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24
「圭一さんっ」
立ちすくんだ星子の体の中を、熱いものが一気に噴き上がった。
相手は、もう、この世の人ではない。異界から戻ってきた霊、ゴーストだ。でも、忘れようとしても、心に焼きついた圭一の面影は消えなかった。
その圭一に、急行『はまなす』の車内で、それも、圭一が殺人を働いた直後、再会したのだ。そのショックは、今もくっきりと残っていた。
「星子さん、ここは君のくるところじゃない」
圭一は、切れ長の暗い眼で星子を見つめた。
「今すぐ、この山を降りるんだ。さ、早く!」
「……」
「星子さん、聞こえないのか」
「ちょっと、そのいい方はなによっ」
キッとなった春之助を、星子は制止した。
「ごめんなさい、帰るわけにはいかないの」
「なぜだ?」
「まりも姫に、呼ばれているからよ」
「なんだって!」
圭一の眼が、鋭く光った。
「まりも姫が、君を…」
「圭一さん、知っているの、まりも姫のことを?」
「……」
「あなたが、この世に戻ってきた理由と関係あるわけ? そうなのね?」
「――」
「いったい、どういうことなの? ね、話して!」
「――」
圭一は、答える代わりに星子に詰め寄った。
「とにかく、君を行かせるわけにはいかないぜ」
「どうして?」
「君の命が危険だからだ。マリも姫に会えば、君は生きては帰れない」
「大丈夫よ」
「いや、君だけじゃない。美空刑事もだ」
「宙太さんも?」
「君を助けようとここへきて、俺に殺されるはめになる」
「!…」
「だから、俺は列車の中で君にいっただろう。美空刑事を事件に引き込むなって。どうして、いうとおりにしなかったんだ!」
「……」
「星子ちゃんは、そうしたのよ!」
春之助は、星子をかばうようにいった。
「でもね、宙太さんが、ハイ、そうですか、っておとなしくなると思う? 愛と正義のためなら、命も惜しまない、男の中の男よ! だから、あたし、宙太さんが死ぬほどすきなの! もし、宙太さんの命がヤバイなら、あたしが守る! 守って見せるわ!」
春之助の眼は、キラキラと輝いた。なんだか、いつもの控えめな春之助とは別人のような感じだ。いつもなら、星子の手前、宙太への想いは抑えている。
ちょっと、気になったが、その時はまだ、春之助の身に起きた異変には気がつかない星子だった。
「そういうわけ。だから、あんたみたいなゴーストに邪魔されたくないの! さっさと、消えちゃいなさいよ!」
「そうはいかないぜ」
「じゃ、腕ずくで消すだけね!」
「春ちゃんっ」
「いいから、あたしにまかせて!」
春之助は、さっと身構えた。
「仕方がないな」
圭一も、身構えた。
「あら、ピストルは使わないの?」
「その必要はないぜ!」
そう叫んだ圭一が、両手を大きく広げて激しく回転させた。すると、立ち込めた噴煙が渦を巻いて圭一の体を包み込んだ。
「!…」
春之助がちょっとうろたえた瞬間、いきなり、噴煙の中から圭一が飛び出して、春之助にキックを食わせた。
「あっ」
でも、春之助も間一髪のところで体をのけぞらして、ダメージをかわした。
圭一は、再び、噴煙の中に体を隠した。
すかさず、春之助は水晶玉を取り出して、右手の中で回転させた。すると、水晶玉から強い光が放たれて、圭一の姿を浮き上がらせた。
「うりゃ!」
同時に、春之助は圭一に飛びかかった。
二人の体は、激しくもつれ、何度も跳躍しながら、相手に拳や蹴りを叩き込む。
二人を止める手立てはない。星子は、ただ、はらはらしながら見つめるだけだ。
だが、やがて、春之助が息を切らして、動きが鈍くなってきた。それに比べて、圭一のほうは、ほとんど、というか、まったくダメージはない。
やっぱり、異界の人だからなのか。
このままでは、春之助が倒されるのも時間の問題かも。
「やめて! お願いだから、やめて!」
星子は、たまらずに叫んだ。叫びながら、泣いていた。
それでも、まだ、二人の戦いは終わりそうもない。
星子は、泣きながら二人の間に割って入ろうとした。
その瞬間、
「そこまでだ」
鋭い声が聞こえて、噴煙の中から、一人の男があらわれた。
五月、だった。
(つづく)
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