|
17
――ふーっ……。
星子、横になったまま、大きく息を吐いた。
あ、横になっているといっても、病院のベッド、とかじゃないから、ご安心を。なんのことはない、我が家のソファの上でございます。
え? 天川光さんに、殺されかけたんじゃなかったのかって?
たしかに、あの時は危なかった。
春之介がかけつけて、
「やめて! 星子ちゃんから手を離して! 承知しないから!」
と、必死に叫んだけど、天川光さん、もう、すっかり、逆上してしまって、まるで、聞く耳を持たない状態だった。それどころか、花束を投げ捨てた手に、ナイフを握り、わたしに突きつけた。
もう、ダメかな。いつもなら、
「ハーイ、ハニィ! おまっとうさん!」
そういいながら、宙太さんが助けにきてくれるけど、今回は無理よね。だって、宙太さんにウソをついちゃったんだから。
まさに、自業自得。反省しても、遅い。
ゴメンナサイ、宙太さん、いつもわたしにあんなにやさしくしてくれるのに、わたしったら。許してね。もし、助かったら、今度こそ、あなたの愛を素直に受け入れるから。
でも、とても、助かりそうもないか。
クスン、と、星子があきらめかけたその時、だった。
ナイフが、天川光さんの手から、ナイフがすべるように離れて、足元に落ちた。同時に、星子を掴んでいた手から力が抜けた。
星子がけげんそうに見ると、天川光さん、
「……すまない……」
と、つぶやいた。
「どうしたんだ、僕は……どうかしているよ……」
「えっ」
「君のことを逆恨みしたりして……僕のために、一生懸命になってくれたのに……その君を……許してくれっ」
「そんな……」
星子、大きな瞳で天川を見据えた。
「だったら、一つ、約束して下さい」
「約束?」
「ええ、明日の手術、がんばるって……どんなにつらくても、奇蹟を信じて、がんばるって!」
「君……」
天川、大きくうなずいた。
「わかった、君のいうとおりだ。このままじゃ、僕も死ぬわけにはいかない。きちんと、罪をつぐなわないと……きちんと……」
「天川さんっ」
「そうよ、その通りよ! それで、いいのよ!」
春之介、ホッとしたように星子を見た。
「よかったわね、星子ちゃん、ほんとに、よかったわ!」
春之介の目には、涙が浮かんでいる。
相変わらず、感激屋さんの春ちゃんだ。
と、天川が星子にいった。
「じゃ、僕は今から自首するから……」
「自首を?」
「うん、手術を受ける前に、けじめだけでもつけておかないと……」
「いや、その必要はないな」
ふいに、噴水の向こうから宙太の声がした。
星子がハッと見ると、噴水の向こうに二つの傘が……ちかづいてきたのは、宙太とマサルだった。
「宙太さんっ、マサルさん!」
星子も春之介も、あ然となった。いつの間にか、きていたってわけだ。
宙太、やおら、天川に警察手帳を見せると、
「けじめは、もう、オタクが自分でつけたんだ。早いとこ、入院して手術にそなえたほうがいいぜ。そうしろよ。んなっ」
「はい……」
天川、素直にうなずいた。
これで、もう、安心だ。星子、ホッと息を吐いたあとで、宙太を睨んだ。
「なによ、きてたの!」
「とうぜん」
宙太、にやりと笑った。
「ハニィがどこにいようと、僕ちゃん、しっかりとお見通しさ。今回は、ハニィの気持ちを汲んで隠れていただけ。いざって時は、いつでも、飛び出せるように、マサル君と待機していたんだ。んな、マサル君よ」
「そういうこと」
マサル、うなずくと、
「でも、うるさかったぜ、警部ドノは。二言目には、星子さん、大丈夫かな、俺がそばにいないとヤバいんじゃないか、って」
「お、おいっ」
宙太、照れたように苦笑いした。
うれしい! やっぱり、宙太さんだ。キッスしてあげたい。
でも、星子、気持ちとは反対に、
「んもぅ、うざいんだから。ほっといて!」
と、まぁ、こういうことで、一件落着。
翌日、天川光さん、手術を受けて、今のところ、経過は順調とのこと。星子も、我が家でのんびりと寛ぐことが出来たってわけ。
ほんとは、宿題をやらなきゃいけないんだけど。ついつい、旅行ガイドブックに手が延びて、さて、つぎはどちらへ……と、思案していると、
フニャーゴ。
ん、ゴンベエが封筒をくわえてきた。
宛名は、星子。差出人は、銀河ワタルと書いてある。
はて、誰かしら。
封筒を開けて手紙を広げると、いきなり、とびこんできた文字が、
「ああ、僕の愛しのハニィ! 星子! 君なしでは、僕は一日も生きてはいけない。君を連れて銀河の果てまで飛んで生きたい! そして、二人で輝く星になろう! 愛の明星になるんだ! マイハニィ、星子!」
うひゃーっ、モーレツなラブレターじゃないの。
さては、宙太さんが書いたのでは。きっと、そうよ。
星子、クスッと笑った。笑いながら、そっと、手紙にキッスをした。
追記 今回で、完結です。お付き合い頂き、どうも、有難うございました。これからも、星子はいい恋を求めて旅を続けることでしょう。どこかで出会ったら、声をかけて上げて下さい。あ、ヤマウラサンもなんとか生きているようだよ、と、メッセージよろしくです。
昨日の東京大空襲200Xのプロット、読んでくださって有難う。機会があれば、もっと手を加えて映画化したいですが、夢物語かも……でも、夢を見続けるのもいいかな……。
今夜から暴風になるようです。この世にとりついた悪霊を吹き飛ばして欲しいです。
|