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「さぁ、飲んで、星子ちゃん」
春之介、カップに注いだコーヒーを星子の口元へ持っていった。
「……おいしい……」
程良い熱さのブラックコーヒーが、星子の体じゅうに染み透っていく。おかげで、気持ちが落ち着いて頭の中もすっきりしてきた。
「今朝早く、宙太さんから電話があってね、あなたの様子を見に来てくれないかって」
「そう……」
やっぱり、マイダーリン宙太さんだ。相手にされないと思っていたら、しっかり心配してくれていたわけね。
「つらかったでしょ、宙太さんや星丸クン、宙美ちゃんたちに分かって貰えなくて」と、春之介、いたわるように星子を見つめた。
「……ええ……」
「でも、あなたの幻覚とか錯覚じゃないから。たしかに、この家にはおかしなものが住みついてるわ」
「わかる、春ちゃん?」
「ええ、玄関を入った時から感じたの、妖気みたいなものをね」
春之介には、普通の人にはないテレパシーを感じる能力がある。「とにかく、あなたが体験したことを話してみて」
「ええ」
星子、頷くと、昨日からこの家で起きた気味の悪い出来事を詳しく話して聞かせた。
「そう、男の子と女の子が……そういうことだったの……」
春之介、声をひそませると、あたりへ目を配った。「今はおとなしくしているけど、どこかでじっとあたし達の様子をうかがってるはずよ」
「えっ」
星子、ゾッとしてカップを取り落としそうになった。
「あ、ダメダメ、こわがっては。きっと、相手はそれが狙いかも、つまり、あなたを恐がらせることがね」
「わたしを? どうして?」
星子、頬をこわばらせた。「恨んでるわけ、わたしを?」
「ううん、違うみたい」と、春之介。
「じゃ、嫌がらせ? それとも、からかってるとか?」
「そうとは思えないわ」
「じゃ、なによっ」
だんだん、腹が立ってくる。
「もしかすると、あなたに甘えてるのかもね」
「甘えてる?」
星子、憮然となった。「あれだけ、人をおどかしておいて、それはないわよっ」
そうよ、だとしたら、許せないっ。
「まぁまぁ、そう怒らないで」
春之介、なだめるように星子の手を握った。「迷子のわらしかも知れないから、堪忍してあげて」
「迷子の、わらし?」
きょとんとなった星子に、春之介、頷いて見せた。「座敷わらしって聞いたことあるでしょ。東北の民話に登場する子供の精霊で、座敷わらしが住む家は栄えるっていわれてるの。その座敷わらしの仲間が、道に迷ってこの家に住みついたんじゃないかしら」
「迷うって、どこへいくつもりだったわけ?」
「きっと、母親のところよ」
「母親?」
「ええ、星子ちゃんによく似ている人、あ、亡霊かな」
春之介、星子を見据えた。
「わたしに似てる亡霊? よ、よしてよっ」
「でも、他に考えられないわ。迷子わらしがここに居ついた理由も、あなたにしか見えない理由も、あ、もう一つ、あるわね」
「もう一つ?」
「迷子わらしは双子の兄と妹ってこと」
「えっ、じゃ、つまり……」
「そう、星丸くんと宙美ちゃんと同じカップルってわけ。これで、理由がすべて揃ったじゃない」
「!……」
もう、茫然もいいとこ。
「だけど、そうなると、恐いことになりそうね」
ふと、春之介の表情が曇った。
「え? なぁに、恐いことって?」
星子が気になって尋ねると、春之介、星子の耳元に囁いた。
「迷子わらしは、あなたを自分たちの母親に……」
「そんな、まさか!」
「いいえ、いたずらをして甘えてるのがその証拠よ。ああんたを自分たちの母親にするつもりなのよ」
「でも、わたしは星丸や宙美の母親よっ」
「だから、恐いことになるかも知れないのよ」
「恐いこと?」
「ええ、星丸くんと宙美ちゃんは、迷子わらしにとって邪魔な存在だし……」
「だから?」
「う、うん……」
春之介、口ごもった。
「はっきりいって、春ちゃんっ」
「……」
春之介、ちょっとためらったあとで、口を開いた。
「星丸くんと宙美ちゃんが危ないってこと、つまり、殺されるかも……」
「!……」
(つづく)
追記 本日も、かなり寒かったですね。星子ホラーのほうも、ゾーッとなるような恐い、でも、ちょっと悲しいお話にしたいのですが……。
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