星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

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1―4

同時に暗がりにスポットライト。伍三郎がハモニカを手にぬっと立っている。
星子「あっ」
悲鳴を上げて戻ろうとするが、うろたえて何かに躓いて転んでしまう。
伍三郎、星子を抱え起こす。
伍三郎「大丈夫かい、お嬢さん?」
ハッと、とびのく星子。
伍三郎「脅かして悪かった。そんなつもりじゃなかったんだ。お前さんに謝ろうと思ってな。でも、ほんと、そっくりでな、雰囲気っていうか、歌ってる姿が……」
星子「歌手、だったんですか、そのヒト……」
伍三郎「浅草の歌姫なんて呼ばれてさ、鶯か雲雀のようにきれいな声で歌うって評判だったぜ」
星子「浅草……あ、昔のSKDとか……」
伍三郎「知ってるのかい?」
星子「あ、はい、わたし、ミュージカルが好きで、子供の頃は宝塚とかSKDに憧れてたものですから……」
伍三郎「そうかい、そうかい。でも、ちょっと違うんでね。浅草オペラ,レビュウともいうが」

音楽、浅草オペラ的な曲。スクリーンに、オペラの舞台や浅草の賑わい等。

星子「浅草オペラ、あ、それって大学の授業で習いました。戦前っていうか、大正時代とか昭和の初め頃に、浅草で大衆向けのオペラとかレビューがはやったって」
伍三郎「そう、一頃は大変な賑わいだった。田谷力三、藤原義江、高田せい子、安藤文子大衆オペラの大御所様よ。お前さん、どこで歌の勉強したんだ?」
星子「音大です。そこの……でも、勉強のほうはあんまり……すいません」
伍三郎「いいのいいの、歌さえうまけりゃな。夢乃なんか、ろくに学校も出ていないんだぜ。(笑って)そうそう、俺もな、コーラスボーイとして舞台で歌ってたんだ」
星子「ほんとに?」
伍三郎「仲間には、後の大スター・エノケンもいたんだ。同期の桜だぜ」
星子「エノケ、ン?」
伍三郎「知らない? そうか、そうだろうな、もう、ずっと遠い昔の話だもんな。でも、あの関東大震災さえなけりゃなぁ……」
星子「でも、あ、ちょっと、待って下さい……」
伍三郎「ん?」
星子「浅草オペラって、大正時代の……」
伍三郎「うん、関東大震災があったのは、大正12年9月1日、西暦でいうと1923年だ。今から約90年前だな」
星子「!……」
伍三郎「当時、俺は48歳だった。つまり、現在は……数えてみるかい?」
星子「!……う、う……」
伍三郎「うそでしょ、だろ? おう、長寿記録でギネスに乗ってるぜ。なんて、俺が生きていればの話さ」
星子「えっ」
伍三郎「といって、死んでいるわけでもない」
星子「そんな!」
伍三郎「生きてる世界と死んでる世界の間を、漂っているクラゲさん。どっちの世界にも帰れずに、ふわふわ。〽あきらめなされや、ふわふわ、ふわふわーっ〽」
おどけて歌ってみせる、伍三郎。
星子、キッとなって、
星子「からかわないで下さい!」
伍三郎「別に」
星子「いいえ、からかってる、わたしを! わたしの歌が下手だから、内容がないから、あきらめろ、あきらめなされって!」
激しく詰め寄る、星子。
伍三郎、ふっと深い吐息をつく。
伍三郎「そうかい、あきらめ節、お前さんにはそんなふうにしか聞こえないのかい。そうかい……」
星子「え?」
伍三郎「だったら、所詮、俺はその程度の歌い手だってことだよなぁ。情けねぇ。悲しいねぇ、まったく……歌う世直し大明神、やっぱり、無理だったか……」
星子「歌う世直し、大明神?」
伍三郎「争いのない万民平等の世界を歌と芝居で作る、歌う世直し大明神の伍三郎様よッ……と、こう見えを切ったもんだがなぁ。聞こえてくるのは、空っ風の音ばかり。惚れた女にも、そっぽを向かれちまってさ……」
星子「ごめんなさい、わたし、ちょっといい過ぎたみたい……」
伍三郎「いいってことよ。謝るのは、俺のほうさ。お前さんの歌う姿が夢乃に似ていたばっかりに、つい、この世に姿を見せちまって。覗いているだけにしておけば良かったのによ……」
星子「……」
伍三郎「さてと、これ以上迷惑をかけないうちに、クラゲの世界に帰るとしますか」
星子「あ、ちょっと……夢乃さんって、どんなかたですか? なんなら、わたしが代わりに探しても……」
伍三郎「いや、あんたには関係ない。男と女の世界のことよ。ま、今にわかるだろうが、お日様が出ているのに真っ暗闇。一寸先は地獄とくる。せつないよなぁ」
星子「……」
伍三郎「あんた、夕顔の花、好きかい?」
星子「え? ええ……」
伍三郎「そうかい、やっぱりな。あいつも好きだったぜ、夕顔がな……」
星子「!……」
伍三郎「(ふと、振り向き)あ、俺の名は西沢伍三郎だ。あんたは?」
星子「星子です。流星子。流星の子って書きます」
伍三郎「流星の子かい。いい名前だ。辛抱すれば、きっと、今に世に出られるぜ」
星子「いいえ、無理です。わたしには、才能が……ううん、愛を歌いたくても、愛そのものが信じられないんです!」
伍三郎「(見据えて)よほど、辛い思いをしたらしいな、その若さで……」
星子「……」
伍三郎「一つだけいえるのは、歌はこころよ。こころのありようってことさ。いいかい?」
伍三郎、「あきらめ節」を歌いながら、ふらふらと奥へ。不気味に光るスクリーンがあらわれる。轟々たる風の音。
星子「あ、待って!」
伍三郎「(強く)くるんじゃねぇ! 生身の人間のくるところじゃねんだ! いいか!」
伍三郎、奥のスクリーンの向こうへ消える。
星子、茫然と立ちすくむ。
その直後、宙太がカラオケスナックのドアから飛び出すと、
宙太「星子さん! どうしたんだ?」
星子「……伍三郎……」
宙太「あ?」
星子「そういってた、あの人、自分は西沢伍三郎だって……」
宙太「伍三郎?」
星子「わたし、いかなきゃ……伍三郎さんに、聞きたいの……」
宙太「なに?」
星子「そうよ、聞かないと、歌のこころを……」
宙太「ちょ、ちょっと! どうしちゃったんだ? 星子さん!」
星子、宙太の手を払いのけて、スクリーンに向かって走る。
宙太「わっ、星子さん! 待ってくれ!」
必死にあとを追う、宙太。そのまま、星子と一緒にスクリーンの向こうへ吸い込まれるように消える。
風の音に混じって、宙太の悲鳴。



(つづく)

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同時に暗がりにスポットライト。伍三郎がハモニカを手にぬっと立っている。
星子「あっ」
悲鳴を上げて戻ろうとするが、うろたえて何かに躓いて転んでしまう。
伍三郎、星子を抱え起こす。
伍三郎「大丈夫かい、お嬢さん?」
ハッと、とびのく星子。
伍三郎「脅かして悪かった。そんなつもりじゃなかったんだ。お前さんに謝ろうと思ってな。でも、ほんと、そっくりでな、雰囲気っていうか、歌ってる姿が……」
星子「歌手、だったんですか、そのヒト……」
伍三郎「浅草の歌姫なんて呼ばれてさ、鶯か雲雀のようにきれいな声で歌うって評判だったぜ」
星子「浅草……あ、昔のSKDとか……」
伍三郎「知ってるのかい?」
星子「あ、はい、わたし、ミュージカルが好きで、子供の頃は宝塚とかSKDに憧れてたものですから……」
伍三郎「そうかい、そうかい。でも、ちょっと違うんでね。浅草オペラ,レビュウともいうが」

音楽、浅草オペラ的な曲。スクリーンに、オペラの舞台や浅草の賑わい等。

星子「浅草オペラ、あ、それって大学の授業で習いました。戦前っていうか、大正時代とか昭和の初め頃に、浅草で大衆向けのオペラとかレビューがはやったって」
伍三郎「そう、一頃は大変な賑わいだった。田谷力三、藤原義江、高田せい子、安藤文子大衆オペラの大御所様よ。お前さん、どこで歌の勉強したんだ?」
星子「音大です。そこの……でも、勉強のほうはあんまり……すいません」
伍三郎「いいのいいの、歌さえうまけりゃな。夢乃なんか、ろくに学校も出ていないんだぜ。(笑って)そうそう、俺もな、コーラスボーイとして舞台で歌ってたんだ」
星子「ほんとに?」
伍三郎「仲間には、後の大スター・エノケンもいたんだ。同期の桜だぜ」
星子「エノケ、ン?」
伍三郎「知らない? そうか、そうだろうな、もう、ずっと遠い昔の話だもんな。でも、あの関東大震災さえなけりゃなぁ……」
星子「でも、あ、ちょっと、待って下さい……」
伍三郎「ん?」
星子「浅草オペラって、大正時代の……」
伍三郎「うん、関東大震災があったのは、大正12年9月1日、西暦でいうと1923年だ。今から約90年前だな」
星子「!……」
伍三郎「当時、俺は48歳だった。つまり、現在は……数えてみるかい?」
星子「!……う、う……」
伍三郎「うそでしょ、だろ? おう、長寿記録でギネスに乗ってるぜ。なんて、俺が生きていればの話さ」
星子「えっ」
伍三郎「といって、死んでいるわけでもない」
星子「そんな!」
伍三郎「生きてる世界と死んでる世界の間を、漂っているクラゲさん。どっちの世界にも帰れずに、ふわふわ。〽あきらめなされや、ふわふわ、ふわふわーっ〽」
おどけて歌ってみせる、伍三郎。
星子、キッとなって、
星子「からかわないで下さい!」
伍三郎「別に」
星子「いいえ、からかってる、わたしを! わたしの歌が下手だから、内容がないから、あきらめろ、あきらめなされって!」
激しく詰め寄る、星子。
伍三郎、ふっと深い吐息をつく。
伍三郎「そうかい、あきらめ節、お前さんにはそんなふうにしか聞こえないのかい。そうかい……」
星子「え?」
伍三郎「だったら、所詮、俺はその程度の歌い手だってことだよなぁ。情けねぇ。悲しいねぇ、まったく……歌う世直し大明神、やっぱり、無理だったか……」
星子「歌う世直し、大明神?」
伍三郎「争いのない万民平等の世界を歌と芝居で作る、歌う世直し大明神の伍三郎様よッ……と、こう見えを切ったもんだがなぁ。聞こえてくるのは、空っ風の音ばかり。惚れた女にも、そっぽを向かれちまってさ……」
星子「ごめんなさい、わたし、ちょっといい過ぎたみたい……」
伍三郎「いいってことよ。謝るのは、俺のほうさ。お前さんの歌う姿が夢乃に似ていたばっかりに、つい、この世に姿を見せちまって。覗いているだけにしておけば良かったのによ……」
星子「……」
伍三郎「さてと、これ以上迷惑をかけないうちに、クラゲの世界に帰るとしますか」
星子「あ、ちょっと……夢乃さんって、どんなかたですか? なんなら、わたしが代わりに探しても……」
伍三郎「いや、あんたには関係ない。男と女の世界のことよ。ま、今にわかるだろうが、お日様が出ているのに真っ暗闇。一寸先は地獄とくる。せつないよなぁ」
星子「……」
伍三郎「あんた、夕顔の花、好きかい?」
星子「え? ええ……」
伍三郎「そうかい、やっぱりな。あいつも好きだったぜ、夕顔がな……」
星子「!……」
伍三郎「(ふと、振り向き)あ、俺の名は西沢伍三郎だ。あんたは?」
星子「星子です。流星子。流星の子って書きます」
伍三郎「流星の子かい。いい名前だ。辛抱すれば、きっと、今に世に出られるぜ」
星子「いいえ、無理です。わたしには、才能が……ううん、愛を歌いたくても、愛そのものが信じられないんです!」
伍三郎「(見据えて)よほど、辛い思いをしたらしいな、その若さで……」
星子「……」
伍三郎「一つだけいえるのは、歌はこころよ。こころのありようってことさ。いいかい?」
伍三郎、「あきらめ節」を歌いながら、ふらふらと奥へ。不気味に光るスクリーンがあらわれる。轟々たる風の音。
星子「あ、待って!」
伍三郎「(強く)くるんじゃねぇ! 生身の人間のくるところじゃねんだ! いいか!」
伍三郎、奥のスクリーンの向こうへ消える。
星子、茫然と立ちすくむ。
その直後、宙太がカラオケスナックのドアから飛び出すと、
宙太「星子さん! どうしたんだ?」
星子「……伍三郎……」
宙太「あ?」
星子「そういってた、あの人、自分は西沢伍三郎だって……」
宙太「伍三郎?」
星子「わたし、いかなきゃ……伍三郎さんに、聞きたいの……」
宙太「なに?」
星子「そうよ、聞かないと、歌のこころを……」
宙太「ちょ、ちょっと! どうしちゃったんだ? 星子さん!」
星子、宙太の手を払いのけて、スクリーンに向かって走る。
宙太「わっ、星子さん! 待ってくれ!」
必死にあとを追う、宙太。そのまま、星子と一緒にスクリーンの向こうへ吸い込まれるように消える。
風の音に混じって、宙太の悲鳴。



(つづく)

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