星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

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「ん、ママからメールが?」
 星丸、広げた医学書から目を上げて宙美を見た。
 昼休みの校庭は、バスケをしたり、ふざけっこをしたり、談笑する生徒達でいっぱいだ。
その片隅の木陰のベンチで星丸が医学書を読んでいるところへ、宙美が声をかけてきたのだった。
「だって、珍しいんだもん、学校にいる時にママがメール寄こすなんて」
 そういいながら、宙美は携帯電話を握り締めた。
珍しいのは、宙美も同じだ。いつもなら学校ではほとんど星丸に声もかけず視線も合わさないのに、わざわざ自分から会いにくるなんて珍しいことだ。
「で、なんだって、ママ?」
「うん、今日はゆっくりしてきていいって。時間を気にしないでって。日頃、あんなにうるさいママがよ」
 そう、いつもは門限にはうるさい星子だった。
「そりゃ、助かるよね、ほんとはアツコたちから学校の帰りに原宿にいこうって誘われてたし。でも、ちょっと気になっちゃって……」
「……」
「なによ、お兄ちゃん、黙っちゃって」
「あ、いや、僕も同じようなメールを貰ってるから」
「お兄ちゃんも?」
 星丸、自分の携帯電話を取り出して、宙美に見せた。メールの画面には、「今日は予備校も休みでしょ。たまには、息抜きに映画でも見てきたら。」と書かれている。
「へんなの、合格するまでは映画禁止っていってたのにね」と、宙美、首をすくめた。
 じつは、星丸、映画が大好きだ。でも、難関の国立医大に合格するまでは禁止よと星子ママにいわれている。ほんとは、星丸の偏差値なら遊んでいても合格間違いないのだが。
「で、見に行くわけ、映画?」
「そう思ったけどね……」
「気になる、でしょ?」
「うん」
「やっぱり、おかしいよ、お兄ちゃん、なんかヘンだよ」
「……」
 星丸と宙美、不安そうに顔を見合った。
 ――その頃……。
「ね、星子ちゃん、いいの?」と、春之介、星子に小声でいった。
「なにが?」
「だから、宙太さんにメール……やっぱり、知らせておいた方がいいんじゃないの?」
「うん、でもね、今、大きな事件を抱えてるし、家のことで心配させたくなのよ。それに、春ちゃんがいてくれるしね」
 星子、春之介の手をそっと握った。
「そうか、そういわれるとね」
 春之介、星子の手を握り返すと、「じゃ、そろそろ、除霊をはじめますか」
「お願い」
 星子、すがるようにいった。
 可愛い我が子、星丸と宙美を救い、我が家の平和を取り戻すためにも、一刻も早く、あの双子の迷子わらしをこの家から追い出さなくてはいけない。
 春之介、カーテンを降ろした暗い部屋の中央のテーブルの上に水晶玉を置いた。そして、その回りにトゲだらけの薔薇の太い蔓を何重にも這わせ、その間に太い絵ろうそくを何本も挿して灯をつけた。赤く燃え上がったローソクには、薄気味の悪いトカゲや蛇、サソリ、ゲジゲジ、ネズミ、蛾などが浮かび上がった。
 部屋の隅で見ているだけでも、気分が悪くなってくる。
 つづいて、春之介、香炉を取り出して、灰に火をつけた。すると、硫黄の匂いの混じった生臭くて刺激臭の強い煙りが部屋中に立ち込めていく。
 星子、吐き気がして部屋から出ようとした。すると、春之介が、無言のまま星子を制して、椅子へ戻れと促した。たしかに、迷子わらしは星子を自分の母親と思いこんでいる。誘い出すためには、星子がいる必要があった。
星子、仕方なくソファに座りなおした。
すると、春之介、真っ黒いマントをすっぽりとかぶり、真っ黒な手袋をはめると、水晶玉に差し出して、なにやら呪文を唱え出した。
いつもの明るくて楽しくてやさしくて、ちょっぴりピントのずれた春ちゃんとは思えない、妖気に包まれた異様な姿だ。星子、茫然と見つめた。
どれくらい時間がたっただろう、水晶玉の中心部に青白い火花がチカチカときらめきはじめ、やがて水晶玉全体が強い光りを放ちながら回り出した。すると、立ち込めた煙が渦を巻き、部屋の中を大きく回転しはじめた。
その渦の中から、子供のうめき声とも泣き声ともつかない気味の悪い声が聞こえてきて、渦巻く煙の中に半透明に光る子供が二人、浮かび上がった。
双子の迷子わらしだ。
苦しそうにもがきながら、何か叫んでいる。
「……ママ……」
「……ママ、助けて……」
そう、二人が呼んでいるのはママの名前だ。星子のほうに顔を向け、手を差し出して、「ママ、助けて!」、「ママ!」と、泣き叫んでいる。
 星子、見ているうちにつらくなってきた。
「春ちゃん、もう、やめて……かわいそうよ、お願いだから……ね、春ちゃんぅ」
 でも、春之介はやめようとしなかった。
「星子ちゃん、二人の目を見ては駄目。どんなに泣かれても、絶対に駄目よ。いいわね!」
「春ちゃん……」
 そう、ここでへんに同情なんかしてはいけない。もしかしたら、双子わらしの悪だくみかもしれない。きっと、そうだ。
星子、いわれたとおりに目をそむけた。
 でも、双子わらしの苦しそうな泣き声は、さらに高まっていく。
「ママ、助けて! 苦しいよっ」
「お願い、ママ、助けて!」
「ママ! 僕たちを見て!」
「ママ! こっちを見て、おねがい!」
「ママ!」
「ママ!」
 二人の声に、星子、今にも頭がおかしくなりそうだ。耳を押さえ、うずくまり、なんとか耐え続けた。
 そのうち、双子わらしの声はしわがれた老人の声に変わり、切り裂かれるような悲鳴とうめき声をあげていく。
 星子が恐る恐る目をやると、双子わらしは目がつり上がった恐ろしい形相になり、ヒヒヒッ、ケケケッとざらつくような笑い声を上げ始めた。
「ふっ、俺たちを追い出せると思ってるのかい」
「そんな除霊がきくもんか。こっちは、からかってやっただけさ」
「そーら!」
 双子わらしがパッと両手を差し出すと、水晶玉はガシャッと砕け飛んだ。そして、春之介の体はふっとんで壁に叩きつけられ、そのまま、崩れ倒れた。
「は、春ちゃんっ」
 星子、茫然と立ちすくんだ。
 すると、その前に双子わらしがスーッと舞い降りてきた。
「ママ、どうして僕たちを追い出そうとしたんだい?」
「そんなに邪魔なわけ、あたしたちが?」
 双子わらし、恐ろしい目で星子を睨みつけた。でも、その目にはどことなく涙のようなものが光っている。
「……あ……」
 星子、必死に気持ちを話そうとした。でも、口は動かないし、体も金縛り状態になっている。
「だったら、僕たちが入れ替われるだけさ。星丸と宙美を呪い殺して、僕たちが代わりの子供になればいいわけだ」
「そういうことね」
 双子わらし、不気味に微笑んだ。
 ――ああ、やっぱり、春ちゃんの心配した通りだった。星丸くんと宙美ちゃんに遅く帰るようにメールしておいてよかった。ほんとに、良かった……。
 あとは、なんとかわたしの手で双子わらしを追い出そう。それしかない。
 星子、そう心に決めた瞬間だった。
「ママ、ただいま!」
「ママ、帰ったけど」
 玄関から、星丸と宙美の声が聞こえてきた。
「!……」
 
                          (つづく)


追記1  お目ざわりだったでしょう。あと一回ほどで終わる予定です。ご容赦下さい。


追記2  星子の「聖地巡礼」、やっぱり、スタートは長崎ですよね。その昔、第一話をアニメ化した時も、星子と長崎の街の風景が良く似合っていましたっけ。今度は、平戸とか五島列島のほうにも足をのばしてみたいです。星子にぴったりの風景がたくさん見つかるんじゃないのかな。
 そうそう、星子「聖地巡礼」には、ぜひ、京都も。そして、札幌もぜひ。あららっ、どんどん増えていく。 
 

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