星子&宙太yyy

ファンの集う癒しの小部屋です。

まぼろしの銀河鉄道

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                  8
          ――銀河巡礼・孤独の星(3)――
 
 きれい、なんて美しいんだろう。
車窓には、虹色の光球がまるでクリスマス・ツリーのように光り輝いている。なんともロマンチックで幻想的な景色だ。その中を縫うようにして、「銀河急行・すばる」は降下していった。眼下には、銀色に輝く孤独の星が車窓からはみ出すように大きく迫ってくる。
……孤独の星で、乗客の半分近くの人が自殺する……アザミという女は、そういった。
でも、とてもそんな恐ろしい星には見えない。きっと、星子をからかうつもりでいったんだろう。
ほんと、頭にくる女だ。
しかもですよ、宙太ときたら、そのアザミにデッキの自販機で缶コーラを買ってきてやったり、ヘラヘラおせじをいったり、情けないったらありゃしない。あんな女にのぼせあがるなんて、宙太ってその程度の男だったわけ。
サイテェよ、もう!
星子が顔をとんがらせた時、
「はい、のど乾いたろ」
 いつの間にか、隣りの席に戻った宙太が、星子に体をすり寄せ、缶コーラを差し出した。
「いらないっ」
 邪険にはねつけてやる。ご機嫌取ろうったって、そうはいかないよっ。
「そんな顔しないの。カノジョとは、旅は道ずれ世は情け。ただそれだけのことさ」
「ふん!」 
どこまで調子がいいの、と、睨みつけた時、車窓が薄暗くなり、車内灯が点った。
車窓を見ると、星全体を覆う銀色の雲のようなものがわき上がってきて、じきに列車はその雲の中へ突入していく。
雲の中の色は次第に銀色から灰色へと変わり、光りも弱くなってきた。さらに降下を続けると、車窓はすっかり暗くなり、窓ガラスに雨が降りかかってきた。さっきまであんなに美しく幻想的に見えていた虹色の衛星たちも、今ではまったく見えない。
「なんだ、孤独の星がきれいに見えたのは銀色の雲に包まれていたからか。その下は、雨の夜の世界なんだ」
 宙太のいうとおりだった。地表の景色は、まさに、雨の夜の世界。暗闇の中に青白い灯がポツリポツリと鈍く光り、なんともわびしい景色だ。
 その景色の奥に線路と駅舎のようなものが近づいてきたと思うと、列車は線路の上に着陸、ブレーキの火花をあたりに飛び散らせながら速度を落としていった。
 間もなく、列車はドーム型の大きな駅舎の中に吸い込まれるように入ると、停車した。ドーム全体は薄暗いが、高い天井から下がったシャンデリアの青白くほのかな明かりに照らされて、まるで海の底に到着したような気分だ。広いホームも閑散としていて、旅行客や駅員の姿も見当たらなかった。
 ふいに、車内放送から車掌さんの声が流れてきた。
「ご乗車有難うございました。孤独の星駅に到着です。この列車は、当駅で一時間停車致します」
「一時間?」
 星子、やれやれとため息をついた。
「そんなに長く停まってるわけ」
「僕にいわせりゃ、そんなに短いのかってことだぜ」
「どうして?」
「だってさ、アザミさんの話だと、この列車の乗客の半分近くがこの星で孤独に耐えられずに自殺するんだろ。でも、たった一時間じゃ自殺したくなるほどの孤独を味わえるとは思えないけどな」
 たしかに、宙太のいうとおりかもしれない。星全体の雰囲気は雨の夜のような憂鬱な雰囲気だけど、それだけで旅行客が自殺に追い込まれるとも思えないし。
「やっぱり、わたしをからかっているんだ」
「ん?」
「わたしを怖がらせようと、デタラメいってるだけじゃん。ほんと、タチの悪い女!」
「そんなことないぜ。ああ見えても、ごく普通のレディだって」
「んもぅ、どこまで美人に弱いわけ」
「そんな……」
 弁解しようとした宙太に、「宙太さん」と、アザミが声をかけた。
「ね、お土産を買いに行きたいんだけど、つきあって下さる?」
「オミヤゲを?」
「ええ、街のお店で素敵な鏡を売っているんですって。なんでも、その人の一番美しい姿を映してくれるそうよ」
「へぇ、そんな鏡があるんですか。でも、今でも十分お美しいですよ、ハイ」
 宙太ったら、歯が浮くようなこと、よくいうよね。
「うふっ、お上手ね。だけど、女なら誰だって自分の一番美しい姿を見てみたいじゃない、星子さん、あなたもでしょ?」
「いいえ! 興味ありませんからっ」
 星子、そっぽを向きながら答えた。
「じゃ、まだ、女として半人前かもね。うふふっ」
な、なんじゃぁ!
 アザミ、小馬鹿にしたように笑うと、宙太を促した。
「さ、行きましょ、宙太さん」
 宙太、「ハイハイっ」と、目尻を下げたまま、アザミを追ってデッキに向かった。
うううっ、ほんと、アタマにくる!
 星子、今にも爆発しそうな顔でアザミの背中を睨みつけた。でも、まさか、それがアザミを見る最後になるとは思ってもいなかった。

                               (つづく)



追記   エコドライブを心がけようとプリウスに乗り換えたのはいいけれど、とんだリコール騒ぎ。でも、ま、僕自身も心身ともにリコールしないとね。この歳まで生きていくのは大変なんですから。
 それはともかく、銀河巡礼の旅、この先どういうことになるのか。読めないだけに、楽しみな山浦です。  

                   7

          ――銀河巡礼・孤独の星(2)――

「銀河巡礼の旅列車の最初の停車駅が、孤独の星とはね」
 座席に体を沈めた宙太、缶コーヒーを飲みながらいった。
「うん……」
 星子、気が乗らない顔で車窓を見た。
「それにしても、さびしい名前ね。孤独の星なんて……いったい、どういう星かしら」
「きっと、財布がからっぽの人間ばかり住んでいるんじゃないのかな」
「どうして?」
「ボクチャンが一番孤独を感じる時は、財布が空っぽの時だからさ、シシシッ」
「んもぅ!」
「とにかく、この宙太メが一緒なら、さみしくなることなんかない。おまかせを!」
 宙太、胸をポンと叩きながら微笑んだ。
「ふん、結構よっ。わたし、孤独には強いんだから。一人でもへっちゃらよ」
なんていったけど、星子としては、途中下車したくない星だ。いつも賑やかでお祭り状態の星子だけど、一人ぽっちには弱い。誰でもいいから、いつもそばでワイワイしてほしい。
宙太も、そこのところはお見通しだ。
「ふふっ、無理しないの、ハニィちゃん。君が孤独に弱いことは、僕が一番わかっているしさ」
「よしてよっ。わたし、孤独には強いの」
「いんや、弱い」
「強いったら!」
 ムキになっていった時、不意に、脇から、
「強いか弱いか、じきにわかることよ」
 甘ったるい女の声が聞こえた。
 振り向くと、反対側の座席に、トップモデルのようなスタイルのいい女が座っている。ミンクのコートを着て、胸にはキラキラと輝く真珠のネックレス、ネールアートの指には大きなダイヤの指輪が光っている。顔のほうも、それこそ最高のメイクでハリウッド女優もひれ伏すセクシーな美女だ。
 星子、圧倒されたように見つめた。宙太のほうは、たちまち、目尻を下げて、
「あ、どうも! 女神が乗っているのかと思いましたよ、ハイッ」
「まぁ、お上手ね」
「いえいえ、僕は常に真実のみを語る男でして。あ、申し遅れましたが、僕、美空宙太といいます。よろしく! で、あなたは?」
「花アザミよ」
「花アザミさん、なんとも素敵なお名前で」
「ありがと。で、そちらのお嬢ちゃんは?」
 花アザミと名乗った女、星子に薄笑いを浮かべた目を向けた。
 し、失礼な!
「わたし、お嬢ちゃんなんかじゃありません!」
 キッと立ち上がった星子を、宙太、押しのけるようにして、
「あ、流星子っていいます。お見知りおきを」
「星子さんね。で、あなたとどういう御関係?」
「どうって、友達、あ、いや、妹みたいな存在でして、ハイ」
 おのれ、宙太メ、妹だって? 
 星子、キッと睨みつけたが、宙太、知らん顔でアザミに、
「それで、あなたも銀河巡礼の旅をなさっておられるんですか?」
「ええ、恋疲れを癒す旅といったほうが当たっているかしらね」
「恋疲れをいやす?」
「そうよ、あたし、たくさん恋をしたの。炎のように激しく燃える恋をね」
「なるほど、あなた、確かにもてそうだ。まさに、恋多き女の化身、恋菩薩とでもいいましょうか」
 よくいうよ、宙太のヤツ。
「うふっ、わかっていらっしゃるのね。でも、近頃は恋に飽きてしまって、しばらく、一人になりたくて」
「ふむ、ぜいたくな悩みですね。それで、この銀河巡礼列車に乗って、癒しの旅に出たというわけですか」
「ええ」
 アザミ、けだるそうに微笑んだ。
「だから、孤独の星はあたしの癒しの旅にはぴったりの星だわ。いいよる男が一人もいない孤独の星、一人の時間を心ゆくまで楽しめる星ですものね。ま、あなたのような恋に縁のなさそうなお嬢ちゃんには、とても、無理だと思うけど」
 そういいながら、見下すように星子を見た。
「ちょっと!」
 どこまでシツレイな女だろ。星子、食ってかかろうとしたけど、正直いうと、アザミのいってることは当たっている。孤独には、ほんと、弱い星子だ。
 わたしには、耐えられないな、孤独の星なんて……そう思っていると、アザミが、
「あ、見えてきたわ、孤独の星が。ほら、あそこ」
「え?」
 急いで車窓を見ると、銀色の星がいくつもの衛星に囲まれて浮かんでいる。どの衛星も虹色のまだら模様に彩られて鮮やかに美しく光り輝いている。
「きれいだな、まるで、イルミネーションみたいだ」
 星子も宙太も、うっとりと見つめた。
「でも、あれが孤独の星ですか? とても、そんなふうには見えないけど」
 ほんと、孤独の星っていうからには、もっと、暗くてさびしい星だとばかり思っていたのにね。
 すると、アザミがいった。
「今にわかるわ、あの星の恐さが……なんでも、乗客の半分近くが孤独に耐えられずに自殺するそうよ」
「ええっ」
 星子、息を飲み込んだ。

                                   (つづく)

           6

ーー銀河巡礼・孤独の星(1)ーー

 ――星の海……そんな言葉があるけど、ほんとにあったんだ。
 星子が、車窓に広がる無数の星たちをうっとりと見ていると、
「まさに、ラブスポットのプレミアムシートだね、うん」
 なんて、甘くささやく声が星子の耳元で聞こえた。
 宙太だ。いつの間にか、右腕で星子の肩を引き寄せている。
「ちょっと、やめてよっ」
 ったくぅ、どさくさにまぎれて、このオトコったら。星子、ピシッと宙太の腕をはねのけた。
「相手を間違えているんじゃないっ」
「ん?」
「いとしや、恋しや、ああ、星のマリア様、じゃなかった?」
「ムヒヒッ、ヤキモチをやく星子さんって超カワイイ」
「バカッ」
 宙太の頬っぺたに、星子の平手打ちが。
 でも、ひょいとかわした宙太、ニカッと笑った。
「誤解しないでほしいな、天地神明に誓って申し上げます。僕にとって、コホン、君はこの世にただ一人のサイコーの恋人さ」
「ふん! どこまで調子がいいのよっ」
「ま、ま、ま、お聞きなさいって。それに比べて、星のマリア様は、恋人を超越した僕の女神。永遠の憧れのミューズなんだ。おわかり?」
「わからないわっ」
「いいのいいの、今にわかるからさ」
「ぜったいに、わからないっ」
 星子がムキになった時だ。通路のドアが開いて、濃紺の制服を着た車掌が入ってきた。帽子を目深にかぶり、手入れのいい髭をピンとはやした、ダンディな感じだ。
「先程お乗りになったお客様ですな。切符を拝見させていただけますか」
 髭車掌、ちょっと気取った声でいった。
「はい、どうぞ」
 宙太、髭車掌にチケットを見せながら聞いた。
「それで、この列車、どの駅で銀河鉄道と連絡するんですか?」
「さぁ、どこでしょうな」
「は?」
 これには、宙太も星子もきょとんとなった。
「わからないって、おたく、車掌さんでしょう?」
「たしかに。しかし、銀河鉄道はダイヤ、つまり時刻表には載っておりませんので、我々にも皆目見当がつきかねます」
「そんなぁ」
「時刻表に載っていない?」
「はい、ですから、まぼろし銀河鉄道と呼ばれておりまして」
「まぼろし銀河鉄道……」
 そういうことか。
「でも、この列車が停車するどこかの星の駅で、必ず出会えるはずです。ご安心ください」
「どこかって、停車駅はいくつあるわけ?」
「はい、八十八ありますが」
「八十八も?」
 星子と宙太、唖然となった。
「八十八っていえば、お遍路さんがお参りするお寺の数と同じか」
「はい、左様でございます。じつは、この列車は、お遍路列車と呼ばれておりましてね。と申しますのも、この列車の旅そのものが、巡礼の試練と同じような思いをさせられるからだとか……」
「巡礼の旅、お遍路列車かぁ。ちょっと、ロマンチックな名前ね」
「とんでもない」
 髭車掌、声をひそめた。
「私も長年この列車に乗務しておりますが、旅の途中でいろいろと危険でつらい目に会うことから、無事に巡礼の旅を終えられ、銀河鉄道に乗り換えられたた方は……まだ、お一人も……」
「えっ、一人も?」
「そんな!」
 星子と宙太、こわばった顔を見合わせた。
「もし、旅の途中でトラぶったら、二度と帰れないとか、ね、そういってたよね、宙太さん?」
「ああ、そうらしいぜ」
 銀河鉄道に会えない時は、その時は最悪の結果になるかもね。
星子、思わず身震いした。
そんな星子をちらりと見た髭車掌、やおらチケットを返して、
「お手数かけました。次の停車駅は、孤独の星でございます」
「こ、孤独の星?」
 星子も宙太も、またもや唖然となった。

                       (つづく)

                 4

「ふーん、星のマリアさまですか」
 星子、クスッと笑いながら宙太を見つめた。
 宙太がアニメのキャラに憧れているなんて。イマイチ、ピンとこない。
 そもそもですよ、宙太クン、星子一筋、星子いのち、星子のためなら、たとえ火の中水の中、一生お仕えします、永久にお守りいたします!
 の、はず。本人もしつこくキザっぽく、そういってたしね。
 そうか、熱烈アタック作戦が効果なしと見て、作戦変更、星のマリアを使って星子にヤキモチをやかせようってわけか。
 浅はかなオトコよな。でも、ういヤツじゃ。
 もう一度、笑いかけて、星子、ふっと真顔になった。
 だって、宙太、いつもとは別人のように真面目な顔している。しかもですよ、可愛いタレメちゃんが、うっすらと潤み、口からはあらためてせつない吐息がもれた。
 その顔は、恋する男の顔そのもの。
ま、まさか?
「ね、宙太さん、あなた、本気ってわけ?」
 星子、宙太の顔を覗き込んだ。
「ほんとに、星のマリアを……」
「モチロン」
 宙太、真顔で頷いた。
「星のマリアは、男の子にとって、理想の恋人、永遠のマドンナ……少年は、星のマリアと旅をすることで、本当の男になる……光り輝く銀河の騎士になれるんだ」
「銀河の騎士……」
「そうさ、正義と愛のために戦う最強の騎士にね。あのリトルボーイのように!」
 ――リトルボーイ……母を殺された悲しみに耐えながら、星のマリアと銀河鉄道に乗って銀河を旅する少年だ。星子も大好きなアニメキャラだった。
「もしかして、この銀河鉄道のチケットは……」
 宙太、銀河鉄道のチケットを見つめた。
「僕に、リトルボーイのような戦士になれという星のマリアからのメッセージかも……きっと、そうだぜ!」
「そんなぁ、しっかりしてよ、宙太さんっ」
 星子、宙太の腕をつかんだ。
「星のマリアもリトルボーイも、あくまで、アニメのキャラなのよ。このチケットだって、たぶん、銀河鉄道のキャンペーンとか、ほら、よくあるじゃん、そういうイベントが」
 そう、銀河鉄道のイベントは今でもあちこちで見られる。
「わたし、はじめはこの銀河鉄道のチケット、宙太さんのイタズラだと思っての。でも、そうじゃないとすると、やっぱり、イベントよ。ぜったい、そうよっ」
「いんや、違う」
 宙太、首を振った。
「これは、本物の銀河鉄道のチケットさ。もうじき、このホームに銀河鉄道がやってくるんだよっ」
「まさかぁ」
 星子、鼻をふくらませた。
「見て、線路はここで行き止まりよっ。反対側は、地下鉄の線路と合流してるんでしょ?」
 線路の先は、コンクリートの壁でしっかりとふさがれている。その反対側は、かなりの上り勾配となって、暗いトンネルに吸い込まれていた。
「もし、もしもよ、仮に銀河鉄道が実在するとしても、一体、どこからくるのよっ」
このまぼろしの駅、つまり、新橋旧ホームは、現在、地下鉄銀座線の引込線として車庫代わりに使われているだけだ。
 歴史をたどれば、1934年、浅草と新橋の間に出来た日本初めての地下鉄、東京地下鉄道の終着駅なんだよね。当時はすごく賑わっていたけど、5年後の1939年に渋谷と新橋の間に別の地下鉄が出来た。それも、新橋駅ホームは別々ですごく不便。でもって、お役所の仲裁で新駅のほうを一緒に使うことになり、古い新橋駅は廃止、車庫となり、今では旧新橋駅、まぼろしの駅と呼ばれているわけ。
ちなみに、まぼろしの駅の出入り口は、地下鉄新橋駅構内の×番出口のそばにある。さて、何番出口でしょう。
なんてクイズやってる場合じゃない。そもそも、銀河鉄道がこの地下ホームにくるわけが……。
「いや、くるさ。きっと、くるぜ!」
 宙太、目をキラキラさせながらいった。
「ああ、星のマリア! 早く、星のマリアに逢いたい!」
「んもっ」
 バカじゃないの。アニメオタクもいいとこ。
 星子、あきれ顔で肩をすくめた。でも、ちょっぴり、ヤキモチもね。いつも星子ばかり見ている宙太が、架空の存在とはいっても別の女性にここまで熱を上げているとは。
「とにかく、銀河鉄道はこないわ。絶対に現れないから!」
 星子、むきになっていった。でも、宙太は、
「いいや、くるぜ!」
「こない!」
「くる!」
「こない!」
 星子が一段と声を張り上げた時だった。
 ボーッ、ボーッ。
 汽笛が遠くで聞こえ、線路にガタゴトという音が伝わってきた。
 ん?
 まさか、そんな。きっと、空耳よね。
 そう思っているうちに、駅のホームが青白い閃光に包まれ、まばゆい光りの渦がトンネル全体を大きく包み込んだ。
 な、なんだ。何事よっ。
 星子が立ちすくんでいると、汽笛は次第に近づき、線路の音はさらに高まった。そして、じきに、光りの渦の中から閃光を放ちながら、蒸気機関車が轟音と地響きを轟かせ、グオーッとのしかかるようにあらわれた。
「!……」

                                 (つづく)

    


                  5

「銀河鉄道だっ」
 星子、何度も息をのみこみ、茫然と見上げた。
 目の前には、蒸気機関車の黒光りする巨体が青白いスパークを放ちながら横付けされ、後ろにはチョコレート色のクラシカルな客車が何両も連結されている。アニメで見た銀河鉄道そのものじゃないですか。
 まさかと思っていたけど、ほんとに銀河鉄道があらわれるなんて。
「ど、どうなってんの……ね、宙太さん?」
 星子、震える声で宙太にいった。
「これって、なにかのイベント? それとも、3Dの映画とか……」
「いんや、たぶん、ドリームワールドかもな」
「え? なに、それ?」
「つまり、つまりさ」
 宙太も、興奮で声を震わせながらいった。
「なんかで読んだことがあるんだけどね、異次元空間には、人間の脳が作り出した空間、つまり、憧れとか夢が現実の世界となってあらわれることがある。そいつを、ドリームワールドって呼ぶんだってさ」
「憧れとか夢が……」
「そういうこと。つまり、銀河鉄道に憧れるハニィやボクチャンの熱い夢が、特別な脳エネルギーによって現実の世界となってあらわれた、ま、そんなところかな。コホン」
 宙太、自分にいい聞かせるように頷いて見せた。
「……」
 宙太の説明、今ひとつわからない。でも、銀河鉄道が目の前に停車していることは間違いない。
 とにかく、この列車に乗れば、銀河鉄道で旅が出来る。それも、星のマリアやリトルボーイと一緒に。そして、憧れのキャプテン・プリンス様に逢えるんだ。
 キャッホーッ!
 星子のつぶらな瞳が、ピンクのハートの形になってキラキラと輝いた。
「宙太さん、早く乗ろ! 乗ろうったら!」。
 星子、とび跳ねるように客車のデッキに向かいかけた。その瞬間、宙太が星子の腕をつかんだ。
「ちょっと、待った!」
「なによっ」
「この列車、銀河鉄道じゃないぜ」
「え?」
 なにいい出すんだろ、このオトコ。
「銀河鉄道にきまってるじゃん! 夢と憧れのドリームワールドよっ」
「いいから、列車の表示板を見てみろよ」
 そういいながら、宙太、客車の列車名表示板を指差した。
「ん? ……銀河連絡特急・すばる……」
 目をこすって見直したけど、間違いない。
 『銀河連絡特急・すばる』
 虹色の表示板には、金色の文字ではっきりとそう書いてある。
「つまり、この列車に乗れば、どこかで銀河鉄道に連絡しているってこと?」
「らしいな」
 なにが、ドリームワールドよ。直接銀河鉄道に乗れないなんて、おかしいじゃない。
 頬っぺたをふくらませた星子に、
「ま、ま、ま、そんな顔をしないの。夢も憧れも、いっぺんにかなえられたら、かえってつまらないだろ。列車に揺られながら、恋しい人、いとしい人の面影を銀河の世界に追い求める……それが、恋旅のだいご味ってヤツさ。だろ?」
「ん、まぁね」
 たしかに、夜汽車の車窓に流れる灯を見ながら旅を続けるのって、サイコウにロマンチックよね。
「いいわ、じゃ、乗りましょ」
「そうこなっくちゃ!」
「でも、その前にパパとママにメールしとかないと。心配するかもしれないし」
「大丈夫。ドリームワールドの旅は、時間と空間を超越しているんだ。何時間何日旅を続けても、カンケイないの」
 そういうものですか。便利なものなのね。
「ただし、いっておくけどさ」
 宙太、真顔になった。
「もし、旅の途中でトラぶって、旅が続けられなくなったら、その時は……夢の時空がはじけて、この世界には帰ってこれなくなるらしい」
「そ、そんな……」
 星子の背中を、冷たいものが走った。
どうしよう、帰れなくなったら、サイアク。でも、銀河鉄道に乗るっていう夢を捨てるのは勿体ない。こんなチャンスって、二度とこないかもね。
「で、宙太さんはどうするわけ?」
「もちろん、いきますよ!」
 宙太、ニカッと白い歯を見せた。
「あこがれの星のマリア様に逢うためなら、たとえ火の中、水の中!」
 また、それだ。
「で、ハニィ、君は?」
「当たり前じゃん! キャプテン・プリンスさま命のわたしよっ。ビビるわけないでしょ!」
 星のマリアへのヤキモチもあって、つい、売り言葉に買い言葉。
「さ、乗りましょ!」
「よっしゃ!」
 ということで、星子と宙太、客車のデッキに飛び乗った。
 ほとんど同時にドアが閉まり、汽笛が鳴って、列車は一段と激しいスパークに包まれながら、ガタンと動き出した。
 でも、前方にはコンクリートの壁が……ぶつかる!
 と思った瞬間、列車はコンクリートの壁に吸い込まれるように突入していった。
 デッキに立つ星子、車内に激しく渦巻くスパークに包まれ、声も上げられない。突き上げる恐怖に、思わず宙太にしがみついてしまう。
 もう限界か、と、思った時だった。車体を覆っていた青白い光とスパークが一瞬のうちに消えて、静寂が戻った。
 ふーっ、と、息を吐きながらドア窓の外へ目をやると、
「うわぁ、きれい!」
 なんと、無数の星が銀色や金色、青色、赤色、白色、灰色の光りを放ちながら光り輝いている。
「宇宙だぜ! 銀河の海だ!」
「この星の世界のどこかを、銀河鉄道が走っているのね……」
「うん! 早く乗りたいぜ」
「わたしも!」
 星子と宙太、身じろぎもしないで、銀河の海を見つめた。
 
                           (つづく)


追記  名称変更、お許しいただけて、助かります。気にしながら書きたくなかったもので。憧れと現実の両立は難しいですよね。恋と同じでして。ハイ!
 とにかく、この先も山浦ワールドの銀河鉄道を走らせますので、よろしく!
 では、あらためて出発進行!




  

まぼろしの銀河鉄道
                   1 

ああ、もう、死んでもいい!
 そう、死んじゃうよ、わたし!
 シヌ!
 なんて、いきなり、カゲキなセリフがとびだしちゃって、ゴメンナサイ。
 お姫様のわたくしにはふさわしくないお言葉でありやした、ご勘弁を、アネサンがた。
 うほっ、うほぅ、ほほほっ。
 んもう、どうしちゃったわけ、星子ったら。テンション、上がりっぱなし。
 だって、当り前でしょ、バースデイに送られてきたのが、超の字がつくプラチナチケット、な、なんと、銀河鉄道の乗車券だっ。
 銀河鉄道は、わたしのあこがれ、原作の漫画はもちろん、テレビ版も映画版もミュージカル版もぜんぶ見ています。一度でいいから、銀河鉄道に乗り、銀河の世界を夢とロマンと冒険の旅をしてみたかった。
 おっと、ほんというと、もっと大きな夢が……それは、あこがれのヒト、宇宙の海賊キャプテン・プリンスと出会い、熱いキッスを……。
 うううっ、シビレルっ。その先は、イエナイ。
 で、夢がかなうなら、大好きなイチゴケーキも断ちます。ゴンベエをいけにえにしてもいいです。さらにさらに、しっかりオトコ断ちもしますっ。
 なんちゃって、うふっ。
 とにかく、その銀河鉄道に乗れるチケットが送られてきたとは。
 誰が送ってくれたのか、そこんとこは不明。封筒には差し出し人の名前も住所も書かれていない。
 わたしのカンでは、たぶん、あいつ、ほら、きまっているじゃん。
 美空の宙太さん。
 花束や飾り物のような当り前のプレゼントじゃわたしが鼻もひっかけないと思い、銀河鉄道のチケットを思いついたに違いない。
 ういヤツじゃ。苦しゅうないぞえ。
 でもよ、銀河鉄道ってあくまでマンガの世界のお話じゃない。現実に存在する列車じゃないよね。もしかして、宙太さんがわたしのために仕組んだオアソビかもしれない。
 それでもいい。銀河鉄道がからんだオアソビなら許してあげる。
 で、どこへ行けば銀河鉄道に乗れるっていうわけ。
 チケットをよく見ると、
「乗り場・地下鉄銀座線・新橋駅」
 と印刷されている。
 ま、とにかく、行ってみますか。
 ということで、星子、学校の帰り道、オアソビ気分、寄り道気分で地下鉄銀座線の新橋へ向かった。
 まさか、命がけの恋と冒険の旅になるとも知らずに……。


                 2

「はい、到着っと」
 星子、地下鉄銀座線新橋駅の改札口近くで、細い首をくるっと回した。
 丁度夕方ってこともあって、駅の構内は大変な混雑だ。サラリーマンやOLさん、それに観光客もわんさか。なんたって、新橋はあのビッグスポットお台場行きの「ゆりかもめ」の始発駅ですからね。
 夕暮れ時のお台場は、サイコー。紅い夕陽を浴びながら、カレと二人でライトアップされたレインボウブリッジを眺めつつ、熱く甘いキッスを……うううっ、シビレル!
 え? カレって、誰かって?
 宙太さん?
 ふん、誰があんなヤツ。キッスの相手は、もちろん、キャプテン・キャプテン・プリンス。今回はこだわります、ワタクシ。
 そのキャプテン・プリンスさまに逢うためにも、まずは、銀河鉄道に乗らねば。
 でも、肝心の銀河鉄道は新橋駅のどのホームに着くわけ?
 銀座線のホームは渋谷方面と浅草方面の二つあって、どちらも乗降客で混んでいる。そこへ銀河鉄道があらわれたら、超パニックになること間違いなし。
「やっぱり、この銀河鉄道の乗車券、ただのオアソビかな。宙太さんのいたずらの可能性が強いよね。ゴンベエ?」
 そう話しかけたとたん、ゴンベエがリュックから飛び出し、雑踏の中を走りだした。
「うわっ、猫だ!」
「キャッ、ドラネコよっ」
 たちまち、駅の構内は大騒ぎ。
 ヤバッ、ゴンベエのやつ、とんでもないことを。
 星子、あわててゴンベエの後を追いかけて、ホームの階段を駆け降りた。
「ん?……」
 どこをどう走ったのか、気がつくと、さっきのホームの喧騒はどこへやら。シーンと静まり返ったホームには人っ子一人いない。照明も薄暗くて、まるで、地下倉庫のような雰囲気だ。
「ど、どういうことよ……」
 つぶやいた時、背後でフニャーゴと鳴く声が聞こえた。
 振り向くと、ゴンベエが、そして、そのそばには、なんと、タレメのオニイサマがニカッと笑いながら立っている。
「宙太さんっ」
「ハーイ、ハニィ、おまっとうさん」
 例によって、軽くウインクしながらの投げキッスだ。
「ここは、新橋駅の旧ホーム。路線の変更で、一度も使われないまま、保存されているんだ」
 そういえば、そんな話、以前、テレビで見たっけ。
 ふーん、と、あたりを見回した後で、
「どうして、こんなとこに呼び出したのよッ。やっぱり、銀河鉄道の切符でわたしをかついだわけね!」
 星子、キッと宙太を睨みつけた。
「そんな、とんでもない、銀河鉄道のチケットはボクチャンのところにも送られてきたんだぜ」
 そういいながら、宙太、手にしたチケットを星子に見せた。
 そのチケットは、星子がもっているチケットと同じものだった。


                     (つづく)                                                       
                   3

 ―銀河鉄道のチケットが、宙太にも……。
 星子の紅バラの花びらような唇が、しばらく、開いたままになった。
 え? 紅バラの花びらは褒め過ぎだろうって? 
 いいのいいの、誰かさんの趣味らしいから。(淫らな笑い)。
「でも、でもよ、どうして……」
「ボクチャンにも送られてきたのかってこと? きまってるだろ」
 宙太、コホンと咳払いした。
「わが命、いとしのハニィの旅の安全を守れ、との指示が……というのは、今までのパターン。でもさ、今回ばかりは……」
「違うってこと?」
「そ」
 宙太、もう一度、咳払いした。
「なにを、隠そう、このわたくし、星子さんと肩を並べる銀河鉄道ファン。その熱烈な気持ちをくんでくれたゴッドが、わたくしに銀河鉄道のチケットを送って下さったというわけ。有難いことです、ハイ」
 なんと、宙太も銀河鉄道ファンだったとは。 
「で、宙太さんが銀河鉄道にあこがれる理由はなんなのよ」
「きまってるだろ」
「未知の世界への夢? 冒険?」
「とととっ、ボクチャンがその程度の男に見えるわけ?」
「違うの?」
「当り前でしょ。美空宙太といえば、愛に生き、恋に生きる、宇宙の恋詩人、銀河のさすらい人」
 うふっ、よくいうよ。
「そのわたくしにとって、永遠の恋の女神、あこがれのヴィーナスといえば……」
 この、わたしかな。
 今までのパターンなら、そういうはずだよね。
「その人の名前は……」
 宙太、せつないため息をほっとついたあと、かすれるような声でつぶやいた。
「……星のマリア……」
「え?」
「だからさ、星のマリアだって」

                          (つづく)


 


追記 今後の展開を考えて、ゲストの名前や列車名を変更させていただきました。ご了承ください。
 

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星子&宙太yyy
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