星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

ハートレターは悪魔の切手で

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              12

「ちょっと、ね、あの、どこまでいくんですか?……」
 星子、不安そうに一乗寺の彫りの深い横顔を見た。
 でも、一乗寺は黙ったままハンドルを握っている。
 車窓は真っ暗、時々、遠くに家や外灯の明かりが見えるだけだ。すれ違う車は、ほとんどない。
 星子が一乗寺の運転する車に乗ってから、もう、一時間近くたっている。一乗寺の話では、桂木美鈴って人は、京都御所の近くのマンションに住んでいるはずなのに。今、車が走っているのは、街を離れた山里のようだ。
 どうも、おかしい。なにか、変だ。
「ね、一乗寺さん、いったい、どこへ……黙っていないで、答えてください!」
 星子が強い口調でいうと、一乗寺、いきなり、ブレーキを踏んで、エンジンを切った。
「いけないよな、まったく」
 そういいながら、一乗寺、煙草をくわえてライターで火をつけた。一乗寺の顔には、薄笑いが浮かんでいる。
「いけないって、なにがですか? あ、わたし、タバコはきらいなんですけど」
 星子、不愉快そうに唇をとがらせた。
 でも、一乗寺、平然と煙草の煙りをはきながら、いった。
「近頃の女の子は、一声かけると、すぐ、男のクルマに乗ってくる。ほんと、いけないぜ。警戒心がゼロだもんな」
「は?」
 星子、一瞬、きょとんとなった。
「だって、あなたが桂木美鈴って人の所へ連れて行ってくれるって……」
「あ、それって無理な話だな」
 一乗寺、にやりと笑った。
「ユウレイの住んでる所へ案内出来るわけがないだろ」
「ユ、ユウレイ?」
「そ、桂木美鈴なんて女は、はじめから実在していない、つまり、俺が適当にいっただけさ」
「そんな! どうして、ウソをついたんですか!」
 星子、キッと睨んだ。
 でも、一乗寺、平然としたままだ。
「きまってるだろ、君のようなカワイ子ちゃんを食べちゃうためさ」
「食べる?」
「はい、イタダキマス!」
 そういいながら、一乗寺、煙草を灰皿に押しつけると、いきなり、星子の肩に腕を回して、グイッと引き寄せた。タバコ臭い顔がグッと迫ってくる。
「や、やめて!」
 星子、必死にもがきながら、合気道の腕前を見せてやろうと、一乗寺の腕を逆にひねり上げようとした。でも、ダメ。一乗寺の腕の力は、かなり強くて、まるで、通用しない。
「ゴンベエ、助けて! 早く!」
 ガッテンだぜ、姐御。と、ばかり、ゴンベエ、リュックから飛び出そうとしけど、一乗寺、すかさず、窓を開けて、リュックごとゴンベエを外へ放り投げた。ゴンベエ、立ち木にガチンと頭からぶつかり、一撃でダウンだ。
 まったく、もう、役立たずが。
 星子、ムカッ、なんて、余裕はない。一乗寺の腕が助手席のシートレバーを引き、星子の体はシートごと仰向けに倒れこんだ。
 すかさず、一乗寺の体が星子の上に覆いかぶさってきた。
「おとなしくしろ! さもないと、この顔がズタボロになるぜ!」
 一乗寺の手には、いつの間にか、ナイフが握られている。
 星子、さすがに凍りついたように動けなくなった。
 ああ、なんてこと。一乗寺の美形顔にだまされたわたしが浅はかだったんだ。
 いつもなら、こういう時、宙太さんが助けてくれるんだけど。こんなことなら、まかずに連れてくればよかった。
 なんて後悔しても遅い。哀れ、星子はオオカミの餌食に……と、思った瞬間、
 ガチャン!
 派手にクルマの窓ガラスが割られて、手が突っ込まれた、と思うと、一乗寺の襟首を掴み、ドアを開けて、外へ引きずり出した。
 誰だろ? 宙太さん?
 星子が目を凝らすと、人影は助手席側に回って、ドアを開け、星子の体を抱えるようにして、外へ連れ出した。
「星子チャン、大丈夫だった?」
 ちょっとハスキーでセクシーなその声は……。
「は、春ちゃん!」
 そう、相手は春之介だった。


                                (つづく)



追記1  家元御曹司ハルチャン、満を持しての登場です。さて、どうなりますやら。ま、あまり、変わらないと思うけどね。
 ところで、今日、ファンクラブ「JOKER!」の会報誌を送っていただきました。相変わらず、皆さん、スグレモノでツワモノのおねぇさま達です。ラブ短編が満載だっ。オレより、上手い! く、く、くっ。とにかく、チャンスがあったら、読んであげてください。老兵は消え行くのみ、だぜ、ヤマチャン。
 そうそう、ラブっていえば、新宿のテアトルタイムズスクエアでやっている映画「つぐない」。こ、これはいいです! 今年で一番のオススメです。不肖ヤマウラ、ひさしぶりに泣いた! なんという、せつない恋だろう! あの傑作「イングリッシュペイシェント」をしのぐスケールの大きな映画でした。
 でも、出来れば、恋人と一緒に観にいきたかった。くくくっ。こっちの泣きは、もっと泣けるぜ。

追記2  前回ちょい出しの、リツ子に他校の番長が惚れたって話、いつか、番外編で描いてみようかな、と、思ったんですが。どんなものですかね。もちろん、主人公はリツ子サンでね。鼻持ちならない子だけに、かえって、オモロイんではないかな、と。惚れた番長もかわいそうだよね。

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               11

 うーん、いつきても京都はいいですねぇ。
 なんて、ちょっと、オバサンっぽい感想を一言。
 星子、京都の町の薫りをかぐように、鼻をクンクンさせた。もっとも、駅前の雑踏の匂いはどこでも同じなんだけどね。京都っていう地名がつくだけで、どこか、違うような気がして。
 と、背中のリュックでゴンベエがフニャーゴ。
 そうか、のんびりしちゃいられないんだ。もう、時計は夜の九時近い。早いとこ、動かないとね。ありがと、ゴンベエ。
 え? ほんとは、腹がへったから鳴いただけ?
 あら、まぁ、かんにんどっせ、ドラネコはん。
 星子、ウインクでごまかすと、京都駅構内にある観光案内所へ向かった。さすがは京都、この時間でも観光客が何組もいて、ホテルや旅館、観光バスなんかを案内してもらっている。
 星子、応対してくれた係の人に、
「今年の下鴨神社の流し雛祭りの写真とか、ありますか」
 と、聞いてみた。
 すると、やったね。係のヒト、観光の宣伝用にちゃんと写真を撮って、ファイルに保管してある。
 で、見せてもらうと、下鴨神社の境内を流れる川のほとりで、神主さんがお祓いしたあと、お内裏様の格好をした男の人と女の人が、藁で作った丸い小舟に雛人形を乗せて、川に流す光景が何枚も写っている。
 そのうちの一枚には、女雛の格好をした若い女の人の顔がはっきりと……。
星子、思わず、
「わぁ、きれいなヒト……」
 と、うっとりと見つめた。
 お姫様のお化粧はしているけど、うりざね顔の典型的な京美人タイプですよ。本物の女雛も、ちょっと、かないそうもない。
「この女雛の役をやったのは、どういう人なんですか?」
 星子が聞くと、
「たしか、京都の美術学校の生徒さんですよ」
「美術学校!」
 どうやら、蔵屋敷をスケッチしていた赤いリボンの帽子の女の子に間違いなさそうだ。
 よかった! 
「で、名前とか、住んでいる所とか……」
 星子、意気込んで聞いたけど、
「さぁ、そこまでは、わかりませんね」
 と、係の人、首を振った。
 ザンネン、あと少しなのに。こうなったら、下鴨神社へいって聞いて見ますか。でも、この時間じゃ、社務所も閉まっていて、ダメかもね。
 仕方ない、今夜は京都に泊まって、明日、いってみることにしよう。
 こうなることも予想して、両親には、「リツコんちに泊まって、試験勉強を教えてもらうから」と、新幹線の車中からメールを入れてある。もちろん、リツコには、万一、親から問い合わせの電話があったら、
「うまくごまかせよっ。さもないと、助けてやらないからねっ」
 と、イッパツ、おどしをきかせてある。
 助ける、っていうのは、リツコ、最近、他校のワルガキ番長に、なぜか、惚れられて、しつこく、言い寄られているわけ。おかしいよね、うふっ。
 ま、それはともかく、
 さて、どこに泊まろうかな、予算もないし……と、ため息をついた時だ。
 ポンと背後から肩を叩かれた。
 振り向くと、男の姿が……ま、まさか、宙太さん?
 でも、違ってた。違ってよかった!
 カッコイイーッ!
うん、まさしく、美形そのもの。
スラリと背が高くて、彫りの深い、細面の顔の額に長い髪が……その下から、澄んだ瞳が星子を見下ろしている。小脇に抱えているのは、スケッチブックのようだ。
「あ、あ、あのぅ……」
 何か、用でしょうか、と、聞こうとしたけど、声がもつれて、うまくいえない。
 すると、美形さん、
「君、カノジョに会いたいのかな」
 と、きれいな声でいった。
「カノジョって……」
「女雛の役をやった女の子だよ、名前は、桂木美鈴さんっていうんだけどね」
「し、知っているんですか?」
「うん、僕の同級生なんだ」
「ど、同級生!」
 星子、とびあがった。
 ついている。もう、カミサマに感謝だ。
「で、その桂木美鈴って人、どこに住んでいるんですか?」
「御所の近くのマンションだ。一人で暮らしているんだよ。今頃は、アトリエで一生懸命絵を描いているんじゃないのかな。なんなら、連れていってあげようか?」
「お願いします!」
 星子、すがるように見上げた。
「あ、僕は一乗寺っていうんだ。よろしく」
「わ、わたし、流星子っていいます。流星の子って書くんです」
「流星の子の星子さんか、いい名前だね」
 一乗寺さん、微笑んだ。その笑顔が、また、一段とステキ。
 こんなに、とんとん拍子でいくなんて。それも、超の字がつく美形さんが案内してくれるとはね。
 星子、わくわくしながら、一乗寺のあとから歩き出そうとした。
 と、ゴンベエが、リュックの中で唸り声をあげた。
 悪い予兆を感じると、ゴンベエ、よく、こんなふうに唸り声をあげる。
 でも、今の星子には、ただ、うるさいだけだった。



                                  (つづく)



追記 今夜も寒くて、いやになりますね。心が寒いせいか、余計、こたえます。お互い、風邪をひかないように気をつけましょうね。それにしても、中国の大地震、恐ろしいことですね。東京も、いつ……考えたくないですが……。

             10

「ふむ、今のところは大丈夫ってわけね、ゴンベエ」
 星子が聞くと、ゴンベエ、フニャーゴとうなずいて見せた。
 ご主人様のご命令、というより、ご褒美のハンバーガー食べたさに、車内をくまなく探してみたってわけ。
 え? 車内ってナニ? なにを、さがしてるわけ?
 車内というのは、東海道新幹線の「のぞみ」号。現在、西へ向かってつっぱしっている。
 あれ? 信州にいたんじゃなかったっけ?
 それがですね、星子、急きょ、東京へ戻ったあと、今度はのぞみ号に飛び乗り、京都へ向かうことになった。
 すでに、陽はとっぷりと暮れて、夜汽車の旅です。切符のほうはカード払いだけど、あとで、どかんと請求書がくるだろうな。どうやって両親からせしめるか、考えると頭が痛くなる。
 それにしても、なんで、京都へ? そのわけは、流し雛の一件がからんでいる。
 星子、蔵屋敷の管理人のオバサンから、「赤いリボンの帽子の女の子は、今年の流し雛祭りでお内裏様の役を演じた」と聞いたわけ。でも、具体的に、どこの雛祭りなのか、まではわかっていない。
 さぁ、困った。流し雛祭りは、最近、日本の各地で行われている。その中で、お内裏様役の女の子を登場させるのは、どこの流し雛祭りなんだろう。
 でもって、図書館へ行って……。
 え? 星子さんが図書館へ? めずらしい! 明日は、雪だぜっ。
 ウルサイ! ま、とにかく、こんなことでもないと、図書館なんて縁のない所ですけどね、うふっ。
で、星子、流し雛祭りのことをパソコンのネットで調べてみた。そうしたら、京都の鴨川のほとり、下鴨神社で三月三日に、なんと、平安時代の頃から続く、盛大な流し雛のお祭りがあるそうな。そのお祭りの風景を映した写真も何枚かのっていて、その中に、お内裏様の格好をした男女が、川にお雛様を流している光景が写っている。
「こ、これだわ、きっと!」
 ネットに載っている写真は二年前のもので、今年のお祭り風景とは違う。今年の写真が見たい。赤いリボンの帽子の女の子が、お内裏様の格好で移っている写真をね。そうすれば、女の子の身元も。きっと、わかるはずだ。
 というわけで、星子、京都へ……。
 でも、いざ、出かけようとした時、ハッとなった。
 ちょっと、待ってよ。もしかすると、宙太とマサルさん、あたしの動きに不審感をいだいて、こっそり、見張っているかも……。
  そうはさせないから! 宙太さんやマサルさんにはわるいけど、今回ばかりは、敵と味方です!
 ということで、ゴンベエに二人が乗っていないかどうか、調べさせたってわけ。
 ま、一応、乗ってはいないようだけど、安心は出来ないよね。
 星子、気持ちを引き締めた。
その一方で、ふと、不安感がこみ上げてくる。
もし、違っていたらどうしよう。時間もあまりないし、調べ直すのが難しくなってくる。
 お願い、カミサマ、いじわるしないでね。
 星子、暗い車窓の彼方に光る灯を見つめながら、つぶやいた。


                          (つづく)




追記  昨日、渋谷のルシネマで「ラフマニノフ 愛の……」を観て来た。ラフマニノフの大ファンであるわたし、期待して見たけど、残念ながら……もう、欲求不満もいいところです。ああ、とろけるようなラブロマンの映画が見たい! と同時に、とろけるようなラブロマンを書けるような作家になりたかった。今度生まれかわったら、きっと!
きっと!  ……きっと……。

 9

「アヤシイな、ふむ、やっぱり、あやしいぞ」
 宙太、そういいながら、星子の顔をのぞきこんだ。
「な、なにがよっ」
「カワイ子チャンは、ウソがつけない。ハニィの顔が、ハイって答えてるよ」
「んもぅ、だから、なにが!」
「だからさ、知っているんだろ」
「だれを?」
「きまってるじゃん、この男をさ」
 宙太に宮本竜也の顔写真をつきつけられて、星子、ギクッ。
「ほら、やっぱり」
 宙太、にんまり。
「会ってるんだ、ここで」
「会ってなんかいないわよ」
 これ、ホント。
 でも、宙太、
「ごまかしても、ダメ。今年の春休み、星子さんはここを訪ねている。この想い出ノートに君の名前と住所がしっかりとメモってある。その時、ハニィは……」
「たしかに、わたしが書いたわ。だけど、この人には会っていないったらっ」
「じゃ、どうして、そんなうろたえた顔をするんだい?」
「どうしてって、つまり、もしかしたら、あの人のことかなって……」
「あのヒト?」
「わかっているのは、名前だけなんだ。それも、偽名なの……」
「偽名?」
「天川光……」
「アマノガワヒカル?」
 宙太とマサル、顔を見合った。
「でも、星子さん、その男とどういうかかわりがあるんだ?」
 マサル、星子を見据えながら聞いた。
 甘さの中にも、クールで鋭いものを秘めた目だ。
 そんな目で見られると、ウソつけなくなっちゃう。
「それがね……」
 星子、ラブレターの一件を話そうとして、
 ちょ、ちょっと、待ったぁ。
 宙太の話だと、逃走中の宮本竜也は自暴自棄になって自殺する恐れがあるとか。でも、赤いリボンの帽子の女の子に恋したお陰で、今のところは手術を受ける気持ちになっている。
 もし、星子があのラブレターのことを宙太とマサルに話したら、二人は逮捕に向かうだろう。そうなったら、きっと、ヤケになって自殺を……その恐れは、十分ある。
 それを防ぐには、天川光サン、ううん、宮本竜也さんを追い詰めないこと。せめて、手術を受けるまでは、秘密にしておきたい。
 ということで、星子、
「イタズラのメールの差出人、そいつの名前なの。もう、アタマきちゃう」
 と、どうにか、ごまかした。
「そうか……」
 マサル、半信半疑の顔だ。
 宙太も、うさんくさそうな目で星子を見ると、
「で、ここへきたわけは? もしかして、そのイタズラメールのカレに会いたくて……」
「ちがうっ」
 星子、顔を真っ赤にしていった。
「リピーターよっ。もう一度、蔵屋敷の町並みを見たかっただけ。それだけよ!」
「ふーん、そうですか。それはまた、シツレイしました。ハニィのことだし、てっきり、いいオトコの面影を探しにきたのかと……どうも、どうも」
「わかったんなら、さっさと、仕事したら!」
「わかりました、ハイ!」
 宙太、おどけて敬礼すると、マサルをうながして立ち去った。
 ふーっ、やれやれだ。
 宙太さんやマサルさんの仕事を邪魔することになったけど、これも、竜也って人を助けるためだ。
 ごめんなさい、宙太さん、マサルさん、カンニン。
 さ、とにかく、早く、赤いリボンの帽子の女の子を見つけないと。
 手がかりは、流し雛で有名な土地に住んでいること。そして、絵が上手なこと。
 でも、それだけでは、足りない。もっと、決め手になるようなヒントが欲しい。
 でもって、星子、さっきの管理人のオバサンに、もう一度、聞いてみた。
 あまり、期待はしていなかったけど、オバサン、どうにか、一つだけ思い出してくれた。
「そうそう、こんなこといってましたっけ……今年の流し雛のお祭りで、お内裏様の役をやらせてもらったって……」
「お内裏様の役を……」


                               (つづく)



追記  今夜から、続きをスタートさせます。よろしくです。
 ところで、昨日のブログで僕は甘えを知らないなんて書いたけど、なんのことはない、このブログで皆さんに甘えている。そいて、皆さんに甘えてもらいたがっている。ほんとに、喰えないオヤジだ。ごかんべんを。ま、仲良くやりましょうや。
 すぐ、そうやって、ごまかす!
 ワルイねこちゃんですね。あれ?
 

 

              8

「おんや、また、お会いしましたね、ハニィ。やっぱり、ボクチャンとハニィは、一本の糸で結ばれているんだ」
 ニッコリとウインクした宙太に、
「ふん、よくいうわね、わたしのあとをつけてきたくせに」
 星子、キュートな唇をとがらせた。
「とんでもない、仕事でここへきただけさ」
「なにが、仕事よっ」
「ほんと、ほんと。マサルくんと一緒なのが、何よりの証拠さ。んな、マサルくんよ」
「――」
 マサル、研ぎ澄まされた精悍な顔でうなずいてみせた。
「俺たち、殺しのホシを追っているんだ」
「コ、コロシ?」
 星子、背筋がゾーッ。
「そ、その犯人が、ここへ……」
 宙太、うなずいた。
「うん、目撃者があらわれてさ、あんず祭りの頃、稲荷山の蔵屋敷で見かけたって。丁度、ここで雛人形展をやっていた時だそうだ」
「そう……」
「ハニィも、その頃、ここへきているんだろ。ひょっとして、見かけたかもしれないな」
「わたしが? でも、別にそんなこわそうな人は見かけなかったと思うけど……」
「あ、殺しのホシだからって、ゾンビや狼男のような顔をしているわけじゃないぜ。とくに、このホシは、光源氏も顔負けの美形とくる」
 宙太、そういいながら、ジャケットのポケットから一枚の写真を取り出して、星子に見せた。
「名前は、宮本竜也。二十三歳。横浜のクラブのバンドでギターを弾いているんだ」
 ふーん、バンドのギターリストですか。コロシという言葉には、縁のない仕事だよね、と、思いながら、その写真を見たとたん、星子、頭の中がクラクラッ。
 なるほど、まさに、美形そのものじゃないですか。鼻筋の通ったうりざね顔に、愁いを帯びた切れ長の目。りりしい唇。しかもですよ、単なる美形ではなく、知性と教養にあふれた顔立ちだ。
 こ、こんな美形のギターリストにラブソングなんか弾かれたら、もう、ダメ、即、昇天しちゃいそう。
「こ、この人、ほんとに、人殺しなの?」
 星子が、うわずった声で聞くと、
「うん、それも、わけありのね」
「わけあり?」
「半年ほど前の話だけどさ、この男の妹がレイプされた挙句、殺されたんだ。まだ、十六歳の女子高生だった。この男にとって、妹はたった一人の肉親でさ、三年前、交通事故で亡くなった両親に代わって苦労しながら育ててきたんだ。その妹を殺したのは、なんと、バンドの仲間だった。怒り狂った彼は、その仲間を……」
「殺したのね……」
「うん」
 つらい話だよね、ほんと。
「こういうホシを捕まえるのは、しんどい仕事だけどさ、罪は罪だ。それに、早く捕まえないと、自殺の恐れが……」
「自殺?」
「じつは、彼、重い心臓病にかかっているんだ」
「心臓病に……」
「手術しても、ほとんど、助かる見込みはないらしい。それで、やけを起こして、自殺する可能性が高いわけさ」
「……」
 星子の顔から、スーッと血の気が引いていった。
 もしかして、この美形のギタリストは、ラブレターをくれた天川光という人では……。そうよ、きっと。


                            (つづく)



追記  なんだか、さえない連休を過ごしております。このつづきは、連休明けということで、よろしく!

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