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――ダブル星子?!――
……わたしからのメールって、ありえない。絶対に、ないっ……。
「偽メールよッ。誰かがわたしの名前を使って、偽のメールを送ったんだ。そうにきまってる!」
星子、憤然とした顔でいった。
「受信メールのアドレスを見れば、わかるわよっ」
「ちょっと、待って」
宙太、携帯電話の画面を調べた後、星子に見せた。
「やっぱり、君からさ。アドレス、間違いないだろ」
「!……」
た、たしかにメールアドレスは星子と同じだ。
「ちょ、ちょっと待って。わたし、ケータイを落としたかも……拾った誰かが、宙太さんにメールを送ったんだ。きっとね」
そういいながら、リュックのポケットをさぐると、ありました、携帯電話が。
「ど、どうなってんの……もしかして、同じメールアドレスが……」
「んにゃ、ありえない。メールナンバーは、一つしかないぜ」
宙太、ピンと指を一本立てた。
そりゃそうだよね。
「じゃ、い、いったい、どういうこと……」
茫然と立ちすくんだ星子に、宙太が、
「とにかく、待ち合わせ場所へいってみっか」
「待ち合わせ?」
星子があらためて宙太の携帯電話の画面を見てみると、
『ラブハウスで待っててね。今夜は眠らせないから。星子』
「!……」
ナルホド、確かに待ち合わせのメールだ。今夜は眠らせない、なんて、すごく意味深なメールじゃないですか。
「でも、なんなの、このラブハウスって?」
ちょっと、わけありって感じ。
「あ、うん……」
宙太、目を泳がせた。
「知ってるわけ、宙太さん? どういうとこ?」
「どうって、つまり、その、あ、ライブハウスのことさ」
「ライブハウス?」
「そ、イが抜けてるんでラブハウスって読めたわけ。とんだおふざけメールだよな」
宙太、肩をすくめながら、鼻をこすった。
でも、なんか、とぼけた感じ。ごまかす時って、こんな顔するんだよね、宙太さんって。
「とにかく、僕いってくるから」
「場所、わかるわけ?」
「もちろん、僕のいきつけの店だしさ」
「あるわけ、そういうとこが?」
「息抜きにね。デカって仕事、きついしさ。いい演奏聞いてワイングラスを傾ける、これ、サイコー。そのうち、キミも連れていってあげるから」
宙太、軽くウインクすると、近くに停めてあったスポーツカーに乗り込んだ。
「あ、待って、わたしもいく!」
すかさず、星子、スポーツカーの助手席に駆け寄った
「でもさ、僕一人のほうが……」
「ううん、これはわたしの問題よっ。マサルさんたちにとんだ迷惑かけちゃって。偽のわたしを思いっきりぶん殴ってやらなきゃ気がすまないわ!」
星子、きりりっと眦を釣り上げると、ドアを開けて助手席のシートに座った。
「ちょ、ちょっと、ハニィ……」
「いいから、早く!」
宙太、やれやれという顔でアクセルを踏んだ。
渋谷から首都高速道路に乗った宙太のスポーツカー、東京タワーを左手に見ながら走ってレインボーブリッジへ。車窓には東京の湾岸景色の大パノラマがいっぱいに広がっている。夕暮れ時ってこともあって、東京港や隅田川河口に林立する超高層ビル群が、オレンジ色の夕陽に染まってキラキラと光り輝き、すっごくきれい。
……うーん、素敵な彼氏と湾岸ホテルの一室で眺めてみたい……なんてこと、思うわけないじゃん。
お台場出口で降りたあと、有明の超高層ビルの地下駐車場に潜り込む。どうやら、このビルにライブハウスがあるらしい。
エレベーターに乗り換えて、最上階の42階へ。
最上階にあるライブハウスなんて、ステキ。
と思ったら、廊下はシーンと静まりかえって、誰もいない。部屋のドアが並んでいるだけだ。どう見ても、マンションの中って雰囲気。なんか、様子がおかしい。
「どこ、ライブハウスは?」
「う、うん……」
宙太、口をもごもごさせながら、ポケットからキイを取り出すと近くの部屋のドアを開けた。
「さ、どうぞ」
宙太のあとから入った星子、イチゴのようなお口をあんぐり。だって、映画に出てくるような超豪華なお部屋なんだもの。
広々としたリビングルームの向こうには、ネオンが光り始めた湾岸景色が映画のスクリーンのように展開している。そして、リビングには淡い光りを放つオシャレなシャンデリア、お隣りは眺望最高のバスルーム、そして、その奥には大きなダブルベッドのある寝室が……。
まさにですよ、ステキなカレと過ごすにはぴったりの愛の家、ラブハウス……うーん、サイコー……と、うっとりしかけて、どうにか、我に返った。
「ちょっと、宙太さん、この部屋のどこがライブハウスなの! どう見たって、ラブハウスじゃん!」
星子、キッと宙太を睨みつけて、
「そうか! ライブハウスじゃなくて、はじめからラブハウスだったのね!」
「あ、ま、そんなところかな」
宙太、頭に手をやって、申し訳なさそうに笑った。
「で、ホテルなわけ? つまり、高級のラブホとか……いやらしいっ、宙太さん、最低よっ」
「ち、違うって」
宙太、あわてて首を振った。
「ラブホなんかじゃないって。じつは、この部屋のオーナー、僕チャンなんだ」
「え?」
「ちょっと高い買い物だったけどさ、ま、愛する人と二人きりで過ごすためなら、値段なんか問題じゃないってこと。まさしく、ラブハウスにふさわしい部屋だぜ」
「そう、で、その愛する人って誰なの?」
「きまってるだろ、君のことさ」
「わたし?」
「そう、広い地球に女の数あまたありといえども、不肖美空宙太が命をかけて愛すると誓った人は、この世にただ一人、その名は流星子サマ」
そういいながら、宙太、星子の肩を抱いて顔を寄せてきた。
いつもながら、大げさなオトコ。
「その君と愛をはぐくみ、育てるために用意したのが、このラブハウスってわけ。オーケー?」
んもぅ、宙太さんたら、そこまでわたしのことを……いいわ、この素敵なお部屋で二人の愛の賛歌を……。
てな、わけにはいかないの!
「よしてよっ」
星子、宙太を払いのけた。
「何度もいってるけど、わたし、あなたなんかに……」
「いいのいいの、今にきっと、君がこの部屋にきてくれる時がくるから。ちゃんと、わかってますって」
「んもぅ! いい加減に……」
いい加減にして、といいかけて、
「でも、どうして、知ってるわけ?」
「ん?」
「ニセのわたしよ。どうしてこの部屋のことを……宙太さん、誰かに話してるの?」
「そんなわけないだろ。ここは、あくまで僕の秘密の部屋さ。誰も知らないぜ」
「だったら、なぜ……」
「そこだよな」
星子と宙太が顔を見合わせた時だった。
ピンポーン。
玄関のチャイムが鳴った。
「誰だろ、このマンションは管理が厳しいし、来客があると必ずフロントから連絡があるはずだけど」
宙太、そういいながら、ドアホーンの受話器を取った。
「もしもし、どちら様?」
すると、受話器から、
「やだ、きまってるじゃん、わたし、星子よっ」
「!……」
聞こえてきた声は、確かに星子の声だ。
星子の背中を、冷たい汗がつーっと伝わった。
(つづく)
追記 わけあって、すっかり遅れてしまいました。申し訳ないです。
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悪女は夜明けに嗤う
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――謎のラブメール――
「……ほ、ほんとなの、それって……」
星子、茫然もいいとこ。
だって、星子のせいでマサルが尾行中の強盗容疑者を見失ってしまったなんて。
「で、そのあと、どうなったわけ?……まさか、マサルさん、責任取らされて……」
「うん、モチロン、捜査一課長から厳しいお叱りを受けて、きつい処罰を……」
宙太、顔を曇らせた。
「ええっ……」
「といいたいところだけどさ、万一に備えて僕がしっかりとサポート。そのあと、合流したマサル君と二人で、新たな犯行を働こうとしたホシを、見事現行犯逮捕したってわけ。ウインクキッスの件は、上司には内緒、ボクチャンの胸の中にしっかりとしまっておいたから」
そういって、宙太、ニヤリ。
「んもぅ!」
人が悪いんだから、宙太さんって。でも、よかった、マサルさんのキャリアに傷がつかずにすんで。
「いいかい、ハニィ、もう二度とマサル君をウインクキッスでからかうなんて真似はやめること。オーケー?」
「待ってよ、わたしには……」
「身に覚えがない、わたし、家で試験勉強してた、だろ?」
「その通りよっ」
「証人はいるのかな?」
「証人って、別に……あ、ゴンベエがいたけど。ね、ゴンベエ? そうだよね?」
「おっととっ、ゴンベエじゃ証人にはなれないな。それでなくても、ハンバーガーであっさりと買収されそうだしさ」
ゴンベエ、リュックからとぼけた顔をのぞかせ、大あくび。たしかに、宙太のいう通りかもね。
「とにかく、わたし、ほんとに出かけてなんかいないの! 絶対に、嘘なんかついてないったら!」
星子、噛みつきそうな顔でいった。
「やっぱり、人違いよ。他人のそら似よっ」
「でもさ、はじめにいったように、マサル君だけじゃない、右京君も春ちゃんもゲンジロウ達も君のウインクキッスを受けているんだ。それでも、まだ、他人のそら似っていうのかい?」
「で、でも……」
もう、星子の頭の中はマッシロ。さっぱり、わけがわからない。
「なぁ、星子さん、もしかして、キミ……」
宙太、星子の顔をのぞきこんだ。
「夢遊病かなんかにかかっているんじゃないのか?」
「夢遊病?」
「うん、お勉強に疲れてウトウトしているうちに、夢遊病のせいでフラフラと街に出かけた、とか……だから、覚えていないのかもな」
「そんなことないっ。絶対に、ない!」
星子が叫んだ時だ。宙太の携帯電話が鳴りだした。
「ん、誰だろ」
宙太、ポケットから携帯電話を取り出して、ディスプレイを見た。
「そ、そんなぁ!」
「どうしたの?」
「キ、キミからメールだ」
「わたしから?」
星子、宙太と顔を見合わせた。
(つづく)
追記 寒いことったら。五月にストーブかよ。どうか、風邪をひかないように。しっかりと、カレシに抱きしめて貰ってね。
なんちゃって!
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2
――マサル、炎上――
「そ、そんな……ちょっと、待って……」
星子、こんがらかった頭の中を整理しようと深呼吸した。
「それって、ヘン……おかしいよ」
「なにが?」
「だって、わたし、ここんとこ、マサルさん達には会ってないもん」
「会っていない?」
「そうよ、期末テストで学校と自宅の往復ばっかり。寄り道なんか、全然していなから」
「ナルホド」
宙太、ニタニタと笑った。
「嘘をつくんなら、もうちっとマシな嘘をつかなきゃ」
「ウソ?」
「そ、期末テストで忙しいなんて、君にはまったく縁のない話だしさ。星子さんにとってゲジゲジの次に嫌いなのが、オベンキョウだもんね。ウシシッ」
宙太、ちゃんとお見通しだ。
だけど、今回ばかりはそうもいっていられなかった。赤点ギリギリ、頑張らないと、留年ってなことになりかねない。でもって、星子としては、いつになく、お勉強を頑張ったつもりだった。
「じゃ、この一週間、どこへも遊びに行っていないっていうわけ?」
「もちろん」
「昨日の夕方も?」
「しつこいな。いってないったら!」
星子、きっぱりといった。
「そうなると、マサルくんの一件はどうなっちゃうのかな」
宙太、肩をすくめながらいった。
「じつはね、マサルくん、昨日の夕方、君と会ってるんだ」
「わたしと?」
「場所は、シブヤのパルコ前を通りかかった時、いきなり、後ろから抱きつかれた。で、びっくりして振り向くと、なんと、相手は君だった……」
「ウ、ウソッ」
星子、ムッと頬っぺたをふくらませた。
「わたしが、そんなことするわけないわ! 第一、わたし、昨日の夕方はウチで勉強してたんだ。そうだよね、ゴンベエ? はっきり答えなったら!」
キリリッと睨まれて、ゴンベエ、リュックの中から顔を出して、フニャァと頷いた。
「それによ、わたし、マサルさんに抱きつくわけが……そんなこと、絶対にしないから!」
「僕だって、そう思ったさ。いつものハニィからは、考えられないしな。でも、マサルくんは真剣な顔でいったんだ。嘘や冗談じゃない、ホントのことだって。星子さんはオレに抱きついたまま、マサルくんの耳元でこう囁いたって……あなたの汗のにおいって、サイコー。しびれる……」
「そ、そんなぁ!」
星子、思わず目をむいた。
そりゃ、マサルさんの汗のにおい、きっと、素敵かもね。嗅いでみたぁい!
なんて、そう思っても、絶対に口に出すことなんかありえない。
「いう、いうわけない! ぜったいにない!」
「そう思いたいさ。マサルくんも、当然、耳を疑ったそうだ。ところが、そのあとのハニィのウインク・キッスの威力はキョウレツ、熱く濡れた眼差しをまともにくらって、はい、マサルくん炎上とござい!」
「!……」
「お陰で、マサルくん、とんだチョンボ」
「え?」
「じつは、カレ、その時は強盗事件のホシを尾行中でさ、キミのウインクキッスでボーッとしている間に、ホシを見失ってしまったんだ」
「!……」
(つづく)
追記 昨日、日比谷公園のビール祭りにいってきました。物凄い人、人、人! おかげで、本場ドイツのビールにもソーセージにもありつけず、ザンネン。銀座へいってみたけど、ホコテンもこれまた人、人、人!
こんなに平和でいいのかな。バチが当たらないといいけど。
なんてほざいてるオレは、どうなんだ?
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ーーはじまりはウインクキッスーー
「むふっ、うひっ」
お日様がキララと照りつける背中から、ため息混じりの、というか、含み笑いのような、というか、ちょっとくすぐったい感じの声が聞こえた。
だれ、何よっ。
星子が振り向くと、見慣れた宙太のタレメ顔が、それも、いつもより一段と目尻を下げた御面相だ。
「んもぅ、声かけるんなら、ちゃんといってよっ」
唇をとがらせた星子に、
「うふっ、でへっ、ヒヒッ」
宙太、だらしなく笑いながら、すり寄った。
「ちょっと、いい加減にして!」
星子、カッとなって、宙太の胸をどんと突いた。
「おっと!」
ダンサーのように軽く一回転した宙太、にやりと星子の顔を覗き込んだ。
「いやぁ、いいねぇ。その落差がサイコーッ」
「落差?」
「うん、その冷たく光る氷の剣のような眼差し、男の子をいっさい寄せつけない、鉄壁の眼力。まさに、恋の求道者、孤高の旅人、流星子、ここにあり! と、思いきや……」
「え?」
「ハニィに、まったく別の顔があったとはね」
「別の顔?」
「そ、今まで一度もお目にかからなかったような顔さ。大人になったというか、それとも、隠れていた本性がついにベールを脱いだのかもね」
「一体、どういう顔だっていうのっ」
「きまってるだろ。男心をたぶらかし、男の人生を翻弄し破滅させる恐ろしい悪女の目をした顔さ」
「悪女の目?」
「といっても、オカルトチックな恐ろしい目じゃない。男に甘え媚びるセクシーな眼差し、男のハートも体もビリビリとしびさせ、金縛り状態にさせてしまう、そういう目だぜ。まさか、星子さんにそんなエロい顔があったとは。そう、いうなれば、ウインクキッス!」
「ウ、ウインクキッス?」
「直接、キッスはしなくても、君のあのとろけるような眼差しでウインクされたら、キッスされたのも同じさ。日頃、つんけんしているだけに、余計、効果抜群ってわけ。まさに、華厳の滝のような落差。ああ、きくぅ」
宙太、しびれたように身悶えした。
「ちょ、ちょっと、待ってよっ」
星子、憮然といった。
「わたしが、いつ、ウインクなんかした? してないよっ」
「なんて、とぼけるところが余計カワイイっ。ああ、ますます、しびれちゃう」
「ふざけないで! わたし、ほんとにしてないんだからね! ほんとよっ」
「よくいうよ。マサル君なんか、もう、ヘロヘロなのにさ」
「マサルさんが?」
「そ、君のウインクキッスでね。いや、マサル君だけじゃない、右京君も春ちゃんも小次郎やゲンジロウ達もな」
「ええっ」
星子、あんぐりとキュートなお口を開けた。
(つづく)
追記 結局、オアソビをはじめてしまいました。毎日ってなわけにはいきませんが、しばし、お付き合いのほどを。
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