星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

星子とパパの恋旅ガイド

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全8ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8]

[ 次のページ ]

              39

「宙太さんっ」
 星子は、宙太の腕を掴もうと、ゴンドラの中から手を伸ばした。
 だが、宙太は星子の手を払いのけながら、ヘリに向かって叫んだ。
「マサルくん! 星子さんを頼んだぜ! いいな!」
「警部!」
 マサルは、ヘリの操縦席から見下ろしながら、歯噛みした。
 だが、ためらっている暇はない。頭上の開口部はさらに狭くなっていく。
「死ぬなよ、警部!」
 そういって、操縦桿を握り締めた。心を鬼にするとは、このことだった。
「星子さん! 幸せにな! もう二度と迷惑かけたり、悩ませたりしないからさ。いい恋見つけろよな!」
 宙太は、お得意のたれ目ウインクでニカッと笑うと、ゴンドラを押し上げた。
「グッバイ、ハニィ!」
 そういったつもりだが、最後のほうは言葉にならなかった。
 というのも、背後からガツッと強烈な衝撃を受けて、頭の中がぼんやりとなったからだ。その直後、宙太の体は持ち上げられて、ゴンドラの中へ放り込まれた。
 いったい、何が…懸命に意識を取り戻そうとしていると、「五月さんっ」と、叫ぶ星子の声が遠くに、じきに、はっきりと聞こえてきた。
「…五月?…」
 必死になって目を開けた宙太は、ゴンドラの外を見下ろした。
 なんと、五月が血と火山灰にまみれた姿でこっちを見上げている。
「な、なんだ? 何があったんだ!」
「五月さんが、五月さんがね、宙太さんを…」
 あとは、涙で声にならない。
「え? はっきりいってくれ!」
「…あなたの頭を岩で殴って、そのあと、このゴンドラに…」
「乗せたのかい?」
「…うん…」
 星子は、涙をぬぐおうともしないでうなずいた。
「…二人で、幸せになれって…俺が果たせなかった夢を、代わりに叶えてくれって…」
「そんな! 冗談じゃないぜ!」
 宙太は、急いでゴンドラを降りようとした。だが、すでに、ヘリはぐんぐん高度を上げていく。とても、飛び降りることは出来ない。
「マサルくん! 高度を下げてくれ! 早くしろ!」
 宙太がわめいても、マサルは無視した。五月の思いはマサルにも伝わっている。その五月のためにも、絶対に火焔地獄から星子と宙太を助け出そうと誓っていた。
「おい、こら! マサル! バカヤロ、俺のいうことを聞け! 頼むから、聞いてくれ!」
 わめき散らす宙太の目に、涙があふれた。
「バ、バカ…ヤロッ…」
宙太は泣きながら、湖面を見下ろした。
すでに、五月の姿は噴煙と火炎にぼやけているが、ヘリに向かって手を振っている姿はおぼろげに見える。気のせいか、微笑んでさえいるようだ。
「五月さんっ…」
 宙太は、声を震わせた。
「自分が果たせなかった夢って、坊やのママとのことかい…そうなんだな…」
 愛し合いながらも、離れてしまった二人だった。別れた恋人は、二人の愛の形見を授かったものの、とわの国に旅立った。愛の形見をいつくしみ、いつまでも抱きしめていたかったろうに。
 そのつらく悲しい思い出があるからこそ、自分の命を捨てても、星子と宙太の幸せを叶えてやろうと決心したのだろう。
「五月さん、あんた、カッコ良過ぎるぜ…それはないよ、五月さんよ…」
 宙太は、泣きながらつぶやいた。
 星子も、肩を震わせて泣きじゃくっていた。
 と、ヘリの窓外が急に明るくなった。
 なんとか無事に脱出できたのだ。それも間一髪だった。マサルの操縦するヘリは、開口部が閉じる寸前、通り抜けたのだった。
眼下へ目をやると、開口部は瓦礫が雪崩のようにずり落ちて、あちこちの隙間から噴煙とマグマが噴き出している。
 これでもう、五月の命は絶望的と思うしかない。五月だけではない、圭一も火の海深く吸い込まれて、もう、二度と蘇ることはないだろう。
「…五月さん…圭一さん…」
 星子は、涙をぬぐいながら、手を合わせた。
 ――圭一との再会、そして、五月との出会い……懐かしい思い出が、フラッシュバックのように星子の脳裏を流れていく。
 逢いたい、叶うことなら、もう一度、二人に逢いたい。
「逢いたい!」
 思わず、声に出して叫んだ時だった。
「星子さん、見ろ!」
「え?」
「ほら、あそこ!」
 宙太が指さす方向を見た星子は、アッと目を見張った。
 噴煙の中から、一条のまばゆい光がサーッと立ち昇ってきた。その光りの帯の中には、人影のようなものが見える。
 圭一だ!
 それも、誰かをしっかりと抱きかかえている。
五月、だった。
「圭一さんっ」
「五月さん!」
 星子と宙太は、茫然と見つめた。
もしかして、圭一は五月を黄泉の国へ連れていこうとしているのかも知れない。
ふと、圭一が星子のほうを向くと、微笑んだ。
まるで、天使のような、やさしい笑顔だ。
 その笑顔が、じきに光の中に溶け込み、圭一の姿も五月の姿も見えなくなった。
 ……さよなら、さよなら……。
 その時は、圭一にも、五月にも、永久に逢えないもの、と、思っていた。
                ○
「星子、どうだ、気分は?」
 わたしが声をかけると、星子はにっこりとうなずいて見せた。
 かなり、顔色も良くなったようだ。はじめ、この札幌の病院に運び込まれた時は、疲労と心労で病人同様だった。
 ま、無理もない。星子にとっては、大変な体験をしたわけだから。わたしは何もしてやれなかったが、幸い、宙太やマサル、それに、春之助達のおかげで無事、戻ってくることが出来た。ただ、心残りは圭一との別れ、そして、五月を喪ったことだ。その心の痛手には、さすがの星子も打ちのめされていた。
「ごめんなさい、パパ」
 ベッドから起き上がった星子は、わたしに詫びた。
「パパには、ずいぶん、心配かけちゃって…」
「いいんだよ、気にするな」
 わたしは、星子の肩を抱きしめてやった。
 わたしにとって、星子は永遠の恋人だ。こうして、そばにいてやれるだけで幸せだった。
 その時、廊下のほうで賑やかな声が聞こえて、ドアが開くと、宙太やマサル、それに、ゴンベエを抱いた春之助が入ってきた。
「おっ、顔色がかなり良くなったな」
 宙太は、星子の顔を覗き込んでニヤッと笑った。
「これも、ボクチャンの愛の妙薬があったからこそだぜ」
「よくいうわね!」
 春之助が、肩をすくめた。
「あたしが、そばについていたからよ。そうよね、ゴンベエ?」
 フニャーゴ、と、ゴンベエはそっぽを向いたまま鳴いた。
「ほら、違うっていってるぜ」
「違うのは、宙太さんのほうでしょっ」
「なに?」
「なによっ」
「ま、ま、ま、お二人さん」
 マサルが、手で二人を制した。
「それより、早く会わせてやれよ」
「おっと、そうでした」
「会わせるって、誰に?」
 星子がけげんそうにいうと、
「どうぞ、お入り下さい」
 宙太は、廊下に向かっていった。
 と、ゆっくりとした静かな靴音が聞こえて、長身の男が入ってきた。
「!…」
 星子は、目を疑った。
 五月、だった。
「そう、五月さんだよ」
 宙太は、目を潤ませながらいった。
「俺も、さっき会った時、とても信じられなかった。天界から戻ってきたのかと思ったぜ。でも、そうじゃない、本物の五月刑事さ」
「!…」
「あの時、圭一君は五月さんを展開へ連れていったんじゃなかったんだ。君や俺のために、最後の力を振り絞って五月さんを助けると、下界に無事に届けてくれたってわけさ」
「!…」
 星子は、言葉を忘れたように、ただ、茫然と五月を見つめていた。
「すまなかった、心配かけて」
 五月は、低い声でいうと頭を下げた。言葉こそ少ないが、暖かみのあふれる声だった。
「……」
 じきに、星子の目に涙がにじみ、五月の精悍な顔がぼやけていった。
「よかった、ほんとによかった、な、星子」
 わたしが話しかけても、星子は黙ったままだ。
「どうした、星子?」
「……」
 ちょっと、気まずいような感じだ。
「じゃ、僕はこれで…仕事があるので…」
 五月は、あらためて頭を下げると、病室を出ていった。
「星子、なぜ、黙ってるんだ? 五月さんい聞きたいことがたくさんあるんじゃないのか?」 
「……」
「な、星子?」
「…一人に…」
「ん?」
「わたしを、一人にして」
「一人に?」
「お願いっ」
「でも、星子…」
「パパ、いこう」
 宙太は、わたしを促した。
「し、しかし…」
「いこうったら、パパ」
「さ、パパ」
 マサルと春之助も、わたしの腕を掴んで立たせた。
 わたしは、しぶしぶ宙太やマサル、春之助、ゴンベエたちと病室を出た。
 その直後、だった。病室から星子のわっと泣く声が漏れてきた。涙をすべて絞り出すような泣き声だった。
 わたしは、ハッと立ち止った。
 ――星子は、恋をしている、五月刑事に恋を……きっと……。
 宙太にもそのことは、わかっているようだ。ただ、黙って窓の外へ目を走らせた。
 冷たい風が、窓に吹き付けている。札幌の街は、もうじき、雪に覆われることだろう。
 そして、星子の恋さがしの旅も、今、この街から、あたらしくはじまろうとしていた。

                           (おわり) 



追記  大みそか恒例の第九を聞きながら、最終回を書き終えたところです。この一年、お付き合い頂き、本当に有難う。来年も、星子は新たな恋を求めて旅を続けることでしょう。ぼくも体調と相談しながら、星子の恋旅日記を書きたいと思います。
では、どうか、みなさま、よいお年を。

開く トラックバック(1)

               38

「マサルさんっ」
 星子は、ヘリに向かって手を振った。
 ヘリの操縦席の窓からは、マサルが大きく手を振って合図をしている。
「あいつ! いいとこ取りしようってか! やるな!」
 ふっと笑みを浮かべながら、宙太も手を振った。
 助かる方法は、ヘリに救出して貰うしかない。だが、湖面はすべてのものを巻き込むように渦巻き、水蒸気と噴煙の混じった火柱があちこちに噴き上がっている。しかも、岩壁全体が、轟音を立てながら崩れ始めていた。こんな火焔地獄のような大洞窟に、はたしてヘリが降下できるのだろうか。
「頼むぜ、マサルくん!」
 宙太の声に応えるように、マサルは精悍な表情を一段と引き締めて操縦桿を掴んだ。ヘリは、ぽっかりと口を開けた大洞窟の天井から降下していく。だが、噴き上がる火柱にあおられて、ヘリは岸壁に吸い寄せられた。
「危ない!」
「マサルさん!」
 星子は、思わず悲鳴を上げた。
 間一髪のところで、ヘリは岸壁すれすれに旋回すると、なんとか機首を立て直した。
「ふーっ、よかった!」
 宙太は、胸を撫で下ろした。
 だが、ホッとしたのもつかの間だった。大洞窟の開口部が激しい地割れによって、次第に狭くなり始めたのだ。
「早くしないと、ふさがってしまうぞ!」
「!…」
 そんなことになったら、大変だ。脱出は不可能になってしまう。
 マサルも急いでヘリを湖畔へ降下させようとした。しかし、噴き上げる噴煙はさらに激しくなって、機体は大きく揺れ、今にも墜落しそうだ。
 このままでは、共倒れってことになる。マサルは、着陸をあきらめて、機体からゴンドラを降ろした。
「ゴンドラは二人乗りだ! 急いで乗ってくれ!」
 ヘリのスピーカーから、マサルが叫んだ。
「よし、わかった!」
 じきに、宙太の前にゴンドラが降りてきた。ぐらぐらと激しく揺れるので、乗るのが難しそうだ。宙太がなんとかゴンドラを掴まえて、
「さ、早く乗るんだ!」
 と、星子をうながした。
「でも、五月さんが…」
「俺が探してくる! だから、君一人で先にヘリに乗ってくれ!」
「ううん、五月さんが見つかるまで待ってる」
「駄目駄目、ゴンドラは二人しか乗れないんだ。俺は五月さんを見つけたあとで、一緒に乗るから!」
「いやよ! わたし、待ってる!」
 星子は、首を激しく振った。
 五月の姿を確認するまでは、ここから離れたくない。それに、宙太と離れるのは、すごく不安だ。なんだか、もう、二度と会えないような悪い予感がする。
「五月さんが見つかるまで、わたし、待ってるから!」
「星子さん…」
 宙太が歯噛みした時だ。ヘリのスピーカーから、再びマサルの声が流れた。
「美空警部も一緒に乗ってくれ! この状態じゃ、二度目のフライトは無理だ!」
「えっ」
 確かに、状況はますます悪くなっている。頭上の開口部はさらに狭くなって、もうじき、閉じてしまいそうだった。
「宙太さん…」
 星子は、頭の中が真っ白になった。五月を残していくわけにはいかない。しかし、もう時間がないのだ。
 と、宙太がいきなり星子を抱えてゴンドラに乗せた。
「君だけいってくれ!」
「えっ」
「俺は、最後まで五月さんを探す!」
「じゃ、わたしも残る!」
「星子さんっ」
 宙太の目が、キッとつり上がった。
「バカヤロ! がたがたいわないで、俺の言うとおりにしろ! さもないと、ぶん殴るぞ!」
「宙太さん…」
 いつもの宙太とは、別人のようだ。星子は、思わずたじろいだ。
「頼むから、な、星子さん」
 宙太の目に、ふっと、涙が浮かんだ。
「俺はな、デカなんだ! 仲間を見捨てるわけには…わかってくれ! もし、俺に何かあったら、俺の分まで生きてくれ! いいな、ハニィ!」
「宙太さんっ」
宙太は目頭をぬぐうと、ヘリに向かって合図した。
「引き上げてくれ!」
 
                       (つづく)



追記  今回で終わるはずが、あと一回のびてしまいました。ということは、大晦日が最終回。なんたることだ。ハンセイしております。とにかく、あと一回、最後の詰めです。ガンバリマス!

              37

 ――カムイ火の海、一度見た者は生きては帰れない……。
 たしかに、本当のことかも知れなかった。真っ赤に染まった湖面からは熱い水蒸気が一面に噴き上がり、竜巻となって立ち昇っていく。足元の揺れもさらに激しくなり、巨大な空洞全体がものすごい轟音を上げながらのたうっている。頭上や周囲を覆う岩壁は、がらがらと崩れ、宙太は星子をかばいながら避けるのが精いっぱいだった。
「五月さん…五月さんは?…」
 星子は、五月が倒れている岩場のほうへ目をやった。だが、壁から瓦礫が次々と崩れ落ちてきて、五月の姿は見当たらない。
 五月は、瀕死の体で星子をここへ連れてきてくれた。その五月に万一のことでもあったら、申し訳ないではすまない。
「五月さんっ」
 そう叫びながら、星子は走り出そうとした。
「危ないっ、無茶するな!」
 宙太は、なんとか抱き止めた。
「離して! 助けにいかなきゃ!」
「駄目だ! 君も瓦礫の下敷きになるぜ!」
「でも!…」
 宙太の腕を払いのけようとした時、強い風が吹きつけて、湖面のほうへ体が引っ張られた。なんとか踏み止まりながら湖面を見ると、煮えたぎるような湖面の中心に水蒸気の巨大な柱が激しく回転しながら、どどどっと沈みこみ、そこに渦が出来て、見る見るうち大きなっていった。
 湖底に沈んだ圭一の姿も、たちまち渦に飲み込まれていく。
「あっ、圭一さん!」
 そう叫びながら、手を差し伸べるのがやっとだ。湖畔には泡立つ波が押し寄せ、とても、近づけない。
 その時、まりも姫の悲鳴が聞こえた。
砂金を積んだ木箱が渦に巻き込まれて、次第に渦の中心へ引き寄せられていく。
「待って!」
 大声で叫んだまりも姫は、両手の指先を向けて蛍の光の帯を放ち、必死で木箱を引き戻そうとした。だが、その効果はなく、小箱はさらに渦の中心へ落ちていく。
 まりも姫は、何やら大声で呪文を唱えた。すると、蛍の群れが一斉に集まってまりも姫を包み込んだと思うと、まりも姫の体は宙に浮かんだ。
「!…」
 星子と宙太が見ていると、まりも姫は吸い込まれていく木箱を追って、渦の真っただ中に飛び込んでいく。なんとか木箱に掴んだが、持ち上げる余力はないようだ。
 じきに、力尽きたように、木箱に掴まったまま、一気に火の海の中に吸い込まれていった。
「!…」
「……」
 星子と宙太は、息をのんだまま、その光景を見ていた。
 その間にも火の海はさらに激しくのたうち、火焔と噴煙が地下洞いっぱいに広がっていく。地鳴りと揺れは一段と大きくなって、ついに、天井からばらばらと岩が落ち始めた。
「もう、ダメかも…」
 星子が恐怖に怯えた顔でいうと、
「バカいうな! 最後の最後まであきらめるなって! 命も恋もな! わかったかい、ハニィ!」
「宙太さん…」
 なんとも、頼もしい男だ。でも、気がつくのが遅かったようだ。
 それを証明するように、天井の岩盤が大きく崩れた。そして、立ち昇る噴煙を透して、ぽっかりと青白い大空が見えてきた。
「見て、宙太さん! あそこから逃げられるかもね!」
「でもさ、どうやって、あんな高いところまで登るんだ? タワーマンション並みの高さだぜ!」
「……」
 確かに、その通りだ。ヘリでも使わない限り、とても登ることは不可能…ん?…。
 聞こえる、ヘリコプターの爆音が…次第にはっきりと聞こえてきて、やがて、一台のヘリが姿をあらわした。
 そのヘリから、しきりと手を振る男が…なんと、マサルだった。

                      (つづく)



追記  ついに、マサルくんの登場だ。いよいよ最終回近し。果たして、どういうエンデイングになりますやら。
 ところで、肉食獣的色恋人生、認めて下さるヒトが多くて有難いです! よぉし、オレも宙太なみのアタックでゲットするぜ! なんて、トシを考えろ。鏡を見てからわめけ!
なんて、そういう自己規制がすぐかかってしまう。悲しいけど、現実…かな…。でも、それを乗り越えなくては。お前は、それでもモノカキの端くれだろうが。恥をさらしても、色恋の道をきわめるのだ。よいな! なんて、天の声がどこからか…オヤスミ…。

             36

「宙太さんっ…」
 宙太の決めぜりふに、星子は胸がジーンと熱くなった。
今回ばかりは、宙太が助けにきてくれることはないだろう。宙太をあざむいてこの大雪山へやってきたことだし。そんなわたしに、助けて貰う資格なんかない。そう覚悟を決めていた。でも、宙太は、星子を助けるために駆けつけてくれた。
 嬉しい。涙が出てくる。
 でも、そこは突っ張りの意地っ張りの星子だ。気持ちとは反対に、
「なによ、なにしにきたわけ? 邪魔しないで!」
 星子は、きりりっと眉をつり上げた。
「これは、わたしの戦いなの! いけにえになった女の子達のために戦うのよ!」
「かっこいい! そういうとこに惚れちゃったんだよな、オレ」
 宙太は、背中にかばった星子に、ちらっとウインクして見せた。
「でも、それじゃ俺の出番がなくなっちゃうぜ。花の警視庁捜査一課警部、美空宙太、月給分だけの仕事はさせて貰わないとな!」
 そうタンカを切ったあと、宙太はまりも姫をしっかりと睨みつけた。
「な、まりも姫さんよ。悪いことはいわないぜ。もう、お宝のガード役は卒業だ。大人しく、天国の王子様の所へいくことだな。わかったかい?」
「――」
 まりも姫は、恐ろしい形相で宙太を見据えた。
「あなたは、この子の恋人のようね」
「ようね、じゃなくて、ホントの恋人さ」
「ち、違うわ!」
 星子は、あわてて首を横に振ったが、宙太は、
「いいからいいから。俺がヒグマも恐れる地獄谷を突破して、ここへ駆けつけることが出来たのも、恋のガイド役キューピットちゃんのお導きがあったればこそさ。キューピットちゃんが、恋の証人ってわけ。ビバ、キューピット!」
 ああ、もう、この期に及んでこのテンションの高さ。普段は鼻につくところだが、今はとても頼もしく思える。
「ということで、キューピットちゃんの顔を立てて、おとなしく、両手を上げてくれよ、まりも姫さんよ」
「お黙り! お前もこの子と一緒に暗黒界へ落としてやる! 覚悟なさい!」
 まりも姫は、両手の先を宙太と星子に向けた。
 一段と火勢を増した紅蓮の炎が、グォーッと迫ってきた。
「うはっ」
 宙太は、星子を小脇に抱えて、ひらりと横へ跳んだ。そして、ホルダーから拳銃を抜いて、まりも姫の右足を狙い引き金を絞った。
 命中、したはずなのに、まりも姫は平然として、さらに、火炎を吹きつけてくる。
 宙太は、星子をかばいながら必死にかわした。そこへ、蛍の群れが金属音のような羽音を立てながら襲いかかってきた。
「く、くそっ」
 星子も一緒になって必死に払いのけたが、蛍の数は増える一方だ。宙太の動きがにぶくなったところを、さらに、まりも姫の放つ火炎が吹きつけてくる。
「ヤバッ、こいつは、かなりヤバいかもな、星子さんっ」
「かもね」
「キューピットちゃんも、俺達を見放したかもな」
 宙太の顔に、不安の色が走った。
「仕方ない、諦めて心中といきますか」
「いやっ、宙太さんと心中なんか、絶対にいやよ!」
 ほんとは、それでもいい。
「でもさ…」
 宙太がいいかけた時だった。
 ズズズッ!
 ものすごい地鳴りが聞こえたと思うと、足元の岩場がぐらぐらっと大きく揺れはじめた。
「ん!」
「じ、地震?」
 壁の岩がガラガラと崩れ出し、足元の岩にも、バシッバシッと亀裂が入っていく。崩れた岩が湖面に降りそそぎ、水面が激しく波立った。
 星子は立っていられずに、宙太にしがみついた。宙太も、体を支えるのがやっとだ。
 まりも姫が何か術でも使ったのか、と、思ったが、まりも姫も不安そうに立ち尽くしている。
「あっ、見て、宙太さんっ」
 湖面を見た星子が、叫んだ。
 波打つ湖面にのあちこちから、激しい水蒸気が吹き上げ、湖底から真っ赤な火の塊が、それも、湖底全体からせり上がってきた。
「マ、マグマだぜ!」
 宙太は、ごくっと息をのんだ。
「マグマ?」
「ああ、火山のな」
「じゃ、噴火するってこと?」
「らしいぜ!」
「!…」
 じきに、せり上がるマグマの真っ赤な火が、湖水全体を赤く染めはじめた。同時に湖水は沸騰して洞窟の中は蒸し風呂のように熱くなってきた。蛍の群れも、狂ったように乱舞している。蛍の光も真っ赤に映えて、まるで、無数の火の粉が飛び跳ねているようだ。
 星子は、宙太にしがみつきながら、目の前に展開する火の地獄のような光景を見つめた。
 と、宙太がつぶやくようにいった。
「そうか、パパがいっていた伝説のカムイ火の海、とは、このことだったんだ!」
「カムイ火の海…」
「あとで聞いたけど、カムイ火の海を見た者は、誰一人、生きては帰れないそうだぜ」
「えっ!」
 星子の体から、血の気が引いた。


                              (つづく)



追記  さぁ、いよいよ、僕の大好きな大スペクタルシーンになりましたぞ! なんて、はしゃいでいる場合じゃない。はたして、星子と宙太は、カムイ火の海から無事に帰れるのか。波乱と感動のラストへと、物語は展開していきます。
 最後までお付き合い下さいね。よろしく!
 ほんとは、終わるのがちょっと寂しけど…。

            35

「!…」
 悪夢でも見ているのだろうか。そう、夢であって欲しい。だが、星子の願いもむなしく、圭一の姿は水底に仰向けになった状態で沈んだままだった。
「見ましたね」
まりも姫は、ゾーッとするような低い声でいった。
「見てはいけないものを、見てしまったようね」
 先程とは一転して、蛍の群れの放つ光は青白い燐光に変わり、まりも姫の目は真っ赤に妖しく光り、口元も吊り上って、まるで、夜叉か魔女のようだ。
「哀れな男、わたくしにかなうわけがないのに」
 まりも姫は、冷笑しながらいった。
「じゃ、あなたが圭一さんを?」
「そうよ、あなたより一足早くここへきて、わたくしの命を断とうとしたけど、かえって返り討ちにあったというわけ」
「!…」
「こうして湖の底に沈んでいられるのも、あと僅か。じきに、湖底の奥深くへ吸い込まれていくことになるわ。そこは、死者の霊を封じ込める暗黒界。二度と出てこれないでしょう。肉体は滅んでも魂だけは生き続け、永遠に闇地獄の世界をさまようはめになるのです。これも、わたくしを亡き者にしようとした報いです」
「!…」
 なんて恐ろしいことだろう。星子は、恐怖にすくみあがった。
「あなたも、わたくしに逆らえば同じ目にあうことになるわ」
 まりも姫は、夜叉のように赤く不気味に光る眼で星子を見据えた。
「でも、わたくしのいうとおりにすれば、あなたは巫女となって、魂はこのまりもの中に移り、永遠にこの楽園で蛍達と暮らすことが出来るわ」
「……」
「どちらを選ぶ? もちろん、答えはきまっていますね」
 まりも姫は、あらためて、まりもを星子に突きつけた。
 …闇地獄の暗黒界…魂をまりもに移してここで暮らす…どちらも、お断りだ。
 星子は、キッと顔を上げた。
「その前に、聞かせて。あなたは、王子様への愛のために、こんな恐ろしいことをしているわけね?」
「その通りよ」
「でも、それで、王子様が喜ぶと思う? 他の女の子達を犠牲にしてまで守るなんて、そんなの愛って呼べないわよ! ほんとの愛っていうのは、自分だけじゃない、皆が幸せになってこそ、叶えられるんじゃないの?」
「あなたは、やさしい人ね」
 まりも姫は、星子を見つめた。
「でも、この世の地獄を見ていないから、そんなふうにやさしくなれるのかも知れないわ」
「この世の地獄?」
「そうよ、わたくし達一族は、昔、この地を支配する和人達から奴隷のようなつらい暮らしを強いられてきたの。でも、砂金が見つかったおかげで、やっと、人並みに生きられるようになったわ。ところが、砂金に目をつけた和人達は、わたくし達を皆殺しにして、砂金を奪おうとしたのよ。王子は最後まで勇敢に戦ったけれど、力尽きて、砂金を巫女のわたくしに託したの。その砂金は、ここにあるわ」
 まりも姫は、両手を大きく広げて、呪文のような言葉を唱えた。
 すると、湖上を舞う無数の蛍の群れが一本の大きな光の竜巻となって、湖の中央あたりへ降りていくと、湖水を巻き上げ始めた。すると、湖水の中から、大きな木箱が浮かび上がってきた。表には花模様の木彫りがあって、散りばめられた宝石がキラキラと光っている。
 その木箱の蓋が開くと、中には、半透明の袋がぎっしりと詰まっている。その袋からは黄金色の光が一斉に放たれ、あまりのまぶしさに目も開けていられないくらいだ。
「あれが、亡き王子様の砂金…わたくしと王子様の愛の証し…そして、滅び去った一族の思いが込められた、かけがいのない宝物なのよ」
「……」
 まりも姫の夜叉のような目に、きらりと涙が光った。くわしいいきさつはわかりようもないが、まりも姫の思いつめた気持ちは、星子にも伝わってくる。だからといって、愛のためにいけにえを捧げることは、許されないことだ。
「あなたの気持ちは、よくわかったわ」
 星子は、きっぱりといった。
「でも、やっぱり、やめてほしいの。お願い!」
「出来ないといったら?」
 星子は、まっすぐ見つめた。
「その時は、戦うしかないわね」
「このわたくしに、勝てると思っているの?」
「負けるでしょ。でも、これがわたしってものなの」
 無茶は承知で向かっていく、それが、星子の性分だ。自分でも損な性格だと思うが、どうしようもなかった。
「そう…残念だわ、あなたのようなすてきな人を暗黒界に送るなんて」
 まりも姫は、一瞬星子を見つめたあと、両手を星子に向かってかざした。
 その手の先に火がともり、たちまち、大きな紅蓮の炎となって、その先端が星子に狙いを定めた。
「業火に焼かれて、暗黒界へ墜ちるがいい!」
 熱い! 焼き殺されるかも!
 星子は、恐怖ですくみあがった。
 その時、頭上からサッと人影が降ってきて、星子をかばうように立ちふさがった。
「おまっとうさん、ハニィ!」
 ニカッと笑って見せたその顔は、宙太だった。


                                (つづく)



追記  クリスマス・ボケなんかしていられない寒さですね。今回のお話、なんとか、年内で収まりそう    だ。腱鞘炎のほうも、なんとか治まってくれるといいけどね。ま、人生、頑張った後は、運を天    に任せるしかないか。でも、お迎えに来るのは、もうちょいとあとでね。素敵な人たちとのブログ    パーティ、もうしばらく楽しみたいから。ヨロシク!

全8ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8]

[ 次のページ ]


.
星子&宙太yyy
星子&宙太yyy
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

Yahoo!からのお知らせ

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事