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――いんらん姫じゃあ――
「開けて! 開けてったら!」
星子、ベッドルームのドアをバシバシ叩きながら叫んだ。
早くしないと、宙太、『星子』に××されちゃう。
え? ××って何だって?
イチイチ説明しないでも、わかるだろうが。このカマトトオンナめ!
でも、いくら叩いても返事はない。ドアノブをガチャガチャ回そうとしたけど、中からしっかりと鍵がかかっている。
と、ドア越しに甘ったるい音楽が聞こえてきた。ベッドタイムにはぴったりのムーディなラブソングですよ。
た、大変だっ、いよいよ、宙太さんがあの『星子』と!
「ダ、ダメよっ、宙太さん! しっかりして! お願い!」
星子、宙太の名前を呼びながらドアを叩いた。だけど、まったく、反応なし。
まさか、もしかして、もう、××が、はじまっちゃったりして。
ウギャーッ! アギャーッ!
よからぬ光景が、あ、よからぬ光景ってなんだろ、好きな相手とならよか光景ってことになるのかな、フム。
なんて、なに、脱線しとるんじゃぁ!
星子の頭の中、真っ白なものがグルグルと渦を巻いて、今にも爆発しそうだ。
もう、宙太さんを止めることはできないのかも……。
がっくりきた星子、その場にへたへたと崩れかけて、ん?
目の前で、ゴンベエが偽の、というか、『星子』が連れてきた『ゴンベエ』と仲良くハンバーガーを食べている。
どうして、ケンカしないんだろ。ハンバーガーを取り合って当然なのに。
けげんそうに見つめていると、ゴンベエと『ゴンベエ』、体が重なって一つに……目の錯覚かなと思って目をこすったけど、ゴンベエは一匹にしか見えない。
もしかして、お互い、同じドラ猫キャラだし、すんなりと合体したのかも。
これって、一種の超常現象なんだろうか。つまり、そっくりさんがいるんじゃなくて、自分の中の別人格が、何かの原因でこの世に現れたわけ。それが、あの『星子』なんだ。
きっと、そうよ。そういえば、『星子』のヤツ、こんなこといってたっけ。
「わたしは、裏星子。あなたと背中合わせにくっついた、影のあなた」って。
そうなるとですよ、星子も『星子』と同じキャラを持ってるってことで、気持ちが通じれば一つに……。
だったら、わたし、裏星子、影の星子になればいい。そうすれば、ゴンベエと『ゴンベエ』のように一つに合体出来るかもしれない。つまり、宙太と合体しかけた『星子』を宙太から引きはがせる。
でも、やれる自信ある? 見えないところにインランキャラが隠れているのかもね。
真面目な話、わたしだって、お年頃でございます。本能っていうか、無意識っていうか、そっちのほうの気持ちがあって当然だよね。引きはがせずに、そのまま、星子、宙太と合体してしまうってことも……。
え? それでもいい?
ちょ、ちょっと、なにいわせるの!
とにかく、とにかくですね、他に方法はなさそうだし、一か八かやってみよう。それしかないっ。
星子、目を閉じると、心の中で叫んだ。
「わたしは、悪女。男を虜にする、悪女……悪女のわたしは、一つになる、一つに……」
じきに、体の芯が熱くなり、なんともいえない快感が体中に広がり始めた。
その快感に身を任せていると、体が渦に巻かれたように回り始め、何かにスーッと吸い込まれていく、
……まるで、空を飛んでいるよう……。
うっとりしながら両手を広げた時、生温かいものが星子を抱きしめてきた。
「ん……」
なんだろう、とっても、温かくて柔らかく、すべすべしていて、でも、力強くてたくましい感触だ。そして、熱い吐息が星子の胸元から襟首のほうへ心地良く吹いてくる。
……うーん、気持ちいい……誰かに抱かれているみたい……。
星子、そっと目を開いた。
そこには、宙太の顔が……そして、むき出しになった肩や胸が、淡い照明に浮かび上がった。
(つづく)
追記 それにしても、今日の夕立は物凄かった。あちこちのマンホールから水柱が噴き上がり、車の運転もままならない状態でした。自然の恐ろしさ、女の子の恐ろしさを、あらためて知った思いです。ん、なんのこっちゃ!
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新星子一人旅「長崎恋旅は魔女特急
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――いんらん姫じゃあ――
「やだ、きまってるじゃん、わたし、星子よっ」
って、そんな!
わたしは、ここにいる。ここにいるんだっ。
星子、何とか気持ちを落ち着かせようと深呼吸した。
訪ねてきたのは、ニセモノにきまっている。たとえ、声はそっくりでもニセの星子なんだ。
「宙太さんっ、わたしにまかせて! ニセモノは、わたしがこの手で捕まえてやるから!」
「ま、待てよ。まだ、ニセモノときまったわけじゃ……誰も知らないはずのこの部屋を知ってたり、フロントに気づかれないでここまでこれたこといい、なんか、不思議なんだよな……」
宙太、首を傾げた。
「そんなこと、どうでもいいの! とにかく、とっ捕まえるのが先よ! さ、早くドアを開けて! ゴンベエ、お前もスタンバイだよッ!」
星子にいわれて、ゴンベエ、イマイチ気が乗らない声でフニャァと鳴きながらリュックから這い出ると、ドアの脇で身構えた。
「じゃ、開けるよ」
宙太、かなり緊張した顔でドアノブを掴み、恐る恐るドアを開けた。
そのとたん、だった。
ひゅーっとつむじ風のように飛び込んできた女の子が、宙太に抱きついた。
「!……」
その女の子、顔も髪型も服装も今現在の星子とそっくり。しかも、背中にはリュックを背負い、ゴンベエそっくりのドラネコが顔を出しているじゃないですか。
どういうこと、どうなってるわけ。
星子がそれこそ茫然自失、フリーズ状態で立ち尽くしていると、女の子――取りあえず『星子』と呼びますか――宙太にかじりついたまま、いきなり、唇を宙太の唇に……それも、やんわりなんてものじゃない、宙太の首を引き寄せてブチュッと強烈なディープキッスをした。
「わ、わっ」
星子、思わず悲鳴。
だって、ありえない、宙太にキッスなんて。
ううん、そもそも、星子、キッスはまだ未体験だ。今時、遅れているかもしれないけど、とにかく、未体験なのだ。
ところが、自分とそれこそ瓜二つの女の子が、今自分の目の前で宙太の唇を食らいつくようにキッスしている。
頭の中が真っ白どころか、今にも気絶してしまいそう。
宙太も、タレメをぱちくりさせながら、我に返ったようにもがいた。
「……く、苦しい……い、息が……は、離してくれ……」
でも、『星子』、離れない。ディープキッス状態のまんま。
宙太、なんとか逃れようと、さらにもがいた。でも、そのうち、動きがにぶくなり、もがくのをやめた。
どうしたんだろ、まさか、窒息でも……と思ったら、ん、宙太の腕が『星子』の背中に……苦しそうだった表情も、とろんと溶けたようになって、目尻も一層だらしなくだらんとなっている。
『星子』、ちょっと唇を離して宙太の耳元にフーッと息を吹きかけた。
「気持ち、いい?」
「うん」
宙太、目を閉じたまま答えた。まさに恍惚状態だ。
「わたしが、欲しい?」
「うん、欲しい」
「わたしも。あなたが、欲しい。思いっきり、愛して」
『星子』、もう一度、宙太の耳に息を吹きかけた。
「いいとも、おまかせを」
宙太、でれっと笑うと、『星子』を抱いたまま歩きだして、奥のドアを……そこは、ベッドルームだ。カーテンを開けはなった窓辺には豪華で大きなダブルベッドが置かれ、艶かしい雰囲気があふれている。
――美しい湾岸の夜景を見ながら、あんなステキなベッドで愛し合うなんて、もう、サイコー……。
なんて、バカなことかんがえるわけないでしょっ。
わけのわからないニセモノ星子に、そんなことさせてたまるもんか。
星子、はじけるように走って、宙太の腕を掴んだ。
「宙太さんっ、しっかりして! 宙太さんたら!」
でも、宙太、恍惚状態のまんま。
こうなったら、この手で引き離すしかない。星子、宙太と『星子』の間に強引に割り込んだ。
「ちょっと、あなた! 宙太さんから離れなさいよっ。離して! ひっぱたくから!」
「そんなことしても、無駄ね」
『星子』、しゃくるように星子を見て薄く笑った。目はキラキラと妖しく光り、唇は赤くねっとりと濡れている。まるで、さかりのついたセクシイ魔女のようだった。
星子、たじろぎながらもいった。
「どうしてよっ」
「だって、わたしはあなた」
「え?」
「わたしは、もう一人のあなたなの。裏星子っていったほうがいかもね」
「う、裏星子?」
「い・ん・ら・ん」
「いんらん?!」
「そう、普段のあなたからは見えない影のあなた。でも、あなたと背中合わせにくっついているわけ。だから、あなたには、どうにも出来ないの」
「ええっ」
なんのことか、さっぱりわからない。
星子が戸惑っているうちに、『星子』は宙太と抱き合ったままベッドルームへ入った。
「あっ」
あわてて止めようとした星子の眼前で、ドアはガチャリと閉まった。
「!……」
(つづく)
追記 梅雨真っ盛りですね。くれぐれもご自愛ください。
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今日の女子フュギァを観ていて、感じたこと。それは、結局、形よりも命の表現に尽きるのではないだろうか。「せつなさ」と「蠱惑」、そして、「情念」。少女から大人の女への脱皮、飛躍。それを氷上の舞いでどう表現したのか。 |
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