星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

番外らぶっす

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番外らぶっす・5

              5

 ふ、ふざけないで! ふざけんじゃねぇよーっ!
 てめぇ、このぉーっ!
 しね!
 シンジマエ!
 …ん?…。
 わっ、あたしとしたことが、とんだ言葉づかいを…聞かなかったことにして下さいませ。おねがぁい!
 え? あんた、まさか?
 もしかして…信じられない…でも、その超地味なファッションのメガネ顔、およそ、オシャレとか流行とは関係ないその姿は…もしや、まさか、そうなのね?
 あ、はい、そうです、アタクシ…。
新井リツ子でございます。
 地球が自分の周りを回っていると思っている、このあたし。それにふさわしいお嬢様であらねば、と、人様の前では、取り澄まし、お高く、お上品に、しかも、毅然と、そして、清く美しく、そうです、深窓の令嬢にふさわしい印象を押し出そうと、必死に、かつ、懸命に自分を押し殺して、日夜、努力してまいりました。
 その証拠に、今まで、あの流星子サマのワガママ、身勝手、ハチャメチャな性格にも、じっと、ひたすら、耐え忍んできたのでございます。
 あ、ついでに申し上げますけどね、あたくし、ほんとは、
 脱いだら、すごいんですよっ。
 宙太さんを、イッパツでノックアウトできるセクシャルなフェイスとボディをしているんですっ。
 あら、はしたないことを…オホホホッ…。
 ま、そのことでは、いずれ、お騒がせするとして、今、問題なのは、アイツ! おっと、あのヒト、花屋敷花太郎サマのことでございます。もう、アタクシのスケバンもどきの本性が大爆発しそう。
 ゆ、許せない。
 とにかく、絶対に許せない!
たとえば、その一。
おとといの朝、父のベンツで学校まで学校まで送ってもらった時のこと。前を走る大型のダンプが、幅寄せしたり、割り込んだり、嫌がらせをしたの。
そしたら、背後から急にカレのナナハンがあらわれて、ダンプを急停車させた挙句、運転手を、その人もレスラーみたいな男だったけど、運転席から引きずりおろして、あっという間にボコボコにしちゃったわけ。
そのあと、あたしにウインクして、あの物凄い顔でよ、もう、サイアク。父が、お前の知り合いか、って、変な顔をしていたけど、冗談じゃないわよっ。
で、許せない、その二。
昨日の夜、バレー教室でレッスンを受けてた時のこと。あたし、もちろん、プリマドンナの役だけど、たまたま、ミスしちゃったのよね。あ、たまたま、よっ。
で、先生から鞭でピシッと足を叩かれて、ひどく叱られたわ。そのとたん、花太郎が飛び込んできて、先生の胸倉を掴んで、「今度、いじめたら、タタッコロス!」って、ものすごい顔で怒鳴りつけて。おかげで、先生、気絶して救急車で運ばれちゃったのよ。あたし、もう、レッスンにはいけないわ。サイアクよっ。
そして、許せない、その三。
今日のお昼休み。人気シェフのいるレストランへランチを食べにいったわけ。でも、かなりの行列で、待ち時間は三十分ですって。とても、午後の授業には間に合わないな、父に頼んで何とかして貰おうかしら。父は超一流会社の専務だし、顔がきくのよね。ところが、ケータイかけようとしたら、花太郎があらわれて、お店の中へ飛び込むと、店長を吊るし上げて、あたしの順番をトップにしろって。
店長は恐れをなしていうとおりにしたけど、あたしは、キャンセル。冗談じゃないわよっ、誰があいつの世話になんか、なるもんですか。
とにかく、もう、たくさん。これ以上、あたしの回りをうろついてほしくない。そんな暇があったら、約束の甲子園出場キップを手に入れるために、がんばればいいのに。
どうしたら、あいつを追っ払うことができるのかしら。
こうなったら、星子さんに一役買ってもらおうかな。近いうちに期末試験もあるし、どうせ、カノジョ、落第点すれすれだろうし、お勉強の面倒を見てやる代わりに、花太郎の駆除をやらせますか。
いやとはいわせないわよ、星子っ。
ということで、リツ子、学校の帰り道で、星子に今までのいきさつを話して、「なんとかしてよ」と、頼んだ。
すると、星子、しばらく考えたあと、急にクスッと笑った。
「なによ、なにがおかしいのよっ」
 リツ子がむくれると、星子は、両手の指でハートのマークを作った。
「え? なに?」
「恋してるんだ、カレ、きっと」
「コイ?」
「そうよ、ブキッチョな男の子が恋をするとね、そんなふうになっちゃうわけ」
「ふーん、あなたもダテに遊んでいるんじゃないのね」
「ちょっと、わたし、遊んでなんかいないよ。いつも、真剣だよっ」
 星子、ぶんむくれた。
 誰が信じるもんですか。いい恋さがしとか何とか、かっこいいこといっても、見つかりっこない。所詮は、オアソビ。本当のいい男は、宙太さんだけ。でも、宙太さんは、このあたしを愛している。星子なんかの立ち入るすきは、ゼロ。
 なんにも知らないで、かわいそうな星子チャン、ウフフフッ。
 リツ子は、余裕でいった。
「ハイハイ。で、花太郎さん、誰に恋してるわけ?」
「え? 誰って、きまってるじゃん、リツ子、あなたによっ」
「あ、あ、あたしに!」
 とたんに、リツ子の口から悲鳴がほとばしり、メガネは飛び、髪の毛が逆立った。同時に、目の前が真っ白になり、そのまま、地面に吸い込まれていった。

                                (つづく)


追記  今回は,リツ子サンの主観から書いてみました。星子については、こんなふうに思っているんですね。ま、どこまでお目出度いんだろう。それにしても、花太郎クンの熱愛を、この先、どうするのか、心配です!

追記2 今さっき、ニュースで知りましたが、氷室冴子さんが今日、亡くなったとか。歳は僕よりずっと下だけど、コバルトでは大先輩の素晴らしい作家でした。一度お会いしたかったけど、機会がないまま歳月が経ってしまい、久しぶりにお名前を聞いた時は、訃報だったとは。実に、残念です。心からのご冥福を…。

番外らぶっす・4

               4

「地球を、回してみせる…あなたが?」
 リツ子は、メガネ越しに花太郎を見上げた。
「ああ、そうともよ!」
 花太郎は、ドンと分厚い筋肉の塊のような胸を叩いてみせた。
「欲しいものは、力ずくでも取る。世間の奴らは、皆、俺に従わせる。それが、おれの流儀ってやつさ。ようするに、俺、ナポレオンってとこかな。すべての道は、この俺に通じるってこと!」
「でも、ナポレオンの最後は哀れでしたね」
 リツ子の薄い唇が、静かに笑みを浮かべた。
 なんて、イヤミな女の子だ。相手が男だったら、今頃、息はしていないかも…なんとか、こらえる花太郎だ。
「それで、どうしますか?」
「なにが?」
「二億円、です」
「あ、それか。なんでぇ、なんでぇ。いつでも払ってやるぜ!」
 花太郎は、もう一度、胸を叩いた。
「でもよ、すんなりと払ったんじゃ、面白くもねぇ。どうだい、賭けをしてみねぇか?」
「ギャンブルは嫌いです。人間の品性を汚すだけですから」
「クソまじめなこと、いいやがって! じゃ、ゲーム、そう、ゲームならいいだろう?」
「あたし、ゲームはしません」
「ううっ、アタマだな、まったく! だったら、そうだ、経済のお勉強はどうだ?」
「経済の?」
「そ、この企画が成功すれば、利息が一割、増える。つまり、二億二千万円になるってこと!
どうだい、すごいだろ!」
「企画って、どういう内容ですか?」
 リツ子は、相変わらず、表情を変えずにいった。
「そうだな…たとえば、俺がナナハンで首都高を十周暴走する、とか…東京タワーをナナハンで駆け上る、とか…マスコミを集めて、ド派手にドカーンといくわけ! オモロイぜ、こいつは!」
「下らないこと」
「なにぃ!」
「子供じみてます、バカみたいです」
「こ、このぉ!」
 花太郎の顔、今にも大爆発しそうなくらい真っ赤になった。
「じゃ、どうしろっていうんだ! いってみろ!」
 答え次第じゃ、たとえ、相手が女だろうと、許さない。
 タタキコロス!
「あなた、野球をやっているヒトですよね」
「ああ、そうだ! 天女学園野球部のエースで四番だぜ。ほんの今さっきまで、そこのグラウンドで試合やってたところだ。そん時かっ飛ばしたホームランボールがそいつよ」
 花太郎は、リツ子が握っているボールを自慢そうに見た。
「じゃ、甲子園ですね」
「あ?」
「甲子園を目指して、野球をやっているんですよね」
「もちろん! と、いいたいけどよ、うちのチームじゃ、とてもムリ。だから、途中でバイバイしてきたのさ」
「ナポレオンじゃなかったんですか」
「ん?」
「さっき、自分はナポレオンだ。地球を自分の周りで回してみせるって、いいましたよね」
「ああ、いったさ。だから?」
「甲子園へいって下さい」
「なにっ」
「欲しいものは、何でも手に入れるんでしょ。だったら、甲子園のキップを買って下さい。二億円で」
「!…」
花太郎は、呆気に取られた。
 このオンナ、やっぱり、アタマがおかしいんだ。いってることが、まともじゃない。
 それとも、意地悪なのか。どうせ、出来っこないとわかっていて、俺をからかっているのかも知れない。
 でも、それにしては、平静で真面目そのものといった顔つきだ。
 そう、大真面目でいっているんだ。変わり者だけど、超の字がつくマジメな女の子なんだ。
 きっと!
 花太郎の居丈高な態度が、ちょっとばかり、弱まった。マジメ人間、それも、超の字がつくとなると、かなり、苦手な人種だ。あまり、かかわりたくない。
「わかったぜ」
 花太郎は、軽くうなづいて見せた。
「買って差し上げましょう、甲子園の出場切符、二億円でな」
「きっとですね」
「ああ、もちろん。男の約束だぜ」
 なんて、もちろん、口約束。とにかく、一刻も早く、リツ子から離れたかった。
「信じていいんですね」
「しつこいな。武士に二言はねぇ!」
 そういい捨てると、花太郎は、ナナハンにまたがり、猛然とダッシュさせた。
 リツ子の姿が、たちまち、視界の後方へ消え去った。
「ふーっ、まいったぜ、まったく!」
 サドルを握りながら、花太郎は肩をすくめた。
 甲子園行きなんて、実現するわけがない。奇跡の神様が束になってかかっても、無理なものは無理だ。
 ま、あのメガネブスとは、もう、二度と会うこともないだろう。もし、会いにきても、今度はぶっとばしてやるだけだ。
 それでなくても、女は苦手、大嫌いなのに、あのリツ子っていう女は、まさに、サイアク。地球は自分の周りを回っている、なんて、ぬかしやがって。
 だけどよ、ほんとに変わったオンナだったな。俺の姉ちゃん達や妹達とは大違い。同じ女とは思えないぜ…。
 花太郎が、ふと、そう思ったのも無理はない。
 じつは、花太郎は姉二人、妹二人に挟まれた五人兄弟の真ん中っ子。しかも、二人の姉、二人の妹ときたら、もう、なんというか、口にするのも、おぞましいというか。
 甘える、おねだりする、すねる、くすねる、だます、すぐ泣く、たかる、うるさい、媚びる、嘘をつく、ケチ、たかる、ごまかす、ひとまかせ、責任転嫁、その他、エトセトラ、エトセトラ…。
 花太郎が女嫌いになった理由のほとんどは、そんな姉と妹達にある。
 それにくらべて、あのリツ子という女の子は、花太郎に面と向かっても、まったく、ビビらない。それどころか、逆に、怒鳴りつけ、弁償まで要求した。
 じつに、堂々としている。自己チュウも、あそこまでくると、立派に思えてくる。
 オシャレ一つしていないが、きっと、白雪姫のママと同じで、「世界一の美女は、このワタシ」なんて、思っているのかも知れない。
「けっ、オメデタイやつだぜ!」
 花太郎は、笑った。
 ゲタゲタと笑いながら、ナナハンをぶっ飛ばした。
 と、ふいに、胸の中をキューンと…突き刺すような感覚が、突き上げてきた。
 でも、痛くはない。変に甘酸っぱくて、どことなく、やるせなくなるような、そんな痛みだ。
 同時に、頭の中で、一人の女の子の姿が、おぼろげに浮かび上がった。やがて、鮮明になったその姿は、リツ子だった…。 


                            (つづく)



追記  ま、恋というには、段取りがあるようなないような…或る日、突然、ひょんなことから生まれるようです。花太郎クンの場合もそのようで…そこが、ま、人間のおもろいところかも知れません。
 さて、この番外の二人の番外の恋、はたして、いかなることになりますやら。
 今のところ、星子も宙太も出てこないけど、この先、どうからんでくるのやら。ご期待ください! 
 なんて、はしゃいでいるのは、僕だけかな? (笑)。

番外らぶっす・3

               3

「い、一億!?」
 花太郎は、思わず耳を指先でほじくった。そして、そのあとで、リツ子が突き付けたカンバスの絵を、まじまじと見つめた。
「弁償が一億ってことは、この絵に一億円の価値があるってことか? え?」
「もちろんです」
 リツ子は、当然といった顔で答えた。
 これには、花太郎、プッと噴き出した。
「お前、アッタマおかしいんじゃないの。あ、ツラもおかしいけどよ、ハハハッ」
 とたんに、リツ子が、
「二億円にします」
「はん?」
「今、あたしを侮辱する言葉をいったでしょう。その慰謝料もプラスさせて頂きます」
「て、てめぇ! このドブ…」
 ドブスっていおうとして、どうにか、急ブレーキ。また、一億円、上積みされそうな気がしたからだ。
「リツ子っていったけ? あのな、ものの値段ってもんは、それ相当の価値を認めたからつけられるんだぜ。たとえば、このネックレス…」
 花太郎は、首にかけた金鎖のネックレスをじゃらじゃらさせた。
「これって、18金のホンモノだぜ。俺にチャレンジしてきたアホ番長を一撃で叩きのめしてやった時、チャレンジ料として頂いたわけ。相場は二十万円だってよ。あ、もちろん、相手の三顧の礼でプレゼントしてくれたんだ。これ、ホント」
 花太郎は、ニタリとウインクした。
「でもよ、この絵をよぉく見てみな。幼稚園のオジョウチャンだって、もっと、うまく描くぜ。一億、あ、二億だっけ、そんな、とんでもない。一円の価値だってないぜ。こんな絵を見せられて、逆にこっちが一億円貰いたいくらいだよ、へへへっ」
 これだけ馬鹿にすれば、泣きだすだろう。女なんて、そんなもんだ。花太郎は、へらへらと笑った。
 ところが、リツ子は顔色一つ、変えずに、
「ピカソ、知ってますか」
「ピカソ? あのへんてこな絵を描く画家かよ?」
「芸術のわからない人には、そう見えるでしょうね。でも、世間じゃ、一枚何億、何十億円もの値段がつくんです」
「らしいな。で、それが、どうした?」
「あたしも、ピカソです」
「あ?」
「今に、この絵の芸術的な価値をわかる人があらわれて、何億円もの価値を認めてくれるかも知れないんです」
「ムリムリ、ぜったいに有り得ない」
「いいえ、有り得ます。きっと、そうなります!」
 リツ子は、自信たっぷりな顔で微笑んだ。
 呆れてものがいえないとは、このことだ。
「まいったね、こりゃ。お前って、ほんと、ノーテンキだな。地球が自分の周りを回っているとでも思ってるのか」
 と、からかったつもりが、リツ子は真顔で、
「ええ、思っています」
 と、答えた。
「あたし、今まで、願いが叶わなかったこと、一度もないんです。夢の王子様だったあの人だって、あたしのことを愛してくれているんですから」
 リツ子は、うっとりと夢見心地の顔になった。
「あの人?」
「花の警視庁の捜査一課の警部さん、名前は、美空宙太さんです」
「チュゥタ? おかしな名前だな」
「なにがおかしいんですかっ!」
 おもわず、花太郎がたじろぐほどの、ものすごい怒鳴り声だ。
 リツ子の顔面は真っ青、頬も唇もブルブルふるえて、メガネが涙で曇った。
「宙太さんを侮辱する人は、絶対に許しません! 絶対に!」
「わ、わかったよ」
 花太郎は、ちょっと、辟易した顔でつぶやいた。
「その宙太って警部さんも、気の毒にな。こんな女の子に惚れられたんじゃ、お先真っ暗だぜ」
「え? なんですか?」
「あ、いや、なんでもないの。それよりさ、今さっき、おたく、地球は自分の周りを回っているっていったよな」
「はい、たしかに」
「じゃ、おれも、地球のことで一言、いわせてもらうぜ」
「どうぞ」
「地球がおれの周りを回るなんて、まだるっこい。俺のほうで、地球を回してみせらぁ!」


追記 今日も一日中、寒かったですね。せめて、心だけでも寒くならないようにしたいのですが。なかなか、難しいです。
 リツ子のキャラが初期設定と違っているとのご指摘を受けましたが、「あたしって、脱ぐとスゴイんですよっ」のパターンでまいりますので、よろしく。
 ナンノコッチャ。
 

番外らぶっす・2

                2      

 これほどの静寂が、あるだろうか。まるで、真空状態。誰もが、あんぐりと口を開けたまま、固まっていた。
 ただ一人、花太郎だけが、口笛を吹きながら、ゆったりとベースを一周すると、ベンチへ戻ってきた。
「ま、こんなところでいいですかね、カントク? ね、ちょっと!」
「あ?」
 黒星監督は、我に帰ったように、花太郎の手を握った。
「あ、有難う! 有難う!」
 嬉し涙が噴き出して、もう、ぼろぼろ状態だ。雇われ監督の悲しさ、コールドゲームで屈辱的な負けをくらい、しかも、花太郎が役立たずのでくの坊とくれば、即、クビになるところだったから。
 細井マネージャーやチームのメンバー達も、やっと、正気に戻って、花太郎を取り囲み、大騒ぎとなった。試合のほうは、まだ、ボロ負けなのにね、ま、いいか、少なくとも、今の時点でのゲームセットはなくなったわけだ。
「さてっと」
 騒ぎが一段落したところで、花太郎は、やおら、メットとユニフォームを脱ぎ棄て、もとの上半身はだか状態にもどると、ナナハンにまたがった。
「お、おいっ」
 あわてたのは、黒星監督や細井達だ。
「どこへいくんだ? 試合はまだ終わっていないぞ!」
「わかってらぁ」
 花太郎は、金色のバットを背中にさしながら、いった。
「でもな、こっちは出入りの途中で駆けつけたんだ。今から戻って、奴らの息の根を止めなきゃ。ケンカには、けじめってもんが大事なんだよ」
「けじめなら、こっちにもある。五回でのコールドゲームはなくなったが、七回で7点差があったら、規約でコールドゲームになるんだ! それまでになんとか点差を縮めないと、
万事休すだぞ!」
「ムリムリ」
 花太郎は、せせら笑った。
「そりゃ、俺がマウンドで投げりゃ、敵サンの攻撃を零点に抑えるのはカンタン、楽勝だぜ」
「ホントかいな…」
 細井が、ぼそっといった。
「おたくが投げるのを、まだ、誰も見たことがないけど…」
「そうかい、んじゃ、てめぇをボール代わりに投げてやろうか」
「あ、い、いえ、け、結構です、ハイ…」
 花太郎にすごまれて、細井はあわてて首をすくめた。
 たしかに、黒星監督以外には、まだ誰も花太郎のピッチングを見たことはなかった。その黒星監督だって、自信はない。その時、花太郎が投げたのは、たった、十球だけだった。でも、そんなことにはお構いなしの花太郎、
「で、俺が零点に抑えても、問題はこっちの攻撃だぜ。七回の裏までにあと2点取れるか? 凡打や三振で、六回、七回ともに三者凡退。とても、俺まで打順が回ってこないぜ。というわけで、七回を終わって、点差は10対1のコールドゲームってわけだ。だから、やるだけ、ムダ。五回コールドの屈辱を免れただけで良しとしようぜ。な、センセイ!」
 花太郎は、ポンと黒星監督の肩を叩くと、ナナハンをダッシュさせた。
「あ、花屋敷! 待ってくれ!」
「待ってくれよ!」
 黒星監督達が叫んでも、ブレーキを踏むような花太郎じゃない。そのまま、一気にジャンプして、外野のフェンスを飛び越えた、と、思った瞬間、
 キキーッ!
 けたたましい急ブレーキの音をたてて、ナナハンは急停車した。
 パッと吹き上がった土煙がおさまると、ナナハンの前には、一人の制服姿の女子高生が立っている。
「バ、バカヤロッ! アブネェじゃねえか!」
 花太郎は、真っ赤な顔で怒鳴りつけた。
 その物凄い顔を見たら、ふつうの女の子だったら、気絶するところだ。ところが、その女子高生は、平然というか、毅然というか、こわいもの知らずというか、それとも、無神経というか、たじろぎもしないで、それこそ、電信柱か街灯のように立っている。
 花太郎にとっては、こんなことは初めてだった。どんなワルでも、花太郎に怒鳴られたら、腰をぬかすか、縮みあがるのが普通だった。
花太郎は、意表を突かれた顔で、相手を見た。
 うっ、地味っ。
 それが、第一印象。
 背丈はごく普通。やせ気味で、手足が細くひょろ長く、スカートも膝が隠れるほどの長さだ。今時の女子高生達のこれ見よがしな超ショートのセクシィスカート姿とは、まるでもう、月とスッポン。時計の針をン十年前に戻したスタイルだった。
 スタイルといえば、ボディのほうも、地味そのもの。胸のふくらみもヒップのふくらみも、腰のくびれも、ない。
 なにも、ない。
 もうそれだけで顔を見る気にはならないが、でも、ひょっとして、地味づくりの美少女ってこともある。敵から身を守るために、あえて、見立たないようにカモフラージュしているのかもね。
 ということで、花太郎は、やおら、相手の顔を見下ろした。ワイルドで硬派なモサを自認していても、やっぱり、思春期の真っ盛り。やっぱり、オンナノコには興味があるわけか。
 そう思うのは、浅はかもいいとこだ。じつは、花太郎、超の字がつく女嫌い。その理由は…ま、おいおい、わかることですがね。とにかく、大嫌いだ。当然、恋も女の香りもぬくもりも知らない。
 そんなわけで、花太郎は景色を見るような気分で女の子を見た。
「うっ」
すぐに、後悔した。見なきゃよかった、と。
おかっぱのような髪に、青白いとんがった顔立ち。顔の中心には、メガネ。それも、分厚く大きなレンズ。フレームも、黒色。その地味で野暮ったいメガネが、顔のほぼ半分を占めている。しかも、半分ずり落ちて、鼻の中央になんとか引っかかっていた。
顔立ちそのものはお利口そうだが、薄い唇や細い眼、それに、ツンと上を向いた鼻が、
お高くとまった印象を与える。
 さすがの花太郎も、一瞬、言葉が出なかった。
 すると、そのメガネさんが、右手をすっと花太郎の前に差し出した。
「これ、あなたのですか?」
 ちょっと、つんけんした可愛げのない声だ。
 差し出された手には、ボールが握られている。土で汚れ、皮が破れた状態だ。表面には、さっき、花太郎が金色のバットで叩いた時の跡が、くっきりと残っていた。
「ああ、確かに、俺が打ったタマだぜ」
「そうですか」
「で、それがどうした? 届けにきてくれたのか?」
「いいえ」
「そうか、じゃ、サインして欲しんだ。特大のホームランを打ったこの俺様のタマを拾った記念にさ。そうだろ? もちろん、喜んでサインしてやるぜ」
 花太郎にとって、初めてのサインだ。思わずいかつい顔をほころばせたが、
「いいえ、そんなもの、いりません」
 と、女の子は抑揚のない声でいった。
「そんなもの? じゃ、なんだってんだ!」
 当てが外れた花太郎は、ムカッとなった。
 すると、女の子は、すかさず、抱えていたカンバスを花太郎に突きつけた。そのカンバスはほぼ真っ二つに壊れ、描きかけの花の絵が無残な姿を見せている。
「わたしが公園で写生をしていた時、このボールがぶつかって、こんなになってしまったんです」
「そうかい、そいつは申し訳ない」
「謝ってすむことじゃありませんっ」
 いきなり、女の子の声のテンションが、キーンと上がった。
 一瞬、たじろいだ花太郎だったが、すぐに、
「じゃ、どうしろっていうんだ?」
すると、女の子は、じっとメガネ越しに見上げたまま、
「弁償して欲しいんですっ」
 と、いった。
「弁償?」
「はい、この絵をめちゃめちゃにされたからですっ」
「うっぷ! 笑わすな。こんなヘタクソな絵、弁償しろなんて、ふざけんなよっ」
「そういういい方は、失礼です! 今すぐ、訂正しなさい!」
「なにぃ! おい、あんた、俺を誰だと思ってるんだ。天女学園の番長・花屋敷花太郎といえば、泣く子も黙る…」
「花屋敷花太郎さん、ですね」
 女の子は、さえぎるようにいった。
「ああ、そうだ。で、あんたは?」
「新井リツ子といいます」
「新井、リツ子ね」
 平凡な名前だ。ま、粋がっても、大したことはないな。花太郎は、ふっと笑った。
「んで、いくら、弁償すりゃいいんだ?」
 リツ子は、さらっといってのけた。
「一億円です」



                           (つづく)





追記  台風が近づいているとか。どうなっているんですかね、この異常気象は。星子シリーズのほうも、一種の異常気象かな。リツ子さんと花太郎の一件、この先、どういうことになるのやら。僕もさっぱり、見当がつきませんが、ま、進めるしかないでしょう。
 ところで、僕はかって、ケイブンシャノベルスから「魔界甲子園」という小説を出したことがあるんですが、読んでくれた方はいるかしら。

番外らぶっす・1

            番外らぶっす

               1

「おいっ、まだかっ」
 黒星監督が、日焼けで真っ黒になった頬を引きつらせながら、怒鳴った。
「奴は、ハナコはまだこないのか!」
「は、はいっ…」
 マネージャーの細井は、ベンチの隅っこから、恐る恐る青ざめた顔をのぞかせた。
「さ、さっきからケータイで呼び出しているんですが、今は取り込み中とかで…」
「なにぃ、取り込み中は、こっちのほうだ!」
 黒星監督は、野球帽の中から滴る塩からい汗をぬぐいながら、スコアボードへ目をやった。ほんとうは、見たくない光景だ。
 五回表を終わって、得点はなんと10対0。
 もちろん、10点を取っているのは、高校野球チームの中でも指折りの強豪チーム、といいたいが、東京都内の地区予選でも準々決勝まで進めるのがやっとの、実力二流高校だ。
 そんな二流高校の野球部に、わが愛する母校・天女学園高校は大苦戦。残念ながら、実力三流以下、それこそ、「あんた、まだ、いたの」といわれる泡沫チーム。野球部の存続すら危ぶまれる状態だ。その証拠に、この試合でも、いまだ、ノーヒット、三振と凡打のヤマ、また、ヤマ。
 そして、今、五回の裏、ランナーなしのツーアウト。もし、次のバッターがアウトになって、天女学園の攻撃が零点に終われば、高校野球連盟の規約によって、試合はコールドゲーム。つまり、ジ・エンドってことになる。そうなれば、夏の甲子園に東京西地区の代表として出場出来る望みはなくなる。
 ま、それでもいいじゃないですか。どうせ、始めっから、可能性は全くのゼロ。百パーセント、ない。
 そう思っているのは、学園長をはじめ、教職員、生徒、それに、天井裏に巣くっているネズミやゴキブリ君も含めて、ほぼ、全員だ。
 野球部だけじゃない、わが天女学園は、すべてのスポーツクラブが、部員不足で機能していないか、員数は揃っていても、その実力は最低ランクもいいとこ。ついでにいわせてもらえば、進学率も就職率も最低ランク。ま、手っ取り早くいえば、落ちこぼれの落ち穂拾いで成り立っているわけ。
 で、野球部も落ちこぼれを無理やりかき集めて、なんとか、活動している。そんなわけで、誰一人期待しなくても、当然の話だった。
 ところが、黒星監督だけは、あきらめない。
 ぜったいに、あきらめない。
 変人といわれようと、バカといわれようと、あきらめずに、今にきっと勝利の女神がキッスをしてくれると、かたくなに信じている。そのわけは、黒星監督、口癖のようにいわく。
「ウチには、ハナコがいるから」
 ハナコなら、奇跡を起こしてくれる。試合に勝てる。
 黒星監督は、固くそう信じているのだ。
 …ハナコ…WHO…?
 女の子の名前か。でも、まだ女子の選手は認められていないはずだが。
 そんな疑問にはおかまいなしに、黒星監督は再度、わめいた。
「早く、ハナコを呼べ! 早くしろ!」
 その時だった。グォーン、バリバリッというすさまじいバイクのエンジン音が、レフト側の方向から轟然と高まってきた。
「な、なんだっ?」
 両軍の選手や数少ない観客達がざわめいた直後、細井マネージャーが、
「き、きました、監督っ」
ひきつった声で叫びながら、レフト方向を指さした。
「ん!」
黒星監督が目をやると、レフト側のフェンスを真っ黒な象が一気にジャンプした。
 いや、象と見えたのは、オートバイだ。それも、ナナハンクラスの大型だ。そのナナハンが50CCクラスのチビバイクに見えるほどの巨漢が、ハンドルを握っている。
なんと、上半身は裸で、日焼けした筋骨隆々とした、まるで、K1ファイターのような見事な体躯だ。下半身は真っ黒なタイツにブーツ。背中に背負っているのは、金色に輝くバットだった。
 オートバイは呆気に取られた選手や審判員、観客達を尻目に悠々とグラウンドを一周したあと、天女学園のベンチの前で、ピタッと停まった。
「ふーっ、ボロ負けかよっ」
 ライダーは、スコアボードへちらりと目をやると、オートバイから降りてヘルメットを脱いだ。
 恐ろしく背が高い。190センチはあろうか、そして、格闘家のような体格。さらに、風貌もフツウじゃない。
 刈り上げの金髪頭に、真っ黒なサングラス。口ひげに顎ひげ。大きな耳には、金のピアス。えらの張ったいかつい顔は、殺気をはらんだオーラをびんびんと発散している。その姿に、細井マネージャーやベンチの選手達は、思わず後ずさりだ。
「遅い! 遅いぞ! ハナコ!」
 黒星監督が怒鳴りつけると、
「ハナコ?」
 ライダーは、サングラスを取りながら、長身を折り曲げるようにして黒星監督を見下ろした。
 眉毛を剃った切れ長の目が、ギラッと物凄い光を放っている。それこそ、飛ぶ鳥も一瞬にして焼き鳥になりそうなほど、灼熱の殺気に満ちている。
「今、ハナコ、って、聞こえたけど、それって、誰のことかな?」
「あ、い、いや、その…」
 しどろもどろの黒星監督が、
「す、すまん、花屋敷花太郎だった…」
 と、あわてて、いい直すと、花屋敷花太郎は、
「そう、おれの名前は、花屋敷花太郎…今度、あだ名で呼んだら、センセイだろうと、容赦しねぇ。わかったかい」
 だめ押しをするように、にらみ直した。
 花屋敷花太郎。天女学園高校三年三組、年齢18歳。野球部に入ったのは、三年生になってからだ。暴走族のリーダーとして、大暴れ。警察に補導された回数、数知れず。おまけに、ほとんど、学校にも出てこない。本来ならとっくに退学になっていいはずなのに、首がつながった。花太郎の素質を見込んだ黒星監督が、花太郎を野球部で根性を入れ直す、という条件付きでだ。しかし、ほとんど、練習にも出てこないし、まだ、海のモノとも、山のモノともわからなかった。
 それにしても、このデーモンか仁王の化身のような花太郎に、「ハナコ」なんてあだ名がついているとは、とんだお笑い…おっと、アブナイ、口は災いのもとだ。
「ま、とにかく…」 
黒星監督は、必死にお愛想笑いを浮かべた。
「待っていたんだぞ、キミがくるのを…うちのエースで四番バッターの君がいないから、このザマだよ」
「すまねぇ。ちょいと、出入りがあってさ」
「デイリ?」
「隣町の暴走野郎と決闘さ。こっちは俺一人、向こうは十五人。ちょいと、手間はかかったけどな。骨折は五人。血反吐を吐いたやつは、三人だったかな」
 花太郎は、指をポキポキと鳴らしながら、ちょっと、いたずらっぽく、ニタリと笑った。
「俺、停学かな、センセイ?」
「い、いいから、早くピンチヒッターに出てくれ。今回、一点でも取らないと、コールドゲームになるんだ。頼む、ハナ、じゃない、花太郎クン!」
「わかったよ、まかせなって」
 軽くウインクしてみせると、花太郎は背中に背負っていた金色のバットを、スラッと引き抜き、
「おう、マネージャー!」
その一言に、細井マネージャーがベンチに用意していたヘルメットとユニフォーム一式を、「ハイハイっ」と、大急ぎで差し出すと、
素早く身支度を整えた花太郎、
「いくぞぅ!」
 と、怪獣もビビるような咆哮をあげて、バッターボックスへ。
 さっきの暴走ライダー姿から一転、野球戦士、そう、戦士の名にふさわしい迫力十分な姿に、相手チームの選手も、まばらなスタンドの観客も、息をのんですくみあがった。天女学園の応援団までビビっているんだから、世話はない。
「プレイボール!」
 シーンと静まり返った、ちょっと異様な緊張感がグラウンドに広がる中、審判の声で試合再開だ。
 バッターボックスで構える花太郎は、グイッとピッチャーをにらみつけ、バットの素振りを始めた。
 ビュッ!
 ビュッ!
 空気を切り裂く、ものすごい音だ。
 ピッチャーはビビったのか、マウンド上で突っ立ったままだ。
「どうした! 早く、投げんか!」
 花太郎が怒鳴ると、ピッチャーはやっと、投球モーションに入って、投げた。
 ボール。それも、キャッチャーが飛び上がって取るほどだ。
「けっ、意気地無しが! ビビったか。しっかり投げろや!」
 花太郎に挑発されたピッチャーは、ムキになって投げた。
 ボールは、花太郎の頭めがけて、一直線に…。
 最悪!…の事態を、誰もが…。
 だが、花太郎は巨体に似合わない敏捷さで、ひょいとかわした。
「よかったな、殺されなくて。俺じゃない、お前のほうだぜ」
 そのセリフに、ピッチャーは真っ青、今にも、失神しそうだ。
 それを見た相手チームの監督は、「敬遠しろ!」と、キャッチャーにサインを送った。
 どうせ、次のバッターは、ヘボな選手だ。簡単にアウトに出来る。そうすれば、10対0のコールドゲームで、おしまい。
 ニヤッと笑ったキャッチャーは、ピッチャーにサインを伝え、ピッチャーもニャリとうなずいた。
 そして、第三球。ピッチャーが投げた球は、外角へ大きく外れて、完全なボール。
 さらに、第四球は、高々とはずれて、キャッチャーがジャンプしても届かないところへ飛んでいく。
 ああ、万事休す。これで、おしまいか、と、さすがの黒星監督もあきらめかけた時だった。
「トーリャ!」
 花太郎の巨躯が、まるで猫のようにジャンプすると、金色バットが一閃!
 ガキッ!
 叩かれたボールは、半分砕けながら、センター後方へ、さらに、バックネットを軽々と越えて、公園の木立の中へと…消えた。
 …この消えたボールが、番外らぶのキューピットになるとは、その時は、まだ、ご本人たちも気がついてはいなかった…。


                    (つづく)



追記  「番外らぶっす」、どうにか、スタートです。次回は、リツ子サマのご登場と相成りまする。ご期待を…。

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