星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

星子とパパの恋旅ガイド

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                 34

「星子さん、いくな! いっては駄目だ!」
 五月は、星子の背後から抱きしめようとした。瞬間、蛍の群れがギラッと光ると、グゥオーンと羽音を立てながら、五月に襲いかかった。
「うわっ」
 五月は払いのけようとしたが、蛍の群れはぎらぎら光る帯となって五月を取り囲み、物凄い速さで回転する。目は開けられないし、耳も羽音でまったく聞こえない。それでなくてもダメージを受けている五月の体では、とても耐えられそうもなかった。
<しっかりしろ! 星子さんを助けないと…しっかりするんだ!>
 五月は、必死でもがいたが、激しい激痛と出血で次第に気が遠くなり、崩れるように倒れた。それでも、五月は叫び続けた。
「…星子さん…戻るんだ…星子…さん…」
 だが、星子に五月の声は聞こえず、五月の姿も見えなかった。星子を取り囲む蛍の群れが、光の壁となって星子の視界をさえぎっていたからだ。
 やがて、蛍の群れに導かれた星子は、まりも姫の前に立った。
 まじかで見るまりも姫は、まばゆいほどの蛍の光に包まれて、神々しいほどに美しい。星子は、圧倒されたように頭を下げた。
「よくきてくれましたね。あらためて、お礼をいいます」
 まりも姫は、柔らかな笑みを浮かべた
「待って」
 星子は、まりも姫を見つめた。
「あなたに、確かめておきたいことがあるの。あなたは、同じ年頃の少女をいけにえに、王子が残した宝を守り続けるって、聞いているんだけど…ほんと、それって?」
「……」
「どうなの? はっきり、答えて」
 まりも姫の美しい顔から、笑みが消えた。
「ええ、その通りです。でも、いけにえといっても、皆、喜んで愛を捧げてくれたのです」
「愛を?」
「そうです、無垢で清らかな愛です」
「で、そのあと、女の子たちはどうなったの?」
「巫女となって、この湖のほとりで、楽しく暮らしています」
「ほんと?」
「ええ、あなたも、もうじき、その巫女の一人になれますわ」
まりも姫は、手に持ったまりもを星子に差し出した。まるで、エメラルドのように緑色に輝いている。
「このまりもは、あなたが巫女になる証しです。受け取って頂けますね」
「!…」
「さぁ、早く」
 まりも姫の目が、星子をじっと見据えた。
 睫毛の長い澄んだ瞳は、どこまでも澄みきっていて、吸い込まれそうな不思議な気分になる。怖くなった星子は、視線をはずそうとした。だが、出来ない。じきに、頭の中がぼんやりとしてきて、自分の意志とは関係なく、まりもに向かって手が動き出した。
<ダメ、受け取っては駄目よっ>
 自分にいい聞かせても、もう一人の自分が、
<受け取るのよ、星子、あなたはまりも姫のためにいけにえになるの。いいわね>
 そうささやく。
 その声は次第に強くなり、星子はいつの間にか、恍惚とした気持ちになってきた。
 そして、嬉しそうな顔でマリモを受け取った…と、思った時だった。
「おーい、星子さーんっ! ハニィ!」
 どこからか、宙太の声がかすかに聞こえてきた。
「……」
星子は、ふと、我にかえったように立ち止まった。
そのはずみに、まりもが星子の手から転がり、湖水に落ちた。すると、鏡のように光っていた湖面が揺らいで波紋が起き、その間から澄み切った透明な水底が見えた。
水底には、なにやら、白っぽい枯れ木のようなものがたくさん沈んでいる。
<…なんだろ…>
見つめた星子の口から、悲鳴が上がった。
骨だ。それも、人間の骸骨や胸骨、腰骨、手足の骨が重なり合い、散乱している。
星子が身震いしながら顔をそむけようとした瞬間、人骨から少し離れた所に、うつ伏せに沈んでいる人の姿が見えた。
圭一に間違いなかった。


                              (つづく)




追記  腱鞘炎のことでは、ご心配かけました。薬とシップで、なんとか、少しずつ、治まってきたようです。毎年、季節の変わり目には必ずと言っていいほど、訪問してくれるんですよ。まったく、義理堅い奴です。とにかく、何とか、頑張ってラストランを!
 それはそうと、映画「テファニーで朝食を」を、久しぶりに見ました。もう何度目かな。ヘプバーンのステキなことったら。しみじみとした、ラブストーリーで、ああ、こんな作品が書けたらな、と。才能がないってつらいです。そうそう、ラスト近くで、恋人がヘプバーンに「君は、愛の鳥籠に束縛されずに自由に生きることを求めているが、そのくせ、自分を自分の鳥籠に閉じ込めている」といった意味のことを言っていた。これって、星子のことかもね。
素敵な愛を求めて一人旅、でも、素敵な愛を見つけても、かえって、飛び込むことが出来ない。
籠の中の星子、かなしい少女。でも、いつかきっと、ほんとの幸せを見つける時が…そんな星子の愛の旅路を、これからも、書いていきたいです。

               33

「……」
 星子は、息をするのも忘れたように見つめた。
 蛍のほのかな光の帯が、まるで、ドレスのようにまりも姫を包み込み、この世のものとは思えないほど美しく幻想的な姿を湖面に映している。いかにも、伝説にふさわしい姿だった。
 もしかして、夢でも見ているのかも…そんな気持ちがしてくる。
だが、五月の目は冷静で、鋭い視線をまりも姫に向けていた。重い怪我と出血、それに、星子を支えてここまで連れてきたし、かなり、体力は消耗しているはずだ。事実、顔色は土気色で、頬はげっそりと削げ落ち、気力だけで立っている感じだった。
それにしても、まりも姫がいるからには、まだ、圭一はここにきていないようだ。たとえ異界の人間だろうと、圭一にこれ以上の犯行を重ねさせたくない。それが、五月の気持ちだった。
 じきに、まりも姫がゆっくりと星子に顔を向けた。
 なんて、美しい少女だろう。姫というよりも、妖精の名前がふさわしいかもしれない。
「お待ちしていました、星子さん。よくきてくれましたね。本当に有難う。心から、お礼をいいます」
 まりも姫の柔らかな声が、星子の心に伝わってくる。まるで、天上の音楽のような声だ。聞いているうちに、星子は綿毛の揺り篭に揺られているような気分になってきた。
「星子さん、私のそばにきてくれますね」
 まりも姫は、星子に微笑みかけた。
「さぁ、星子さん」
 まりも姫が手招きすると、蛍の群れが帯となって星子のほうへ飛んできて、星子を包み込んだ。そのあと、星子は蛍の群れに包まれたまま、まりも姫のほうへ歩き出そうとした。
 瞬間、五月が星子の腕を掴んだ。
「星子さん、いくんじゃない!」
「大丈夫、わたし、あの人を説得しにきたんだから」
「そんなことは、無理だ。とにかく、あとのことは俺に任せるんだ。いいか」
 だが、星子は五月の手を払いのけて歩き出した。
「星子さん!」

                            (つづく)


追記  腱鞘炎でございます。進行が遅くなりますが、ご容赦を!

               32

「春ちゃん、しっかりしろ! 春ちゃんたら!」
 宙太にカツを入れられて、春之助はやっと目を開けた。
「…宙太さんっ…パパっ…」
「大丈夫か」
 わたしは、息の詰まるような硫黄の匂いに悩まされながら、春之助に声をかけた。
 宙太と二人で、血痕の痕を追いながら地獄谷の入り口まできたところ、気を失っている春之助を発見した。
 近くには、真っ黒なコートを着た異界人の遺体が転がっている。むき出しになった顔や手はミイラのようで、なんとも薄気味の悪い姿だった。
「いったい?、何があったんだ?」
「…何がって…ああっ…」
 春之助の朦朧とした顔が、一転、ハッとなった。
「星子ちゃん! 星子ちゃんが!…」
 起き上がりかけて、春之助はよろけた。
 すかさず、抱えた宙太が、
「星子さんが、どうしたんだっ」
「じ、地獄谷の奥へ…」
「なに!」
「五月さんも、一緒よ…」
「五月刑事も! 確かか!」
「ええ、私もあとを追いかけようとしたけど、気が遠くなって…」
「とにかく、その時のことを話してくれ!」
「それがね…」
春之助は、苦しそうな息使いで、話した。
 ――自分の体に、異界人が乗りうつっていたこと。圭一がその異界人を倒したあと、まりも姫の元へ向かったこと。そして、星子が五月に支えられながら、圭一のあとを追ったこと、を…。
「ヤバいぜ、こいつは!」
 宙太は、唇をかんだ。
「パパ、俺、助けにいくから、春ちゃんを頼む!」
「い、いや、わたしもいくから…」
「あたしも!…」
「ダメダメ! ここから先は、ホントの地獄だぜ。お二人さんには、ムリもいいとこ!
んじゃな!」
 そういって、宙太は猛然と走りだした。
「星子さん! じきに、俺がいくからな! 無茶するなよ、いいか!」

――ここって、ほんとに地獄かも……。
星子は、茫然とあたりへ目をやった。
五月に守られながら、なんとか地獄谷を通り抜けると、赤茶けた溶岩の崖が聳え立ち、あちこちから噴煙や水蒸気が噴き出している。ものすごい熱さと硫黄の匂いで、目がくらみそうだ。谷はここで行き止まりのように見えたが、水蒸気がシュウシュウと噴き出す溶岩の裂け目から、まりも姫の声が聞こえてきた。
「ここよ、ここから入るのよ…」
「!…」
 星子は、立ちすくんだ。こんな所から入っても大丈夫なんだろうか。蒸し焼きになりそうな気がする。
 でも、ためらっていても、始まらない。一か八か、やってみるだけだ。
「五月さん、わたし、一人でいく…」
 そういって、五月のコートの中から出ようとした。だが、五月の腕はしっかりと星子の肩を抱えたままだ。出血は相変わらず止まらないし、息使いもかなり苦しそうだが、星子を守ろうという五月の気持ちには揺らぎはなかった。
「ね、五月さん、お願い…」
「……」
 五月は、黙ったまま、星子を引き寄せて歩き出した。
「五月さん…」
 五月は、命の最後の火を星子のために燃やそうとしているのかも知れない。そんな思いつめたものが、五月の体のぬくもりから伝わってくる。
その気持に、答えなくては…そうよ、そうしなくては…。
星子は、五月の胸に体を摺り寄せて歩き出した。濡れた血が星子の服に染みてくる。でも、離れようとは思わなかった。
「入るぞ」
 五月は、星子を抱えるようにして、溶岩の裂け目に飛び込んだ。一瞬、真っ暗闇になったが、じきに、青白い燐光が、ちらちらとあちこちにきらめき始め、壁や天井を浮かび上がらせた。かなり広い洞窟が、奥のほうへとつづいている。まるで、鍾乳洞の中に迷い込んだような気分だ。
 いつの間にか、熱さも硫黄の匂いも薄れて、奥のほうからひんやりとした風が流れてきた。その風に誘われるように進むと、洞窟が急に広がって、まるで、ドームのような大空洞があらわれた。
 その大空洞には、ほのかな青白い光が無数舞っている。
 どうやら、ホタルのようだ。
 その数はさらに増えて、ドーム全体が、まるでシャンデリアに照らされたように明るくなった。そして、その光りが大空洞の底にある大きな地底湖を浮かび上がらせた。
 無数のホタルの光を映した地底湖は、どこまでも透きとおり、息をのむほど神秘的で美しい。
 思わず見とれていると、近くの湖畔に蛍の光の帯が渦を巻き、人影を浮かび上がらせた。
 妖精のように美しい少女だ。真っ白な裾の長い衣装をまとい、手のひらには緑色のまりもを乗せている。
 まりも姫に違いない。きっと、そうだ!
 星子は、茫然と見つめた。 


                                 (つづく)


追記 いよいよ、まりも姫の登場です。なれないファンタジーの世界だけど、僕なりに楽しんでいきま   す! ところで、母のことで、温かい、そして、優しいコメントありがとう。同じような体験や苦労  をしている人が多いんだな。胸がジーンとなってしまった。これも、星子ファミリーがとりなす縁   かな。これからも、お互い、支えあっていきましょう。
 

              31

「圭一さんっ」
 星子は、泣き声で叫んだ。でも、圭一の姿は、たちまち地獄谷に漂う噴煙の中へ吸い込まれていった。
<いざという時は、星子を守るために、まりも姫を始末する> 
<今の俺に出来る、最後の愛の証しなんだ>
 圭一のいった言葉が、星子の脳裏にはっきりと残っている。
 圭一の気持ちは、嬉しい。でも、星子のために、まりも姫が殺されるとしたら。そんなにつらいことはない。
 そんなことになったら、わたし、一生、幸せにはなれないと思う。人の犠牲の上に、自分の幸せがあるなんて、あってはいけないことだ。絶対に許されないことだ。世の中にはそういう人もいるけど、わたしはそうなりたくない。
 絶対に!
「……」
 じきに、星子はキッと顔を上げた。
<やっぱり、まりも姫に会いにいこう! よく話しあえば、きっと、わかってくれるはずよ。きっとね!>
 まりも姫は、恋のために魔女になってしまった、哀れな女の子だ。恋が命の星子としても、なんとか、助けてあげたい。
<そうよ、わたしの力で助けてあげなきゃ!>
 そう思った時には、もう、星子は地獄谷に向かって走り出していた。硫黄の匂いは、さらにきつくなり、息が思うように出来ない。
 気分が悪くなり、足がもつれて、ふらふらする。
<しっかり! しっかりするのよ、星子!>
 懸命に気合いを入れたけど、頭の中もぼーっとしてきて、膝をついた。
もう、歩けない。ここで、死んでしまうのかも…それが、まりも姫の生贄になるってことなんだろうか…。
星子の意識は、次第に薄れていった。
その時だった。誰かが強い力で、星子を抱え上げた。
「しっかりしろ、星子さんっ」
「…誰?…」
「しっかりするんだ!」
 いきなり頬を叩かれて、星子はやっと正気に戻った。
「!…五月さんっ…」
 そう、星子を支えてくれているのは、五月だった。
「は、放して下さいっ」
 星子は、五月の手を払いのけようともがいた。
「わたし、まりも姫のところへ…助けてあげたいんです…お願いだから、いかせて下さい!お願い!…」
「……」
 五月は、じっと星子を見つめたあとで、頷いた。
「わかった」
「いいんですか?」
「ああ、その代わり、僕も一緒にいくから」
「えっ」
「刑事っていうのは、因果な仕事でね。職務上、君をほってはおけないんだ。それに、美空警部のためにも、君を死なせるわけにはいかないしな」
「五月さんっ」
 五月は、星子をコートの中にすっぽりと包み込んだ。
「こうすれば、少しは息をするのが楽かも知れないぜ」
 頷きかけて、星子はハッとなった。
 五月の背広を透してべっとりと血がにじみ、五月の呼吸はかなり乱れている。
「ひどいケガ! 早く手当てしないと…」
「いいんだ、心配するな」
「でも!」
「構うな、といってるんだ!」
 五月は、傷の痛みをこらえながら、険しい顔でいった。
「さ、早くまりも姫のところへ…早く!」
「え、ええ」
 星子は、五月の容態が気にしながら歩き出した。
 五月のコートの中は暖かく、男の匂いがする。さっきまでの息苦しさは薄らぎ、なんだか、安心出来るような気分だ。これが、大人の男の匂いなのだろうか。
 でも、五月の息遣いは苦しそうだし、傷口からの出血も止まらないようだ。このままでは、五月の命に差し障りがあるかもしれない。
「五月さん、わたし、やっぱり、一人でいきます…五月さんに、もしものことがあったら、
わたし…」
「……」
「五月さん、子供がいるんでしょ? 宙太さんから聞いたんです。名前は、正樹クンとか…その正樹クンのためにも、どうか…」
「……」
「ね、五月さんっ、お願い! お願いします!」
「……」
 星子が、いくら、懸命に頼んでも、五月は何も答えずに、足早に歩いた。左手で、コートの中の星子をしっかりと抱えて、地獄谷の奥へ、奥へと。
 コートに包まれながら、星子は泣いていた。
 こぼれそうになる嗚咽を懸命に押さえながら、泣いていた。

                            (つづく)




追記  星子が五月のコートの中で嗅いだ匂いは、大人の男の匂い。宙太からはまだ感じられない、大人の男の匂い…。それにしても、五月はただ刑事の使命感や宙太のために、今にも消えようとする命の火を燃やしているのだろうか。それだけなんだろうか。もしかして、星子に誰かの面影を重ねているのかも…誰かの…。
 愛というのは、ほんと、悲しいものなんだよね。

              30

「春ちゃんっ」
 星子は、崩れた春之助に覆いかぶさるようにして、声をかけた。
「しっかりして、春ちゃん!」
 春之助の肩を掴み、揺さぶったが、まったく反応がない。
<まさか、死んだんじゃ!>
「いやっ、死んじゃ駄目。死なないで!」
星子は、春之助に顔を近づけて叫んだ。
すると、春之助の蒼ざめた唇がぴくっと動いた。
よかった!
春之助は、生きている。ただ、ひどいダメージを受けて、失神状態からは戻れないようだ。
「ひどい!」
 星子は、キッと男を睨み上げた。相手は悪霊の化身のように恐ろしい風貌だが、たじろいでなんかいられなかった。
「よくも春ちゃんをこんな目に…許さないから!」
 思わず掴みかかろうとした星子の前に、圭一が立ちはだかった。
「星子さん、あとは俺に任せるんだ!」
「でも!」
「いいから、いうとおりにしろ! こいつと戦っても、現生の人間に勝ち目はない。たとえ、美空警部でもだ」
「えっ」
圭一は、男に向かって身構えた。
「命令により、お前を処刑する。いいか!」
「ふっ、それはこっちの言い草だぜ」
 男は、黒いコートの中からサッと拳銃を取り出して、銃口を圭一に向けた。
「この拳銃は、貴様のだ。覚えているよな」
「!…」
 圭一は、ハッと見た。たしかに、五月刑事の鮮やかな射撃で弾き飛ばされた拳銃だった。
「今からこいつでお前を消してやる。自分の拳銃で撃たれて死ねば、さぞかし本望だろうよ」
 男はせせら笑いながら、引き金を絞った。
圭一さんが、殺される!
 愛した人が、目の前で殺されるなんて。そんな光景だけは、絶対に見たくない。
 あってはならない。星子の頭の中は、それこそ、真っ白になった。そして、無我夢中で男に体をぶつけていった。
 瞬間、バチッと青白い火花のようなものが散って、星子は跳ね飛ばされたが、男の体は大きく揺らいだ。
 それを見た圭一が、男の背後から飛びつき、右腕を男の首に絡めた。
「ううっ」
 男はもがきながら、拳銃で圭一を撃とうとした。だが、圭一は左腕で男の動きを抑え、右手で激しく男の首を絞めていく。同時に、圭一の体から青白い炎が燃え上がり、男の体を覆った。
「ウ、ウギャーッ」
 男は、身の毛のよだつような悲鳴を上げ、体をくねらせた。
 だが、青白い炎はさらに燃え広がり、男の体を覆い尽くしていく。圭一は、拳銃を奪い返すと、飛びのきざま引き金を引いた。
 バシッ。
 男の体はどっと倒れ、動かなくなった。全身を包み込んでいた青白い炎も、見る見るうちに薄れていき、圭一の体からも青白い炎が消えていった。
「……」
 星子は、茫然と立ち尽くしていた。まるで、悪夢を見ていたような気分だ。
「正直いって、君には見せたくなかったよ」
 圭一は、ちょっと、悲しそうな顔で星子を見つめた。
「俺と君の間には、素敵な思い出がいっぱいあったからな。この北海道でさ…」
「……」
 そう、スリリングで甘酸っぱい、でも、最高にステキな恋の冒険旅行だった。
「俺はね、君との思い出を胸にしっかりと抱いて異界で暮らしてきたんだ。もし、その思い出がなかったら、とても、異界なんかで暮らせなかったぜ…異界で暮らす者は、この世の煩悩や悲しみ、苦しみから抜け出せない、いってみれば、業を背負った人達だからな、この俺もだけど…」
「圭一さん…」
「だから、思い出を大事にしておきたかった。君の心の中でもね…でも、俺のこんな姿を見せたんじゃ、もう、おしまいだよな…」
 圭一は、唇を噛んだ。切れ長の美しい眼が、涙で光っているように見える。
 星子の目にも、涙があふれてきた。
「そんな…」
 星子は、首を振った。
「そんなことないわ…あなたの思い出は、こんなことで壊れたりはしないから…ほんとよ」
「いや、そうはいかないさ、俺のもう一つの任務を知ったらね…」
「え?」
 星子は、訝しそうに見た。
「なんのこと?」
「じつはね、俺には、まりも姫を異界に連れていくという仕事があるんだ」
「まりも姫を?」
「うん、まりも姫は財宝を守るために、若い女の子をおびき寄せ、生贄にしてきたんだ。君も、その生贄の候補だぜ」
「!…」
「だから、俺は君にこの山から降りろ、と、いったのさ。まだ、遅くないから、春之助君を連れて、急いで戻るんだ。いいね」
「でも、もし、まりも姫があなたのいうことをきかなかったら…その時は、どうするの?」
「可哀そうだが…」
「え?」
「その時は、始末しろとの指令を受けている」
「!…」
 星子は、ハッとなった。
「でも、まりも姫は恋人だった王子の財宝を守っているんでしょ。生贄のことは許せないけど、愛のためなのよ。その気持を、なんとか、汲んであげられないの?」
「出来ないね」
「どうしてよっ。あなたなら、わかってくれるはずよ!」
「いや、これだけは駄目だ」
「圭一さんっ」
 圭一は、星子を見据えた。
「君のためになんだ、星子さん」
「わたしのため?」
「そうさ、まりも姫は一度目をつけた女の子を、絶対に逃がさないんだ。君を救うためには、他に方法がないんだよ!」
「!…」
「これが、今の俺に出来る、最後の…君への最後の愛の証しなんだ…わかってくれ、星子さん!」
「!…」
 さっと身をひるがえした圭一は、地獄谷の奥に向かって走り出した。

                     (つづく)


追記  「篤姫」が、今夜で終わってしまいましたね。毎週、欠かさず見てきただけに、寂しい限りです。僕もコバルト文庫で大奥シリーズを書いていたし、興味のあるテーマでしたが、やはり、田淵久美子さんの脚本の素晴らしさが際立っていましたね。次回の大河ドラマも、女性の脚本とか。春ちゃんも、大いにガンバルといっています。ん? カンケイあったっけ?
 

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