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「ちょっと、ね、あの、どこまでいくんですか?……」
星子、不安そうに一乗寺の彫りの深い横顔を見た。
でも、一乗寺は黙ったままハンドルを握っている。
車窓は真っ暗、時々、遠くに家や外灯の明かりが見えるだけだ。すれ違う車は、ほとんどない。
星子が一乗寺の運転する車に乗ってから、もう、一時間近くたっている。一乗寺の話では、桂木美鈴って人は、京都御所の近くのマンションに住んでいるはずなのに。今、車が走っているのは、街を離れた山里のようだ。
どうも、おかしい。なにか、変だ。
「ね、一乗寺さん、いったい、どこへ……黙っていないで、答えてください!」
星子が強い口調でいうと、一乗寺、いきなり、ブレーキを踏んで、エンジンを切った。
「いけないよな、まったく」
そういいながら、一乗寺、煙草をくわえてライターで火をつけた。一乗寺の顔には、薄笑いが浮かんでいる。
「いけないって、なにがですか? あ、わたし、タバコはきらいなんですけど」
星子、不愉快そうに唇をとがらせた。
でも、一乗寺、平然と煙草の煙りをはきながら、いった。
「近頃の女の子は、一声かけると、すぐ、男のクルマに乗ってくる。ほんと、いけないぜ。警戒心がゼロだもんな」
「は?」
星子、一瞬、きょとんとなった。
「だって、あなたが桂木美鈴って人の所へ連れて行ってくれるって……」
「あ、それって無理な話だな」
一乗寺、にやりと笑った。
「ユウレイの住んでる所へ案内出来るわけがないだろ」
「ユ、ユウレイ?」
「そ、桂木美鈴なんて女は、はじめから実在していない、つまり、俺が適当にいっただけさ」
「そんな! どうして、ウソをついたんですか!」
星子、キッと睨んだ。
でも、一乗寺、平然としたままだ。
「きまってるだろ、君のようなカワイ子ちゃんを食べちゃうためさ」
「食べる?」
「はい、イタダキマス!」
そういいながら、一乗寺、煙草を灰皿に押しつけると、いきなり、星子の肩に腕を回して、グイッと引き寄せた。タバコ臭い顔がグッと迫ってくる。
「や、やめて!」
星子、必死にもがきながら、合気道の腕前を見せてやろうと、一乗寺の腕を逆にひねり上げようとした。でも、ダメ。一乗寺の腕の力は、かなり強くて、まるで、通用しない。
「ゴンベエ、助けて! 早く!」
ガッテンだぜ、姐御。と、ばかり、ゴンベエ、リュックから飛び出そうとしけど、一乗寺、すかさず、窓を開けて、リュックごとゴンベエを外へ放り投げた。ゴンベエ、立ち木にガチンと頭からぶつかり、一撃でダウンだ。
まったく、もう、役立たずが。
星子、ムカッ、なんて、余裕はない。一乗寺の腕が助手席のシートレバーを引き、星子の体はシートごと仰向けに倒れこんだ。
すかさず、一乗寺の体が星子の上に覆いかぶさってきた。
「おとなしくしろ! さもないと、この顔がズタボロになるぜ!」
一乗寺の手には、いつの間にか、ナイフが握られている。
星子、さすがに凍りついたように動けなくなった。
ああ、なんてこと。一乗寺の美形顔にだまされたわたしが浅はかだったんだ。
いつもなら、こういう時、宙太さんが助けてくれるんだけど。こんなことなら、まかずに連れてくればよかった。
なんて後悔しても遅い。哀れ、星子はオオカミの餌食に……と、思った瞬間、
ガチャン!
派手にクルマの窓ガラスが割られて、手が突っ込まれた、と思うと、一乗寺の襟首を掴み、ドアを開けて、外へ引きずり出した。
誰だろ? 宙太さん?
星子が目を凝らすと、人影は助手席側に回って、ドアを開け、星子の体を抱えるようにして、外へ連れ出した。
「星子チャン、大丈夫だった?」
ちょっとハスキーでセクシーなその声は……。
「は、春ちゃん!」
そう、相手は春之介だった。
(つづく)
追記1 家元御曹司ハルチャン、満を持しての登場です。さて、どうなりますやら。ま、あまり、変わらないと思うけどね。
ところで、今日、ファンクラブ「JOKER!」の会報誌を送っていただきました。相変わらず、皆さん、スグレモノでツワモノのおねぇさま達です。ラブ短編が満載だっ。オレより、上手い! く、く、くっ。とにかく、チャンスがあったら、読んであげてください。老兵は消え行くのみ、だぜ、ヤマチャン。
そうそう、ラブっていえば、新宿のテアトルタイムズスクエアでやっている映画「つぐない」。こ、これはいいです! 今年で一番のオススメです。不肖ヤマウラ、ひさしぶりに泣いた! なんという、せつない恋だろう! あの傑作「イングリッシュペイシェント」をしのぐスケールの大きな映画でした。
でも、出来れば、恋人と一緒に観にいきたかった。くくくっ。こっちの泣きは、もっと泣けるぜ。
追記2 前回ちょい出しの、リツ子に他校の番長が惚れたって話、いつか、番外編で描いてみようかな、と、思ったんですが。どんなものですかね。もちろん、主人公はリツ子サンでね。鼻持ちならない子だけに、かえって、オモロイんではないかな、と。惚れた番長もかわいそうだよね。
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