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あこがれの人、ほんとの初恋の人、疾風涼が殺し屋だったなんて……茫然となった星子の耳に、激しい怒鳴り声がとびこんできた。
「茜! お前、あの男を知っているのか!」
茜の夫が、けわしい顔で茜を睨みつけている。さっきまでの穏やかな画家とは別人のような、恐ろしい顔だった。
「いったい、どういう男なんだ!」
「……」
「黙っていないで、答えろ! おい、茜!」
思わず星子がちじみあがるほど、茜の夫の声には凄みがある。
それでも、茜が黙っていると、
ピシッ!
いきなり、茜の夫の平手打ちが、茜の頬に飛んだ。
「あっ」
茜、よろけてその場に崩れた。
ひどい!
もう、ちじんでなんかいられない。星子、夢中で駆け寄って、茜を抱き起こした。
「大丈夫ですか!」
茜の唇が切れて、血がにじんでいる。
「んもぅ、なんてことするんですか!」
星子、猛然と噛みついた……なわけないけど、そんな勢いで茜の夫を睨みつけた。
「なんだね、おじょうチャン?」
茜の夫、けげんそうに星子を見た。
「なんだもこんだもないわ! 引っぱたくなんて、サイテエよ!」
「いってくれるね。でも、おじょうチャンには関係ないことだ。さ、ママのところへお帰り」
茜の夫、薄笑いを浮かべた。
これには、星子、完全にぶっちぎれた。
「ヒトを子ども扱いして! もう、許せない! ゴンベエ、お仕置きだよ!」
いわれたゴンベエ、ガッテンだ、姐御! とばかり、リュックからとびだして、茜の夫に……と、思ったら、一瞬早くサングラスのボディガードに首を掴まれて、ヒョイと放り投げられ、植込みの中へ。
星子も、襟首を掴まれて、「く、くるしいっ」
そのまま、連れ出されようとした時、ふいに、ボディガードの手が離れて、星子、ドスンとしりもちをついた。
顔をしかめながら見上げると、宙太がボディガードの腕をねじり上げているじゃないですか。
「オレのハニィをいじめるヤツは、地獄に墜ちるぜ! なんちゃって、シシシッ」
「て、てめぇ!」
サングラスのボディガード、宙太の手を払いのけようとしたが、ビクとも動かない。宙太のスリムな体のどこにこんな力があるのか、ほんと、不思議だよね。
宙太、ボディガードの腕をねじり上げたまま、茜の夫をじっと見据えた。
「ふむふむ、どこかで見た顔だなと思ったら、そうか! R貿易の黒木専務……というのは、表の顔で、裏の顔はヤバイ組織の大幹部……でしょ?」
「なんだ、貴様は?」
「シツレイ、こういう者でして」
宙太、ポケットから警察手帳を取り出して、チラリと見せた。
瞬間、茜の夫……黒木の顔色がサッと変わった。
「ご高名は、しかと、うかがっておりますよ、ハイ」
宙太、ニヤリとしながらいった。
「たしか、密輸のからんだ殺人事件で、一旦は逮捕されながら、先月、証拠不十分で保釈になったんでしたっけね」
「……」
「そのあなたに、こんな所でお会いできるとは。いや、じつは、僕、手配中の男をつけて、はるばる、この長崎まできたんですがね、まさか、あなたがターゲットだったとは。オドロキモモノキ、リンゴノキなんちゃって」
相変わらず、くだらないダジャレマンの宙太である。
「そのあたりの事情はあとでうかがうとして、その前に、奥さんにあやまって欲しいな」
「あんたには、関係ないことだ!」
「いやいや、大ありですよ。僕にとって女性はすべて大切な宝モノ。その宝モノを叩かれて、黙っていたんじゃオトコがすたる、これ、ホント! さ、しっかりとあやまってもらいましょうか!」
カッコイイ、宙太さん!
星子、思わず拍手だ。
ところが、黒木、ふっとせせら笑った。
「こいつが、女房だ? 笑わせるな! ただの人形だよ!」
「人形?」
「そうとも! それも、出来損ないのな! そんな人形をいくら叩こうと殴ろうと、オレの勝手だろう! わかったか!」
「そ、そんな!」
星子、もう、今にもバクハツしそうな顔で黒木を睨みつけた。
(つづく)
追記 星子シリーズって、やっぱり、書いていて楽しい。いろいろと大変だけど、それでも、楽しいんだよね。しばらくぶりにそんな気持ちを味わっている、というより、皆さんのお陰で味あわせてもらっている山浦です。ガンバリマス!
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