星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

番外らぶっす

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番外らぶっす・10

                  10

「泣くな、男なら! 泣くな!」
 っていうのは、こういう時のセリフじゃないと思う。
 星子としては、男が恋で泣くのは、許せる。そこまで、気持ちが純粋になっているからね。
「泣いていいのよ、気がすむまで泣いて」
 そういいながら、花太郎の大きな体を抱きしめてあげたくなる。
 だって、こんなに純情でストレートな男の子って、近頃、めったにいないもんね。あ、もちろん、星子のまわりには、マサルをはじめとして、純粋で直情的な男もいる。宙太だって、タレメでひょうきんな仮面をかぶっているけど、ほんとは、サイコウに男気のあるヤツだ。でも、泣いたところは見ていないけど…。
 それはともかく、
 花太郎は、ひとしきり男泣きしたあと、ボクシングのグローブのような拳でごしごしと涙をぬぐった。
「やべぇ」
「え?」
「だってよ、こんな無様なところを、お前に見せてしまって。カッコ悪いもいいとこだぜ。そうだろ?」
「だったら、わたし、あなたを蹴飛ばしてる」
「なに?」
「ステキだったよ、花太郎さん」
「ステキって…」
「ホントの気持ちを見せてくれたんだもん。男の子って、人様の前では、なかなか、本心は明かさないじゃん」
「いうなぁ、お前」
 花太郎は、苦笑した。
「たしかに、はじめてだぜ、俺、そういうこと。いつも、バリァ張って身構えているもんな」
「さぞかし、重たいでしょうね、メカロボットの縫いぐるみ」
「うん、重い重い」
 もう一度、ニタリとしたあとで、星子を見た。
「いい仲になれそうだな、俺達」
「恋人じゃないよね」
「当たり前だ。似た者同士って、かえって、恋人にはなれないんじゃないのか」
「うん、いえてる」
 その通りだ。星子と宙太のカンケイも、そういうことかもね。
「お前、泣いたことあんのか?」
「え?」
「カレシを好きになってさ、泣いたことって…」
「まぁね」
 星子、あいまいに答えた。
 ―いつだったか、そんなことがあったような…でも、夢の中の出来事だったのかも知れない。長い長い夢の旅をしていたからね。でも、近いうちに、きっと、泣きたくなるような恋をするかも…そんな予感がする…。
「とにかく」
 花太郎の声に、星子は我に帰った。
「俺が惚れてるのは、リツ子さまだけだぜ!」
 花太郎の顔が、再び、キラキラとひかりはじめた。
「恋はミステリアス。リツ子さまも、ミステリアス。俺、そこがたまんねぇんだ」
 リツ子がミステリアス、ですか。ウソーッ。
「ほんとは、な、俺、この思いを告白したいけどよ」
「ええっ」
 それは、マズイよ、と、いおうとしたら、
「でも、ま、ガラじゃねぇよな」
「うんうん」
 星子、ホッ。
「で、告白の代わりに、キチンと約束を果たすことにするぜ」
「約束って?」
「甲子園に出場するキップの一件、話、聞いてるんだろ」
「ええ、でも、細井さんっていうマネージャーから聞いたけど、予選で負けて、チャンスはなくなったって…」
「なぁに、チャンスは待っていてはこねぇ。作るものだぜ。このゲンコツでな」
「ゲンコツで?」
 どういうことだろ。
「で、約束果たしたら、俺、リツ子さまにプロポーズするつもりだ」
「プロポーズ!」
「うん、将来、俺の嫁さんになって下さいって! きっと、世界一、幸せな嫁さんにしてみせるって!」
「!…」
 ヒ、ヒェーッ。冗談じゃない、リツ子がそんな話聞いたら、大変なことになる。
「ま、待って、花太郎さん…」 
 星子、止めようとしたけど、早くも、花太郎はエンジン全開だ。
「さ、ついてこいや、姉貴達に見つかる前に、早いとこ、ここから出ないとな」
 花太郎は、星子の手首を掴んで促した。


                            (つづく)


追記  T大病院で眼科の定期診断にいってきました。術後約二年、経過はほぼ順調とのこと。でも、あまり、無理はしないように、と。ま、やれやれです。ま、無理をしない程度に、このブログも続けていければいいな、と、思ってはいるのですが。
 それにしても、花太郎、リツ子にプロポーズする気かい。オラ、シラネット。ひたすら、逃げる山浦であります。

番外らぶっす・9

                9

「出して! ね、開けてったら!」
 星子、大声で叫びながら、地下室のドアを叩いた。
まったくもう、こんなところに閉じ込めて、いったい、どういうつもりなのよっ。
 地下室の中は、ポツンと蛍光灯がついているだけで、薄暗く、ひんやりとして、しめっぽい。積まれた古い家具や置物から、かび臭い匂いが漂ってくる。なんだか、息がつまりそうだ。
 あの魔女軍団、というか、四姉妹はずっとこのまま、わたしを閉じ込めておくつもりかしら。不安感と恐怖が、足もとから這い上がってきて、泣きたくなる。
 ケータイで宙太さんに連絡して、助けにきて貰おうかな。でも、たしか、宙太さん、大きな事件の捜査でものすごく忙しいはずだ。こんなことで、仕事を中断させては、申し訳ない。
 甘えないで、がんばるんだ、星子っ。そこが、あんたのいいとこじゃないの!
 しっかりと自分にいい聞かせると、ここから脱出する方法はないか、地下室の中を調べてみた。でも、見つからない。
 まったくもう、リツ子のために、とんだ災難に巻き込まれたじゃないですか。もう、金輪際、リツ子とは付き合わないから。絶交だよ、ぜったいにね。
 え? お勉強、手伝ってもらわなくてもいいのかって? 知るかい! 赤点が何さ。そんなものが怖くて、学生やってないから!
 なんて、息まいているうちに、ますます、心細くなってきた。
 四姉妹に泣いてあやまって、勘弁して貰おうか。でも、あんな奴らに頭を下げるのは、気が進まない。意地ってもんがある。度胸ってもんがあるんだ、星子さんには!
 なんとか気持ちを奮い立たせようとしても、そろそろ、限界かな。と、思った時だった。
 奥の古いタンスがガタガタと音をたてた。
 ネズミかな? わたし、ネズミとゴキブリだけはつきあいたくないのに。
 星子が体をすくめていると、タンスが動いて、裏からのっそりと大きな黒い影があらわれた。
「キャッ」
 お化けか? ユウレイか?
 恐怖でのけぞった星子の手に、古いゴルフバックに触れた。夢中でクラブを掴むと、
「わぁーっ」
 メチャメチャに振り回しながら、黒い大きな影に殴りかかった。
「んぐッ」
 黒い影が声を上げるのと同時に、ゴルフのクラブは真っ二つ。そのあとで、蛍光灯の明りに浮かんだ人影は、なんと、相手は花太郎サンじゃないですか。
「ご、ごめんなさいっ」
 星子、あわてて、花太郎を見上げた。それにしても、ほんと、でっかい! まるで、大きな岩が聳え立っているようだ。
「大丈夫ですか? ケガは…」
 いいかけたとたん、いきなり、襟首を掴まれて、軽々と持ち上げられた。
 苦しいっ。息ができない。
 足をバタバタさせる星子の顔を、花太郎はギョロッとした目玉で、じっと睨んだ。
 こ、殺される、かも。マジで。
 なんせ、相手が相手だ。絞め殺されても、仕方がないかな。
 すると、花太郎は、
「なんだ、似てねぇじゃん」
 と、つぶやいた。
「は?」
「姉貴達がよ、お前のこと、タヌキがクシャミしたような顔だっていってたけどな」
「タ、タヌキがクシャミ? ぶ、無礼なっ」
「だよな。もっと、ずっとカワイイや。タヌキがアンパンをのどに詰まらせてる顔だぜ」
「ちょ、ちょっと!」
 もっと、ひどいじゃないの。
「その手を離しなさい! 早く!」
「おっと、ワリイ!」
 花太郎は、手を離した。
 星子、ドスンと床に落ちて、お尻を打ち、痛いのなんのって。
「とんだ目にあったな、お前」
「そうよ! いきなり、手を離さないで!」
「いや、それじゃなくて、姉貴達のこと」
「え?」
「もともと、俺に構い過ぎるのに、今回は異常もいいとこだぜ。まるで、魔女軍団だ」
 そうよ、まさに、その通りだわっ。
「俺、さすがに見ていられなくてさ、抜け道を通ってここへ降りてきたってわけ」
 ナルホド、抜け道があったんですか。
「でもな、姉貴達を恨まないでやってくれや。俺がチビの頃から、母親代わりに面倒見てくれたんだ」
「お母さんの代わりに? じゃ、あなた、お母さんはいないの?」
「ああ、死んだ」
「亡くなった? 病気で? それとも、事故かなんか…」
「うるせぇ!」
 花太郎の顔が、ゾンビのようになった。
「二度とおふくろのことは口にするな! 絞め殺すぞ。いいか!」
「え、ええ、わかった…ごめんなさいね…」
 星子、頭を下げた。
 何か、よほどの事情があるらしい。こんな図体しているけど、心の中には、つらいものを持っているんだ。覗いてみたいけど、そっとしておいてあげよう。
「で、お前…」
「ね、そのお前って呼ぶのはやめてくれない」
「お前は、お前だ。俺が君とか、あなたとか、様をつけるのは、特別な人だけだぜ」
「リツ子のこと?」
「呼び捨てにするな!」
「だって、わたしの友達よっ」
「親しき仲にも、礼儀がある!」
よくいうわねっ。
「で、その、お前、リツ子さまのことで、俺に会いにきたらしいな」
「そうよ」
「話の中身は?」
「そ、それがね…」
 星子、口ごもった。だって、まともに、二度とリツ子に近づくな、なんていえる? 
 すると、花太郎は、ふと、微笑んだ。意外とカワイイんだ、ハナコの笑顔って。
「いいの、いいの、わかってる」
「ん?」
「要するに、こうだろ。花太郎さんが姿を見せてくれないけど、どうしたのかしら。まさか、怪我とか病気でもしたんじゃないかしら。お願い、様子を見てきてちょうだい。花太郎さんの顔を見ないと、あたし、さびしくて、さびしくて、死んでしまいそう…だろ?」
「ハナコ、じゃない、花太郎さん…」
 星子、まさに、絶句。
呆れてものがいえない、とは、このことだよね。リツ子の話だと、花太郎は地球を自分の周りで回してみせるって、いったそうだけど、すでに、グルグル回っている。
「いや、すまん。リツ子さまには、ほんと、申し訳ないと思っているんだ。でもな、俺、昨日あたりから、急に体が重くなってさ、動けなくなっちまって…騎士の使命を果たせなくなってよ…」
「キシのシメイ?」
「当然だろ、大切な人を、命に代えてもお守りするのは」
「ああ、そういうこと。でも、その騎士も恋の病いでお倒れになりましたか」
「恋の病い? て、てめぇ!」
 花太郎の太い腕が、またもや、星子の襟首を掴んだ。
「よくも、俺を侮辱しやがったな! 俺は、めめしい色恋ざたは嫌いだ! 大嫌いなんだ!」
「でも…」
「いうな! コロス! シメコロス!」
 花太郎は、今にも大爆発しそうな火山のように、真っ赤な顔で叫んだ。
 今度こそ、ほんとにヤバイかもね。
 星子、目をつぶった。
 すると、ポタッ…ポタッ…。
 ナマあったかいものが、星子の顔に落ちてきた。
 ん、雨?
 でも、ここは地下室よね。
 星子、恐る恐る、目を開けた。
 雨、じゃなかった。
 花太郎の目からこぼれ落ちるナミダ、大粒の涙だった…。
「花太郎さん?…」
「…うるせぇ…」
 花太郎の唇が、涙でふるえている。
「あなた、やっぱり…好きなんだ、リツ子のこと…」
「…うるせぇ…」
「恋してるんだ、そうでしょ」
「…う、うるせぇ…」
 花太郎の声は、涙でかすれてきた。
「…花太郎さん…」
「…う…うる…」
 ふいに、花太郎の口から、グォーッとうめき声があふれた。
 大きな体をふるわせて、花太郎はうめいた。そのうめき声は、じきに、泣き声に変わった。


                            (つづく)


追記  花太郎くん、ついに、告白のようですね。でも、問題は、リツ子さまのほうですぞ。はたして、このさき、どうなりますやら。
 男純情花太郎、パッと咲かせろ、恋の桜花!

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番外らぶっす・8

               8

 ええっ、ここがハナコちゃんのおうち?
 星子、思わず口をあんぐりと開けた。そのお顔が、うふん、とってもセクシーなんちゃって。
 コラコラっ。
 ま、とにかくデスネ、星子が唖然となったのも、無理はない。
 父親が地元のボスというので、それなりの大きな構えの邸宅を想像していたけど、まさか、こんな大豪邸だったとは。
 高さ二メートルは優にあろうかというコンクリート塀が、まるで、刑務所のように聳え立ち、要所要所には防犯カメラがしっかりと睨みをきかせている。あまりにも塀が高いので、中の様子は、まったく、わからなかった。
 正面の門構えは、スチール製の分厚い大きな門、脇には、でかでかと「花屋敷」の表札が、かかっている。
 なにが花屋敷よ。どう見ても、刑務所じゃないのっ。
 好奇心でやってきたものの、星子、立ちすくんだ。
 この中に、魔女軍団が…無事には帰れないとか…。
 あの細井っていう子、おびえた顔でそういったっけ。
 一人じゃヤバそう。宙太さんにきて貰おうかな。
 ダメ、甘えた根性は。わたしの名前が、すたるじゃないのっ。
 気持ちを奮い立たせて、チャイムを押す。
 すると、じきに、インターホーンから、女の声が流れてきた。
「はい、どちらさまでしょう」
 なんとも美しくお上品な、まるで、オペラのソプラノ歌手のような声だ。
「あ、わたし、流星子っていいます」
「ご用件は?」
「あ、はい、ハナコ、じゃない、花太郎さんにお会いしたいんですけど…」
 星子の声、いつになく、うわずっている。やっぱり、緊張しているせいらしい。
「花太郎さんに?」
「いらっしゃいますか?」
「ええ、おりますけど」
 いるんだ、やっぱり。
「それで、花太郎とは、どういうお知り合いでしょう?」
「どうって…」
 一々、うるさいのぅ。
「わたしの友達のことで、話があるんです」
「お友達のことで?」
 すると、すかさず、女の声が近くからいくつも入り混じって聞こえてきた。内容はわからないけど、かなり、騒がしい感じだ。
 その騒ぎを制止するソプラノさんが声が聞こえて、じきに、
「あなた、星子さんとおっしゃいましたわね」
「はい」
「お友達というのは、新井リツ子さんのことかしら」
「あ、はい」
 どうして、そのことを知っているんだろう。いったい、相手は誰なんだ。
 まさか、魔女の一人? すると、他の女の声は、魔女仲間の声かもね。
 と、思った時、
「どうぞ、お入り下さい」
 同時に、門が重々しく、ゆっくりと開いた。
「!…」
 引き返すなら、今しかない。うん、そうする。
でも、足のほうは、門へ向かって歩き出した。
門をくぐったとたん、背後でザザーッと門が閉まった。魔女が監視カメラで見ながら操作でもしているみたい。入ったら、そう簡単には出られませんよ、って感じだ。
ふん、だからなにさ。矢でも鉄砲でも、持ってこいだ。
奥へ進むと、ん、ベルサイユ宮殿が、目の前に!
というのは、ちと、オーバーだけど、宮殿のような大きな豪邸が、美しい大庭園に囲まれて建っている。
ここが、花太郎の家?
リツ子から聞いた、がさつな花太郎のイメージとは、あまりにもかけ離れている。どう見たって、貴族のお坊ちゃまが、お住いになっていらっしゃるお宅だ。
星子がキョロキョロとあたりを見回しながら歩いていくと、行く手に大きな玄関のドアがあらわれて、音もなく開いた。
あらためて深呼吸をして、中へ入る。薄暗いが、吹き抜けの広いホールがあって、そこに、人影が四つ立っている。
じきに、目が慣れてくると、その四人は若い女性ばかり。お揃いの華やかなドレス姿で、しかも、四人ともミス・コンクールにトップで入るような、飛びぬけた美女ぞろいだった。
花太郎のおっかないイメージから、アマゾネスのようなタイプを予想していただけに、びっくりもいいとこ。
その四人の中の一番年上らしい女の人が、にこやかに星子に近づいた。
「いらっしゃいませ。わたくし、花太郎の姉、長女の百合子です。この人は、次女の菊子、この人は花太郎の妹で三女の桜子、そして、四女の梅子です。よろしく」
 百合子に紹介された菊子と桜子、梅子の三人も、にこやかに、そして、しとやかに会釈した。
 でも、その笑顔には、どこか、翳がある。目には刺すような鋭く冷たい光りがこもっていた。
 この四人が、細井くんのいってた魔女軍団なんだ。
 星子、一瞬たじろいだけど、負けん気の強いところで、こちらも、作り笑顔で答えた。
「突然お邪魔してすいません」
「いいえ、どういたしまして。あなた、データ通りの可愛い人ね」
「データ通り?」
 すかさず、菊子が、
「あなたのことは、全部、調べがついているのよっ」
 つづいて、桜子が、
「宙太とかいうタレメの刑事さん、ついてこなかったのね。ザンネンだわ」
 そして、梅子が
「ゴンベエってドラネコもね。シッポつかんで、ヒゲ抜いて可愛がってやったのに」
ううっ、こいつら、ほんとにわかっているんだ、わたしのこと。学校がある日は、ゴンベエは自宅待機、一緒じゃなくてよかった。
星子、笑顔を絶やさずにいった。
「よくおわかりですね」
「だって、リツ子さんのお友達なら、花太郎のためにもよくリサーチしておかないと。姉として、妹として当然のことよ」
「トウゼン、ですか」
 星子、あきれたように肩をすくめた。かなり、おかしな兄弟関係のようだ。
「で、花太郎さんは?」
「こっちよ」
 四人姉妹、星子を取り囲むようにして、促した。もう、逃がさないって雰囲気だ。星子、覚悟をきめて、一緒にホールの階段を上がっていった。
二階の廊下をいくと、突き当りに部屋があって、ドアの前には、配膳トレーが置きっぱなしになっている。その上には、ナプキンをかけた、かなりボリュームたっぷりな料理が乗っていた。
「しょうがないわね、花太郎たら。ぜんぜん、食べていないじゃないの」
 百合子、ため息をついた。
「あのぅ、花太郎さんは病気なんですか?」
 星子が尋ねると、百合子は顔を曇らせた。
「ええ、昨日の夜から、寝込んでしまって。幼い頃から、病気なんて、およそ、縁のない子だったんだけど」
「で、どこが悪いんですか?」
「ま、のぞいてごらんなさいな」
 菊子が星子の襟首を掴み、ドアの鍵穴へ顔を押しつけた。
 なにすんのよっ。
 ムッとしながらも、鍵穴をのぞくと、カーテンを閉め切った薄暗い部屋のベッドに、キングコングが…と、思ったら、大きな男の子が寝ころび、ぐったりとしている。
 あれが、花太郎か。なるほど。
 でも、まるで、迫力がない。
「病気、かなり、重いんですか?」
「ええ」
「お医者様は、なんて?」
「それがね、草津の湯でも治らないって」
「は?」
 草津の湯でも治らないもの、それは、
「つまり、恋わずらい、ですよね?」
「そうよ」
「なぁんだ」
 星子、ぷっと吹き出した。
「恋わずらいですか、フム!」
「なにが、フムよっ」
 とたんに、四姉妹の顔色がサッと変わった。
「あたしたちの大事な弟をこんな目に合わせておいて、よくも、そんな口がきけるわね!」
「こんな目って、それは、花太郎さんのほうが、勝手にのぼせせて…迷惑しているのは、」リツ子のほうです!」
 星子、負けずに言い返したけど、ダメ、通じない。
「弟を誘惑したのは、そっちのほうでしょ!」
「兄さんに何かあったら、絶対に許さないから!」
「リツ子って子をここへ呼びなさい!」
「そうよ! ぶん殴ってやる!」
「半殺しよ!」
 まさに、魔女軍団そのものだ。
「ま、待って! リツ子がくるわけが…わたしが、代わりに話を…」
「じゃ、あなたをぶん殴ってやる!」
「半殺しよ!」
「もう、絶対に返さない!」
「一生、地下室に閉じ込めてやるから!」
「そ、そんな!」
 星子、真っ青、そのまま凍りついた。


                           (つづく)



追記  目を休めるつもりが、キリのいいとこまで、ということで、つい、書いてしまいました。花太郎クンの四姉妹、かなりの強敵です。がんばれ、星子! なんて、俺が応援してどうする!
 

番外らぶっす・7

                 7

 ――ちょっと、ヤバイかな……。
 星子のオツムの中を、もやっとした不安が漂ってきた。お腹のあたりも、さっきから、チクチクする。
 なんせ、天女学園といえば、名前はメルヘンぽくって、ハイソな感じの学校に聞こえる。ところが、実態はデスネ、落ちこぼれの男の子や女の子を、かろうじて拾ってくれる、それこそ、偏差値カンケイナイの学校だ。当然、オッカナイ生徒もたくさんいて、警察のご厄介にしょっちゅうなっているとか。
 星子も、落ちこぼれ予備軍だけど、通っている学校のランクは、ま、都内でもトップクラス。リツ子のような秀才のお嬢様がわんさかいる。そこでの落ちこぼれ予備軍だから、天女学園の落ちこぼれと比べてはかわいそうだけどね。
 そのオッカナイと評判の天女学園へ今から乗り込もうというんだから、さすがの星子も、ビビりがち。ま、無理はないデス。
 都内の某繁華街に天女学園の校舎がある。緑豊かな星子の学校と違って、まわりは雑居ビルやマンション、商店街、怪しげなホテルなんかに囲まれ、どきついネオンや看板だらけだ。環境も良くないし、ますます、オッカナイ学校というイメージがふくらんでくる。
 同時に、花太郎の悪いイメージもバンバンふくらむ。リツ子から一応、話は聞いてあるけど、この分だと、もっと、スゴイことになりそうだ。
 星子が緊張しまくって校門に近づくと、妙に静まり返っている。
 ま、放課後ってこともあるけど、部活はあるだろうし、普通の学校なら、もっと、賑わってもいいはずだ。それとも、本日は部活もお休みかな。
 首をかしげながら、校庭をのぞくと、ほとんど、人影はない。でも、隅っこのほうには、野球部の選手達が四人ほど、座り込んで休んでいるようだ。その中には、花太郎らしきモサの姿は見当たらない。
 星子、ちょっと、ためらったけど、女は度胸!と、覚悟を決めて校庭へ入った。
近づいてみると、野球部の部員たちは、バットやグローブはそっちのけで、のんびりとマンガを見たり、ケータイでメールなんかしている。
 なんだろ、この連中。どうなってんのよ。
 星子、呆れながら、声をかけた。
「ちょっと、すいません」
 でも、皆、マンガやケータイに夢中でこっちを見ない。
「部活、お休みなんですか?」
「開店休業」
 部員の一人が、メールを打ちながら、ぼそっと答えた。
「うちらだけじゃないの。どの部活も右ならえ。ついでに、お勉強のほうも、開店休業デース」
 部員達、ケラケラと笑った。
 なんて、無気力な学校なんだろ。これなら、荒れているほうが、まだ、マシかもね。
 星子、やれやれと肩をすくめると、
「あの、花屋敷花太郎さんってヒトに会いにきたんですけど、いますか?」
 星子が花太郎の名前を口にしたとたん、部員達はビクッと顔をあげて、星子を見た。
 その顔には、ハッキリと脅えが浮かんでいる。
「ハ、ハナコですか?」
 部員の一人が、いった。ジャガイモみたいな子だ。
「ハナコ?」
「い、いえ、花屋敷花太郎センパイですね…」
「ハナコって呼ばれてるわけ?」
「あ、はい、い、いいえ、とんでもないですっ」
 部員の顔は、ピーマンよりも真っ青になった。
「そうか、ハナコっていうんだ」
 ちょっと、からかってみると、
「チガイマス!」
 もう、今にも気絶しそうだ。
 ゴメンネ。
「とにかく、呼んでくれない? あ、わたし、流星子っていうんだけど」
「それが、いないんです」
「いない?」
「昨日から、休んでるんです。部活も学校も…」
「どういかしたわけ?」
「ちょっと、待って下さい。マネージャーを呼んできますから」
 ジャガイモくん、じきに、マネージャーを呼んできた。キュウリみたいなやせっぽちだ。
「細井といいます。ハナコ、あ、いえ、花屋敷センパイに御用とか…」
「お休みなんですってね。どこかにお出かけかしら」
「はい」
「どこ? わたし、大事な話があるんだけど」
「スイマセン、それは、ちょっと…」
 細井、口ごもった。
「でも、練習があるんじゃないの、甲子園に向けての…必ず、甲子園のキップを手に入れて見せるって、ハナコさん、私の友達に誓っているはずよ」
「シッ、ハナコなんて、呼ばないでください」
「自分だって」
「ひっ、聞かなかったことに…コロサレマス…」
 細井、星子に手を合わせた。
 なんだか、かわいそう。
「たしかに、その話はセンパイからうかがっています。でも、うちは予選で七回コールド負けしてますから、甲子園に出ることは、もう…」
「ほんと?」
 星子、憮然となった。
「そうか、だから、ボディガードでごまかそうと、リツ子に付きまとっているわけね」
「は? ボディ…」
「いいから、花太郎、ううん、ハナコの居所を教えてよっ」
「そ、それは…」
「なによっ」
「自分のイメージがこわれるから、いうなって…口止めを…」
「何が、イメージよっ。わたしを怒らすと、あなた、タダじゃすまないから! それでも、いいの!」
 星子がすごんでみせると、細井クン、
「こわいなぁ、ボク、強い女のヒトって、苦手なんです」
 情けなさそうな顔で、いった。
「僕から聞いたなんていわないでくれますか…」
「ええ、大丈夫。わたし、お財布と同じくらい、口は堅いから」
 なんて、お財布のほうは、どうかな。
「じつは、その…センパイは、自宅に…」
「家にいるの?」
「はい、体の具合が悪くて、動けないって…」
「じゃ、病気ってこと?」
「たぶん…」
「ウチはどこ? 今からいってみるから」
「そ、そんな、とんでもない! お宅にはいかないほうが…絶対に、ダメです!」
 細井、必死の形相で叫んだ。
「どうして?」
「あ、あなたの命が保証できませんっ」
「わたしの命が?」
「は、はいっ、花屋敷センパイの父上はヤクザもふるえ上がるほどの地元のボスで、その上、家には、四人の魔女軍団が…」
「魔女軍団?」
「は、はいっ、無事に帰れた人間はいないという、こわーい評判が…」
 細井の体、小刻みに震えている。
「……」
 父親は地元のこわーいボスで、家には、四人の魔女軍団がいる…なんとも、恐ろしい話じゃないですか。
さぁ、どうする・
星子、腕組みをして、天を仰いだ。
でも、いかねば。
いってみたい。
リツ子のため、というより、こわいもの見たさ、とでもいいますか、好奇心のほうが星子の背中をドスンと押した。

                             (つづく)


追記  いよいよ、星子さんと花太郎の対決だ。でも、手ごわい魔女軍団とやらもいるようだし、はたして、どうなりますか。
 なお、ちょっと、目のほうが疲れぎみですので、間が空くかも…よろしくです!
 
 

番外らぶっす・6

                 6

「うふーん」
 リツ子は、せつない吐息をつきながら、抱きついた。
「そんなに、このあたしのことを…」
「うん、愛しているよ」
 やさしくうなづいたのは、さわやかな笑顔と甘いマスクがなんともチャーミングなカレ…いわずと知れた、晴れた美空に靴が鳴る、わが最愛の人、美空宙太警部…。
「何があっても、一生、君を離さない。もっと、もっと、幸せにしてあげるからね」
「うれしい」
「地球は君の周りを回っているんだ。僕も永遠に君の周りを回り続けるよ。愛情の香りがたっぷりのバラの花びらをまきながらね」
「ああ、しあわせ。ね、キスして、宙太さぁん」
「いいとも、唇だけじゃない、君の全身に熱いキッスの雨を降らせてあげる」
 そういいながら、宙太はリツ子の体をさらに強く抱きしめ、顔を近づけた。
 ああ、感じるぅ。もう、ダメェ。
 リツ子は、燃え上がる愛の炎に身を任せようとした。
 その瞬間、どこからか聞こえてきたのは、星子の声。
「リツ子…しっかりして、リツ子…」
 うるさいな、もう。
 これから宙太さんに全身ラブキッス・マッサージを受けるのよ。邪魔しないで!
 でも、星子の声はさらに高まってきた。
「リツ子ったら、しっかりして! ちょっと、リツ子ったら!」
 その挙句、背中を叩かれ、頬っぺたまで叩かれて、
「いたいっ」
 リツ子は、やっと、目が覚めた。
 ぼんやりした視界がはっきりすると、星子が心配そうにリツ子を見下ろしている。
「あ、よかった、気がついたのね!」
「…星子ォ…んもう、なんで、邪魔するわけ!」
 リツ子は、一転、星子をにらみつけた。
「ジャマ?」
「そうよ、ラブラブの真っ最中だったのに!」
「はん?」
 星子は、ニヤッと微笑んだ。
「いい夢をみていたみたいね」
「ユメ?」
 そうか、夢だったんだ。
「でも、じきに、正夢になるけど。宙太さんとのこと」
「宙太さん? じゃ、リツ子…」
「夢の中のカレ、ほんとに、すてきだった。愛が強いと、夢もほんとに、ステキだわぁ」
 リツ子の目は、ウルウルもいいとこ。
「でもね、リツ子、宙太さんは…」
 ほんとに愛しているのは、このわたしなんだけどォ…と、星子、ほんとのことをいってやろうとしたけど、ヤーメタ。
 馬の耳に念仏。なにをいっても、ムダ。
「ま、そのことはあとにして、もう、びっくりよ。リツ子ったら、急に気を失うんだもん」
「え? 気を失った? このあたしが?」
「うん」
「うそっ、そんなこと、ありえないっ」
 リツ子は、声高に叫んだ。
「あたしは、常に冷静なヒトよ。あなたと違って、ささいなことで取り乱したり、テンションが上がり過ぎるなんてことは、絶対にありえないの」
「あら、そう」
 星子、肩をすくめた。
 ほんと、よくいうよ、まったく。
「でも、わたしがカレのことをいったとたん、リツ子、顔色が真っ青になって、ぶっ倒れたんだけどな」
「カレ?」
「ほら、花屋敷花太郎って子。あなたを恋しているって」
「ギャッ」
 リツ子の口から悲鳴が…。
 またもや、気絶されてはたまらないと、星子、あわてて、リツ子の肩を掴んだ。
「わたしの顔を見る! しっかりと見る!」
「……」
 リツ子は、半ばふらつきながらも、なんとか、星子の目を見つめた。
 どうにか、気分が少しは収まったようだ。
「ね、星子、女の厄年って、いくつだっけ?」
「え? さぁ…」
「十七、つまり、あたし達の歳は…」
「聞いたことないな。もっと、上じゃないの?」
 そうなんです、女の厄年は、十九と三十三だそうで。
「で、何の関係があるわけ、厄年と花太郎クンと?」
「きまってるでしょ、あんな男の子に恋されちゃうなんて、もう、最悪もいいとこ。あたしの汚れなき純白の体と心、近い将来、宙太さんさんに捧げるこの身に、いきなり、真っ黒なペンキをかけられたようなものよ! 宙太さんに、申し訳ないわ…ああ、許して、宙太さん…」
 リツ子の目に涙が光ったと思うと、大粒の涙がポロポロとこぼれた。
 聞いていてアホらしくなるけど、その一方で、リツ子のピントのずれた純情さが、妙に可愛く見えてくる。ま、だから、一応、お友達づきあいしているわけだけど。
「ね、星子、あなた、カミソリ持ってる?」
 リツ子は、涙をぬぐうと、星子を見た。
「カミソリ? ううん、持ってない」
「じゃ、ロープは?」
「ロープ?」
「首つりに丁度いい長さがあるといいけど」
「く、首つり!」
「あ、毒薬でもいいわ。そうそう、近頃、練炭とかもはやってるわよね。飛び込みっていう手もあるけど、あたし、乗り物酔いするタイプだし…」
「ちょ、ちょっと、待ちなさいよ! 自殺なんてバカなこと考えないで!」
「馬鹿じゃないわ! 大和撫子なら、屈辱には自害で答えるのが当然よっ」
 んもう、どこまで、オーバーなんだろ。
「でもね、リツ子、もし、あなたが死んだら…」
 こういう時は、切り札を使うしかない。
「宙太さんが悲しむわ。それでもいいの?」
「宙太さんが…そうか…それもそうね。愛する人を失うなんて、一番つらいことよね」
「そ、だから、自殺は中止。いいわね」
「わかったわ…でも、どうするの、アイツのこと…」
「嫌なら嫌って、ハッキリ、いえばいいじゃない」
「誰が?」
「もちろん、あなたがよ。自分の口からちゃんといってやること。ただし、相手を傷つけないようにうまくね。男って、とかく、メンツにこだわるから」
 たしかにね。
「うまくって?」
「たとえば…ゴメンナサイ、お気持ちは嬉しいんですけど、あたしには将来の夢があるんです。今はその夢をかなえるために、がんばりたいんです、って」
「ナルホド、いいじゃない、さすがは、星子、ダテに男の子を泣かせていないんだ」
「ちょっとォ!」
「じゃ、よろしくね」
「よろしくって?」
「きまってるでしょ、あなたがあいつにいうの」
「そ、そんな!」
「ね、星子、もうじき、期末テストよね」
「え? うん…」
「赤点取ると、あなた、また、補習だわ。いい恋さがしの旅のスケジュールがくるうんじゃないの?」
「うっ…」
「なんだったら、あたし、お勉強を手伝ってあげてもいいけどォ」
 リツ子は、にっこりと微笑みながら、星子を見つめた。

                             (つづく)



追記  いやはや、星子さん、とんだことに巻き込まれたようで。なんせ、相手が相手だ。いくら星子さんでも、かなり、手ごわいことに…はたして、どういう展開になるでしょうね。僕にもわからないです。

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