゃって」
 宙美、星子の顔を覗き込んだ。
「お兄ちゃんが結婚したら、ママ、泣きの涙で寝込んじゃうわ、きっとね」
「そんなわけないでしょ。せいせいするわよっ」と、星子。
「あ、ムキになるからには、ズバリ正解なんだ」と、宙美。
「宙美っ」
「なによ、ママ」
「まぁまぁ、お二人さん」と、宙太、間に入った。
 星子と宙美、仲は良いが、すぐ角突き合わせる。星丸にいわせれば、宙美は星子ママのコピーだからだそうだ。
「星丸の心配より、宙美、お前はどうなんだ?」
「なにが?」
 宙太、咳払い。
「こ・い・び・と」
「あ、もちろん、いるよ」
 宙美がさらりと答えると、宙太の顔色、すとんと落ちた。
「ど、どんな奴だ? 仕事は? ルックスは? 性格はどうなんだ! おい、答えろ!」
「やだ、もう、そんなコワイ顔して。わたしの恋人はね、お仕事でーす」
 宙美、ニタリと笑ってみせた。
 宙美、大手旅行会社でツアコンをやっている。これも、星丸にいわせると、星子ママの旅女DNAを受け継いだってわけだ。
「ふーっ、おどかすなよ」
 宙太、ホッと胸をさすった。
「でも、仕事そっちのけで、いい恋さがしの一人旅なんてことにならないようにな。頼むよ、宙美ィ」
「うふっ、心配性ね、パパも。それでよくSP隊長が勤まること」
 じつは、宙太、現在は警視庁警護課でSP担当課長の役職についている。要人警護の重職で、滅多に休めないが、星子の誕生日に合わせて、久しぶりに休暇を取っていた。
「ほんとにもう、宙太さんたら」
 星子、くすっと笑った。「その調子じゃ、宙美ちゃんがお嫁にいったりしたら、寝込んで動けなくなるわね」
「それは、ハニィのほうじゃないの」
 宙太、負けじといい返した。「宙美のいう通り、星丸がお婿さんになったら、ノックアウトだな」
「ないナイ! それは、宙太さんのほうよ!」
「いいや、ハニィのほうだ!」
「宙太さん!」
「ハニィ!」
「んもぅ、パパ、ママったら」
 宙美があきれ顔で笑ったところへ、星丸が戻ってきた。
「僕、ちょっと出かけてもいいかな」
「え?」と、星子。
「電話、古賀さんからなんだ。ちょっと話があるんで、今から会えないかって」
 古賀采女は、佐々木教授のチームで働く外科レジデントだ。医大のテニス部で先輩だったこともあって、何かと星丸に目をかけてくれていた。医師国家試験に合格できたのも、古賀がつきっきりでサポートしてくれたからともいえる。
「そう、いってらっしゃい。こっちは、大丈夫だから」
「ごめん、パパ、いいかな?」
「ああ、いってこい。クルマ、使っていいぞ」
「ありがと」 
「古賀さんかぁ。私も会いたいな、カッコいいもん、あの人」
 古賀は何回かこの家にも遊びにきているし、宙美のお気に入りだった。
 宙美だけじゃない、ハンサムで爽やかで貴公子のような古賀には、星子も宙太も好感を抱いている。
「じゃ、花嫁候補に名乗りを上げますか?」と、星子。
「うん、そうする!」と、宙美。
「あ、おい」
 うろたえる宙太に、笑う宙美と星子だ。
 でも、星丸はぎこちなく微笑んでキッチンを出た。携帯電話の古賀の声が、かなり深刻そうな感じだったからだ。
 宙太から借りた車を運転して、待ち合わせ場所の青山のファミリーレストランへ。すでに、古賀は隅のテーブルに座っていた。
 午後の日差しを浴びた古賀の姿は、一瞬ハッとするくらい美しい。近くの席の若い女達が、ちらちらと秋波を送っている。
「すまない、呼び出したりして」
 古賀、額にかかる長い髪をかきわけながらいった。
「じつはね、どうしても君に頼みたいことがあって……いや、正直、君にしか頼めないんだ」
 古賀の表情は、かなり深刻だった。「なぁ、美空、お前、杏奈のこと……どう思ってる?」
「え?」
 いきなり、古賀の妹のことを聞かれて、星丸は戸惑った。
「どうって、どういう意味ですか」
「つまり、好きか、嫌いかって……」
「あ……」
 星丸、目を泳がせた。
 杏奈とは古賀の家に遊びに行った時に、何度か会っている。それこそ妖精のように美しく、もの静かで控えめで、お嬢様というイメージを絵にかいたような娘だった。今年の春、名門女子大を卒業したあと、医療法人理事長を務める父親の仕事の手伝いをするとのことだ。
もっとも、古賀家のテニスコートで手合わせした時には、別人のように華やかに跳び回り、弾けるように笑いながら強烈なサーブを何度も叩きこんできた。
その豹変ぶりに翻弄されたというか、女の子には滅多に心をときめかさない星丸も、すっかり心を奪われた。でも、その想いは胸の奥にしまって、医師国家試験の勉強に打ち込んできた。正直いえば、恋にはまだ慣れていないし、その分臆病だったかもしれない。
「いや、君が杏奈をどう思ってるか、僕なりに察しているつもりだ。君の性格もね。付き合い、長いからな」
「はぁ」
 いったい、古賀は何をいいたいのだ。星丸、困惑したまま、グラスを手に取った。
「じゃ、思い切っていうよ」
 古賀、切れ長の澄んだ目でまっすぐ星丸を見つめた。「杏奈と結婚してくれないか?」
「!……」
 星丸、思わずグラスを取り落としそうになった。
「……け、結婚?……って……」
「そう、杏奈とね」
「古賀さんっ……」
「いや、かたちだけでいい。結婚という形式っていうか、式を挙げて、婚姻届を出して、一緒に暮らして。それだけでいいんだ、それだけで」
「それだけって、結婚そのものじゃないですか」
 星丸、ちょっと憮然となった。
「そうじゃないさ」と、古賀はいった。「夫婦になれば、当然、一緒に寝ることになる。つまり、セックスする。それが、普通だろう」
「ええ」
「でも、その必要はない、ってことさ」
「はぁ?」
 星丸、呆気にとられた。
「必要ない?」
「というよりも、つまり、その……」
 古賀、口ごもった。
「つまり、なんです?」
「……出来ないんだ、杏奈のやつ……」
「出来ない?」
「男と寝ることがさ……」
「え?」
 よく、わからない。
 困惑している星丸に、古賀がいった。
「……あいつ、GLなんだ……」
「!……」
 からかわれているのか。
 あの妖精のような杏奈が、ひそかに想っていた人が、GL……。
 ――そんな……。
「嘘じゃない、ほんとの話なんだ……」
 古賀、沈痛な顔でいった。
「だったら……」
 星丸、なんとか気持ちを押さえながらいった。「はじめから、結婚なんて成立しないじゃないですか。杏奈さんだって、絶対に……」
「いや、杏奈には納得させる。さもないと、あいつは……自殺するはめに……」
「ええっ」
 星丸の心臓、はじけた。

                     (つづく)


追記1 プロローグではおどかしたけど、今回から本編です。星子&宙太のイチゴファミリー、よろしくです。

追記2 本日、web星子の第三作、第四作が新デバイス系電子図書より発信されました。さらに、今月より、毎月末にはスマートフォンでも読めるようになるとのことです。やっとですね。ありがたいことです。
 集英社デジタル出版の担当さんのお話では、web星子へのアクセスは、まぁ悪くはない、とのこと。これから、大きく伸びてくれるといいのですが。あとあとのためにもね。
 尚、担当さんの話では、ビジィにより二月分の発信はないとのこと。三月から、また正常の配信に戻るそうです。


                        (以上)

 

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