星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

星子とパパの恋旅ガイド

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索

全8ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8]

[ 前のページ | 次のページ ]

              14

「…圭一君が、犯人?…」
 わたしは、うわずった声で聞き直した。
 宙太も、呆然とした顔で星子を見つめた。
「ま、間違いないかい、星子さん?」
「うん…確かよ。圭一さん、あたしの顔を見て驚いて…あたしの名前を…」
「呼んだのかい?」
 星子は、顔を伏せたまま、うなずいた。
「ちょっと、ね、パパさん、どうなっているんだ?」
 宙太は、戸惑った表情をわたしに向けた。
「圭一君は、死んだんじゃなかったのかい?」
「う、うむ…」
 わたしも、困惑しながらいった。
 たしかに、圭一は死んだ。星子に甘くてせつない恋の思い出を残して……。
 わたしにとって、北海道はつらい恋の思い出が刻まれた土地だが、星子にとっても、つらくてたまらない恋体験が影を落とす大地でもある。
 立川圭一。さそり座のミュージシャンだ。星子が圭一と出会ったのは、北海道へ向かう青函フェリーの船内だった。尾崎豊にイメージが似た彼が、じつは、殺人犯として警察に追われていたとは。
 だが、圭一は愛していた女の裏切りが原因で、誤って人を死なせてしまっただけだった。その女と北海道で出会った圭一は、愛のために、あえて、女が犯した人殺しの罪をかぶってやった。そういうやさしい男だった。そんな圭一に、星子は心底ほれ込んだ。そして、宙太と一緒に助けてやったあと、圭一と二人で逃避行を続けようとした。しかし、星子を想う圭一は、星子のために、釧路から札幌へ向かう夜汽車の中に星子を残して、夜霧の中へ消えた…。
 あの時の別れも、とても、つらかった。でも、星子にはもっとつらい別れが待っていた。
短い刑期を終えて出所した圭一との再会。それも、宙太と二人で乗ったブルトレ『北斗星』の車内だった。その車内で殺人事件が起きて、目撃された犯人が圭一らしいということで、マサルが逮捕状を持ってあらわれた。だが、実際はファッション界の盗作を巡る事件で、圭一は利用されただけだった。星子は圭一と二人で逃げながら札幌で真犯人と対決した。そして、その際、圭一は星子をかばって、銃で撃たれ、命を落としたのだ。宙太に、星子を幸せにしてやってくれ、と、頼みながら…。
「最後までカッコいいヤツだったよな、カレ」
 宙太は、当時のことを思い出したのか、目を潤ませた。
「覚えてるかい、彼が吹いていたハモニカ…」
「うん、宙太さん、あの人が息を引き取ったあとで、そっと手に握らせてあげたっけ…」
 星子も、思い出しながら涙をぬぐった。
「あのハモニカ、あとで、カレの墓に一緒に埋めてやったんだ。天国へいってもさびしくないようにって…」
「宙太さん…」
「ところがだぜ、その圭一君が殺し屋になって、この列車にあらわれるとはな。もしかして、ユウレイ? それとも、ゴーストか?」
「まさか、そんな…」
「だったら、どういうことさ? ね、パパさんよ?」
「……」
 わたしは、気持ちを落ち着かせながら、考えてみた。
「たぶん、君たちと同じかもしれないな…」
「オレ達と?」
「同じって?」
「つまり、僕が書いた小説の中から、現実の時空にあらわれたってことさ。」
「でも、オレ達と違って、圭一君は小説の中で死んだんだぜ」
「いや、僕が星子のイラスト画集に短編を載せた時、その中で、圭一は肉体から分離した魂として登場したんだ。その魂が…」
「この世に,よみがえったってわけか」
「そういうことだ」
「まいったな、強力な恋のライバル、二度目の再登場か。それも、よりによって、サイレンサーの拳銃を持った殺し屋となってね。やりきれないな、ほんと」
 宙太は、ため息をついた。
 やりきれない気持は、わたしも同じだ。圭一には、血生臭い事件の影が、常に付きまとっている。星子や宙太達のように、明るいキャラにしてやらなかったからか。それとも、始めから不幸な星の下に生まれてきた男なのだろうか。
「ま、それはともかく…」
宙太は、星子を見た。
「その殺し屋を、ハニィはかばったわけだ。惚れた弱みっていうのかな…」
「違う、そうじゃないの」
 星子は、首を振った。
「圭一さんはね、こういったの…まだ、仕事は終わっていないんだ。もうしばらく、目をつむっていてくれ、って…」
「仕事!」
 宙太と私は、ハッとなった。
「ということは、まだ、他にも殺しのターゲットがあるってことか!」
「なんて奴だ…」
「そうと知っても、まだ、圭一君をかばったわけ? そりゃないぜ、ハニィ! 止めるのが、当然じゃないのかい?」
「もちろん、止めたわよ! でもね、奴等を倒さないと、あたしにつらくて悲しいことが起きるって…」
「ん?」
「どういうことなんだ?」
「それが…」
 星子は、ためらった。
「はっきりいってごらん」
 わたしにせかされて、星子はいった。
「…宙太さんが…」
「ん?」
「…殺されるって…」
「な、な、なにィ!」

                            (つづく)



追記  なんだか、とんでもない展開になってきたようで、困惑気味のワタクシでありま   す。星子たちの乗った夜行急行『はまなす』は、はたして、無事に札幌へ着けるの   やら。あ、札幌に着く前に、別方向へ向かうことになるかも…なんせ、行き先不明   の恋旅ガイドですので。
    ところで、ここでクイズ。『はまなす』は、真夜中に森駅を通過しますが、この   駅の名物駅弁といえば何でしょう?
    ちょっと易しすぎたかな?
    ちなみに、車窓に見える噴火湾の漁火、じつに綺麗ですよね。
    

開く トラックバック(1)

                13

「もう一度聞くよ、ハニィ。君がかばっている相手って、誰なんだろ?」
 宙太の声は、やさしくて、落ち着いていた。いつものひょうきんな感じと違って、真剣に星子のことを思っている感じだ。
 ――こういうところが、宙太のいいところなんだな……。
 わたしは、あらためて宙太を見直すと、星子にいった。
「星子、答えてあげたどうだ? 宙太君なら、きっと、うまくやってくれるはずだよ。あとのことは、まかせなさい。な、星子?」
 だが、それでも、星子はだまったままだ。
「星子っ」
 わたしは、つい、声を荒げた。
「相手は、ピストルを持った殺人者なんだ。それも、手口から見て、プロの殺し屋かも知れない。そんな恐ろしい奴が、今もこの列車に乗っているんだ。もし万一のことでもあったら、どうするんだ!」
「……」
「星子!」
 詰め寄ろうとしたわたしを押しのけるようにして、五月の手が星子の肩を掴んだ。
「一緒にきて貰おうか」
「五月さんっ」
「乗客の首実検に付き合って貰うんだ。ちょっとヤバいが、今はそれしかなさそうだぜ」
「ちょっと、待ってくれ…」
 宙太は、止めようとした。だが、五月は構わずに、
「さ、くるんだ」
 と、いって、星子を連れ出そうとした。
 瞬間、星子の唇が震え、口から嗚咽のような声が漏れた。
「星子さん?」
「どうした、星子?」
「……」
 星子は、無言のままだ。でも、目は真っ赤で、涙があふれ、目尻から頬へと流れた。
 次の瞬間、星子は両手で顔を覆い、ううっと、その場に泣き崩れた。
「星子さん…」
「星子…」
 わたしも宙太も、茫然と見つめた。
 星子の泣く姿は、滅多に見られない。人前では、決して涙を見せない強がりで意地っ張りな性格だからか。それだけに、この泣きようは尋常ではなかった。
 私がどう声をかけていいのか戸惑っていると、宙太はやおら、五月にいった。
「五月さん、わかるよな」
「え?」
「女の涙さ。おたく、そんなクールな顔をしているけど、ほんとは女にはやさしい男なんだ。おたくの吹くペットを聞いていると、ジーンと伝わってくるぜ」
「警部…」
 そう、五月の趣味はトランペットを吹くことだった。
「近頃は、ヨコハマだけじゃなくて、六本木や原宿あたりのクラブでも吹いているんだってね。もう、プロも顔負けじゃん」
「……」
「あんたのペットが、こういっているよ。女の子がこんなふうに泣く時は、きっと…」
 宙太は、いたわるように星子を見つめた。
「恋をしている時さ…きっとな…」
「……」
 五月も、星子を見つめた。その目から鋭い光が消えて、どこか、潤んでいるようだった。
 そう、たしかに、宙太のいうように、星子は恋をしている。他には考えられない。
 その相手が、たまたま、星子が目撃した殺人事件の犯人だった。だから、誰にも本当のことはいえずに、かばうことしか出来ないのだろう。それが、恋心というものかも知れない。それにしても、こんなにいじらしい星子を見るのは、はじめてだった。
 わたしは、思いっきり、星子を抱きしめてやりたかった。だが、今はそっとしておくしかない。その気持は、宙太も、そして、五月も同じだった。
「俺一人でいくから」
 五月は、ぼそっとつぶやいた。
「ん?」
「手がりは、ゴンベエの爪にからまっていたグレーの毛糸の糸。ま、取りあえずその線でやってみるぜ」
「そうか、僕もあとからいくから」
 頷いた五月は、影のように足音も立てずにデッキへ向かった。
「オトコだな、彼って」
 見送ったあとで、宙太はハンカチを取り出して星子に差し出した。
「たっぷり濡らしていいよ、遠慮なく」
「…宙太さん…ありがと…」
 星子は、泣き顔を伏せたまま、ハンカチを受け取った。
「五月さんって、ほんと、苦労しているからな、オンナのことで」
「……」
「あ、変な意味じゃなくてさ。彼、遊ぶようなタイプじゃないから。彼はずっと一人の女性を愛しつづけているんだ。その相手は、もう、この世の人じゃないけどね」
「え?…」
「そう、亡くなってるんだ、もう、何年になるのかな…名前は、確か…」
「加藤和美だよ」
 わたしは、記憶をたどるようにいった。
「そう、和美さんだったっけ。彼のペットの音色に惚れこんでさ、それがきっかけでいい仲になったんだ。しまいには、子供まで出来てさ…」
「子供が…」
「名前は、えーと…」
「正樹」
「そう、正樹クンだ。でも、彼女は体をこわして子供と一緒に信州の実家に引き取られてさ。当時は五月さんも若かったし、厄介払い出来たつもりだったらしい。ほんとは、愛していたのにな…」
「……」
「それから何年かたって、和美さんが亡くなったことがわかったんだ。それに、幼い正樹クンも自閉症の施設にいるって…」
「……」
「その時は、自責の念というか、後悔というか、死ぬほど泣いて荒れまくったらしい。で、そのあと、五月さんは、気持ちを入れ替えて、彼女と自分の愛の形見というか、正樹クンを支えて生きようと決めたわけ。つらい話だよな…」
 宙太は、鼻をすすった。
 星子は、黙ったまま、話を聞いている。
「ま、そんな男だから。腹も立つだろうけど、勘弁してやってくれよ。僕が代りに謝るからさ。な、ハニィ?」
 宙太は、ぺこりと頭を下げた。
「さてっと、応援にいかないと。乗客もだけど、五月さんにもしものことでもあったら、正樹クンが可哀そうだもんな」
「……」
「じゃ、パパさん、星子さんのこと、よろしくな」
「わかった。君も気をつけてくれよ」
「ご心配なく。まだ当分、天国からの招待状はこないらしいから」
ニッコリ笑うと、宙太は歩きかけた。
その時、星子が低い声でいった。
「待って、宙太さん…」
「ん?」
「…あの人、だったの…」
「え?」
「…わたしが、かばった相手…」
「星子さん!」
 宙太とわたしは、ハッと星子を見た。
「あの人って?…」
 星子は、涙声でつぶやいた。
「…圭一さん、よ…」
 

                  (つづく)



追記  星子がかばった相手が誰か、今回は伏せておくつもりでしたがね。
   それにしても、なぜ、あの圭一クンが…本当なのかな。もしかして、幻覚とか。    僕にもわからない展開になってきました。

              12

「星子が、殺しのホシをかばっている? そんなバカな!」
 わたしは、思わず声を荒げた。
「星子がそんなことをするわけないだろう! いい加減なことをいうんじゃない!」
「そうよ!」
 星子も、再び、目をつり上げながら五月につっかかった。
「あたし、何も覚えていないっていったでしょ! そのあたしが、どうして、犯人をかばうわけ! ね、そうでしょ、宙太さん!」
「そういうこと」
 宙太は、うなずいてみせた。もっとも、その顔は意外と冷静だ。
「ちょっと、宙太さん! もっと、怒ったらどうなのよ!」
「そうだよ、君は星子に惚れているんだろう。こういう時、かばってやらないでどうする!」
「ハイハイ」
 宙太は、星子やわたしをなだめたあとで、五月にいった。
「で、証拠でもあるのかい?」
「もちろん。証人がいる」
「証人?」
「そんな!」
 キッとなる星子を、「ま、ま、ま」と、押さえた宙太、
「どこに?」
「ここさ」
 そういいながら、五月は体をかがめて、床にうずくまっていたゴンベエを、ひょいと抱き上げた。
「ゴンベエが、証人?」
「!……」
 わたしや星子、宙太は唖然となった。
「証人ではなくて、証猫、なんて、つまらないジョークいってる場合じゃないと思うけどな」
 宙太は、苦笑した。
「いいかい、五月さん。ゴンベエは、人間じゃないの。ネコちゃんだ。それも、ハンバーガーを食うしか能のない、タダのドラネコだぜ」
「タダは余計よっ」
 星子だけじゃない、ゴンベエも憮然とした顔で宙太を睨んだ。
「おっと、シツレイ。とにかく、ネコちゃんじゃ、証人にはならないと思うけどな」
「警部は、この猫の首輪を拾っているよな」
「ゴンベエの!」
 星子は、ハッと宙太を見た。
「よくご存じで」
「さっき、警部が三日月刑事とケータイで話しているのを聞かせてもらったんだ」
「なるほど」
 三日月刑事とは、もちろん、マサルのことだ。どうやら、宙太はマサルに事情を話して、応援を求めたらしい。
 宙太は、ポケットからゴンベエの首輪を取り出して、星子に見せた。
「コロシの現場に落ちていたんだ」
「!……」
 星子の顔が、一瞬、こわばった。
「でも、首輪だけじゃ、なんともいえないんじゃないの」
「そうかな」
 五月は、首輪を手に取ると調べた。
「留め金が壊れているな。余程の力で掴まれたらしい。ということは、この猫、ゴンベエといったけ、ゴンベエは強い相手と戦った可能性がある。それも、相手は人間でグレーの毛糸の衣服を着ていた…」
「ん?」
 五月は、宙太にゴンベエの右手を見せた。爪の間には、グレー色の毛糸が引っ掛かっている。
「なるほど」
 宙太は、首輪を取り戻しながらいった。
「つまり、こういいたいんだろう…ゴンベエは、役立たずでも一応、星子さんのボディガードをやっている。で、殺しの現場でピンチになった星子さんを救おうと、相手、つまり、ホシに飛びかかった。その際、首輪を掴まれて、留め金が壊れてしまった…」
「そんな…」
 いいかけた星子を、宙太は、すかさず手で制した。
「そんなに激しいバトルがあったのに、星子さんは怪我一つしていない。それどころか、いつの間にかこの寝台車のベッドで寝ていて、何も覚えていないという。もし、ホシの顔を見ていたら、当然、命を狙われてもおかしくないのにな」
宙太は、星子を見据えた。
「どうやら、ホシは星子さんとは顔見知りかもな。だから、かばうために一芝居打ったんだ」
「宙太さんっ…」
「あ、俺がいってるんじゃないよ。あくまで、五月クンの推理さ。んな、五月さん?」
 五月は、うなづいた。
「でもね、ハニィ」
 宙太は、星子を見つめた。
「僕も同じようなことを考えていたんだ」
「宙太さん…」
「相手は誰なんだ? なんなら、俺にだけ教えてくれないかな。頼むよ、星子さんっ」
 
                      (つづく)



追記 

星子「うわぁ、おいしいーっ。泣けてくる!」
パパ「だろ? 僕なんか、何度泣いたことか」
星子「失恋で?」
パパ「うん、なんて、大人をからかうんじゃない!」
星子「うふっ、パパ、顔が真っ赤だよーん。カワイイ」
パパ「まったく、もう! とにかく、函館といえば、朝市の食堂で食べる新鮮な海鮮丼!
 と思うでしょ。たしかに、素晴らしいが、僕はなんたって、『五島軒』の洋食をナンバ ーワンに挙げたい! もちろん、料理もだが、店の伝統溢れる雰囲気が最高だ。昔、あ の人と函館に来たときも、この店で…ううっ、泣けてくる…」
星子「やっぱり、失恋の涙じゃん」
パパ「面目ない」

  ということで、本篇から離れて、ちょっぴり、二人の恋旅ガイドを。
  ああ、それにしても、「なっちゃん」、今月いっぱいでいなくなっちゃうんですね。  悲しいな。
  え? 「なっちゃん」って誰だって?
  はて、誰でしょう。

              11

「宙太さんっ」
 星子は、キュートなお口をあんぐりと開けた。
 今にも爆発しそうになったカンシャク玉が、寸前で一時停止。
 わたしとしては、助かった、という気分だ。ヒートアップした星子をなだめられるのは、宙太しかいない。
「痛いっ、はなして!」
 宙太の手を振り払おうとする星子を、
「ま、ま、ま」
 宙太は、やんわりと抱き寄せた。
「あったかーい! それに、クンクン、とっても、いい匂い!」
 抱きしめながら、星子のやわらかな髪を右手の手のひらですくい、香りをかいで、たれ目でニタリ。
「んもぅ、やめて!」
 払いのけながら、飛びのく星子だ。つんととんがった唇の可愛いこと。どうやら、カンシャク玉の火は消えたらしい。
 さすがは、宙太。星子のウィークポイントをよく知っている。星子の生みの親であるわたしとしては、ちょっと口惜しいし、嫉妬を感じてしまう。
 宙太は、軽く咳払いすると、五月に笑顔を向けた。
「お久しぶりです、五月さん」
「どうも」
 五月は、長身を折り曲げるようにしながら、丁寧に頭を下げた。 
 そんな二人の様子を、星子はきょとんとした顔で見た。
「宙太さん、知ってるの?…」
「五月さんのことかい? モチロン」
 宙太は、うなずいた。
「以前、一緒に仕事したことあるから。すぐれものデカだぜ。あ、ちょっと目にはデカには見えないけどね。俺と同じでさ」
「ふっ、自分でいってれば、世話ないじゃん」
 クスッと笑う、星子だ。
 そういえば、『旅刑事』シリーズで、宙太を登場させたことがあった。あの時の二人の活躍ぶりは、なかなかのものだった。
「だけど、五月さん、おたくにここで会うとは思ってもいなかったな」
 宙太は、五月を見た。
「函館から、この列車に乗ったみたいだけど」
「見ていたんですか」
「うん、獲物を追いかけているハンターって顔だったぜ。ターゲットはなんだい?」
「――」
「水臭いね、ま、所属する部署が違うから、しょうがないか。おたがい、獲物は一人じめにしたいからな」
 宙太は、にやりと笑った。
 こういう仕事がらみの話は、ふだんの宙太からは聞けないセリフだ。星子には、いつもと違う宙太の顔を見た気分だった。
「じゃ、こっちからいいますか」
 宙太は、軽く咳払いした。
「つまり、こういうことじゃないのかな…おたくは、ターゲットがこの列車に乗っているという情報をつかんで、今夜、飛行機で函館まで飛んできた。ところが、そのターゲットは、函館駅に着く前に、この列車の中で射殺された…」
「……」
「ターゲット、すなわち、ガイシャのことだけど…」
 宙太は、ケータイを広げた。
「今さっき、本庁から指紋照合の結果がメールで入ってさ。それによると、被害者は振り込め詐欺グループの幹部で、名前は大黒雄一、38歳。埼玉や愛知、神奈川で起きた連続殺人事件に一枚噛んでいるとして、検察庁から全国に指名手配されている男だ」
 殺された男が、そんな大物だったとは。わたしの背中を、悪寒のようなものが走った。
「五月さんにしてみりゃ、こんなにアタマにくることはないよな。しかも、大黒を殺したホシは、まだ、この列車に乗っている可能性が高い。そこで、この列車に乗り込んで、ホシをとっ捕まえようと…」
「――」
「そのホシの手がかりを、星子さんが知っていると思ってるわけだ。そうだろ?」
「でも、わたし、何も知らないの。だいいち、列車の中で殺人事件があったことも知らないんだから」
 星子は、宙太に訴えるようにいった。
「ほんとに、知らないわけ?」
「当たり前よ! わたしが、嘘をついているとでも思ってるの!」
「あ、いや…」
「そう、宙太さんって、わたしを信じていないのね。そういう人なわけ! だったら、もう、絶交よ! 二度とわたしの前にあらわれないで!」
「そ、そんなぁ」
 星子のものすごい剣幕に、宙太は、たじたじとなった。
「わ、わかったよ。じゃ、一つだけ聞かせて。オネガイ」
「なによっ」
「なぜ、君がこの2号車の寝台車にいるかってこと。君が乗っていたのは、5号車だろ?」
「さぁ、なぜかしら」
 星子は、首をかしげた。
「気がついたら、ここに寝ていたの。それだけよっ」
「つまり、その間の記憶がないってことかな」
「そうね、だから、事件のことも全然覚えていないの。五月さんとかいうわからず屋の刑事さんにも、よく説明してやって。すっごく、アタマが悪そうだから!」
「ちょ、ちょっと! ハニィ!」
 宙太は、顔の汗をぬぐった。
 わたしも、同じだ。自分が作り出したキャラなのに、手に負えない感じだ。これでは、五月も怒り出すんじゃないのか。
 だが、その心配は無用だった。五月は、相変わらずクールな顔で、星子を見据えた。
「ヘタな芝居は、やめるんだな」
「え?」
「記憶喪失なんて、嘘だろう。本当は、かばっているんだ」
「かばう? 誰をだ?」
 けげん顔の宙太に、五月はいった。
「もちろん、殺しのホシさ」

                        (つづく)



追記  いよいよ、紅葉の季節が到来ですね。うかれているうちに、ちょぴり風邪をひいてしまい、思うようにいきませんです。ま、じっくりとやっていきますので、よろしく!

                 10

「き、君か、5号車で殺しを…君がやったんだな!」
 わたしは、星子を背中にかばいながら、男を睨みあげた。わたしとしては、精一杯、凄みをきかせたつもりだった。
 だが、男はまったく動じない様子で、微笑を浮かべた。
「まいったな」
「なにっ」
「わかりませんか、俺のこと」
 男は、ゆっくりとサングラスを外しながら、私を見た。
 憂いをたたえた、切れ長のやわらかな目だ。どことなく、少年のような目にも思える。
「ま、無理もないか。写真とか具体的な顔を見せたわけじゃないですからね。あくまで、活字の上のイメージだったし」
「活字?」
「『あなた、ほんとに刑事?』。たしか、俺がデビューした時、手配中の女にそういわせていましたよね」
「!…」
 わたしは、まじまじと見つめた。
「君は…五月…千春…」
「思い出してくれましたか」
 五月は、もう一度、微笑んだ。
「…誰なの、この人?…ね、パパ?」
 星子は、私の耳元で、けげんそうにいった。
「五月千春君といってね、警視庁広域捜査課の刑事だ」
「刑事さん?」
 星子は、唖然と五月を見つめた。
「この人が? うそーっ」
「ただし、君と同じ存在だが」
「同じって…」
「つまり、僕の作品の主人公ってこと。以前、集英社文庫で書き下ろした『旅刑事』シリーズのね」
「ほんと!」
 星子は、あらためて五月を見上げた。
「カッコいいじゃん。パパの小説よりも、本物のほうが、ずっと、かもね」
「さぁ、どうかな…」
 わたしは、戸惑いながら五月にいった。
「しかし、なぜ、君がここに…どういうことなんだ?」
「俺は、旅刑事でしたよね」
「つまり、捜査ってことか?」
「他に能のない男でしてね」
 そういって、五月は肩をすくめた。
「じゃ、さっき…」
 星子は、五月を見上げた。
「私に、聞きたいことがあるっていったのは…」
「口説くつもりはないよ。子供は相手にしない主義でね」
「なんですって!」
 星子は、キッと睨み上げた。
「わたしが、子供?」
「なんなら、鏡を用意しようか」
「ちょっと!」
 星子の顔は、怒りで真っ赤になった。
「お、おい、五月君…」
 私は、うろたえながらいった。
 星子を怒らせると、大変なことになる。それも、子供扱いだなんて、最悪のパターンだ。
 だが、五月は涼やかな美形顔で星子を見据えた。
「君は、5号車で殺しがあった時、現場にいた。そうだな?」
「――」
「ところが、君は事件直後から姿をくらまし、この列車が函館を出発した後、この寝台車で寝ていた。一体どういうことなのかな」
「――」
「黙ってないで答えたほうが利口だぜ。こう見えても、俺って、結構きついとこあってさ」
 五月の目に、刺すような光が走った。
「――」
 だが、星子はそっぽを向いたまま、いった。
「その前に、きちんと謝ったら」
「いいから、ちゃんと答えろ」
「ふん!」
「おい、俺を怒らせたいのか?」
「ちょ、ちょっと、五月君…」
 わたしは、五月をなだめるようにいった。
「星子は、当時の記憶を失っているらしいんだ。原因はたぶん、何かのショックだろうが…落ち着いたところで、わたしが聞いてみるから…」
「余計な真似はしないでほしいですね」
「君っ」
「ちょっと! パパにそういういいかたはないでしょ!」
 星子は、血相を変えて五月に詰め寄った。
「せ、星子っ」
「いいから、パパは黙ってて!」
「星子…」
「ね、五月さん! パパがいなかったら、わたしもあなたもこの世には生まれなかったの。もっと、口のきき方に気をつけるべきよ!」
「この世には、生まれたくなかった人間もいるさ」
「サイテイ! サイアクね、あなた!」
 星子の頭の中は、真っ白になった。いくら、美形に弱い星子でも、今回ばかりは例外だ。
 こうなったら、もう、タダでは収まらない。星子は、拳を握り締めると、五月の向かって殴りかかろうとした。
 瞬間、飛び込んできた人影が、星子の腕をパッと掴んだ。
「はい! おまっとうさん、ハニィ!」
 その男は、宙太だった。
  
                     (つづく)


追記  連休中、失礼しました。といっても、連休を楽しめるような世の中じゃございませんでしたが。それはともかく、今回の旅、五月チャンの登場で、なんだか、予想もつかないような展開になってきました。先行き、ものすごく、不安です。というのも、星子と五月の恋物語を書くつもりだったのに、はじめからバトルですからね。やれやれ。

 

全8ページ

[1] [2] [3] [4] [5] [6] [7] [8]

[ 前のページ | 次のページ ]


.
星子&宙太yyy
星子&宙太yyy
非公開 / 非公開
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31

Yahoo!からのお知らせ

[PR]お得情報

ふるさと納税サイト≪さとふる≫
実質2000円で好きなお礼品を選べる
毎日人気ランキング更新中!

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事