星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

番外らぶっす

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番外らぶっす・20

                    20

 おととい手術したばかりで、まだ、安静にしていなくてはいけないのに、無茶もいいところだ。  
 スタンドもグランドも、ざわめき、試合は一時中断となった。その間に、花太郎、ベンチまでくると、監督にペコリと会釈して、何やらいった。監督、ダメだと首を振ったけど、
花太郎、懸命に頼んでいる。
「どうやら、自分をピンチヒッターにしろって、頼んで、いや、おどかしているらしいな」
 宙太、苦笑いした。
「そんな!」
 心配を通り越して、ただもうあきれるばかりの星子だ。
 いくらなんでも、監督が承知するはずがない、と思っていたら、なんと、監督、主審に「ピンチヒッター!」と、告げたじゃないですか。
 ああ、なんてこと。場内が騒然とする中、花太郎、バットを持ってバッターバックスへ、そして、巨体をグイッとピッチャーへ向けて、大きく素振りをすると、「さぁ、こい!」と、構えた。
 並みのピッチャーならビビるところだけど、相手は指折りの高投手だ。負けじと睨み返すと、速球を投げ込んだ。
 空振り!
 花太郎の顔が、苦痛に歪んだ。
「やっぱり、無理よ! やめて、花太郎さん!」
 星子、たまらずに叫んだ。
でも、花太郎、痛みをこらえながら、再び、バットを構えた。
ピッチャー、第二球を投げた。
またもや、空振り!
同時に、「うっ」と、花太郎の口からうめき声が漏れ、顔もさらに大きく歪んだ。
「ヤバイな」
宙太、さすがに心配そうに見た。
「細井くん! やめさせて! お願い!」
 星子の声が聞こえたのか、細井は監督の指示を貰って花太郎に駆け寄った。
 だが、花太郎、「うるせぇ!」と、細井を突き飛ばし、バットを構えた。しかし、顔色は真っ青で痛みを必死にこらえている様子だ。足と腰も、力を失って今にも崩れそうだった。
 ピッチャーのほうは、余裕で三振を取れると見たのか、笑みを浮かべて、振りかぶった。
 ああ、もう、オシマイ。
 星子ががっくりと肩を落とした時だ。センター後方のあたりから、笛の音が聞こえてきた。
 美しい、澄み切った音色だ。
 思わず聞き惚れながら、一体、だれが、こんな時に吹いているんだろうと、目をこらすと、バックスクリーンの陰から、着物姿の人影があらわれた。
「!…り、リツ子っ…」
 そう、その人影はリツ子だった。長い髪を風になびかせながら、横笛を吹いている。いつもの、小生意気なメガネ顔のセーラー服姿からは想像も出来ないような、神秘的なまでに美しい姿だった。
 リツ子って、ほんとは、あんなにきれいなんだ。
 でも、応援なんかには絶対に行かない、と、いったはずなのに。だから、もう、リツ子とは絶交したのに。
「花太郎くんの熱い気持ちが、やっと、リツ子さんに届いたらしいな」
 そうつぶやく宙太に、星子、うなずいた。
 なんだか、胸の中が熱くなってくる。でも、一番、嬉しいのは花太郎だ。
 さっきとは別人のようにエネルギッシュで晴れやかな顔で、ギュッとバットを握り締めた。そこへ、ピッチャーが決め球のフォークボールを投げた。
 大きく曲がり落ちたボールは、まるで、魔球のようだ。だが、花太郎のバットはしっかりと捉えた。
 カキーン!
 ライナーとなった打球は、あっという間にセンター方向へ、そして、バックスクリーンのはるか上を飛んで、場外へ消え去った。
「やった! 逆転サヨナラホームランだぜ!」
 宙太、叫びながら星子に抱きついた。
 んもぅ!
 でも、いいの。今だけ許しちゃう。
 場内は、もう、大歓声だ。痛みをこらえてベースを一周する花太郎に、それこそ、嵐のような声援が飛んでいる。細井なんか、嬉しさのあまり、へたりこみ、泣いている。
 星子、噴き出したうれし涙をぬぐいながら、バックスクリーンへ目をやった。
 ん! リツ子の姿が消えている。
「リツ子っ」
 星子、観客席の通路を走っていった。
 リツ子に謝らなくては。また、以前のように友達でいよう。
「リツ子! リツ子っ」
 だが、いくら探しても、リツ子は見つからなかった。まぼろしのように、消えていた。

                            (おわり)


追記  本日分、5000文字数に入らなかったので、二回に分けました。今回は、それなりの番外編でしたが、いかがでしたか。リツ子と花太郎の恋、この先どうなるのか気になりますが、また、機会でもあれば続きを書いてみます。
 なお、ブログ連載のほうは、しばらくお休みさせてもらいます。時期が来ましたら、再開しますので、ご容赦ください。
 うっとうしい梅雨が続きます。ご自愛ください。

番外らぶっす・19

                19

「リツ子、一緒にきなさいったら!」
 星子、リツ子の腕を掴んだ。
「痛い! 乱暴しないでよっ。腕が抜けちゃうから!」
「知るか! さ、早く!」
 渋るリツ子を、構わず、ぐいぐいと引っ張っていく。
「あたしを、どこへ…ね、どこへつれていくわけ? 星子っ」
「うるさい! 黙ってついてくる!」
 星子の顔、ものすごく不機嫌だ。
 だって、当たり前でしょっ。あまりにも、わがままというか、自分勝手というか、ハートがないというか、とにかく、許せない、リツ子の態度が。
 あの時、花太郎はリツ子をかばって撃たれた。リツ子を愛するが故に、我が身を省みず、楯になったんだ。
 泣かせる話じゃないの。ところが、リツ子ときたら、花太郎を介抱するわけじゃなし、感謝するわけでもなし、しばらく、茫然と見つめたあと、姿を消してしまった。
 そんな態度は、許せないっ。
 で、学校帰りのリツ子を、タクシーに押し込んで、救急病院へ向かったいるわけ。
その前に、経過を伝えておくと、花太郎がここに救急車で運ばれたのが、昨日の日曜日の午後。
 いくら花太郎が巨大ロボか怪獣なみのボディとはいっても、まともに左の肩口に弾丸を食らっちゃオシマイだ。
星子、宙太と一緒に、花太郎が運ばれた救急病院へ駆けつけ、夜遅くまで付き添った。途中で、魔女軍団が現われなかったら、徹夜していたところだ。
 それにしても、魔女軍団、つまり、花太郎の四人の姉妹のやかましかったことったら。
「花太郎、死んじゃ駄目よ!」
「あなたが死んだら、私たちも後追い自殺するわよっ」
「がんばって、花太郎兄さん!」
「死んじゃいや、許さない!」
 等など、口々に大声で叫び、さらに、途中から花太郎の父親まで加わって、
「死ぬな、花太郎! お前は、わが家の大事な跡取りだぞ! 絶対に死ぬな! 死んだら、タダじゃおかんぞ!」
 と、号泣しながら、花太郎に負けない巨体をふるわせて叫びまくっていた。
 魔女軍団の誰かが、「ママを呼んだほうがいいんじゃない?」といったけど、
「バカいわないで!」
「あんな女、死神と同じよ!」
「かえって、花太郎が可哀そうよ!」
 と、姉妹達の猛反撃にあった。
 そういえば、この前、花太郎も母親のことを「あんな奴、死んだも同然だ」みたいないいかたをしていたっけ。
 花太郎の家族と母親の間に、一体、何があったのか。ま、そのあたりは、いずれ、機会があったら、あらためて、ということで、
 それよりも、今、問題なのは、はたして、肝心の花太郎の命がどうなるか、だ。今朝、宙太が医者を問いただしたところ、「助かる確率は、五分五分」です、と、いわれた。
 五分五分!
 はじめは、なんとも食えないヤツだったけど、星子としては、花太郎のリツ子を想う一途さに、だんだん、あったかい気持ちになり、なんか、ニクめない男の子ね、って思い始めていた。
 その花太郎が、こんなことになるなんて。
 星子、すごいショック。だから、余計、リツ子の無関心な態度がアタマにきた。そこで、リツ子を強引に連れてきたってわけ。
 でも、いざ、タクシーが救急病院の前に着くと、リツ子、見舞うのはいやだ、と、いった。
「どうしてよ? カレ、あなたを助けようとして、大けがしたのよ!」
 星子が真剣な顔でいっても、リツ子、そっぽをむいたまま、
「あたしが頼んだわけじゃないし」
 と、冷やかな顔でいった。
「そんな! そんないいかたって、ないでしょ!」
「どこがいけないの。勝手に愛情を押しつけられて、あたしには迷惑なだけよ。ストーカーと同じだわ。ストーカーは犯罪よ。あんなことがなかったら、とっくに宙太さんに逮捕されているところよ」
「違う! 花太郎さんは、ストーカーじゃない。あなたとの約束もあるし、甲子園を目指して頑張っているのよ!」
「あたしは約束してないわ。あいつが、勝手にきめたことよ。でも、その約束とやらも、おしまいね。カレ、もう、試合には出られないでしょ」
「リツ子っ」
 星子、もう、キレた。思いっきり、リツ子の頬にピンタをくわせようとした。
 その時、「星子さーん!」と、細井が走ってきた。
「細井クン、どうしたの?」
「今から、届けに行こうと思っていたんです! 先輩から、これをリツ子さんにって…」
 そういいながら、花束を差し出した。
「昨日の試合、勝ったんで、ハイ」
 そうか、花太郎さん、勝つたびに花束をリツ子に渡すことにしていたんだよね。
「あ、星子さんにも、これを渡せって…」
「わたしにも?」
 細井、バラを一輪、花束に添えた。
「花太郎さんたら、ひどいケガのくせに、こんな気を使って…」
 ういヤツ。胸が熱くなる。
「あ、それから、リツ子さんにメッセージを伝えてくれって、いってました」
「メッセージ? あたしに?」
「はい、俺の見舞いはやめてくれって」
「え?」
 リツ子、ポカンと口をあけた。
 星子も、唖然となった。
「ほんと? リツ子にお見舞いするなっていうわけ?」
「はい」
「どういうわけ? 命を的に守ってやった相手じゃないの」
「きっと、無様な姿を見せたくないんでしょ。あれで、結構、プライドが高そうだし」
 リツ子の顔に、冷笑が浮かんだ。
「いえ、そうじゃないんです」
 細井、真剣な顔で否定した。
「センパイは、こういってました…俺は、同情されたくないし、恩も売りたくない。俺に助けられたことで、リツ子さんに気持の負担をかけるとしたら、それは、本当の愛情じゃないんだ。だから、俺は見舞ってほしくない。病院には、こないでほしいんだ、って」
「!…」
 花太郎さん、柄に似合わず、いうことがマトモだ。
「でも、その代わりに、次の試合を見にきてくれって…」
「次の試合を?」
「はい、リツ子さんのために、ホームランを打つ。それが、俺のサイコウのラブコールだって…そういってました」
 細井、込み上げるものを抑えるようにいった。
 一瞬、絶句の星子さんだ。
「そんな…次の試合って、いつなの?」
「明後日です」
「あさって? ムチャよ、そんな! あの怪我じゃ、試合に出られるわけないわよっ」
「はい、僕も同感です。でも、センパイの顔は真剣でした。こわいくらい、いや、本気でこわかったです」
「でもねぇ…」
「とにかく、球場でお待ちしているそうですから。じゃ、失礼します」
 細井、ぺこりと頭を下げると、病院へ戻っていった。
 呆然と見送る星子の耳に、リツ子のククッという含み笑い声が聞こえた。
「リツ子、なにがおかしの?」
「御苦労さま、とんだ無駄骨だったわね、星子」
「なにごよっ」
「だって、あいつのほうから、お見舞いの必要はないっていってきたのよ。これで、不愉快な思いをしないですんだわけじゃない」
「リツ子」
「それにしても、よくいうわよね。なにが、ラブコールのホームランよ。アタマがおかしくなったんじゃないかしら。きっと、そうよ」
 リツ子、声をあげて笑った。
「リツ子!」
 星子の顔、怒りで真っ赤になった。
「あなたには、人の心ってもんがないの! 花太郎さんが、どんな思いでいるのか、少しは考えてあげたらどうなの!」
「あら、星子、あなた、あいつに同情しているわけ。それとも、あいつが好きになったのかしら。どうぞ、ご遠慮なく。あたしには宙太さんがいるんだし、遠慮なんかいらなくてよ。喜んでお譲りしますわ、ふふふっ」
 おかしそうに笑ったリツ子の顔に、
 ピシャッ!
 星子の平手打ちがとんだ。
「イタッ、なにするの!」
「あんた、サイテイよ!  目がさめるまで、ひっぱたいてやるから!」
 星子、リツ子の胸倉を掴み、さらに、殴ろうとした。
 寸前、その手が背後から掴まれた。
 振り向くと、宙太が立っている。
「星子さん、よさないか」
「宙太さんっ」
「リツ子さんだって、本気でいってるんじゃないさ。心の中じゃ、きっと…な、リツ子さん?」
「……」
 リツ子、黙ったまま、頬を押さえていたが、急にパッと体を翻すと、そのまま、走り去っていった。
「なによ、あんなヤツ! もう、絶交よ!」
 星子、憤然とした顔でいった。
「ま、ま、ま、ハニィ、気持ちはわかるけどさ…」
「うるさい! わかんなくていい! とにかく、絶交なんだから、もう!」
 星子、そういい捨てると、歯噛みしながら、そっぽを向いた。その眼に、キラッと涙が光った。

 そして、二日後の午後――、
 世田谷にある野球場では、天女学園が予選第三戦を戦っていた。相手は都立高校の強豪チームだ。ベンチには、花太郎の姿はなく、以前の天女学園だったら、とっくにコールド負けしているはずだった。
ところが、今回はチームの全員が猛ハッスル、というのも、花太郎の大怪我で、すっかり意気消沈していたナインを、なんと、あのひ弱なマネージャーの細井クンが、
「このゴクツブシ! イクジ無しのアホ! お前ら、それでも、オトコか! 恥を知れ、恥を! この世には、弔い合戦という言葉があるんじゃ! ハナコ先輩の男気を見習って、死んだ気で戦え! 戦うんじゃ!」
 と、小さな体に似合わず蛮声を張り上げて、叱咤激励した。もっとも、最後は貧血を起こしてふらついたりしたけどね。
でも、効果てきめん、ナインもハッスルして互角に試合を進めてきたが、残念ながら、九回表を終わって、1対0。天女学園の最後の攻撃も、ツーアウト、ランナーなし。敗色濃厚だった。
「ザンネンね、みんな、がんばったのに…」
 観客席で応援していた星子、ため息をついた。
「いや、奇跡は起きる」
 隣に座った宙太が、余裕の顔でいった。
「日頃は野球なんかにはまるで興味のないハニィが、こうして一生懸命、応援しているんだぜ。奇跡が起きないわけがないだろ」
 ま、そうあってほしいよね。花太郎くんと知り合うまでは、およそ、野球とかには関心がなかった。せいぜい、サッカーぐらいかな。でも、星子、変わりました。
 とくに、今日の試合は、思い入れが強い。花太郎の出場は無理でも、なんとか、皆で花太郎の分まで頑張ってほしかった。
 でも、その願いも消え去ろうと…ん?…最後のバッターが、デッドボールで出塁したじゃないですか。勝ちを焦った相手ピッチャーが、つい、バッターにぶつけてしまったらしい。
「よっしゃ! 奇跡の始まりだぜ!」
 宙太、立ち上がって歓声を上げた。
 ベンチも大騒ぎ、細井は枯れて声にならない声でわめいている。
 でも、次のバッターはすでに3打席連続三振している。今度も三振は間違いない。本人もまるで自信がない顔をしていた。
「ああ、もう、ダメかぁ。こういう時、花太郎さんがいてくれたら…」
 星子がぼやいた時、
「ん! 奇跡を呼ぶ男があらわれたぞ!」
 宙太が、叫んだ。同時に、ベンチから細井が何やらわめきながら飛び出した。
 その方向を見ると、な、なんと、花太郎がユニフォーム姿でのっそりとあらわれたじゃないですか!
 星子、信じられないといった顔で見つめた。


                            (つづく)





 

番外らぶっす・18

                18

 バシッ!
 激しく叩きつける音がはじけた。
 特急列車のような猛速球がまともに激突したんだし、宙太の美形顔、おっと、お茶目顔はスイカ割りの西瓜のようにグジャグジャにつぶれて、吹っ飛んだ、はず…。
 さすがの星子サンも、そう思うしかなかった。
 すると、
「ナイスキャッチ!」
 リツ子のかん高い声が、聞こえた。
 ん?
 星子が恐る恐る目を開けると、な、なんと、宙太の手のひらには、しっかりとボールが握られているじゃないですか。
 ということは、宙太、素手で花太郎の剛速球を受け止めたってわけだ。
 グシャグシャにつぶれたと思ったお茶目顔は、一瞬、痛そうに歪んだけど、じきに、もとの人なつこい笑顔に戻った。
「オッシャーッ、ストライクだ!」
「ちゅ、宙太さん…大丈夫なの?…」
 心配そうに見た星子に、宙太、軽くウインクしてみせた。ほんとは、かなり、無理しているけどね。
でも、すごい! やっぱり、宙太、只者じゃない。
 すると、リツ子、星子を見下したように、いった。
「あたしは、はじめから宙太さんを信じてたわ。恋人カンケイと友達カンケイの差ね」
 うぬっ。
「それにしても、許せないのは、あいつよっ」
 リツ子、ピッチャーマウンドに立つ花太郎を睨みつけた。大きなメガネの奥に見える青白いこめかみには、怒りの血管が浮き上がり、ヒクヒクッとふるえている。
 一方、花太郎のほうは、宙太が素手でボールをキャッチしたので、呆気に取られた顔だ。ベンチの監督や細井達、それに、相手チームの選手や観客達も、同じく唖然呆然といった顔が並んでいる。
 その視線をさらりと受け流した宙太、
「そら! しっかり投げろよ!」
 と、いいながら、ボールを花太郎に向かって投げた。
 ボールは、花太郎に負けないスピードで、ピシャッと花太郎のグローブにおさまった。
「ナイス、コントロール!」
 星子が思わず叫びかけたとたん、グローブではねたボールが花太郎の鼻を直撃だ。
「うぐっ」
 花太郎、真っ赤になった鼻の頭を、押さえながら、うずくまった。
「バチがあったのよ、いい気味!」
 リツ子、せせら笑った。
「ちょっと、リツ子っ、いい過ぎよっ」
 星子がたしなめたけど、
「いいのいいの、さ、宙太さん、もう一度、お口をアーンしてね」
 そういいながら、リツ子、再び、愛妻弁当のおかずを箸でつまみ、宙太の口へ持っていった。
「あっ、ダメよ、リツ子!」
「ストップだ、リツ子さんっ」
 星子と宙太があわてて制止しようとしたけど、すでに、時遅し。
「おのれっ」
 マウンド上で咆哮をあげた花太郎、こっちへ向かって、闘牛場の猛牛のように突進だ。
「ハナコ!」
「センパイ!」
 監督や細井が、あわててベンチを飛び出したけど、とても、追いつかない。スタンドとの仕切りが低いこともあって、炎となった花太郎の巨体は軽々とフェンスを飛び越え、階段を駆け上がってきた。
「キャッ」
 悲鳴を上げたリツ子、宙太の背中へ逃げた。
「花太郎さんっ」と、星子、立ちふさがったけど、
「どけ! ジャマだ!」
 あっさりと払いのけられて、応援団席に吹っ飛んだ。
「てめぇ!」
花太郎の丸太のような腕が、宙太の胸倉を掴んだ。
でも、宙太、穏やかな顔で、
「まだ、試合中だろう。ヤバいんじゃないの? 話なら、あとで聞くから。んな?」
「うるせぇ! よくも、リツ子さんをメイド代わりにしやがったな!」
「メイド代わり?」
「そうだよ! 男なら、自分でメシを食え! 人にやらせるなんて、それも、リツ子さんにだ!」
 宙太、一瞬、キョトンとなったが、
「あ、そういうこと。だったら、オタクの勘違い」
「誤魔化すな!」
「いいえ、ほんとよっ」
 リツ子、宙太の背中に隠れながら、叫んだ。
「宙太さんは、あたしの恋人よ。未来のダンナさまよ! 愛妻弁当を食べさせてあげて、どこがいけないの!」
「なに? 恋人? 未来のダンナさま?」
 花太郎、唖然となったが、すぐに、カラカラと笑った。
「そうか、こいつにそういえ、と、脅かされているんだな」
「ち、違うわ!」
「そ、違う」
 宙太、うなずいた。
「僕は、リツ子さんの恋人でも未来の夫でもない」
「そら! やっぱりだ!」
「やっぱりじゃないわ、宙太さん、あなたをなだめるために、嘘をついてるのよ!」
 んもぅ、どこまでオメデタイんだろ、リツ子って。
「フムフム、それも、こいつにいわされているわけか!」
 いやはや、花太郎さんのほうも、オメデタイこと。そのオメデタ状態で、花太郎、力強く咆えた。
「リツ子さん、もう、こいつのいうことを聞く必要はないぜ! 俺が、救ってやる! こいつを、ズタボロにしてやるからな!」
 花太郎、宙太の胸倉をさらに締め上げ、拳を振り上げた。
「まいったな、僕をその気にさせないでくれよ」
 ため息をつく、宙太くんだ。宙太としては、これ以上、ことを荒立てたくない。それでなくても、大事な任務があるわけだし。
 すると、リツ子が、叫んだ。
「構わないわ、遠慮なんかしないで、宙太さん! 早く、この人を逮捕して! 暴力行為と公務執行妨害でね!」
「ちょ、ちょっと、リツ子さんっ」
「公務執行妨害?」
 聞き返した花太郎に、
「そうよ! 宙太さんは、強盗殺人の犯人を捕まるためにここにいるのよ!」
「リツ子!」
 ヤバッ、もし、犯人に聞かれたら、サイアクじゃないですか。
「だったら、余計、ここには置いておけないぜ! さ、一緒にくるんだ!」
 花太郎、宙太を押しのけて、リツ子の腕を掴もうとした。
「いやっ、やめて!」
「花太郎くん! 落ちつけよ!」
「花太郎さん!」
 星子と宙太、懸命に花太郎を止めた。
 その隙に、リツ子、逃げようとしてよろけてしまい、近くにいた野球帽姿の男のシャツにしがみついた。
 すると、その男のシャツの肩口のあたりが破れて、二の腕の入れ墨が…。
「キャッ、ドクロ!」
 リツ子の声に見た星子と宙太、ハッと息をのんだ。なんと、ドクロのタトゥじゃないですか。
 宙太とマサルが追っているホシは、ドクロのタトゥが目印だ。
「!…」
 宙太、キッとなって、ホルダーの拳銃に手をやった。
 星子、素早くリツ子に駆け寄り、リツ子の手を掴んだ。
「リツ子! 早く!」
 でも、ダメ、リツ子、金縛りにあったように、動けない。
「リツ子!」
瞬間、男は拳銃を抜くと、リツ子に突きつけた。
「ヒ、ヒャーッ」
 リツ子、頭から氷水をぶっかけられたような悲鳴を上げた。それでなくても青白い顔色が、さらに、蒼ざめている。今にも気を失いそうだ。
「リツ子っ」
「星子さん!」
 宙太、星子の腕を掴み、引き離した。
「くるな! こいつを撃つぞ!」
「!…」
「て、てめぇ! リツ子さんを放せ! タタッコロスぜ!」
 花太郎、男にとびかかろうと身構えた。
「よせ!」
 すかさず、宙太が押し止めた。
 男の目は、サングラスを透して異様なまでに光っている。
 危険だ。下手に近づくと、タダじゃすまない。
 宙太、ホルダーの拳銃を握り締めたまま、ためらった。
 男は、いった。
「この女の子は、人質に連れていく! いいな!」
「よせ! 人質には僕がなるから、その人を放すんだ!」
「そうはいかねぇ! デカの人質なんて、何の役にも立たねえよ! さぁ、歩け!」
 男の拳銃が、リツ子の背中を押した。
 可哀そうに、リツ子、真っ青な顔でガタガタふるえ、恐怖に泣いている。
「リツ子…」
 星子、どうにもできない自分が、なんとも腹立たしいし、情けなかった。
 花太郎も、口惜しそうに歯噛みしている。
 宙太、リツ子に向かっていった。
「リツ子さん、きっと、助けてあげるから! 僕を信じて、今はいわれたとおりにするんだ。いいかい!」
「……」
 リツ子、朦朧としたままだ。恐怖で、正気を失っているらしい。
 その時だった、スタンドの上段に、マサルが警官隊を連れてあらわれた。
「おい! お前の彼女は、今さっき、駐車場で逮捕したぞ!」
 マサル、大声で叫んだ。
「なに!」
「この球場は、完全に包囲されているぜ。もう、悪あがきはよせ! 拳銃を捨てて、手を挙げろ!」
 カッコいい、マサルさん。
 だが、男はあきらめなかった。
「うるせぇ! 捕まってたまるか!」
 そうわめきながら、男が、マサルを見上げた瞬間だった。
 いきなり、リツ子が我に返ったように、パッと走り出した。
「あっ、こいつ!」
 あわてた男が、銃口を逃げるリツ子の背中へ向けた。
「危ない、リツ子!」
 星子が叫ぶのと同時に、
 ダーン!
 銃声がして、リツ子が…。
「り、リツ子…」
 星子、恐る恐る、目を見張った。
倒れているのは、リツ子じゃない。花太郎だった。
 男の拳銃が発射された瞬間、花太郎、巨体をジャンプさせて、リツ子をかばったのだ。
 ほとんど同時に宙太の拳銃が火を吹き、男の拳銃を弾き飛ばした。あわてて逃げだした男に、マサルがとびかかり、叩き伏せて手錠をかけた。
 ほんの一瞬の出来事だったが、星子には長い悪夢を見ているようだった。でも、倒れている花太郎の姿は、消すことのできない現実だった。
「は、花太郎さんっ…」
 星子、弾かれたように駆け寄った。
 花太郎、ぐったりとしたまま、動かない。
「し、死なないで! 花太郎さん! …花太郎さんっ…」

                            (つづく)



追記  いやな雨がつづきますね。風邪男には、かなり、こたえます。それにしても、花太郎くんがこんなことになるとは。もっと、長生きして、シリーズを盛り上げて欲しいんですが。リツ子さんは、どう思っているのかな。気になる最終回に、ご期待を!

番外らぶっす・17

                17

「うはっ、サイアク!」
 宙太、リツ子を見て、悲鳴に近い声をあげた。
 ケータイでのキスの一件以来、宙太クン、ノイローゼ気味になっている。まさに、トラウマ・リツ子さんだ。
 でも、星子にとっては、もっと、サイアクだ。花太郎のリツ子への熱い想い、もう、熱愛なんて生易しいものじゃない、真っ赤っかに燃え炎を噴き上げる火山のごとき物凄さを、宙太はまだ、実感としてわかっていない。
 その大爆発を、なんとか、事前に防がないと。
「あ、リツ子ォ」
 星子、急いで立ち上がると、階段を駆け上がって、リツ子の前に立ちふさがった。
「あらっ、星子、あなた、いたわけ?」
 リツ子、びっくり顔で星子を見た。
「う、うん、花太郎さんの様子を見にきたら、宙太さんとバッタリ…」
「花太郎?」
「そうよ、マウンドで投げてるのは、カレなんだ」
「ウソーッ」
 リツ子、グランドへメガネ顔を向けて、ビクッと頬を引きつらせた。
 幸い、今のところは、花太郎、リツ子に気がついていない。
 リツ子、ホッとした顔で、
「でも、大丈夫よね、宙太さんがそばにいてくれるし。キューピットさんは、いつもこうやって、愛する二人を守ってくれるんだわ」
 ゲッ、いうなっ。
「宙太さんがここにいることを教えてくれたのも、きっと、キューピットさんよ。感謝しなきゃ」
 んもぅ、キューピットめ、お尻ぺんぺんだっ。
「さ、早く、宙太さんに愛妻弁当を届けてあげなきゃ。どいてよ、星子」
「ちょっと、待って。今、宙太さん、お仕事中なの。わたしが、お弁当渡しとくから!」
 そういいながら、リツ子の手から愛妻弁当の入った包みをひったくろうとした。
 ところが、リツ子、ガードが固い。しっかり抱え込んだまま、
「やだぁ、星子ったらぁ」
「え?」
「ヤキモチやいてるわけ?」
「ヤキモチ?」
「コドモには、ちょっと、シゲキが強過ぎるかしら、うふっ」
 わたしが、コドモ? ざぁけんなっ。あんたより、何十倍も恋の経験をしているんだよっ。このオカチメンコ!
 そのオカチメンコさん、「はい、どいて」と、星子を押しのけた。
「あわわっ」
 星子がよろけたすきに、リツ子、階段を駆け下りて、宙太のほうへ。
 それを見た宙太、あわてて、席を立ち、反対方向へ逃げようとしたが、そこは、応援団席、生徒達がぎっしりと壁を作っている。
 宙太、別方向へ向かいかけたが、すでに遅し、
「宙太さぁん、お待ちどう様!」
 リツ子、宙太にすり寄り、
「お仕事、御苦労さまぁ! 宙太さんにうんと頑張ってもらおうと思って、おいしいお弁当をこさえてきたわぁ」
「あ、有難う、でもね、僕、まだお腹が空いていないから…」
 宙太、なんとかごまかそうとしたけど、
「うふっ、恥ずかしがったりして、宙太さんったら、カワイイ!」
 リツ子、さらにすりよった。
 宙太、たまらずに、「わわわっ」と、椅子に座りこんだ。
 すかさず、リツ子、包みから愛妻弁当を取り出して、蓋を開いた。
「見て、宙太さん、ラブラブの愛妻お弁当よ。おいしそうでしょ」
「う、う、うっ」
 宙太、弁当のハートのマークとキスマークに、もう、毒気に当てられたオサカナのように、口をパクパク。
 なんにもわかっていない、リツ子さん、
「あら、そんなに食べたいのね。はい、召し上がれ」
 箸でミニトマトをはさんで、宙太のパクパクする口へ。
 その光景を、近くにいた応援団が見て、「わぁ」とはやしたて、ひやかすように口笛を鳴らした。
「わっ、タイヘンだ!」
 星子、真っ青。だって、花太郎に見られたら、大変なことになる。
 早く、やめさせないと!
 星子、転げるように、宙太とリツ子のところへ走った。
 でも、すでに遅かった。応援団の歓声と口笛に、花太郎、何事だとスタンドへ視線をやった。その視線の先では、リツ子が宙太に「はい、アーンちてくだちゃいね」なんていいながら、お弁当を食べさせようとしているじゃないですか。
「!…」
 ガーオ! と、怪獣のような咆哮をあげたかどうかわからないが、見る見る花太郎の顔色が変わり、全身から湯気が噴き出した。
 次の瞬間、花太郎、振りかぶると、握りしめたボールを、力いっぱい、宙太めがけて投げた。
 ビューッ!
 時速150キロはあるものすごい剛速球が、宙太の顔面めがけて一直線に!
「キャッ」
 星子、悲鳴をあげた。


                      (つづく)


追記  昔の大リーグに、火の玉投手っていうニックネームの大投手がいたけど、今回の花太郎くんは、まさに、火の玉投手だ。宙太くん、よけきれずに顔面にストライクを食らい、哀れ…と、と、とっ、この先はいえませんね。
残りの回数わずかですので、御迷惑でしょうが、お付き合いのほどを。

番外らぶっす・16

              16

 ピストルを持った凶悪犯が、この球場の観客席にいる!
 星子、恐る恐るあたりを見回した。
 観客席そのものは小さいけれど、天女学園の応援団と、相手チームの応援団。それに、高校野球が好きなファンなどが、スタンドのほぼ八割くらい、埋めている。人数にしたら、ざっと、約千五、六百人ほどだった。
「ほ、ほんとに、犯人がここに?…」
 星子がかすれた声で聞くと、宙太、緊張した顔でうなずいた。
「ホシには恋人がいてさ、そっちをマークしていた捜査班から、今さっき、連絡があったんだ。なんでも、この球場で待ち合わせて、逃亡用のお金とクルマを渡すことになっているって」
「そう…」
 連続強盗殺人の犯人にも、恋人はいるんだ。男と女の仲って、本人達にしかわからない気持のつながりがあるのかな。
「ね、早く、観客の人たちを避難させたほうがいいんじゃないの?」
「いや、それが難しいところさ」
「どうして?」
「これだけの数の人間を、こっそり避難させるなんて、とても、無理な話さ。途中でホシの奴が気づいて、人質を取ったり、無差別に拳銃をぶっぱなす恐れだって、十分、ありえるからね」
 たしかに、それはいえる。映画とかテレビのドラマでそんな場面を見たことがあるけど、まさか、実際に体験することになるなんて。あらためて、体が震えてくる。
「それで、犯人の特徴は…どんな格好しているの?…」
「中肉中背の二十代半ばの男で、服装も地味だしさ、帽子やサングラスで変装でもされたら、見分けるのが難しいかもな…しいていえば、左の腕に、ドクロの刺青があることぐらいだ」
「イレズミが…」
 ドクロのタトゥなんて、ますます、こわっ。いくら、度胸一番色気は二番の星子でも、びびってしまう。
 え? 色気は三四がなくて五番だろうって?
 バカ、そんな茶々入れてる場合かっ。
「で、マサルさんはどこなの?」
「球場のゲートで、本庁の応援部隊を待っているところだ。とにかく、下手に動けないし、じっくりとチャンスを待つしかないぜ」
 宙太、そっと歯噛みした。
 いつになく、りりしい横顔だ。いつもこういう男っぽいところを見せてくれれば、こっちだって、その気になるかも知れないのに。
 ふとそんなことを思った時、「わぁーっ」という応援の声に、星子、はっと我にかえった。
 グランドへ目をやると、いつのまにかチェンジになっていて、ピッチャーマウンドには、花太郎が立っている。
 丁度、三振を取ったところらしく、バッターはすごすごとベンチへ戻り、次のバッターがバッターボックスに入った。
 試合のほうは、すでに、五回まで進み、4対0で天女学園が勝っている。花太郎は、ここまで相手にはノーヒット、フォアボールもなし。つまり、完全試合ってわけだ。
「カレが、花太郎くんか。やるじゃん」
 宙太、感心したようにいった。
「マグレよ。じきに、打たれるから。そのほうが、いいの、花太郎クンのためにもね」
 星子としては、そう願いたい。
 でも、その願いに反して、花太郎の巨体からものすごい剛速球が放たれた。
 ドスン!
 キャッチャーが吹っ飛ぶほどだ。バッターは三球三振。次のバッターも、同じく三球三振だ。
「んもぅ、ジョウダンやめてよっ」
 仏頂面の星子とは反対に、宙太、ホッとした。
 このまま、早く試合が終わってくれれば、観客も引き上げる。ということは、犯人が一人でここに残り、恋人を待つことになる。そうなれば、逮捕しやすいってわけだ。
「よっ、いいぞ、花太郎くん! 未来のダルビッシュ、そして、未来の中田クンだぜ!」
 宙太、花太郎に向かって声援を送った。
「ちょっと、宙太さんっ!」
 星子が止めようとしても、ダメ。宙太の応援のテンションは、ますます上がって、気を良くした花太郎くん、次の打席でも、
 カキーン!
 場外大ホームランだ。
「このままいけば、七回でコールドゲームだな! よしゃ! いけいけ、花太郎! かっせかっせ、花太郎!」
 宙太、大声で叫び続けた。
 ああ、万事休すとは、このことよね。
 星子がガックリとなった時だ。
「宙太さーん!」
 ああ、甘く切ないその声…リツ子では!
 振り向いた視線の先には、間違いない、愛妻弁当を抱えたリツ子が、スタンドの通路を走ってくるところだ。
 ヤ、ヤバッ!
 花太郎の目の前で、リツ子が宙太にラブラブだってことをアピールしたら、タダじゃすまない。
 星子、目の前が真っ暗になった。

                             (つづく)


追記  さぁ、えらいことになりましたよ。花太郎くん、恋敵?の宙太さんに向って大爆発間違いなし。コロシのホシがいる球場で、どえらい騒ぎが起こりそうだ。作者としては、君子危うきに近寄らず、と、まいりますか。

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星子&宙太yyy
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